「まさか、こうして再び会えるとは思わなかったよ。実験体XX」
「私もあなたが生きているとは思ってもいなかったです。ジーナス博士」
とある日。たこ焼き屋の裏にある家屋に金色の闇は居た。それも、因縁の敵である進化の家のジーナス博士と共に。
さて、何故彼女が此処に居るのか。それは、ジーナス博士の後ろで身を縮こませているアーマード・ゴリラが原因だ。
それは、買い物の帰り道のこと。とある商店街にて、顔を隠さず堂々と財布を手に、夕飯の材料を買いにスーパーに向かうゴリラを発見。脳の処理が追い付かず思わず二度見してしまったが、やはりゴリラ。目を凝らしてもゴリラ。そこに居たのはゴリラだった。
しかもただのゴリラではなく、かつての進化の家のNo.4の実力者だったジーナス博士の作った実験体だった。(金色の闇が抜け出した後はNo.3へとランクアップしているが)
進化の家が壊滅していたと思っていた金色の闇は、そこでゴリラを追跡し……現在に至る。
「そこのゴリラには、頭なり顔なり隠すように言った方が良いですよ。貴方の下から逃げ出したのは、私だけではないみたいですし」
「可能性があるのは……プロジェクト・アダムの前身である不死身シリーズが該当しそうだ。プロジェクト・イヴの成功体である君と対になる存在は結局完成出来なかったが……不死身の力があれば、私の許にいつか辿り着くだろう。君みたいに、ね」
その言葉に、かつての執念が無い事を確認する金色の闇。彼は、自分のクローンを大量に作り、新人類の誕生という夢を叶える為に様々な事をしてきた。それこそ彼女が嫌悪感を抱く程に。
だが今はどうだ。目の前の男からは、覇気が全く感じられない。
「……何があったのですか。私を……いや、大勢の人々の人生を滅茶苦茶にしてきた貴方が、何故……」
「私は……負けた。彼に負けたんだ……」
ジーナス博士は語った。
自分の夢、研究、執念がちっぽけなものだと感じる程の衝撃を与えた一人の男の事を。
かつて、金色の闇と同等の力を持つ阿修羅カブトが真の力を発揮してもワンパンで倒されてしまった事を。
そして、その力を手に入れた男は平凡なやり方で、しかし自分で自分のリミッターを破った──理不尽の化身だと。
「……それが、貴方が変わった理由」
「ああ、そうだ。賞金稼ぎをしている君とは接点の無い男だけど、どうやらヒーローをしているらしくてね。もう暫くすれば、テレビで見れるさ」
「……ヒーロー」
そこで思い浮かんだのはキングがかつて言った言葉。
本物のキングは、何処かにいる。
もし、ジーナス博士の言う男が彼女の予想通りなら──これは、無視できない案件だ。
「それにしても……」
思考に沈み込んでいた金色の闇が、ジーナス博士の言葉で浮かび上がる。
アーマード・ゴリラがつくったたこ焼きを食べながら、全てを見通すかのような眼で彼女を見据えた。
「君は本当に変わったな」
「どういう事ですか?」
「いや……君がまだ私の下に居た時は、
何千何万という犠牲の下、成功した君はまさに奇跡の存在だった。
しかし、実際の所、プロジェクト・イヴとしては半分成功で半分失敗だった。トランス能力がいかに優れていようと、奥の手を制御しようと、その精神が問題だった」
金色の闇は思わずドキリと心臓を跳ねさせた。
何故、この男がその事を知っている、と。
彼女の表情から何を考えているのか分かったのだろう。当然の事だと言わんばかりにため息を吐き、研究者らしく捲したてる。
「思考パターンの解析や心理テストでその辺の判断は容易だ。それに、君という存在が安定したと同時に、
でも、当時の私としてはどうでも良かった。新人類にその辺の価値観は優先順位の低いものだった。
だが──君が私の下から離れて起きた二つの出来事が、君の急成長に繋がった」
「……急成長ですか」
「ああ。君は、未だに阿修羅カブトと同程度の強さだと思っているが、君は既に彼を超えている。かつては君の対の……つまり番いであり、アダムになり得る存在に近い奴だったけどね」
「虫と一緒になるつもりはありません」
タラコ唇で筋肉ムチムチで品の無い虫野郎を思い出して、金色の闇は苦い顔をする。
