仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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第六十二話 悪食と虚言者

Side =グロリア=

 

気付いていた。

今日、その時、この場所、あの人と、どんな演題で踊るのか。

予知夢だとかそういった類のモノではない。

ただ、もしこの力がそう言った理由で発現し、今の私を彩っているのだとすれば、こうした運命を先読みすることはそう難しい事ではなかった。

けれどそれもジャック様の読み通りで、先に進んだと思っていた場所はまだ……なんてこともあるのかもしれない。

まあ私には関係のないことだ。

彼の存在を逸早く察知すると向こうも気付いていたようで私が応援を呼んでいないことを知ると早々に路地から姿を現した。

やはり、あの時感じた視線はこいつのモノで間違いなかった。

何か隠してるようでその雰囲気を悟られない様にしてるところとか戦ってた時の雰囲気そっくりだ。

今度は取り逃がさないようにと念を押し、その気配を身体に染み込ませているとグーラの方も準備をしていたのか階層を移動しダンジョンを敵の索敵範囲を避けながら砂漠エリアの安全エリアへと辿り着いた。

途中で私は立ち止ると彼は気にすることなく十数歩距離を開けた所で振り返ると私の視界に《完全決着モード》でのデュエル申請が送られてきた。

表示される文字列を見て一瞬だけ思考が止まった。

了承することは火を見るより明らかだ、断る理由は何一つだってない。

なら、私はどうして躊躇った?

空に浮かぶ十六夜の月がふと脳裏に浮かんだ。

 

――理由なんて、どうだっていいさ。

 

恐らく、私自身が再確認するためだったんだ。

この《感知》という嘘を見抜くことが出来る本能的な何かに歯止めを意識的に掛けさせるための現象。

自分に嘘を吐いたこと。

 

「それに捻じ曲げられたことが貴方にはあるの?」

 

意識が切り替わる。

それに伴い目に映る景色の全てが目の前で渦を巻いた。

残った四つの感覚に残っていたデュエル開始までのカウントだけが私の平静を保たせていた。

すぐに視界が戻ったかと思えばそこにあったのは言葉で言い表せない様な不気味な光景。

先程まで見えていた景色にあった多数の輪郭線を適当にグループ化して絵具をバラ撒いた様な感じ、とでも言えば分かるだろうか。

兎に角突然の出来事が起きたのだが私は驚くと言う感情を得ることが出来なかった。

 

――理性と本能の乖離。

 

残されたのは果たしてどちらなのか?

まあ、今私がするべきことはただ一つ。

カウントが消滅する。

 

――目の前の男を殺すだけだ。

 

叉刃拐を握って走り出した。

今回も《紫電閃》の体勢に入って重力に従って倒れる身体の力全てを利用して足に全神経を集中。

爆発的な加速力を乗せて男に肉薄する。

さて、今度はフェイントか、本物か?

それに、男は何を驚いている。

こんなモノは《旋棍》にとっては初歩の初歩。基本中の基本と言う奴だ。

まさか、防げないとか言うんじゃないだろうな?

