PdMは「プロダクト」をつくる人、事業責任者は「構造」をつくる人
BASE株式会社で金融事業の事業責任者と執行役員をしている柳川と申します。
私はエンジニア→PdM→事業責任者というキャリアを歩んできました。
その経験を踏まえて考えた、「PdMと事業責任者の違い」をまとめてみました。PdMから事業責任者へのキャリアチェンジを考えている方、結構いるのではないでしょうか。似ているようで全然違う、と言うことが言語化できそうだったので書いてみます。
単にいい話というよりは、かなりリアルなところを書いたつもりです。ぜひ読んでいただければ幸いです。
PdMと事業責任者の違い
プロダクトマネージャー(PdM)は、ユーザー価値とビジネス価値の接点を見つけ、プロダクトを前進させる役割です。
一方で、事業責任者は、プロダクトに限らず事業全体を見渡し、持続的に価値を生み続ける責任を負います。
この二つの役割は似ているようで、実際には視座・視野・視点が異なります。
PdMは「プロダクトを成功させる人」
事業責任者は「事業を成功させる人」
では、PdMが事業責任者になるには、何が差分になるのでしょうか?
それは、「プロダクト」から一歩引いて、「事業」を構造的に捉える目線と責任の持ち方です。
PdMはプロダクトを磨くことに集中できますが、事業責任者は「どの市場で」「どのプロダクトを」「どう勝たせるか」を選び取る立場にあります。つまり、プロダクトの中にいるのではなく、プロダクトの外からも意思決定する必要があります。
この差分は、以下のように言い換えられます:
PdMとして成果を出してきた人が、次のステップとして事業責任者を目指すとき、自らの視座を高め、視野を広げ、プロダクトにとどまらない視点を持つことが鍵となります。
星取表
プロダクトマネージャーのトライアングル
ユーザー価値:ユーザーの課題解決、体験向上
ビジネス価値:自社にとっての利益や成長につながるか
技術的実現性:エンジニアリング的に可能か、工数は適切か
事業責任者のトライアングル
市場機会:どの市場で、どの成長性・競合状況・規模感があるか
収益モデル:どうマネタイズし、どのように利益を出していくか(価格戦略・LTV・CACなど含む)
組織・リソース:チームの構成、人材配置、資金、他部門との連携など
Chat GPTすごい
どうだったでしょうか。実は上記文書は大半がChat GPTが出力してくれてた文章なんです。概ね間違っていないと思います。ジェネラルに参考になる定義だと思いますので、これはこれでご活用ください。
ここからは個人の意見を入れて肉付けしていきます
ここからが本番です。ここからは上記の記述を踏まえつつ、僕の経験からPdMと事業責任者と違いを事業責任者とはという観点から肉付けしていきたいと思います。
事業責任者は構造を作る仕事
事業責任者は「中間管理職」ではない
事業責任者は、組織図上どこに位置していようと、その事業におけるトップです。
「上がいるから」「決裁権がないから」といった理由で中間管理職として振る舞えば、組織も事業も中途半端になります。
重要なのは、役割としてのトップをやり切る覚悟です。役割として事業責任者が必要なのです。
ビジョンを示し、意思決定を行い、成果に責任を持つ。これは、偉そうにすることではなく、責任の重さを引き受ける態度のことです。
誰かが、「この事業は自分が責任者で自分がやりたいからやるんだ」と振る舞うこと、それは事業の構造の始点を作ると言う意味で大切な役割なのです。
あの人がどうしても実現したいと言うあれを実現しよう、みたいなことは案外大事なのです。
事業責任者は「組織に向き合う」仕事
事業責任者にとって重要なのは、組織そのものにどれだけ時間と関心を注げるかという姿勢です。
責任を持っているのは事業なんですが、事業ってなんでしょう。僕は行き着く先は組織だと思っています。
プロダクトや短期の数字だけに目が向いていて、組織や人に無関心なままこの役割を担えば、本人にとってもチームにとっても不幸です。なぜなら、事業は個人ではなく組織で成果を出すものだからです。
事業は仕組み作りであり、それは組織であり文化であると思っています。
これはプロダクト開発でが中心にあるスタートアップこそ顕著に出る特徴であると考えています。
そして、組織にとって最も影響力の大きい存在はトップです。
その姿勢や態度が、文化になり、空気になり、アウトプットに現れます。
事業フェーズに応じた「お金」への責任を持つ仕事
事業責任者の重要な役割のひとつは、お金に責任を持つことです。
ただし、「お金」と言っても、見るべき指標はひとつではありません。
売上:新規ユーザーを伸ばすか、リピートを重視するかで戦略が変わる。
売上総利益(粗利):原価構造を見直し、仕入れや仕組みの交渉に取り組む。
営業利益:販管費の適正化や投資判断がカギになる。ここは意外にエンジニア経験が生きる。プロダクト開発において販管費の大半は開発コストだったりするので。(マーケ費用の方が大きいケースが多いですけど。)
このように、どのお金を重視するかは、事業フェーズやビジネスモデルによって大きく異なります。
そして「どのお金に責任を持つか」を定めること自体が、事業モデルの設計そのものでもあります。
事業責任者の仕事とは「どのフェーズのどのモデルで、何にどれだけ投資し、何をKPIとして重視するか」を総合的に設計・判断し、結果に責任を持つことです。
そして、いくら売上が伸びてもいつまで経っても営利が出ないのでは事業構造として間違っています。最終的には営利が出るように道筋を設計する、そういう構造を作るのも事業責任者の役割です。
構造を作った上で、仲間に指定のKPIを伸ばすのに集中してもらうのです。
「財務3表一体理解法」非常におすすめです。
まとめ:事業責任者は「構造に責任を持つ」仕事
事業責任者の本質は、事業の構造そのものに責任を持つことです。
どのような構造であれば成功を実現できるのか。
そこに至るまでに、どれだけの時間とコストをかけられるのか。
これらをゼロから設計し、実行していくのが事業責任者の役割です。
この「構造」は、言い換えれば ビジネスモデルそのものです。
事業責任者は、ビジネスモデルを つくり、実現し、変革する 立場にあります。
構造の出発点になり、組織を作り構造を維持し、お金をコントロールし構造を維持し、次の変革へと繋げていく。構造の担い手なのです。
そう考えると、PdMが担っているのは、事業全体の構造の一部なのかもしれません。その一部が大事なのですけどね。
事業責任者に向いている人は?