「私はどうでも良いがね。……さて、先ほど言った二つの出来事だが、一つは臨死体験だ。
君は私の下から逃げ出した。その際、脳と心臓に仕掛けた爆弾が作動した」
金色の闇はその時のことを思い出して頷く。
過去にも今にも、死に掛けたのはあの時くらいだろう。トランス能力を熟知していたジーナス博士が設置していた爆弾だ。作動した時は絶対に助からないように作った筈。
しかし彼女はこうして生きている。
「君も彼ほどでは無いが、リミッターが外れたのだろう。死の間際に何か見たり、変な音が聞こえたりしなかったか? 砕ける音だったり」
「……いえ、覚えていません」
「そうか。まぁ、良い。本題はもう一つの方だが……」
「……」
ジーナス博士は先ほどよりも確信した様子で額に流れている冷や汗を拭うと言った。
「君はおそらくイヴとしての自分を認識したのだろう」
「イヴとして?」
「そうだ。つまり精神が女性側に完全に固定された、という事だ。よくよく思い出して欲しい。一人で何か考えている時、君は女性らしくなかったか? 自覚が無いと言うのなら、進化の家に居た時の事を思い出せ。その時の君は、まだ男性の意識があった筈だ」
「……っ」
──そうだ……私はっ。
ジーナス博士の言葉に、金色の闇は……彼女は言葉を失った。自分はこの世界に来た時から随分と変わっていた。そしてその事に気が付いていなかった。
そして何より、今指摘されたにも関わらず心の何処かで納得していた。
「それがどういった理由なのかは分からない。脳を一度破壊された事で男性の意識が死んだのかもしれない。元々そういう風になる予定だったのかもしれない」
「……私は」
「まぁ、今となってはプロジェクト・イヴに興味は無い。ただ、君が自分の事を
自分をイヴとして認識する……?
そんな事いきなり言われても……。
「……私とした事が。研究者時代の時のように捲したて、分かりづらい説明だったな。
まぁ、要するに──」
「好きな人とハレンチな事をすれば良い」
「──」
バヂン!!
その時の事をジーナス博士はこう語った。
「生への執着が無いとはいえ、会話時ずっと喉元をトランスさせた刃で突きつけられるのは怖かった。唯一、私の感情が揺れる瞬間だろう。そう思っていた。
しかし、それは違った。
イヴが刃を解除し顔を真っ赤にさせて私を引っ叩いたあの瞬間。
あれは、異性に対する好意とは違うなんというか、こう……」
この日。ジーナスは『萌え』というものを学んだ。
ヒーロー協会では、定期災因調査の報告会を行い、怪人災害を未然に防ぐ施策を取っている。
それでも尚難しく、B、D市で起きた巨大生物による破壊災害のような事例が起きてしまうのが現状だ。
そして、高レベルな怪人の出現によってゴーストタウンと化したZ市。そこでは、戦闘能力の高いA級ヒーロー二人が重傷を負い敗北する程の怪人が日常的に出現し、そしてそれ以上の力を持った化け物が存在すると言われていた。
今では、怪人ですら滅多に寄り付かなくなっている。
「全く……S級ヒーローはみんな勝手な奴ばかりだ」
さて、そんなゴーストタウンに一人で乗り込もうとしていたヒーローがいた。
そのヒーローの名は、戦慄のタツマキ。
S級2位であり、ヒーロー協会最高戦力の一つだ。
彼女は超自然的な力……つまり超能力を使うエスパーで、これまで協会が危険視してきた怪人を一瞬で殲滅してきた実績を持っていた。
そんな彼女だが、性格はプライドの塊であり、彼女を協会がコントロールする事は不可能に近い。
つまり「私がそのゴーストタウンの化け物ってのを倒して来てあげるわよ」と言われた際には、説得に時間が掛かり多大な労力が必要だ。
故に先ほどのような愚痴が出てしまう。
災害レベル竜の怪人を倒しに向かっているタツマキをモニターで監視しながら、職員は愚痴を零した同僚に苦笑する。
「S級は個人の持つ戦闘能力を重視しているからな。性格は二の次さ」
「と言ってもなぁ」
筋トレ中毒。オカマ。大食漢。子ども。爺さん。シスコン。すぐキレる幼女。中々顔を見せないトップ。
S級ヒーローの面々を思い浮かべるだけで、色物集団が脳内を埋め尽くす。ヒーローというには、個性的すぎるのではないだろうか。
