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僕と永島先生

間違いなく僕の人生を変えつづけている先生がいる。それは永島先生だ。

忘れられない数学の授業

最初に会ったときのことは余り覚えていない。きっと15歳くらいの時だったと思う。当時僕が通っていた本郷三丁目にあった塾の名物先生だなくらいに思っていた。髭のせいもあったし、まぁ中学生なんてそんなもんだと思うんだけど、当時は30歳くらいだと思っていた。現役の東大生だと知るのは大分後からだったのではないか。

とにかく面白い人だった。

まず破天荒だった。沖縄の無人島に行って魚を捕って暮らすとか言って夏季講習の合間をぬっていなくなったかと思ったら真っ黒になってもどってきたこともあった。というか毎年そうだった。

何の科目でも詳しかったし、1番メインで担当されていた数学については、あれほどエキサイティングに授業を受けた経験は過去にも、もしかしたらもう先にもないかもしれない。特に高3のときの授業。先生のホワイトボードの1行と次の1行の間で飛んだロジックを、教室のみんなでザワザワしながら必死で追いつくのが何よりも楽しかった。

永島先生が作った数学の問題集、東大の受験まで何周もした。数学が暗記なんかする必要はなくて、本当に面白い科目であることを教えてもらった。

見透かされてしまう恐さ

一方、とにかく恐い人でもあった。

キレるとかそういう恐さではなくて、「この人に認めてもらえなかったら嫌だな」とか「この人にダメ出しをされたらぐうの音も出ないだろうな」みたいな恐さ。つねに自分の頭で考え続けているから、本質が直球で来る恐さ。

「青木は逃げるよね」

そんな先生にあるときこう言われた。もう塾を卒業した後かもしれない。何せ塾の仲間は大変仲良かったので、いろいろなやりとりやイベント、なんなら大学のゼミみたいな特別授業みたいのもあったのでいろいろと関わり合っていた中で、僕がやらかしてしまったあとの一言だった。

あのメールを見たときの痛みは今でもちょっと覚えている。
図星だったからだ。

僕は上手く人にものが頼めなかったり、自分の気持ちが伝えられなかったりして色んなものを抱え込んでしまい、心が一杯一杯になると、ふと逃げてしまうことがあった。突然そのプロジェクトから抜けたり、休んだり。
ちなみにこの癖は最近まで結構あった。かものはしプロジェクトを起業してからもしばらく突然いなくなる僕の癖は「青木のお隠れ」と言われて本当に色んな人に迷惑をかけていた。すみません。

この5年くらいで、今はお隠れも本当に少なくなったけど、根本的には同じ人間です。

話を元に戻すと、そのときは先生にすべてを見透かされているようで本当に恐かった。その後しばらく先生に会うこともできず、一度本郷三丁目の本屋あたりで見かけたときは物理的に逃げたこともある。ごめんなさい。

再会と学び

そんな先生にまたちょっとずつ会うようになったのはいつの時だろうか。塾の運営についてなんだか卒業生が集まって話したときだったかもしれない。ずっと後に再会した先生はまた一段と面白くなっていた。

とにかく経歴がよくわからなかった。確か僕らの塾の先生をしていたときは東大の医学部に通っていたのではなかったのか。産科は病ではなく如何に安全に生んでもらうかを支えられるんだ、と嬉しそうに話されていたのを覚えている。なのにその後数学と物理の間みたいな学問をやっていると思ったら、今度は教育の研究者をやっているときいた。公立の学校をひたすら訪問しているらしい。(先生の中では全部一貫しているそうでそれも面白い話だったんだけどまた別の機会に)

カンボジアにも一度来てくれた。今調べたら2011年の出来事らしい。(でも先生は財布を落としてしまい帰国を余儀なくされるのです。それは別の話。)その後1〜2年の一度くらいになんとなく会うようになって、色んなアドバイスももらえるようになった。その時もらった沢山の言葉に本当に影響された。

授業研究をしてもらった時の衝撃

そんな永島先生と本格的に一緒にプロジェクトを始めるきっかけになったのが、2021年の8月に実施した「授業研究」の実践であった。この中身自体は長くなるので割愛するけれども、とにかく僕たちにとって衝撃的な日となった。

