仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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第四十八話 嘘吐きと殺人鬼の始まり

Side =グロリア=

 

私の眼を覚まさせたのは長時間ウィンドウを閉じていないときに発せられるアラーム音だった。

いつもの言葉を言う暇もなく身体を起こすと目を擦り、頭を軽く掻くと片目にその文章を収めた。

文字の羅列が眼から脳を刺激し、意味を把握したその時、私は寝間着姿のまま一つの部屋へと走り出した。

扉を開け、大声でその者の名前を呼ぶといつもより少し早い時間に起こされた事でより眠気が抜けきらないのか身体は起こしても数秒は固まったままで両肩を持って五秒ほど揺らすと「解った、起きるから」と手を離された。

早くして欲しい、未だにアラームを止めていないのだから本当に。

しかし、そうはいっていても彼は中々目を開くことは無く、シグマの様な雰囲気を振りまいて首を上下させていた。

これは自業自得だと脳天にチョップをかますとようやく目を開いたのでウィンドウを可視化して彼に見せた。

彼は片目だけでそれを見た後内容を理解したのか両眼を見開いた。

「これは……本当なのかい?」

「まだ試してないから解らないけど、その様子じゃ貴方は来てないみたいだね、ロクオウ」

 

【移行条件の達成を確認。《解除》スキルに《有効数の無限化》を付与】

 

「この効果の意味は解るの?」

「うん。《解除》は声の届く範囲であり一人にしか作用しないんだけど、この文面通りなら声の届く範囲なら全員に《解除》の効果が適応されるはずだよ」

「じゃあ私の方はまだその【移行条件】と言うモノが達成できてないから《英雄》の追加能力が発生しないのか」

「でも、私も昨日は何か特別な事をしたってわけじゃないけどね」

ロクオウもベッドから起き上がり、取り敢えずこの話は終わりとなった。

私は着替えをするために自室に戻り、リビングへと向かうとそこにはオーカスの姿があった。

朝食を作ったり新聞を読んだりと恒例の作業を終えるとオーカスが全員を集めた。

 

「……昨日仕入れた情報だが、笑う棺桶がアジトを変えていた」

 

そういうオーカスは悔しそうに手を組む力を強くしていた。

「先を越されちゃったねー」

「次の目星は付いてるの?」

シグマとアシュレイが声をかけるも、彼は首を振った。

「その場所も蛻の殻だった。先を越されたな……」

私は、落胆するオーカスを見ながら呆れた顔を浮かべるしかない。

「だが、次の策は立てているのだろう?」

 

「ああ、勿論だ」

 

ロムの問いかけに先程の雰囲気とは一転、してやったりと言った表情を浮かべていた。

随分と解りやすい嘘の演技をする道化師は二枚のウィンドウを可視化しながら雄弁に語り始めた。

「最近笑う棺桶が人員の増加を行ったという情報があった。しかも、そいつらの素性も解った」

一息ついて目を一杯に開いて口元も大きく裂けさせながら言った。

 

「第二層を根城にしてるあの方を崇拝する連中の過激派だ」

 

「おや?」

真っ先に声を上げたのはロクオウだった。

それを聞いた全員に、明らかな《殺意》が浮かんでいる。

後でギルド名の発案者であるアシュレイに聞いたが《JtR》とはそういう連中から完全に決別していると言う意味もあるのだ。

故に、私達は本能的と言うか、あいつらが気に入らないのである。

「そういうわけで、今度のターゲットはかなり複数人になる訳だ。ロクオウとグロリアにはこいつらの捕獲を頼みたい」

「つまり気絶させるだのなんだのして連れて来いと?」

「そう言うことだ」

「「了解」」

互いに武器を用意してそれに答える。

「じゃあ次だ」

「まだあるのー?」

「ま、これはグロリアとロクオウだけに関係していることだがな」

今日の朝の事でもあった出来事でより《解除》と《英雄》のことに意識が高まっているのだが、やはりそのことなのだろうか。

「今まで黙っていたのだが、《解除》、《英雄》と言う様な情報屋のリストに存在しない剣技が存在することが解った」

「……今まで黙っていたのはなんで?」

私が聞くと、オーカスは新聞を一部取り出した。

「これ、いつの新聞か解るか?」

「第五十層のボス攻略の次の日の新聞でしょ?」

当然解る。そこに載っている記事を私は何度読み返したことか。

 

「この記事、グロリアはあの方の記事しか見てない様だがちゃんと載ってあるぞ」

 

「えっ?」

「ほらここ」

オーカスが指を刺したのはジャック様の記事の裏面に書かれた記事の一面である。

冷や汗が垂れるような感覚。

 

「【《血盟騎士団》団長ヒースクリフ。《黄金》を支えた《神聖剣》とは!?】って言う記事に詳細が書いてあったんだけどな」

 

「あ……えっと……」

「この新聞をロクオウが見る前に放り投げてくれたお陰で此処までずっと黙ってたんだよ」

これに関しては私に非しかないので言葉に詰まる他無かった。

「ぐ……ぐぅ……」

「ほら、オーカスも虐めるのは止めてあげて」

「そうだな」

 