そして、その個性に振り回されているのが彼らヒーロー協会だ。
「その点、キングさんは優良物件だよな」
「ああ。ある程度の依頼だったら引き受けてくれるし、絶対に解決する。それもタツマキや他のメンバーと違って街に被害を出さない」
「むしろ被害を出さないように力をセーブしているよな」
実際は、金色の闇がキングの評判を落とさない為の最適解を出し続けたからだ。
しかし、彼らがそんな事を知るはずも無く、根も葉もない話が当然であるかのように語り継がれる。
「それだけど。何でも、過去に大事な人が自分の戦いの余波で亡くなったらしい」
「なるほど。ストイックに怪人を倒すのはそれが理由なのか」
「だから、弱い怪人は自分の覇気で戦意喪失させて、強い怪人は被害が出ないように街を守りながら戦うんだ」
「それができるだけの力を持っている……いや、得たんだな。一体どれだけ自分の事を責め続けているんだ……」
「やっべ。そう思うとキングさん優良物件どころじゃねぇ。メチャクチャ良い人じゃねぇか」
何故か勝手に感動し、涙を流す職員達。
「でも上層部の個人的な依頼は断っているらしい」
「まぁ、上層部の依頼は無理難題だったり、スポンサーのご機嫌取りだからな……人々を守るのに忙しいんだろう」
「はぁ……憧れるぜ」
もしキングがこの場に居ればこう言うだろう。
なんでこの人達、勝手な事ばかり言うのだろう、と。
本人が何もしていない所で、再び評価が上がった瞬間であった。
「Z市の調査もキングさんに頼めば良かったかもしれないな」
「よせよ。あの人にこれ以上迷惑は掛けられない──ん? 何だ、この数値」
そんな中、彼らはモニターに映し出された異常値に気付く。
それは、S級ヒーロー童帝が作成し、協会へ提供された軌道衛星が捉えた一つの情報。
その情報は、今まで雑談していた彼らの表情を青くさせるのに十分なものだった。
『緊急避難警報! 緊急避難警報!
災害レベル竜! 災害レベル竜!
後21分後に巨大隕石が此処Z市に落下します!
出来るだけなるべく早く遠くへ逃げてください!』
「無茶ぶりも良いところです。ここまでパニックになれば、逃げる事などできようはずがありません」
サイレンの音が町中へ駆け巡り、避難誘導の声が市民達の恐怖心だけを煽っていく。
その光景をヒーロー協会Z支部の屋上から眺めながら、金色の闇は吐き捨てた。
「さ、災害レベル竜なんて普通の人じゃどうしようもないからね。街の人も協会の人も自棄っぱちになるさ……」
その横では、隕石の影響か、轟々と発生する強風に煽られながらもキングが立っていた。
巨大隕石を見て怖がっているのか、心臓の音が煩く響いていた。
「しかし、貴方も案外運が悪いですね。隣町で偶然協会の人間に見つかり、いつもならバレない変装が何故か効果を示さず、こうして死地に駆り出されるとは」
これで金色の闇が別件で留守だったら、キングは死んでいたかもしれない。
同じ考えなのか、キングは死んだ目で空にある隕石を見ながら頷いた。
「ここ最近は、評価は上げるためになるべく依頼を受けていたのですが……今回はそれが仇となりましたね」
「じゃあ、今回はやめとく? どうやら、他のS級が何人か来ているみたいだし。彼らの邪魔をしてはいけないと思ったとかなんとか言って──」
「──いえ、それはあり得ません」
金色の闇がキングの提案を一刀両断した。
その言葉には有無を言わさない力があり、思わず彼はヒュッと変な音を立てて息を止める。
「もはやキングの存在は少々の不祥事では揺らがない確かなものとなりました。何かしらのこじ付けがされて評価が上がるくらいです。しかしだからこそ、こちらから評価を下げるような事はするべきではありません。もし万が一の事があれば、想像ができない程の被害が貴方の下へ殺到します。よって、この場での最適解は誰もが認め、反論できない程の完全解決です」
「お、おう……」
最近、金色の闇が必死過ぎて怖いと思うキングだった。そして今日は何かあったのか一段と怖い。
そんな彼の心情など知らず、金色の闇は考え──解決法を見つけた。
そして、それを為すための方法はつい先程に得ている。
「キング。力を貸してください」
「へ?」