「学びの密度が薄いかな」

オンラインではあったが僕らの授業をしっかりライブで見てもらって、永島先生に言われたこの台詞、今でも衝撃を覚えている。

カンボジアのありがちな知識を一方的に伝えるだけの一斉授業を脱しようと必死に作り続けてきたアクティブラーニングの授業。僕らなりに工夫をして積み重ねてきた沢山のトレーニング。ゲームやロールプレイなどをしながらメッセージが伝わるように楽しめるようにと必死で提供していた。

一方でライフスキルという非認知能力を伝える中でどうしても可視化できず成長を実感できないことにも悩み続けてきた。結局自分達が不安に思っていたことを言い当てられたんだろうな、と思う。

そして今あの授業を見ればよくわかる。学びの密度が薄いのだ。おかげさまでそれも僕らの成長だと今は受け止められる。

一見真面目に授業を聞いていそうで、その生徒の足や手を見ると全く集中できていないことが明らかな生徒。ワークや議論をリードする「学びの早い生徒」とそれになんとなくついていっているだけの生徒。たっと10人程度の教室なのに、先生が一方的にペースを作り進めていってしまう授業。

今回学んだ授業研究の普遍のテーマ
「生徒が学ぶ姿から学ぶ」

教師がどんなに授業を「上手くできた」と思い込んでいても、実は生徒が学んでいない瞬間は沢山ある。他の教師の授業を見ながら、その生徒の学んでいる姿や学べていない姿から自分が学ぶのだ。それこそが僕らが今頼りにしている「授業研究」の神髄。

茨城で感じた公教育の希望

そして僕のある意味で覚悟が決まる出来事となったのが、永島先生に誘っていただき2022年1月の末に訪れたある茨城県の公立中学校の授業実践をみたことである。

中身については詳細に書くことはできないものの、大げさではなく下記のように感じたし、校長にもお伝えした。

「僕の娘は今カンボジアのインターナショナルスクールで少人数で工夫されて良い授業を受けていると満足していた。もし日本に戻ってくるならこの中学校に入れたい」

例えば数学の授業では自分が中学のときは触れなかったような本当に難しい課題を授業の単元と紐付けて様々な資料と、グループでの支え合いを通して学んでいた。

体育の授業では、タブレットを上手く活用しながら、グループごとに個人ごとに動きを振り返り相談をしながらダンスの振り付けを進めていた。自分もこんな体育の授業だったら恥ずかしい思いをせずに面白く参加できたと思う。

授業研究のセッションでは、それぞれの教師から一人ひとりの生徒の名前や振る舞いが具体的にでてきて、全員に学びをおこしたい、そのために自分達が生徒を観察して学んでいきたいという思いを強く感じた。

そしてなによりも、この取り組みを何よりも10年近く継続されているということ、そしてそれはスーパーヒーローのような凄いリーダーシップや能力をもった「誰か」が作り上げるのではなく、学校の皆さんが自分事として何とか続けている姿に最も感動した。

学校を変えるのに必ずしもスーパーヒーローは必要ない。文化を積み上げていく覚悟と日々の実践、教師同士がお互いの弱さももろさも見せ合いながら支え合っていくコミュニティこそが最も持続的なのだと感じた。

であるならば、カンボジアでも実践できるかもしれない。

自分にとっても希望であり、逆にいえば言い訳のできない覚悟が決まったようなそんな茨城県への訪問だった。

共に取り組んでいる工房での授業作り

といいながらも自分達だけではなかなか先に進むことができない僕らをみかねたのか、「授業作りを手伝おうか」と永島先生の方から言っていただいたのが大きな転機となった。

正直にいえば、当時はその大変さも、重要さのどちらも深く理解することなく「是非一緒に授業を作らせてください」とお願いをしてしまったような気がする。とにかくもっと良い学びを作りたい、でもどうやってやったらいいかわからない、そんな中、わらにもすがる思いで永島さんにお願いをしてプロジェクトを始めた。