――ロクオウマジお父さん。

 

その新聞を広げると一部分を指差しながら口を開く。

「この記事と集めた情報によればこの固有スキルをヒースクリフは《ユニークスキル》と名付けた」

「《ユニークスキル》?」

「つまり、《解除》と《英雄》もそのカテゴリに分類されるスキルだと言うことが決定づけられるな。ほかに発見の情報は無いし」

「そうだね、私も使用者だから良く解るけど《英雄》が二人も存在するのはおぞましいからね」

それには私も何度も首を縦に振るった。

相変わらず模擬戦でも私はロクオウに対する勝率は絶望的なモノだ。

初撃決着モードじゃなければ勝てる気がしない。

何か、日が経つごとに戦うごとに強くなっている気すらするのだ。

「だから、その二つのスキルについて《英雄》については問題ないが《解除》は発動キーも口頭で行わなければならないから使用は制限してくれ」

「その事なんだけど、私に関してはまたスキルに変化があったんだよね」

「は?」

驚愕に顔を染めるオーカスに先の出来事を話すとウィンドウに文字を打ちこんでからこちらに顔を向けた。

「確か、《解除》を完全習得したのは第五十層より前のことだったよな」

「そうだね、だからこそ見当がつかないっていうのもあるけど」

「解った、それも視野に入れて捜索を続けてみる。取り敢えずは解散だ、各自自分の働きをしてくれ」

パン、と手を叩くと、私とロクオウは早速外へと飛び出した。

オーカスからターゲットの情報も送られ、正直顔を見るのも嫌になる。

 

――神様なんていない。この世界には人間しかいないんだ。

 

==========

 

時が進むのは実に早い事で今最前線は第五十五層に到達したらしい。

血盟騎士団の連中はその主街区《グランザム》に新たに門を構えることになり、《神聖剣》のこともジャック様のこともあって人々の意識は徐々に血盟騎士団と言うギルドに惹かれて行った。

だが、一向に解せない。

 

「何でジャック様が《神聖剣》に勝てないなんて言ったの!!」

 

両手をテーブルに叩きつければ目の前に座っているロクオウは苦笑いでこちらを見た。

因みに彼の《英雄》で有るが未だに変化は訪れていない。

そしてこちらを見て溜息を突くもう一人の男が口を開いた。

「またそれか……別に完全に負けを認めた訳ではなかっただろ」

「それでもよ!だから私が直接見に行けばよかったのに……」

そうすれば、ジャック様の言っていたことが嘘か本当か見極められたって言うのにだ。

私はそれを新聞で見たときからこのイライラを今まで引き継いでいたのだ。

戦闘にもそれが頻繁に出るようになってしまい、私のストレスは鰻登りだった。

もう一度大きくため息をついて組んだ両手をテーブルの上に落としたオーカスが仕方ないと言った顔を浮かべた。

「解った。じゃあそのチャンスをくれてやるよ」

「ん?」

 

「お前に、この《JtR》の広告塔になって貰う」

 

「……どういうこと」

不敵な笑みを浮かべるオーカスに私もロクオウも彼の方を見つめた。

「簡単だグロリア。情報屋に《JtR》の一員として情報を流すだけだ」

それでは仲間を売ると言うことだと言っているようだったが、裏に何かあるとしか思えなかった私はその話を聞きながらも冷静だった。

「良く冷静で居られるじゃないか。本当はオレの情報を流すつもりだったんだがな……」

オーカスは組んでいた手を解くとウィンドウを操作して可視化させた。

そこに綴られていたのは数十人に渡る名前の数々。

「情報屋の名前?」

「第一に、他の連中に知られると言うことはあの方の接近してくる確率が最も上がる。それもロクオウ以上にだ」

ロクオウの名前が挙がった瞬間オーカスの事を凝視したがかまわず続けた。

「第二に、《JtR》が徐々に知名度が上がってきた。情報屋も大勢動き出す頃だからその前に情報を流しておけばその時点での妥協と危機感の低下を狙える訳だ」

「なるほどね」

そう言うと、オーカスは立ち上がり、私とロクオウもその後を追った。

「それに、お前の仮面は何かと目立つから広告塔としては便利だ」

「オーカスはあんまり特徴ないもんね」

「グロリア……」

皮肉を言う私にロクオウが落胆した声で言うが、オーカスは慣れて来たのか無視して闘技場の扉を開いた。

通常無人の時は真っ暗な場所であるこの場所は灯りが点いており、そこに人がいると言うことを示していた。

私達を見る視線は四つ。

「こんなことをしてるんだから、覚悟してもらうぜ?」

その各々が叫び声を上げているが彼は無視して今までに見せたこと無い声のトーンと表情で言った。

 

「一瞬の幸福の代わりに背負う棺桶をな」

 

「上等!」

 

