水田はあるのに「主食のコメ」を作らせない…「コメの値段を下げたくない」農水省がこっそり続ける減反の実態
■コメ政策を知らない農水省職員 少しだけ自分の経歴を語らせてほしい。 私は1977年農林省に入省し、「米麦の食糧管理法(制度)」を所管する食糧庁に配属された。「食糧管理法」は、いまに続く減反政策の原因を作った法律だ。 同法と数万人の職員を抱えた食糧庁の組織を守るために、農林省が70年に減反政策を導入してからそれほど時間は経っていなかった(これについてはのちほど詳しく紹介する)。食糧管理法をはじめとする法令の解釈・運用は私の仕事だった。81年農水省は、政治的に改正が困難で不磨の大典と化していた食糧管理法を29年ぶりに改正した。私は改正法の原案を書いて80年アメリカに留学した。 その仕事を行う際、私は1921年の米穀法からの食糧管理の諸立法を勉強した。42年制定の食糧管理法の下でも60年代以降、さまざまなコメの制度改革が食糧庁内では検討されていた。食糧難時代に配給制度を核として作られた同法は、食料自給を達成した後は“もぬけ”の法律となっていたからだ。 政令を改正することで実質的に食糧管理法を改正すると同じ成果を上げた69年の自主流通米制度(政府を通さないコメの流通を統制制度の下で認めた)の創設は、その一例だった。同庁の倉庫の中に眠っていた諸先輩による手書きの検討資料を、苦労して読みながら勉強した。 しかし、減反政策についての農水省の主張を聞いていると、今の農水省でコメ政策の経緯からその本質まで理解している職員がどれだけいるのだろうかと暗然とする。 これは危険なことである。 多くの国民は、役所の説明やマスコミの報道が正しいと信じているからだ。27年からコメ政策を抜本的に改革するというが、コメ政策の本質や経済原則を理解しないで、間違った政策が作られ、食料危機の際その供給を絶たれてしまうのは国民である。 ■「減反は廃止された」と堂々とウソをつく農水大臣 少し長くなるが、3月11日の記者会見における江藤 拓大臣の発言を引用しよう。自信をもって減反は廃止したと言っているのだ。 ---------- 基本的に申し上げておかなければいけないのが、米の生産は今でも自由です。国がキャップをはめることはありません。 平成30(2018)年に生産数量の割当てもやめました。それ以降は、食糧法に基づいて、人口動態や1人当たりの消費量の動向といったさまざまなデータや、審議会の答申もいただいた上で、国内の需要量の見通しを、農家の方々にデータをお送りし、それに基づいて、各地の再生協議会や農家の方々が、自主的な判断で生産をしています。 かつての減反政策の時には、減反をしなければ、次の年にはさらに厳しいキャップをはめて、国の補助事業でも採択しないと、厳しいペナルティを課して、米から引き離していましたが、(今は)そんなことは全くしていないです。米を作ることをやめさせているような政策を行っていることは大いなる誤解ですから、やめていただきたいと思います。 ---------- 私が記者だったら、次のように質問する。 大臣に質問します。第一に、生産目標数量を廃止しても農水省は適正生産量を公表しています。これに基づいて都道府県や市町村レベルでJA農協と自治体から成る協議会が生産の目標を農家に通知しています。農家の自主的な判断で生産が行われているのでしょうか? さらに、デフォルメして言うと、需要は700万トンでも在庫量が200万トンあれば、適正生産量は500万トンになります。適正生産量は生産の目標であって需要の見通しとは異なります。需要量の見通しで生産をしているのではないと思いますが、いかがでしょうか? そもそも6トンくらいの生産しかない大多数の農家が、650万トンという全体の需要見通しに基づいて生産することは可能でしょうか? 第二に、生産目標数量の配分をやめた2018年に減反は廃止されたという理解のようです。では、大臣の指摘したように、生産目標数量を達成しない場合のペナルティ措置も2018年に廃止されたのでしょうか? もし、それ以前の2010年にペナルティ措置が廃止されたのであれば、減反政策はその時に廃止されていたことになりませんか? 2018年ではなく生産目標数量に強制力がなくなった2010年から、農家の方々は自主的な判断で生産をしていることになるのではないでしょうか? 既に生産目標数量に強制力がなくなっていた2018年に安倍晋三首相が「減反を廃止する」と主張したことはフェイクニュースだったのではありませんか?