叉刃拐に光が宿る。

「ガァッ!!」

右腕を上げた先にあった男の顔はすんでのところで後ろに反らされ右腕は宙を切り裂いた。

甲高い風を切る音がよく響く中で声を上げた男は力技で体勢を立て直すと振り上げられた右腕の叉刃拐を狙って首を伸ばす。

私は右手首でスナップを利かせて叉刃拐をその場で回転し刃の短い方を下にして男の攻撃を回避し伸ばされた首元に向かって左腕を向けた。

だが、男はそれを解っていたようで首を曲げると身体全体を捻って真正面から叉刃拐を噛み砕かんと口を開く。

その大口が閉じられる瞬間。無数の刃が噛み合う瞬間。

そのとき私は既に左足だけで立ち、この瞬間を狙っていた。

右足を付いたところで身体が自然に回転を開始しギリギリ男の攻撃を躱した。

はずだったが左手に感じた僅かな違和感に顔を顰めつつ両腕に光が奔るのを確認した私は右腕の肘の部分にある刃で男の右の二の腕を狙った。

そこにはクルトゥエスが待ち構えていたが『躊躇い』はしない。

一撃を打ち込み、左足で再度踏み込むと左腕をクルトゥエスの柄に引っ掛けて力押しで体重を掛ける。

《半月》の衝撃もあり男は徐々に後退させられ、私は次の剣技の体勢に入った。

前回は私も彼の事を探っていたこともあって無茶な行動は出来なかった。

それが殺すことだけを考えればいい戦いに不要な感情を持ち込んでいたんだ。

鎌の死角を利用して《弓月》で更に鎌を押し出し、吹き飛ぶ男の姿を目に収めて一歩を踏み込んだ。

両側から鎌を避けて吸い込まれた二対の刃。

《新月》によって引かれる二本の山吹色の直線がついに男の身体を掠めた。

直撃打は取れないがHPは着実に削れていることは明白。

これが旋棍と鎌の決定的な性能差だ。

殺すまで止まって溜まるかよ。

近距離ならば刃の無い部分が長く思いその武器では攻撃方法は限られている。

例えば、そう。

力強く地面を抉る様に大きな音を立てて足の力も込めて旋棍を伸ばす。

そこに男は両手で柄を握り刃を上にして待ち構えていた。

確かにそうすることで攻撃の手を分断することはクルトゥエスなら可能だ。

けど、この男がそんな単調な攻撃をするとは思えない!

剣技を発動することなくそれでも私は緩急を利用し、僅かにタイミングをずらそうと思考する。

だがそこで一度速度を緩めることが向こうの狙いだった。

そこに出来た僅かな二人の隙間。

男は突然倒れ込むように身体を前に倒した。

それだけのスペースを作り出し、男の取った行動に酷く見覚えがある。

私も男と同じ様にすぐに身体を前に倒す。

鎌を短く持ち反射的に踏み出された足の爪先当たりに刃が添えられていた。

 

「《紫電閃》」

 

見様見真似だと言うことは当然解っている。

それでも私の考えを否定するかのように男は今までに見せたことのない速さで駆け出したのだ。

だが紫電閃を私に、しかも鎌で打とうなんて言うのは愚策だ。

旋棍だからできる《紫電閃》であり鎌とは決定的な違いがそこにある。

同じく《紫電閃》の体勢に入っていた私は男よりも遅く駆け出したが問題は無い。

間合いに入ったと男が鎌を振り上げようとしたところで私は真っ直ぐ手を伸ばす。

そして、掴む。

 

――短く握られていた分長く突き出ていたクルトゥエスの柄頭を。

 

更に上から押さえつけてしまえば振り上げる力などは無駄だ。

全てが刃という旋棍だからできる技だと言うのに、速度には目を見張ったがこの状態では優位は私にある。

鎌を握っている右腕を地面に叩きつけることで軸を作り身体を回転させながら狙いを定めた。

男は口を裂けさせながら不敵な笑みを浮かべたままだった。

このままだと顔からコースを避けることは難しい。

既に身体は奴を殺す方に動いてしまっているが故に軌道が動かせるのは一回限りだ。

 

――どうやってこの悪食の目を欺く?

 

その答えを私は探すことが出来なかった。

速度を落とさないこと。

これが出すべき答えなのだから。

 

『殺せ』

 

どこかでジャック様の声が聞こえた気がした。

 

Side =グーラ=

 

明らかに前回の戦いとは違う動きに情報による予測値を上回ったグロリアに驚きつつ、止まらない連撃を何とか捌いていた。

仮面をしてたから違いを見付けることは出来ないが、自分の方を見る目付きに何か別の意識か?

《殺人鬼》の入れ知恵かと思ったが叉刃拐を見ている内に確信めいたモノが見えて来た。

(なるほど、様子見は必要なくなったから本気で殺しに来てるのか)

だからこそ、あの表情で自分と目が合うことがあっても自分は体温が上がるどころか背筋の凍る思いをしているのかと納得した。

これこそが《JtR》の広告塔である《イナニス=グロリア》の全力であり嘘の無い彼女の姿なのだろうか。

そう思うと俺も自然と意識が切り替わっていくような浮遊感に身体が包まれた。

気絶とも違う五感の変化に驚くことは無く、すんなりとそれを受け入れていた。

だって自分が変わるときは決まって何かを欲した時だ。

その正体を知ること出来なくても、悪いモノじゃないはずだ。

ここまで這い上がってきた悪運に絶対の信頼を置いている俺は再び目を開いた時に映っていた景色に思わず《牙》を発動させた。

何も変わっていないはずなのに、俺が見たモノに対して強力な食欲に襲われた。

そうじゃない、俺が食らい尽くすべきは人間じゃなくて……

 

――人間の《欲》だ。

 