そして、この半年ほど取り組んできたのが「私たちの工房で中学校までの教科教養を協同学習で学ぶためのカリキュラム作り」というプロジェクトだ。算数と国語と総合学習の協同学習の授業をそれぞれ12本ずつ作って提供していくというプロジェクト。

そのプロセスの中で僕らも本当に沢山考えて、もがいた。担当スタッフが泣いたのも一度や二度じゃなかった。とてもじゃないけどここには書き切れないことが沢山あった。

特にある授業の進め方について相談をしたときに

「君たちが生徒の可能性を信じられていないんじゃないの?」

と指摘を受けたときは、本当にショックで、ミーティングが終わった後メンバー3人で無言のまま朝ご飯を食べに行った。ミーティングが朝6時になりがちで、終わるとちょうど朝ご飯の時間になるのです。

ただ、あのプロセスのおかげで、今工房での女性達の学びの量は比べものにならないくらい増えていると思う。小学校4年で中退した女性から、高校3年まで通っていた女性まで同じ教室で共に学び合い支え合えるシーンが増えてきた。そんな学びがあり得る、それだけ授業には可能性があると今なら言える。

僕らも沢山の教師、学校を支えて恩返ししていきたい

そんな風に永島先生と沢山話して、日本の学校の現場を見せてもらってまた感動したり、沢山の影響をうけ続けている1年間だった。永島先生、(そして直接お会いしたことはないが)永島先生の師匠にあたる佐藤学さんのおかげで学んだことが数え切れないほどある。

永島先生は僕らが知っている誰よりも生徒の可能性を信じているし、教育に真摯だし、教師という職業を尊敬しているし、本気で教師の学びや学校の改革を支えている。毎朝4時半に起きて論文を読んで、年間180日、100校以上の日本中の(時に海外の)公立を支えるなんてとてもじゃないけどどれだけ大変か想像もできない。それと並行して学会に出て発表もして書籍も作って、僕らとのプロジェクトもやってくれている。

今日引用した台詞だけ見ると一見恐い人のようだけど、本当にいつも愛情が深くて常に寄り添ってくれる人でもある。

僕はとてもじゃないけど直接恩返しすることはできない、と思ってしまう。

なんせもう24年受け取り続けているのだ。僕らの学ぶ姿から永島先生もまた学ぶんだとおっしゃってはくれるけども、それだけじゃなく僕らとしては、先生からの学びをただコピーするのじゃなくてきちんと自分達なりに再構築して事業に活かすことで恩返しをしていきたい、と思う。

そして僕らだけじゃなくてもっと沢山の学校やNPOが教育の研究者とコラボレーションをしていくと良いのではないか。気になる方は、まずは僕らの歩みをあたたかく見守っていただけたら幸いです。

【宣伝】 9月12日に永島先生との対談イベントをやります

ということでそんな永島先生と対談イベントをやることに。本当に面白い人なので是非こんな人に来て欲しいな、と思います。

  • 教育に取り組む人。教師、NPOの人、人事の人、研修会社の人

  • 自分の子どもの教育に真摯に向き合う人、悩む人

  • SALASUSUの取り組む教育に興味があるすべての人

9月12日の日本時間18時半からの1.5時間ですが、アーカイブ配信も予定しているので是非気になる人はお申し込みください〜

こんなことを話す予定です。

  • 公教育を変えていくための授業研究、協同授業とは何か(その中で良い教師とは、よい教育とは、についても触れるかと思います。公教育と私立のもつ使命の違いなども。)

  • SALASUSUが工房で実践する協同学習の意味や難しさ

  • SALASUSUのメンバーが取り組みながらどう変化してきたのか

もちろん来て頂ける皆さんの関心にそっていろいろと話したいので是非事前の質問も記入してくれたらうれしいです。

イベントの詳細、お申し込みはこちらから

※念のためお申し込みは上記ページの中にリンクのあるGoogleフォームからお願いします

そしてSALASUSUはクラウドファンディングを現在実施中です。9月末まで!僕らのカンボジアでの教育の事業のために是非応援お願いします!


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僕と永島先生|青木 健太
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