プロダクトのグロース手法の違いと事業責任者の適性
「事業責任者は構造に責任を持つ仕事」と聞いて、
「自分には無理かも」と感じる人もいれば、「案外いけるかも」と思う人もいるはずです。
その違いは、能力の差だけでなく、バックグラウンドと事業モデルの相性にも関係しています。特に重要なのが、ユーザー獲得の導線(=グロース手法)と自身のバックグラウンドとの親和性です。
テックタッチ型のグロース(例:プロダクト主導・自動化された獲得)
→ エンジニアやデザイナー出身の方が距離が近く、事業全体への理解が早いハイタッチ型のグロース(例:営業・カスタマーサクセスによる獲得)
→ セールスやBizDev出身の方がフィットしやすい
つまり、自分の経験がどれだけユーザー獲得の現場に近いかによって、
その先にあるビジネスモデル全体へのアクセスのしやすさが変わってくるのです。
ここで言いたいのは、事業責任者への向き不向きは絶対的な能力の差ではなく相性も大事だということです。
否定されることに耐え、型を破れるか
事業責任者は、否定されることが仕事の一部です。
これはネガティブなことではありません。たとえ悪意がなくても、直接的でなくても、新しいことに挑む限り、否定はつきものです。
「これをやるべきだ」と信じて動くとき、あまねく全員が賛成してくれることはありません。
むしろ、賛否が分かれる状況にこそ、リーダーとしての価値が問われるのです。
だからこそ大事なのは、反対意見や反対の空気にも正面から向き合う姿勢。
正々堂々と、自分の意志と理由を言語化し、推進し続ける覚悟が求められます。
否定されるのは誰でも辛いです。だからこそ否定を引き受け肯定に変え周囲を動かしていく。それが仕事だし、それに価値が出るのです。
これは構造の出発点になるということなのです。
物事を進ませるには、役割としての事業責任者が必要なのです。
そもそも否定されているわけではない、くらいのスタンスに立てると良いですね。
ストーリーが語れるか
事業を進める上で、すべてのピースが揃っていることはありません。
いくらデータを集めても、どうしても埋まらない部分は出てきます。そのときに重要なのが、ストーリーでそれをどう補い、前に進めるかという力です。
足りないピースを探し続けるのも一つの手ですが、
そればかりに時間を使ってしまうと、事業のスピードはどんどん鈍っていきます。
考えてもわからないことばかり。
だからこそ、仮説を立て、ストーリーとして意味づけて進める力が必要なのです。
「データドリブン」はもちろん大切です。
でも、“データがなければ進めない” という姿勢では、事業は止まってしまう。このバランスを取る力──それが、ストーリーで進める力であり、
単なる「適当」や「ノリ」とはまったく違う、戦略的なスキルです。
データも使う、でもストーリーの力も使う。組み合わさることで最大の力を発揮します。組み合わさることで説得力が掛け算になるのです。
ストーリーを語ることは、構造の出発点になることです。
思想の強さが、事業責任者の資質を決める
思想の強さは、事業責任者に不可欠な資質のひとつです。
「それって、そもそもさ──」と問い直すことが自然にできる人は、事業の根本に立ち戻れる人。そういう人ほど、事業責任者に向いています。
事業責任者は、頼まれたことをこなす役割ではありません。
常に自ら考え、決断し、推進する立場です。ときには、自分自身の判断にすら自信を持てなくなる瞬間もあるでしょう。
だからこそ大切なのは、自分の思想に拠り所を持てるかどうか。
曖昧さや不確実性の中でも、何を信じ、何を成したいのか。その芯が、進み続けるための力になります。
これは上記の「ストーリが語れるか」にも強く影響します。
自分軸か、チーム軸か
あるタイプ分類の図で、自分は「マイスター」タイプにあたると感じています。もちろん、「マイスター」でなければ事業責任者になれない、というつもりはありません。
一般的にマネージャーに向いているのは「パートナー」タイプだと言われます。
チームや他者への関心が高く、支援型のスタンスを取れる人です。
ただ、事業責任者という立場では、マネージャーでありながらも「マイスター」的な自分軸の思考、つまり
「自分は何を信じるのか」「何を実現したいのか」という個の芯も同時に求められるように思います。
チーム目的になりきれないことに、負い目を感じなくていいと思います。
いろいろな特徴の人が集まるから力が出るのです。
独りよがりになれ、という話ではない
