「わはははは!! 俺はニンニクを食い過ぎてニンニクの使徒となったミスターニンニク!! 世界中をニンニクまみれにして俺だけの理想郷を作ってやる!」
臭い匂いと共にそう叫んだのは、人間離れした生命体。怪人。
ニンニクと名乗るだけあって、頭部はニンニクの形をしており体中にもニンニクが埋め込まれている。
言っている事はくだらないが、その持っている力は凄まじく、後ろには複数人の成人男性が倒れていた。
このままでは被害は広がる一方だろう。
しかし、そうはならない。
──彼女が来たのだから。
「ぎゃはははは! さあ愚民ども! ニンニクの恐ろしさにひれふせ」
「臭いしうるさいです」
ドゴオオオン!!
「ぶへ!?」
突如上空から飛来した一人の少女が、怪人に向かって蹴りを放って地面に埋め込んでいた。
何故、少女がこんなところに? 誰もがそう思った。
さらに奇妙なことに、彼女の背には天使の如き白い翼が、蹴りを放った足は鉄球へと変化していた。
怪人が倒され沈黙する周囲の人々に気にすることなく、少女は鉄球と化した足を上げ──白く華奢な少女のそれへと元に戻す。
その光景を見て、ギャラリーの一人が思い出したかのように呟いた。
「あ、あれはまさか……金色の闇!?」
「金色の闇? それって確か都市伝説の」
金色の闇。
ある時期からネットや裏社会で広まりつつある一人の賞金稼ぎの通り名だ。
A級以上の犯罪者や賞金額の高い怪人を破竹の勢いで狩り続けている正体不明の少女。
闇夜に煌めく金色の長髪と常人離れした美しき造形によって、金色の闇と呼ばれているらしい。
「そ、それにあの怪人を倒した鉄球と背中の翼……あんな変身能力、怪人以外だと金色の闇以外ではありえない!」
「え? その理論だと彼女も怪人ってことに……」
「てめえふざけんなよ! 俺らのヤミちゃんが怪人なわけねーだろ!」
「ひい! なんだよお前!」
……ネットや裏社会で有名な都市伝説にしては、コアなファンがいるようだ。
怪人が倒されて恐怖心が無くなったのだろう。やいのやいのと騒ぎ出す観衆たち。とても賞金稼ぎを目の前にしているようには見えない。
それをチラリと見た後、少女、金色の闇はスタスタと歩き出す。
そんな彼女に声をかける者が居た。
「おまちください! 金色の闇さん!」
「……アナタは」
彼女に声をかけたのはスーツを着た男だった。金色の闇は、彼に見覚えがあるのか、その無表情を一瞬歪めてその綺麗な瞳で見返す。
別に威圧はしていない。しかし、怪人を一瞬で倒した光景がよみがえり、しかし男は額から汗を垂らしながらも声を張り上げた。
「今日こそは、話を聞いてもらいます」
「……ふう。すみませんが答えは変わりませんし、今日は時間が無いのでこれで失礼します──ヒーロー協会のスカウトさん」
驚異的な身体能力で彼女は跳び上がると、ビルの屋上から何処かへと消えていった。
「あー。また失敗したなスカウト」
「スカウト? それってもしかして……」
「そうだよ。彼女はヒーローとしてスカウトされているんだ……それもS級として」
──彼女が有名な理由。それがこれだ。
世界各地で活躍している超人集団──ヒーロー。それらを輩出しているヒーロー協会がずっと追いかけ続けている存在。
それが彼女だ。
加えて、ヒーローの中でもトップの存在であるS級への抜擢が約束されているのだから、話題性はなおさらだ。
そして、この話を彼女が断り続けているのもまた、彼女の存在を認知させる要因となっている。
民衆たちは待っている。強く可愛く、美しい金色の闇がヒーローになることを。
さて。そんな強くて可愛く、美しい金色の闇様はというと──。
「『ときめきクライシス』……確か、これでしたっけ」
ア●メイトで美少女ゲームを買っていた。
転生したと思ったら金色の闇になっていた件。
スレ立て乙と言われそうだが、私の身に起きた事を伝えるのならこれ以上ない程に適した言葉なんだ、これが。
さて、私の名前は金色の闇。転生前はありふれた、そして男性とも女性とも判断できる中途半端な名前のただの一般人だった。
そんなただの一般人な私だが、転生前の自分の名前以外の自分を構成する基本情報を忘れ、にも関わらずゲームや漫画、ついでに一般常識を覚えている状態でニューゲーム! 人生勝ち組! と思っていたら、何処かのヤバい組織のモルモットとして人生リスタート。どうやら今世は真っ当な生まれをしていないようだ。マザーもファーザーも見えない。ファ●ク。
代わりに見えるのは白い天井と頭のイカれた博士×たくさん。クローン使って増やしてるんだって。マリ●かよ。
んで、その博士は新しい人類を作ろうと躍起になって、その研究過程で私が生まれたらしい。
つまり私が変身能力を持ち、明らかに普通じゃない動きができて、超絶金髪美少女なのもこの博士のせいなのである!!
