デカいなぁ……という感想しかない。私の前にはロキ・ファミリアのホームである【黄昏の館】がある。かなり特徴的な建物だ。
正直な話、何処か適当な所にグリーンシークレットハウスを設置すればそれだけで宿は何とかなる。
とはいえ、単純にロキ・ファミリアのホームに興味があったのでこうして連れて来てもらった。
「着いてきてくれ。」
門を通り、ホームに入ると一緒に来ていたロキ・ファミリアのメンバー達が散らばっていく。恐らく自室に帰るのだろう。
案内役のフィンさんに連れられて、客室まで案内される。
「まあ、座ってくれ。色々と話したい事はあるが、改めて自己紹介から……僕はフィン・ディムナ。このファミリアの団長だ。」
「私はミラーナ。……ただの魔女です。」
私は既に取って付けたような言葉遣いを辞めていた。単純に面倒臭い。
無意識に敬語になってしまったりロールプレイの影響で時折お嬢様言葉の様なものは出てくるが、
流石に異世界でまで自分を偽って生きたくはないので好きな様にやらせてもらおう。……よくアインズ様は冒険者モモンを貫き通したな。
「魔女……?」
「気にしないでください。ただの拘りです。」
とはいえミステリアス系お姉さんの夢は諦めていない。何処かのショタかロリの師匠ポジションになりたい。
「ところでフィンさん、お話とは?」
「ああ。君のあの力……いや、まず君の出身は何処だい?」
私の出身というか、出自を聞きたいのか。まあ別に隠す様な事では無いので素直に答える。
「ユグドラシルという世界から来ました。」
「……まるで別の世界から来たような口振りだね。」
「その通りです。私は異世界出身なので。嘘だと思うならロキ様を呼んでみては?」
私がそう言うと、フィンさんは僅かに逡巡した後、静かに首を横に振った。
「いや、辞めておくよ。それよりも、その力を何処で身に付けたのか教えて欲しい。君は魔道士だろう?なのに何故あれほどの身体能力が?」
身体能力も確かにある。恐らくフィンさんが言っているのはベートさんの攻撃を片手で受け止めたアレだろう。
私の身体能力はリアルとは比べ物にならないとはいえ、
レベル50相当の前衛であるベートさんの攻撃を喰らえば微々たるものとはいえダメージが入る。なので衝撃を肩から逃がした。
椅子に座った状態で衝撃を上以外に逃がすと椅子が壊れる。元々リアルでも似たような事は出来たので、この身体能力を以てすれば問題ない。
まあそれでも多少は痛かったけど……
流石に50レベルとはいえ、手加減なしのバフ有りだったら流石に私も避けたけど。本当に恩恵なしの人間でも死なない様に手加減していたのだろう。
「あれは小手先の技術ですよ。衝撃を肩から逃がしただけです。それに手加減されていましたし。」
「……いや、それにしてもレベル3の前衛程度の身体能力はあるみたいだったけど。」
「それは認めます。」
私が異世界に転移出来る事を知った時、
実際、リアルで便利なのは魔法だ。浮遊したり、転移したり、物を作ったり……その為にそういった利便性に富む魔法を覚えた。
なので覚えられる魔法は全て覚え、上限まで課金し、特定のイベントをクリアする事で習得出来る魔法などは全て網羅している。
とはいえ、私の使用出来る魔法はネタ魔法含めて480程。これでもかなり多い方だがアインズ様には及ばない。
が、私はこれでも
PVP以外の戦闘スタイルとしては他の
ユグドラシルでは
そして、
基本的に魔法や遠距離攻撃には属性が付いている。そもそも純物理属性の遠距離攻撃はガンナー系の職業の通常弾か弓での攻撃位だ。
そしてその程度の攻撃は魔法一つで簡単に防げる。
そして、対人戦ならば完璧なる戦士《パーフェクト・ウォリアー》の出番だ。こう見えて純粋な技術のみであれば私はかなり上澄みだろう。
何せ、普段からスキルなしで戦っていたのだから。まあ、当然事前に自分にバフは掛けるが。
「私の事はこれくらいにして、この世界の事を色々と教えて欲しいです。」
私がそう言うとフィンさんは眉間を揉みながら渋々と頷いた。まあ、本当は聞きたい事だらけだろうからね。
それからは、軽くこの世界の常識などを教えてもらった。大まかな地理であったり過去のファミリアの話であったり。
「あ、一ついいですか?」
「なんだい?」
「あの、酒場に居たエルフの女性のお名前はご存知ですか?」
……とても好みだった。可愛い。しゅき。あれで金髪だったら最高だった。
「ああ……彼女か。彼女はリュー・リオン。彼女がどうかしたのかい?」
「いえ、単に可愛かったので。」
「君、もしかして同性が?」
「私は両刀です。」
私がそう言うとフィンさんは苦笑いした後にため息を零した。……失礼ですね。
「まあいい。とりあえず今日は時間も時間だ。君の部屋に案内するから着いてきてくれ。」
「はーい。」
そうして、私はフィンさんに着いて行く。そして割り当てられた部屋へと入る。
「ここが君の部屋だ。好きに使ってくれ。朝になったら食堂まで案内するよ。それじゃ、おやすみ。」
そう言ってフィンさんは出て行った。……トイレを教えてもらってないな。まあ必要無いけど。
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コンコン、と。ノックの音で我に返る。眠る必要が無いので夜が明けるまで夢中でアイテムボックスの整理をしていた。
「はーい。」
私は散らかしていた全てのアイテムを収納して部屋を出る。そこには少し隈のあるフィンさんが居た。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「ええ。今から朝食ですか?」
「ああ。案内しよう。」
フィンさんに着いて行くと食堂では既に結構な数の団員が集まって食事を取っていた。
「さあ、君も座って。」
そう言われて席に着いて、食事が出てくるのを待つ。よく見ると団員達は自分でよそっている。ビュフェ形式か?