ここまで読むと、「突っぱねろ」「独りよがりになれ」と言っているように聞こえるかもしれません。でも、それは誤解です。
大切なのは、軸を持ちながらも柔軟に進む姿勢です。
強い意志や思想や覚悟は必要ですが、それを押し通すだけでは事業は成り立ちません。多様な意見を受け止め、状況に応じて調整しながら、進むべき方向を見失わないことが重要です。
ただ軸を作るのは案外大変なので強調して書いています。
軸が作れても、それが継続することは最上級に難しいのです。
事業責任者という役割が明示的に存在するパターンは、祖業とは別の事業が立ち上がったタイミングであることが多いです。
そのタイミングで言えることとしては、意思は持たねばならぬが、力任せに押し通すのは罷りならんということなのです。
各方面に対する説明責任は当然に存在するのです。各方面に対する説明責任は発揮しつつも、軸を持ち継続できるか。
事業責任者は「中間管理職」ではありませんが、かといって完全に自由ではありません。道中誤魔化しながらも、意思を持ち続け結果を出す。それが難しさでもあり面白さでもあるのです。
このバランス感覚は、PdMにも共通する大事な素養だと感じています。
その他大事なこと
事業責任者は「偉いからプレイングしない」の?
そんなことはありません。特にベンチャーのような環境では、構造的にプレイングをしないマネージャーは機能するのが難しいと考えています。
実際に、マネジメントだけに専念している事業責任者やPdMを見かけることは、ほとんどないのではないでしょうか。
ただ、事業責任者になると、マネジメントの比重が自然と大きくなるのも事実です。
だからこそ、プレイングをやめるのではなく、プレイングの内容を変えていくことが大切になります。
最初は自分で手を動かしていたことも、
徐々に「チームの仕組みを整える」「人を動かす」「意思決定を助ける」といった、より上流のプレイにシフトしていく。
個人的には、自分がいなくてもチームが回る状態をつくっていく必要はないと考えています。ただ見守るだけのマネジメントではなく、手も頭も使い続けながら進めていく、実践的な仕事でありプレイングをしていくと言うのが現実だと思います。
そしてこれが事業責任者という役割がある意味だとも思います。
偉そうに語っていますが、ここはまだまだ道半ばです。頑張ります。
共通して大切なのは「いい意味での騙されやすさ」
実は、みんなある意味で“騙されて”仕事をしているのかもしれません。
PdMは、「この事業はうまくいく」「この方針で進もう」と、事業責任者や社長のビジョンや言葉に「いい感じに」騙されて前に進みます。
でも、事業責任者には誰も騙してくれる人はいません。(と思った方がいいです。)
だから必要なのは、自分で自分を騙す力です。
本当は確信なんて持てない。でも、「いけそうな気がする」「これはやる価値がある」と自分に言い聞かせて踏み出せるかどうか。
騙すというとネガティブですが、感じ取る力、そこからつながるポジティブな自己洗脳力こそ、事業を前に進める力になります。どうしてもそういう役割一定の割合で必要なのです。
ただ荒唐無稽なものに騙されるほど人は馬鹿ではないのです。
結局どこかのタイミングで実績がついてこないと、自分さえ騙せないのです。
と考えると、自分のことを騙せる条件を見つけるみたいなことが大事なのかもしれませんね。
この設定なら乗れるなというか。これなら信じられるなというものを探すということなのかも。
まとめにかえて
ここで書いたことは、あくまでひとりの事業責任者としての n=1 の意見です。
会社やフェーズ、文脈によって正解はさまざまだと思うので、ぜひ皆さんのご意見も聞かせていただけたら嬉しいです。鵜呑みにせず、参考程度にしていただければ。
今回記事を書いて改めて、誰しもが事業責任者を目指さなくてもいいなと思いました。
僕は楽しいですし、天職だと思っていますが客観的には大変だと思います。
「これをやろう」といって、「良いですね、一緒にやりましょう」と言ってもらえると、それだけで救われます。
それぞれの役割があるし、役割も場面によって変わります。責任者になるかどうかは文脈次第だと思います。無理になるものじゃない。
実は今回の内容、クライスさんのポッドキャストで上手く話せなかったことがずっと引っかかっていて、改めて整理したくて書きました。
もしよければポッドキャストを聞いたあとにこの記事を読み返してもらうと、また違った発見があるかもしれません。





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