欲に正直に生きて来たからこそ俺は他人の欲を踏み躙るってきた。

世界を回したければそうすることが手っ取り早いのだ。

だから《紫電閃》の真似事をしてしまったのだろう。

思いの外上手く行ったのだがグロリアはその対処法を正確に突き、自分がその位置を調整したことにより拳の軌道が顔に向かってくる。

いい加減空腹なんだよ。

食わせろ。

加速した叉刃拐は真っ直ぐ自分に向かってきた。

静かに伸ばしていた右手で鎌の柄を握って身体を捻りながら腕を寄せてグロリアに抑えつけられている力を利用して一瞬の内に位置を移動させた。

回避に集中していた所為で攻撃を少し疎かにしたが結果的には無駄にはならなかった。

範囲拡大によって叉刃拐の刃の欠片が口の中に入っていた。

それは小さな欠片に過ぎなかったが前回の戦いでは出来なかった大きな進歩だ。

力任せに鎌をグロリアから引っ手繰り彼女から視線を離さずに叉刃拐を細かく砕いて味を舌に染み込ませる。

 

「さっすがだ!レアモノは美味ぇなぁ!!」

 

自分の言葉に苛立ちを覚えたのかそれともただただ殺すことだけを念頭に置いているからか解らないが自分の予想通りグロリアはすぐに攻撃を再開した。

剣技は一切使わずに柄を握る両手の指や足、戦闘手段を削るつもりか。

技を使わないとなると頼りになるのは過去の戦闘データから見受けられた彼女の癖だけだ。

それを例え《殺人鬼》共が修正しようとしたって止めることは出来やしないはずだ。

俺だって同じなんだからよ。

左手を上、右手を下に、クルトゥエスの刃を右足まで落としてグロリアを迎え撃つ。

こっちは元々剣技は打てそうにない訳で、正直有効打は《牙》が良い所だ。

あの一撃で拡大された範囲がどれほどか把握したかは解らないがやってみるしかないだろう。

その上で、彼女の《殺意》を喰らい尽くす。

これほど刺激的な食器と料理は一度も味わった事がねぇ。

 

――最高位剣技も使う時が来たかもなぁ……。

 

向かってきた刃に正確にクルトゥエスを当てて往く。

中には多少危なげに防ぐのもあったが、それでも直撃だけは喰らわず、ついでに戦闘範囲に追い込まれないように身体を運んで刃の雨に刃の傘を刺すが如く攻撃を弾く。

武器の衝撃がいくら大きかろうと弾いてしまえばダメージを与えられないのが旋棍というカテゴリーに所属する武器の欠点だ。

さて、グロリアの集中力と自分の集中力がどこまで持つかの勝負になる訳だが、こういう場合は通常防御側が勝利するのが鉄則だ。

攻撃側はもしもの反撃に備えると言うことをしなければならないと考えると単純に意識は防御側と比べて二倍は消費する。

けど、相手がこの少女である以上短絡的に集中し続ける訳がない。

読み合いのレベルまで到達した訳だ。

リスクを負わないかだが、生存本能に従い俺はこのまま停滞させてもらう。

数十回の刃の応酬は沈黙の中で続いた。

そして、選択が正しかったと告げる一瞬の間が何時の間にか出来あがっていた。

自分が避けたのか彼女が力加減を間違えたのかは知るべきところではない。

これだけの空間があれば打てる技が存在する。

グロリアはそれが通常の鎌の射程でも《牙》の射程でもないことに気付いているはずだ。

だから、狙うんだ。

死神が鎌に邪気を送り込む。

 

「見たことあるか?」

 

「……!?」

気付いたみたいだが射程距離内ではどれだけ足掻こうが無駄だ。

黄緑の光が今までのどの技で纏ったモノよりも強い輝きを発していた。

 

 

「最高位剣技、《デスサイズ・ヘル》」

 

 

鎌を近距離、《牙》を超近距離とした時。

この技の射程距離はその間の全区間となる。

すり足で左足を前に出すと右上から斜めに鎌を振り下ろす。

流石に全段直撃とは行かずに初撃を弾かれるが関係ない。

すぐに刃を切り替えして今度は左の下段から身体の中心を狙って鎌を振り上げた。

しかしこれも両腕でがっちり防御。

クルトゥエスの破壊力を知っているからこそ、慢心せず万全の守りを固めているって感じだろうが、まだまだ終わっちゃいない。

全身を使って身体を捻りながら即座に水平方向に刃を向けて胴目掛けて鎌を薙いだ。

この方向なら両手では防げず彼女は左腕を曲げて身体に接着させた状態でクルトゥエスを受け止めた。

両足を踏ん張り自分と似た子供の身体が衝撃で吹き飛ばない様にしている。

そこが先ずこの技の生む盲点だ。

三撃目を放った際、自分は更に一歩踏み込んでいる。

これは攻撃ではない。

移動の為、さらなる攻撃の為の一歩だ。

鎌を引き寄せながら大きく前へと踏み出した。

 