「君も好きな物を食べるといい。」
そう言ってフィンさんは席を立つ。自分の分を用意するんだろう。私もお言葉に甘えて好みの料理をよそっていく。
そうして、席に着くとフィンさんの横に昨日突っかかって来たアマゾネスが居た。
「ふん。」
頑なに私と目を合わせない。……じゃあ何故わざわざそこに座った。
「まあ、彼女の事は気にしないでくれ。」
と苦笑しながらフィンさんに言われるが気になるものは気になる。
「では、いただきます。」
私はテーブルマナーを意識しつつ、しっかりと味わいながら一口ずつ口に運ぶ。かなり美味しい。
「気に入って貰えたかな?」
「ええ、とても。」
「それにしても、随分と丁寧に食べるんだね。貴族か何かの出身かい?」
フィンさんがそう言うと唐突に横のアマゾネス……ティオネさん?の食べるペースが落ちた。
「……いえ、特に特別な血筋ではありません。家柄、でしょうか。」
本当はそもそも孤児院出身だし、テーブルマナーも私が勝手に習ったんだけど。
「へぇ。ところで、今日は何をして過ごすんだい?」
……何も考えてなかった。あ、そうだ。少し実験したい事があったんだった。
「フィンさん、少し厨房を貸していただけないでしょうか?」
「ん?まあ別にいいけど……料理でもするのかい?」
「はい。久しぶりに何か作ろうかと。」
嘘だ。久しぶりも何も、私は25年近く料理をしていない。メニューもレシピも忘れかけている。
とはいえ、得意だった料理の腕が錆び付くのは悲しいので、思い出しがてら作ってみようというのと……
このユグドラシルの法則に縛られた体でそもそも料理が出来るのかという確認作業も兼ねている。当然、私は調理系の職業など一つも取っていない。
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そうして、食事を終えた私は厨房を借りていた。食材は好きに使っていいらしい。早速、包丁を握って野菜を切ろうとしたのだけど……
「ハッ!」
一瞬意識がなくなり、私の手にある包丁はまな板を切断しかけていた。……やっぱり必要かな。
私は指に着けた
「I WiSH……私をユグドラシルの縛りから解き放て。」
そうすると、何かがパリンと砕ける音がした。指を見ると嵌めていた
よし、これでユグドラシルの法則に縛られる事は無くなったはずだ。……これは悪い意味でもだ。
恐らくだけど、レベル差の絶対性が無くなっていると思う。まあ今の所体感は何も変わっていない。
……問題ないとは思うけど、勢いでやってしまった感は否めない。
さて、再度料理をしてみると今度は不思議、意識が飛ばずしっかりと作り上げる事が出来た。
何故か地球と同じ食材があるので、作ったのは肉じゃがだ。元々得意料理だったけど、
あまりにも久しぶりなのと調味料がどれか分からなくて少し手間どった。味見してみたけど特に問題なかった。
オラリオ、思った以上に調味料が充実してる。だけど……
「……どうして米がないの。」
何故かお米だけ置いてなかった。これだけ調味料あるんだから米くらい置いておいて欲しいものだ。
肉じゃがはご飯と一緒に食べるからこそ美味しいのに。
「作ったはいいけど、これどうしましょう。」
とりあえずフィンさんに食べてもらおう。
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「なんだい?これは。」
「これは肉じゃがという煮物です。少し食べてみてください。」
フィンは言われた通りに食べてみる。すると……
「なんだいこれは……とても美味しいよ。君、料理出来たんだね。」
よし、反応は悪くない。他の人にも食べて欲しいな。故郷の料理。
「フィンさん。これ余ってるんで、暇そうな団員さん達に振舞ってきていいですか?」
「ああ、構わないよ。それと出来ればレシピを教えて欲しいな。」
「いいですよ。また後でお教えします。」
そうして……私は何故か肉じゃがの入った鍋を持ってロキ・ファミリアのホームを歩き回るのだった。