……新人類作るって言いながら、明らかに別の目的も混じってるよね。あの博士絶対ムッツリだろ。
前世が男か女かは知らないが、私はこの博士に生理的嫌悪感を抱いた。私を作ったからというのもあるのかもしれないが、とにかく嫌だった。
それに聞き耳を立てていると、近々処分すると言っていたし……。
そんな奴の支配下に居続ければどうなるかなんて分かりきっていたので、私は脱走し、追っ手の生物兵器達を退けながら街へ向かい──
裏路地で頭と胸から血を流して死にかけていた。
まぁ、よくある話ではある。使えない失敗作はボンって奴さ。
実験成果である体内のナノマシンを使って応急処置をするも、その時の私は生物兵器との戦いでエネルギーを使い果たしていた。
敵対者を殲滅する事でしか力を使わなかったから、上手く回復できないという理由もあったけど──私はそこで死ぬ筈だった。
頭の奥底で何度も何度も響く何かが砕ける明らかにヤバい音や、心臓の尋常ではない音を耳にして、私は「あ、もうダメだ」と思っていた。
でも、そんな私を救ったのが──。
「……っは」
カクンと頭が落ちて、意識が覚醒した。どうやら私は寝ていたらしい。
ふと目を開けると暗闇に包まれた街並みと夜空で輝く一つの月があった。なんて幻想的な光景だろう。と、普通の少女ならほう……とため息を吐くのだろうが……。
それにしても懐かしい夢を見たな。なんで今更あの夢を見たのだろうかと思い返して……原因を思い出す。
「あぁ……心臓の音」
確か、買ってきたゲームを渡してそのプレイ模様を横で見て、ちょっとイタズラで「エッチぃのはキライです」と言ってみた。そしたら、冷や汗を流して顔を赤面させたり青くさせた彼の心臓の音が凄くうるさくて、そして……。
「時間を置いて戻ろうとしたのですが……居眠りし過ぎたようですね」
ここ最近は怪人の発生件率が上がってますし、早く戻らないと心臓麻痺で死んでしまいますからね。
ライオンの見た目でハムスターのような中身の男ですし。
今頃、怪人に怯えて部屋の隅でガタガタ震えているのかもしれません。
「……ただ」
ふと思い出すのは、先ほどの夢の続き。
死にかけて、それでも足掻き続けていた私の耳奥に届いた、とても大きく情けない……しかし優しい心臓の音。
「消すには勿体ない音ですからね」
少し大きいですが……。
──夕食時。
「そういえば、今日もまた一段と厄介な事に巻き込まれたようですね」
「ああ、本当だよ。たまたまA市に行ったらあんな事に……」
「だから言ったじゃないですか。大人しく家に居れば良いのに、と」
「いや、この鼓動が抑えられなくて……」
「はいはい、分かりました。その鼓動は煩いほど聞こえてますよ」
ドッドッドッドッドッドッドッ
主人公の前世について修正しました