最初から返答は決まっていた。

先程の顔とは一転して小さく笑みを浮かべたオーカスは私に向けて目の前にいる四人のプレイヤーの顔写真と情報が送られてきた。

彼らは、笑う棺桶に関わるプレイヤーたちだ。

この前に頼まれていたオーカスの依頼。

結局私の使える剣技では確実にプレイヤーを昏倒させるのは無理だと思ったのでロクオウのサポートをして此処まで連れて来た後でこの闘技場の扉を《ギルドメンバーのみ解錠可》に設定して軟禁したのだ。

装備もクリスタルも気絶してるうちに全て回収してあるので逃げる事も出来ず彼らは此処に閉じ込められたのだ。

逃げようとも《英雄》であるロクオウに絶望的な力の差を見せつけられ、今では抵抗する素振りも見せなくなっていた。

「こいつらも、随分大人しくなったな。得られた情報もあまり役立つモノじゃなかったし、いくらロクオウに殴られようと口は割らないし……」

そのオーカスの挑発に乗ったプレイヤーの一人が大口を開けた。

「当たり前だ!我々にはジャック様というかm……」

だが、その言葉は最後まで続くこと無く顎を《英雄》化したロクオウによるアッパーで無理矢理閉じられてから浮いた体に拳を叩き込まれ、地面を数回バウンドした後動かなくなった。

私も似たような技を受けたことがあるから解る。

 

――ロクオウの攻撃を二回も直撃させて意識を保っていられる訳がない。

 

思わず殴り付けられていた腹部に手を当てていると、オーカスが残り三人に向かって行った。

「安心しろ、一人くらい気絶することは此処に居る時何回でもあったからなあ?」

全く恐ろしい拷問官と執行人だ。

「グロリアも聞け。これからその神様がお前たちに判決を下さるだとよ」

「え?」

「こいつらの情報をあの方に直に見てもらう。グロリアには直接あの方と接触して欲しい」

あまりの出来事に私の思考は凍結せざるを得なかった。

先程の決意すら揺らいでしまいそうな程に私は動揺してしまったのだ。

「何を言ってる、さっき『上等!』とか言ってただろ」

「で、でもまだ早いって!」

「お前そう言って一度もあの方の姿を目に収めたことが無いくせに、最初のチャンスを俺が台無しにしたことを根に持ってただろうが」

確かにそうなのだが、それでもいざとなった時これほどまでに臆病になってしまうとは思いもしていなかった。

「その為の情報も渡しただろ、ほら行って来い」

頭をガシガシと掻いて肩を押されて無理矢理逆方向を向かせられると、背中を蹴り飛ばされた。

年下の女の子にする扱いじゃないと思って振り返ろうとしたが、これが彼なりの励ましか何かだと理解した私は振り返ることなく走り出した。

次に送られてきたメッセージウィンドウを見て第四十四層へと転移門で移動すると、肩に《JtR》のギルドマークの描かれた防具を付けた。

どうやら今日の朝にはオーカスは最前線に足を運び、簡易メッセージをジャック様に送っていたらしいのだ。

その時間もあと数分ほどなので此処で待っていてもかまわないだろう。

《JtR》のギルドマークを付けていても私の事を気にかける者はいないし、寧ろつけている仮面の方をもの珍しそうに見ているくらいだ。

ここも人口は少ない方なのでジャック様が来ても大丈夫だろうとオーカスが踏んだのだろう。

すると、遂に転移門に新たな光が生まれた。

時間ピッタリだ。

青白い光から出来て来たのは日差しを反射して本物の純金にも劣らぬ魅力を纏う金髪。

無表情な顔立ちで有りながらもそこには得も言われぬ威圧感があった。

すらっとした体つきを見れば誰も《殺人鬼》と呼ばれるまでにこの鋼鉄の城中を震撼させたプレイヤーだとは思わないだろう。

もし心臓があったな破裂してるだろうと言えそうな程に緊張していた私は声も出せずに立ちつくしていた。

だが、私から行かなければならない。

何故かそう思った。

そう考えた瞬間の私の心は恐ろしい程に澄んでいた。

それは、虚構の装甲に包まれることの無かった部分が私として出てきているからか。

兎に角、今ならいける気がした。

ジャック様の隣に見えた二つの人影にも見覚えがある。

構うもんか、今は口を開いて、言うんだ。

 

「お待ちしておりましたジャック様。それに《黒の剣士》と《閃光》までとは」

 

==========




はい、どーも竜尾です。
次いでグロリアさんの《解除》もレベルアップで御座います。

グロリアに年相応の行動をさせたくなってあのようなドジ成分と言うか、うん。
ロクオウマジお父さん。

徐々に捜索編への橋をかけ始めました。

まだシンディアさんの出番はないかな…。

【次回予告】

――シンディアの危害に為るかどうかを見極める事

「はい、確定」

「私、嘘を見抜くことだけは得意なんです」

「そりゃ、最初から死ぬ気で戦ってたんだっけな」

次回をお楽しみに!それでは。
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