────10階層。
そこは濃い霧が発生しているフロア。
フロアの様子は、上層である8、9階層とは違い。
短い草の生えた高原に変わる。
天井の高さも3〜4
洞窟タイプのフロアであった上層と比べ広い作りになっている理由は、この階層から今まで見られなかった大型モンスターが発生するからだ。
濃い霧も相まって、近くまで這い寄っていたオークに気付かず頭を潰されて即死するなど、この階層ならありふれた話だ。
「はァァァ!!」
「ブゴォォァァ!?」
高く飛び上がり、厚い皮膚に守られた頭に短剣を突き刺す。
天井が高くなったお陰で上方向からの攻撃ができる。
幾ら厚い皮膚で守られたオークでも、頭は生物共通の弱点である筈だ。
そのままオークの頭に脚を絡ませて、何度もその頭に短剣を振り下ろす。
「ブモッ!?バギュ、ブゴォォ!?────」
突き刺す、突き刺す、突き刺す。
その内にオークの鳴き声が聞こえなくなり、塵となって消えた。
「っと、────おおっ!!」
咄嗟に身体を捻らせて、距離を取る。
着地のタイミングを見計らったのか、ハードアーマードが突進して来たのだ。
周りのモンスターをつき飛ばしながら、ダンジョンの壁に激突した後、ゆっくりと身体を此方に向き直した。
(ハードアーマード、確かべらぼうに硬いモンスターだ……)
その背中の皮膚は装甲の様に硬く。
その突進は弓矢の様に速い、生半可な物理攻撃であればまず歯が立たない相手だ。
「グゥールゥゥ────」
ハードアーマードが唸り声を上げる。
その声に恐れは無く、むしろその
────
"お前のその小さな剣では、この皮膚に傷一つ付けられないだろう"
まるでそう言っているかの様だった。
少し、
(悔しいけど、あの岩の様に硬い皮膚を破ることは出来ない…)
ならば搦手。
自身が使える搦手の一つである"肉を切らせて骨を断つ"もハードアーマードの突進力を考えれば有効とは言えない。
となれば────
僕は、その名を口にする────
「────
自ら使わない様にしていた、そのスキルの名前を。
「シア君はさー、自己肯定感が低いよね」
「え?そ、そうですか?」
数日前、唐突にハルティア様にそう言われた。
自分自身では、そんな事は無いと思っていたがために、意外であった。
ズズズと、お茶を啜りながら話を続ける
「じゃあ聞くけど…シア君はどう思ってるの、自分の
「────ッッ!決まってる、僕を、ぼくを怪物たらしめる悪しき──」
「ほら、低いじゃんか、自己肯定感」
「……!」
冷や水を掛けられたかの様な感覚。
「良いかい、スキルってのはその人を形造る重要な物なんだ、自分自身とさえ言ってもいい」
「そのスキルを否定するのは、自分自身を否定する事────シア君も、シア君のスキルも怪物なんかじゃ無い……素晴らしい個性だよ!!」
「個性────」
「そう!否定する必要は無い、存分に使ってよ♪その方がもっとシア君らしく戦えるさ────」
オラリオに来てからはずっと、使わないようにしていた。
自分の事を怪物だと、自分で認めてしまうような、そんな気がして。
でも、そうじゃ無い。
そう
だから、もうやめだ。
「グゥゥオオオオッッ!!」
再び突進を仕掛けるハードアーマード。
その突進は弓矢のよう、いや、更に速い。
土埃を巻き上げながら、グングン加速していく。
対して僕は動かない、
加速し続けるハードアーマード────そうだ、それで良い。
そのまま周りすら見ずに此方へ来い。
こっちも、
「グァァァァ────ガッ!?……グ、ガガガ……!」
突如、動きを止めるハードアーマード、まるで巨大な壁に行き手を阻まれている様な、そう、阻まれている。
僕の無数に生やした腕に、阻まれている。
ハードアーマードが土埃を巻き上げながら進んでいる中、背中から細い腕を何十本も生やし、正面に、左右に配置していた。
────そして、
周囲をちゃんと見えてさえいれば、引っかからないような罠。
だが奴は土埃を巻き上げた。
それが逆に、成功率を高めてしまった。
「────止めだ」
「グ────ギャァァァァ!?」
硬い皮膚によって守られていない箇所、攻撃の通る脇腹を────その短剣で斬り裂いた。
あの後、僕はしばらく10階層を彷徨っていた。
オーク、インプ、キラーアントの大群。
楽な相手では決してなかったが、全て斬り殺した。
特に苦戦したのはキラーアントの大群。
「わりぃぃ!!コイツらどうにかしてくれぇ!」
「へへへ、悪いなぁ僕ちゃん、俺達にはどうしようも出来ねぇんだ────」
10階層で出会った冒険者達。
モンスターのなすりつけ。
一般的に
興奮したキラーアントに、一瞬で僕は取り囲まれてしまった。
「「ギィイ、ギィイ」」
これには流石に骨が折れた。
正面を倒せば、左右から齧られ、体当たりをお見舞いされた。
その外殻は硬く、予想よりも短剣が中々通らず焦った物だ。
「だけど……やっと見つけた……」
11階層へと続く道、これを探していたのだ。
11階層から12階層は上層の最終領域。
ギルドの基準では、ステイタスにしてLV1のBからSの基準を満たさなければならない。
(だけど……少し様子見をするくらいなら良いよね……)
それは小さな好奇心、あるいは大きな慢心。
10階層をソロで進んで来たのだから、大丈夫だろう。
そんな甘い考えが、この身体を押し進めたのだ。
11階層をしばらく進んでみたものの、今のところ苦戦のくの字もなかった。
せいぜいが腕や脚に浅い傷や痣を負う程度、それすらスキルの
(嵐の前の静けさ……か?……)
上層の最終領域が、こんなにぬるま湯な筈がない。
普段なら、モンスターによるもっと苛烈な攻撃が行われる筈だ。
何か、ある?
そう思った瞬間、ダンジョンの奥からか細い声が、反響して聞こえてくる。
「…………い、お……」
近づいて、くる。
「………い、おい────」
どんどん、その姿が見える。
「────い、おーーい!!逃げろ、殺されるぞ!!」
ダンジョンの奥から現れたのは、冒険者だと思われる、エルフ。
────────エルフ?
「────ひ」
直後、短剣を構える。
目の前の、
見えるのは一人だけ、周りにモンスターも居ない、何かから逃げて来ている。
此方を警戒していない。
────つまり、
『死ねっ!!死ねよ、なんで死なないんだ!?何故直ぐ再生する────────怪物めッ────!!』
『ゴフッ……ヒュー、ヒュー……ごめな、さい、ご、め……』
僕を殺し続けた、
このまま────
「────って!?こ、子供の同胞!?嘘っだろ…………腹決めるしかない、か……」
「ッッ逃げろ!!子供の同胞!!このままだと殺されるぞッ!────俺が
敵は、ナニカから僕を守ろうとしたのだ。