――武器としての鎌の本領発揮だ。

 

グロリアの左側に刃が掛かり右側に身体を移して鎌を引き寄せたことで身体全体を刈り取る体勢になる。

前だけを見て全力で鎌を引き寄せた。

凄まじい金切り音と引き立てて鎌が手元まで戻ってきたところで足を百八十度曲げて四撃目へ。

これがこの技最大の特徴を発揮する一撃だ。

今、クルトゥエスの刃全体を光が包んでいる。

それは歯も樋も峰も全てをだ。

俺は峰の部分をグロリアに向けて薙いだ。

彼女はそれを見て唇を噛み締めながら背面に向ける剣技を放った。

確か、公開情報によれば《満月》とか言う技だったか?

 

――防げる訳あるかよ。

 

――光を纏っていた旋棍ごと彼女の右腕から先が宙を舞った。

 

顔一杯に驚愕の色を浮かばせる彼女に身体を強く打ち当ててふっ飛ばした。

右腕から赤いポリゴン片を撒き散らしながら数メートルの距離が出来る。

これが計五撃に及ぶ《鎌》スキル最強の剣技だ。

代償に膨大な硬直時間が課せられるが最後の一撃まで決まるのならばそれも相殺できるはずだ。

一気に赤ゲージまで持っていったグロリアのHPを見ながら安堵と不安が生まれる。

一つは殺し切らなかったことと解放されるかのように溢れ出した《殺意》だ。

やっぱ。喰いきらなきゃ駄目なのかよ!!

悪態を吐きながらもピクリとも動かない鎌に力を込める。

片腕の無くなった彼女は上手くバランスがとれずに身体を傾けながら凄まじい速度でこちらに向かって来ている。

流石に直撃を喰らうのは不味いと思った瞬間。

指先に力が戻り、即座に後ろに足を擦る。

こりゃこっちもタダじゃ済まねぇだろうな……。

 

――向こうさんにもメーンがあるに決まってる。

 

Side =グロリア=

 

また、迂闊かァ……。

憎悪も嫌悪も嘘に塗り込んで無くなった片腕に目を移す。

まさか《鎌》の最高位剣技が……。

《解除》を発動する前に腕が吹き飛ばされたんじゃあ片無しか?

いや、私は何を言っている。

 

――私の右腕はちゃんと生えてるじゃないか。

 

ほら、色だってちゃんと肌色をしてるし、指だって五本きっちり見えてるよ?

でも叉刃拐は無くなっちゃったなぁ……。

少し落胆していると次の瞬間、何事も無かったように右腕には煌びやかな叉刃拐が握られていた。

じゃあ、何も言うことは無いよね。

《殺し》に行かなきゃ。

左右のバランスが取れずに身体を右側に少し傾けることになったがしょうがない。

向こうはあの技の反動でもうしばらくは動けないみたいだし、私も打つならこの瞬間が一番だ。

接近してる時に男の腕が動いたのが見えた気がするけど、どうでもいいよ。

 

「そこ、射程距離内だから」

 

私は《紫電閃》の要領で身体を前に倒した。

この時男の視線は一体どこに向いているでしょうか?

答えは単純。

 

――全身だ。

 

太腿、膝、足首、足裏。

これら全てが稼働してこそ奔ることが出来るのであり同様のことが腕に関しても言うことが出来る。

だから、この技はそう……。

腕が無いお陰で本来自力で行うはずの身体を右に倒すという作業を自然体のまま行えた。

刹那。

 

 

――私の体は男の視界から消える。

 

 

行われた縦と横の変化。

斜めに移動した身体を受け止めるように不格好ながらも足を交差させる。

これによって更に崩れた全身の力にシステムアシストによって上乗せされた私の敏捷度で急加速と急旋回を行ったことで私の姿は瞬間移動をするかの様に消えるのだ。

そして、全くの逆側から首筋を狙って叉刃拐が切り裂く。

この姿こそ《旋棍》スキル最高位剣技の名に相応しい。

 

 

「《(かみ)(なり)》」

 

 

