.第九話
「グッ‼︎」
何だ今のは‼︎こいつは一体何をした‼︎
明らかにこいつの爪なんかは当たらない距離だったはずだ。今までの様子からこの距離で出せそうなのは板状の結界くらいのはず…いや、待てよもしやそれが正解か?
もしかしたら今のは板状の結界を刃物にしたってのか⁉︎
そうならこいつの結界の出せる距離は、全てこいつの間合いになる。
くっ…ここぞとばかりに間合いを詰めてきやがる。しかも腕も武器も失った右方向に来やがる。
左腕は無事だがあの攻撃にいつ狙われるか分からねぇ。
……逃げるか?
そんな言葉が頭をよぎった。確かに本気で行けば逃げれる可能性はあるだろう。瞬間的な速さなら俺の方が早いし、撤退用のアイテムを使えば逃げることは可能だろう。
だが、それでいいのか?数年前にレベル5に至って調子に乗っていたところにゼウスファミリアの団員に勝負を挑んで才能の差を思い知らされてずっと燻っていた。
それなのに今、この場でも逃げるのか?この心の高鳴りを無視して?この意地を持って戦う獣を相手に…。
違うだろ‼︎
なら…ここで…限界を超えてやる‼︎
「うぉおおおおおーーーーー‼︎」
「キュウキュアーーー‼︎」
そこからは、俺は。いや、俺たちは全力で戦った。
アイツが噛みつけば俺は殴り返し、俺が蹴り飛ばせばすすぐに戻ってきて俺の体に爪を立て、互いに回復もリソースも考えずに戦いつづけた。
失った手を持ってた剣を咥えたり、左手でも使いながら戦った。
そして長いようで短い戦いの先。俺は、…敗北した。
途中までは、互角だった。腕が無くなっても気合いで痛みを無視して全力で動き続けて、互いに攻撃し続けた。
だが、腕の血を止血していなかったのもあり、そのまま出血多量で動きが精彩を欠かいていた。その瞬間にアイツは、俺の首に噛みつこうと来たところを噛んで防御しようとしたが、幾度と撃ち合った武器も限界が来た。武器は噛み砕かれ驚いた瞬間にそのまま首も食いちぎられて、俺は動けなくなり…負けた。
……負けたのは悔しい。死ぬのもこえー。けど…冒険者らしい最後だ。燻ってから数年経っての久し振りの冒険は、満足のいくものだった。
唯一の心残りは、結局こいつが何なのか分からなかったことだ。人に近い理性を感じさせるモンスターなんて存在。
もっとこいつのことを…知り…た…かっ…た…な……。
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クソッ、こいつにこんなガッツがあったのか。
正直言って俺はこいつのことを舐めていた。レベル4なのか5なのかは分からないがこんな実力者がなぜいるのかとか、そんなことを抜きに腕を切ればすぐにみっともなく逃げるものだと思っていた。
だが、こいつは腕を切断されても瀕死になっても俺を喰らってませんとばかりに攻撃も苛烈になる。
…ぶっちゃけると俺はここで持久戦を仕掛ける手もあった。相手は手負い。ポーションがあるかもしれないがそれでも精々傷を塞ぐだけ。
時間さえ経てば勝手に死ぬ。
けどそれは違うだろ‼︎
確かにこいつらは普通にチンピラで話す内容的にも小物だがカスが多かった。だけどそんな、やつらでも誇りなのか、意地なのかは知らないが…それでも自らの意思で最後まで戦い抜く覚悟を持ってくるのなら。俺も相応の態度を見せるべきだと思う。
狩人ならわざわざ死にかけの相手に近づくなんてことはしないだろう。けど俺は、こいつの覚悟を無駄にさせるような真似はしない。
戦う覚悟を持って挑むのならそれに応じよう。
「うぉおおおおおーーーーー‼︎」
「キュウキュアーーー‼︎」
ここで終わらせる‼︎と俺たちは互いに心が一つになった気がした。
そこからは泥臭い戦いだった。手負いの獣が最も恐ろしいとあるようにこいつは腕を失い、血を流しながらもそれを感じさせない戦いをしてみせた。一発当てたら一発殴り返される。致命傷は避けながら首を、足を、心臓を容赦なく狙う。
互いに疲労を無視した互角の攻防。俺は結界のガードを最小限に機動力のための足場として利用して、こいつは切り落とされた腕が持ってた剣を左腕や口で振るう。
結界を割り、
互いに数を増やしていき、時間の感覚が変わる。互いのことしか見ていない。しかし、腕と血を失いそれでも限界を越えていたこいつ…いや、冒険者は流石に長くは持たない。
最後は動きが鈍ったところを親が首に噛みつきがとどめとなった。
「キュオーーー‼︎」
本当に強かった。攻撃手段が悉く封じられるし、偶然だと思うが防御手段の欠点をしっかり取られてる。
おっと、急速回復しないとな。初めてまともな格上の戦いだ。俺も初めて重症を負った。
何度も殴られたり蹴られたりしたことで体のあちこちがまだ痛むし、骨がいくつか折れてる。
しかも剣を何度か掠ったから切り傷も多い。
けどまぁ、勝利には違いない。後はすぐに住処に
「ギュ…」
何だ。急に身体中が痛い⁉︎まるで体が作り替えられてるみたいだ。
だめだ、このままだと気絶する。すぐに住処に戻らなくちゃいけないのに…。
俺は何とか痛みを耐えながら拠点に向かうが…流石に無理だ。このままだと倒れる。どこかに休めそうな場所は…あの木の根の穴でいいか。
そうして俺は、何とか木の根にある穴に入り、そのまま気絶した。