俺が酒場で働いてオラリオに行くための金を稼ぎ終える頃にはこの街で生活を始めてから早半年が過ぎていた。
この街での生活は今までまともな社会活動をさせてもらえなかったサウィルにとってもエルフ以外の人間と関わりがなかったリオンにとっても予定外のことばかりで毎日のようにハプニングを起こしながら少しずつ街に馴染んでいった。
「お疲れリオン。首尾はどうだった?」
「うまくいきました。3日後オラリオに向かう予定のキャラバン隊に同乗させてもらえることになりました。」
リオンもこの半年の間に随分と他種族との関わり合いに慣れてきていた。今日は俺が酒場で働いている間オラリオを出るための足を探す為に交渉をしに行ってくれていた。
「この街ともあと数日でお別れですね」
「そうだな、店長もよくしてくれたし友人も出来たが寂しくなる。」
思えば生まれこそエルフの里だが人間らしく暮らしたのはこの街が初めてだ。
サウィルはこの街を故郷のように感じはじめていた。
そんな街を去るのは名残惜しくもある。
「この馬車とかいう拷問器具には二度と乗らない」
「気を強く持ってくださいサウィル。オラリオまではまだ道半ばです。」
俺は吐いていた。
この馬車とかいうものは確かに便利だが人を乗せるには向いてなくないか?
腹の中に溜まっていたものを全て吐き出した後これからの旅路を思って憂鬱になる。
「俺は冒険者になって馬車が必要ないくらい足が速くなってみせるよ」
「ふざけた言ってないで馬車に戻ってください」
「ぐええ」
結局リオンに馬車へ押し込められ地獄の責め苦から解放されたのは一週間後のことだった。
「着いた…着いたんだ…!!オラリオに!!」
行き交う人々から不審な目で見られるが気にしない
やっと地獄から解放されたことが何より嬉しかった。
「ここが…オラリオ…!」
リオンもエルフや人間、ドワーフや小人族など今までみたどの街よりも多様性に満ちた街に感慨も一潮といった様子だった。
「ではサウィル。予定通りここからは別行動です。」
「了解したリオン。では日没後バベルの前で会おう。吉報を期待していてくれ。」
「ええ。そちらも大船に乗ったつもりで」
サウィルとリューは旅路の中でオラリオについてからより早くファミリアに所属する為に別行動でファミリアを探すことを決めていた。
(狙うは大手の冒険者ファミリア)
(即ちロキファミリアかフレイヤファミリア!)
「うーん今は勧誘とかしてへんからなぁ…ごめんな!」
「立ち去るがいい。」
「俺が!ガネーシャだ!」
「なん…だと…」
全滅した。
正直ファミリアの一つや二つすぐ見つかるだろうと思っていた。
オラリオの雑踏の中で呆然と立ち尽くしながら自分たちの考えが甘かったことを痛感する。
こうなってはとれる手段は一つだけだろう。
「酒飲んで忘れよう!」
諦めて酒場で全て忘れよう
オラリオにくる前から働き先の酒場で大騒ぎする大人達が楽しそうで混ざってみたかったのだ。残念ながらお堅い店主は俺が混ざって酒を飲むことを頑として許さなかったがここはオラリオ。自由な冒険者の街なら許されるだろう
「ガキに出す酒はないよ」
「馬鹿な」
豊醸の女主人亭なる酒場でしっぽりいこうと試みたところ筋骨隆々といった様子の女店主にすげなく断られてしまった。
自由の街ではなかったのか?
「実はこう見えて俺は今年で50になるんだ。エルフ若く見えやすいから分からないかもしれないが」
「はっ!大人を騙せると思ったら大間違いだよ」
「そんな」
結局俺はジュースを飲みながら手頃な料理を食べるというお子さまのような醜態をさらすことになってしまった。
周りからの生暖かい、半分馬鹿にしたような視線が癪に障るがあいつらでさえどこかのファミリアに所属出来ていると思うと希望が湧いてくる
「よおエルフのぼっちゃん!もしかして最近オラリオにきた口か?」
大人しくジュースを飲んでいると声をかけてくるやつがいた。
「ぼっちゃんじゃない。けどオラリオには今日来たばかりだけど何か用か?」
おそらくベテランの冒険者といった雰囲気の中年の男は気のよさそうな笑顔を浮かべていた。
「俺の名前はアスラってんだ。しがない零細ファミリアも団長をやってんだが今は人手不足でね。新人を探してるってわけなんだ。」
「本当か!」
思わず身を乗り出して聞き返すとアスラは笑みを深めて首肯する。
「やっぱり冒険者志望か。察するに大手のファミリアを片っ端から当たって総スカン、とかだろう?」
「分かるのか!?」
「俺ほど長くこの街にいるとお前みたいなしょぼくれた顔をしてるやつはよく見るんだ。それに今は時期が悪くてね。」
「時期が?どういうことだ?」
「まあいいじゃないか、そんなことは。それよりどうだ?入る気になってくれたか?」
「ああ。けど一緒にオラリオにきたやつがいるんだ。相談してから決めたい。」
「ならその子と一緒に加入してくれたらいい!けどその前に今日のところは主神を紹介させてくれないか?ファミリアの本拠地まで案内しよう。」
アスラは俺の分までまとめて支払いを済ますと店を出た。その後ダイダロス通りにあるという本拠地へ案内してくれた。
本拠地に向かっている道中ふと空を見上げるといつの間にか日がほとんど沈んでいた。リオンはもう待ち合わせ場所で待っているかもしれない時間だ。
「アスラそろそろ相方が待ちくたびれているかもしれない。主神と会うのは明日にしないか?」
アスラは首を縦に振らなかった。
「もうすぐ着く!場所だけでも覚えて帰ってくれ」
アスラはそのまま路地裏に入る。俺もついていく。
「こんな路地裏にもファミリアがあるんだ、な?」
ふと腹に熱さを感じた。とっさに触ると生温かいぬるりとした感触
「え?」
「馬鹿なガキだ。ここまで世間を知らねえとはいっそ哀れだなぁ」
アスラが手に持った刃物には赤黒い血が垂れていた。
変わらず笑顔を浮かべてるはずが今はひどく邪悪なものにみえた。
膝から力が抜け崩れ落ちる。血がどくどくと止まらない。
「なん、で」
「なんでだぁ?ヒハハハハハ!楽しいからにきまってんだろぉ!特にお前みてぇなガキを殺すのは最高だぁ・・・」
アスラは哄笑した後サウィルの髪をつかんで顔を持ち上げる
「なんでファミリアが勧誘に及び腰なのか、だあ?そりゃ俺たちがいるからさ!」
「今オラリオは『暗黒期』!俺たち闇派閥の時代さ!今時ひよっこも面倒みようなんてお優しいファミリアはないのさ!ハハハハハ!」
「あばよガキ。自分の無力を恨みながら」
そう言い残してアスラが去るのを俺は薄れゆく意識のなかで見上げることしかできなかった。
(リオンは今頃待ちくたびれているのかな)
もう意識を保つのも限界だ。
「ごめんな・・・リュー・・」
五感が遠のいていく
「死にたくないな・・・」
「にょわ!?だ、大丈夫かお主!?」
意識を失う最後の瞬間そんな素っ頓狂な声が聞こえたきがした。