雷鳴が轟くのは、何時だって全てが終わったその時だ。

首に刃が掛った。

私はただただそれを前に、抵抗も無く叉刃拐の刃は首に刺さり、中程で動きを止めた。

全く、HPゲージは削れてるのにこの男は……

それ以上踏み込めなかったのは足元に這わせられていた鎌があったからだ。

防ぎきれないと思ったからこそのせめてもの防御。

だがこの状況は不利ではない。

私の右腕があった部分の止血は済んでるからダメージは受けていない。

逆に男の方は現在も叉刃拐が刺さってる訳で出血が続いている。

HPゲージがいよいよ黄色から赤に変わろうとしたその時。

沈黙と静寂を切り裂いて男が動いた。

初動を感知した私は迷わず左腕を薙いで男の首の右側が完全に分離し、赤いポリゴン片が滲み出てくる。

また、そこで気付くのだ。

 

――嗤ってる?

 

男は千切れかかった首をその場で横に振った。

その反動で斬り込みの入った部分から滲み出ていた血が空間を埋めるために上下から迫る首の肉に挟まれて弾丸の様な速度で吹き出した。

次の瞬間。

 

――紅。

 

Side =グーラ=

 

獲った!

命を掛けた一世一代の大勝負。

 

――こういう勝負で負けたことはねぇんだよなぁ!!

 

HPの減少が止まったのを見て身体をすぐに屈めた。

あの至近距離からの目眩ましだ。対応できるどころかその一瞬が隙となる。

頭上を何かが通過する音に得た確信を噛み締め、腕を振るった。

這わせていた鎌も全てはこの時の為。

本当にギリギリだったと言えよう。

後もう少し深く叉刃拐が刺さっていたら追加ダメージで死んでいた。

土壇場と言う世界に見放された卓の上でこそ俺は最強になる。

グロリアが気付いた時にはもう戦いは終わっていた。

両足の付け根の前半分を切り裂けば彼女の体は狙い通り後ろに倒れる。

HPは、ほんの数ドット。

紅いポリゴンが消滅し視界が開けた彼女は自らに振り下ろされようとしているクルトゥエスを目に焼き付けながら倒れ込む衝撃も気にかけることなく腕を掲げた。

 

下段を切り裂いた力を利用して素早く回転する。

 

その間手の位置をずらしてもう一度敵が正面に来た時に縦一直線に刃を振り抜く。

 

鎌における攻撃の基本中の基本。

 

だからこそ精密な一撃を放つことは難しい事ではない。

 

――例えそれが、重量を最小限に留めるために開けられた叉刃拐の刃の小さな穴だったとしてもだ。

 

鎌の先がグロリアの頭の上にある地面に突き刺さり、今の彼女の体制では到底抜くことは出来ないだろう。

 

ここで鎌を引き寄せればグロリアの身体を縦に真っ二つに出来る。

 

今更腕を離したところでこれを止めるのは不可能だ。

 

遂に、飾られていた虚が消えた。

 

迫ってくる《死》の感覚に身体が気付いてしまったのだ。

 

《死》に近付きすぎてしまったから。

 

《殺人鬼》に、憧れたから。

 

 

――その《欲》は自分が食べるから。

 

 

――言え。

 

――もしかしたら逆に自分が殺されるかもしれない。

 

――直球じゃ無くたって、友達からだって良い。

 

――この気持ちを、君に!!

 

両手を鎌から離して彼女の顔の両隣りに肘を付き、片手で崩れ落ちそうになる首を抑える。

 

少し頭を上げると月明かりに照らされた彼女が実に美しかった。

 

 

「俺の……」

 

 

 

 

 

「俺の女になれ」

 

 

 

 

 

 

そして、自分が言いたかったのはこれじゃないと、人生最大の後悔をすることになる。

 

==========




はい、どーも竜尾です。
キターーーーーーーーーーーーーって感じですね。

また一段と気合を入れて執筆させてもらいました。
グロリアはキリトのような覚醒を、グーラ君は違った感じに仕上げました。

そしてずっと溜めこんでおいた最高位剣技のお披露目ですよ!

この辺で彼らの攻撃のもとにしたのが何だったのか分かったんですかね?

で、でですよ。
ラストシーンですよ!

この言葉がずっと書きたかったんです。
捜索編でどのシーンよりもこのシーンが。

此処からの二人の行く末を見守ってほしいですね。

【次回予告】

「うぅぅ……」

――こ、これは脈アリか?

「平和になったもんだなぁ……」

「また、後でな」

次回をお楽しみに!それでは。
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