──そして、時は少し流れ。
『ミサイル発射!!』
隕石がZ市に落下するまで後一分となった所で、ヒーロー達が動いた。
まず初めに動いたのはS級ヒーロー・メタルナイト。彼が操るロボットから大量のとてつもない威力を持ったミサイルが隕石へと殺到する。
着弾と同時に爆風と爆音が響き、地上に居る人々は思わず足を止めて空を見上げた。
──あれなら、もしかしたら……。
しかし、それを嘲笑うかのように、メタルナイトのミサイルが起こした爆煙の向こうから依然その巨大さを保った隕石が姿を現す。
それを見た街の人々は一瞬湧いた希望に顔を落とし……。
「バング伏せていろ!」
天高く舞い上がる一つの命の輝きに、再び顔を上げた。
それは、新人でありながらS級ヒーローに任命されたサイボーグ・ジェノスが限界以上の力をもって放った一撃。炎とも雷とも言えるエネルギーが、隕石を受け止め……しかし、それでも止まらない。
人々の心を一瞬だけ繋ぎ止めた光が消える。
だが、彼らはまだ空を見上げていた。
まだ、何かがあると。そう感じたからなのかもしれない。
そして、それは正しかった。
隕石の落下地点であるビルの屋上が突如崩れたかと思うと──隕石が砕けた。
まるで内部に仕掛けられた爆弾が全身くまなく砕いたかのように。
兎にも角にも、隕石は今砕かれた。
これにより、巨大隕石によるZ市の消滅は免れた。
しかし、地上に居る人々にとって脅威はまだ去っていない。
降り注ぐ隕石のカケラが町を破壊し尽くすだろう。それによって住む場所を無くす人が居るのかもしれない。そして、その怒りと虚しさをたった一人の人間に理不尽な形でぶつけるのかもしれない。
それだけの力があの隕石にはある。最強の男に砕かれようとも……。
──煉獄……。
だが……この世界では違う。
──無双……!
空に広がる絶望に心を折っていた民衆の耳に届くのは王の言葉。
後になれば忘れてしまう……しかし、この瞬間だけは聞こえる救いの声!
──爆熱っ!
自然と皆の視線は一方へと集まる。
その姿を、自分達を助けてくれるヒーローの勇姿を!
──波動砲ぉおおおおお!!
そして
放射状に放たれた超エネルギーは空を埋め尽くし、砕け散り落ちていく小隕石の流星群を呑み込み蒸発。それが10秒……いや、もっと長いかもしれないし、ほんの一瞬だったのかもしれない。
しかし、確実に言えるのは──。
「まさか……こんな事があり得るのか……!?」
現場に居合わせたシルバーファングは目を大きく見開いて言葉を失い。
「……一件落着だな」
地上に降り立ち、チラリと協会支部を見てそう呟く一人の男。
「いったい何が……あれはっ!?」
そして、眼球に内蔵されているカメラで協会支部屋上を見たジェノスが、ある光景を見て言葉を失う。
それと同時に、ヒーロー協会Z市支部の屋上に一人のヒーローが駆け付けた。
彼は、逃げ遅れた人々を案じて別の町から自転車でやって来た勇気あるヒーローだ。
先ほどの光を見て隕石が消えたのを確認すると、光の発生源である此処までやって来たのだろう。
無駄に強固で重い扉を開ける。この先には何があるのだろう。彼の頭の中で色々なIFが駆け巡り──。
想像を絶する光景に言葉を失った。
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ
かつてないほどに鳴り響くキングエンジン。
その音の持ち主はただ一人。
だが……あり得るのだろうか?
「何があったんだ!? 誰にやられたんだ!?」
思わず彼は、目の前に居るキングにそう問いかけた。問い掛けずにはいられなかった。
何故ならば……。
「どうしてそんなに血だらけなんだ!?」
彼の全身どころか、周囲20メートルが赤く染め上げられていた。
キング自身は腕を組み鼻から血を流して目を伏せている。そして体を震わせ立っているのもやっとといった様子だった。
それでも彼はこう述べた。
「何も……何も、なかった……!」
まるで、自分の中で暴れ回る激情を抑え込むかのように。
その姿に彼──無免ライダーは何も言えずその場に立ち尽くしただけだった。
この作品における煉獄無双爆熱波動砲の正体は次回で分かります。
射◯ではないです。