私をこの世に引き戻させるもの
あれから1週間ほど経った頃
「前向きなことを考えると、なぜ、悲しくなるのでしょうか?」
私の問いに、心療内科の先生は優しく微笑むだけだった。
まだ、その頃の私は、日常化していた絶望感から抜け出せずにいた。
いつもSound Horizonは私をこの世に引き戻させる。
幻想的な世界を描きながら。
犬猫たちが、行場のない私の母性を満足させながら、この世に引き留めるように。
歌いたい、表現したい、そんな私の溜まった我を吐き出させてくれる。
少々ズレた思考の自身本体を抑えながら生きる日々。
人と話すときは、落ち着いて…落ち着いて…
余計なことを言ってはならない。
頭の中には次の言葉が急かすけれど、このぐらいでやめておけ。
もう一人の私が見張っている。
それもこれも幻想なのに。
私も歳を取ったものだ。
諸先輩方からすれば、まだまだひよっこなのでしょうが。
あの頃の私とは明らかに違う。
そりゃ、成長してもらわなきゃ困る。
23歳でメジャーデビューするも売れず、裏方になった。
裏方になれただけでもありがたいことだけれど、やってくるチャンスは、ことごとく生かせなかった。
あの頃流行りの音ゲーのSingerになる。
某有名アーティスト様のボーカルスクール立ち上げから関わらせてもらい、ボイストレーナーの道を歩み始める。
アーティスト様のバックコーラスを務める。
仮歌の仕事を始める。
Sound Horizonのボーカルに抜擢される。
劇伴コーラスのお仕事をいただけるようになる。
※途中、同業者のパートナーとの離婚により、それまでの仕事を全て失うのだが。
それでもまた、もう一人の私が釘を刺す。
「私本体ではなく、素晴らしい楽曲、世界観で歌う似て非なる私に興味を抱いてくれているのだ」
自由なはずなのに、自由ではない心。
何にそんなに脅えているのか。
あれから3週間ほど経った頃
もう一人の私に怯える自身の情けなさから、他人に会うことに恐怖を覚えていたのに、唐突に人間が愛おしくなった。
あの日を思い出すにつれ、人間の温かさが蘇り始める。
今までは、自分の至らなさばかりが思い出されていたのに。
自分のことばかり考えていたのかもしれない。
人の優しさに気づけなかったのかもしれない。
いくつもの些細な瞬間が、心を温かくし始めていた。
Revoさんをはじめ、演者、ミュージシャン、ダンサー、役者のみなさんすべて、スタッフの皆さんすべて、ローランのみなさんすべてに「ありがとう」と伝えたくなった。
そうしたら、人間に会いたくなった。
Sound Horizonは私をこの世に引き戻させる。
ある種の成功体験なのだろうか。
あんな大きな会場でまた歌わせて頂けたこと。
奇跡だった。
何度もSound Horizonに参加させて頂いたが、その都度、間違いなく、私の人生の節目になっている。
そろそろ、不安に煽られる日々を卒業してもいいのかもしれない。
逃げてばかりの人生だったけれど、楽しいことだけやりながら生きていくのに、邪魔するもう一人の自分はもういらない。
来年から、私本体として、人前で歌う事を再開しようと思う。
歌うことしかできない、たったひとりからの、小さな一歩。
見守って頂ければ幸いです。
あ、似て非なる私も続けたいので、よろしくお願いします(笑)
ますだみき(MIKI)


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