2025-04-17

31歳になってしまった。

31という数字は、薄曇りの日に肺の奥まで入り込む湿った霧のように胸にまとわりつき、呼吸のたびにわずかな重さを思い出させる。

20代のスタミナにはもう頼れない。かといって、ベテランを名乗れるほどの経験はない。 「まだ若いじゃないか」と笑う友人の声の奥には、「そろそろ腰を据えたら?」という暗黙の圧が透ける。

30歳の背中、その影

30歳の誕生日、私は華やかな祝杯よりも静けさを選び、深夜まで開いている駅前書店併設のカフェに足を運んだ。 ノンカフェインのハーブティーを片手に、過去記憶をめくりながら「ここまで結局、何を積み上げたのか」と自問した。

1年経った今、同じカフェで同じ席に座ってみても、カップの湯気はただ静かに立ちのぼるだけ。 ――そこに“伸びしろ”は見当たらない。

2回目の転職活動

前職は登録者数十万超のYouTuber社長を務めるメディアベンチャーだった。

社長は「センターピンがズレているんだよね、君」が口癖で、つまり会社が狙う「急成長の核心」から外れていると言いたかったのだろう、深夜1時に送られてくる『この資料明日までに直して』というメッセージ連続疲弊し、後先を考えずに半年で辞めた。

結果、得たものは「キャリア多様性」よりも「中途半端業界知識」だった。

求人票を眺めれば、第二新卒には伸びしろが、中堅には実績が求められる。

私はどちらの箱にもきれいには収まらない。

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経験職種へのジョブチェンジ

年齢上限:30歳まで

社会人経験:不問(ただしポテンシャル重視)

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夜更けの部屋を照らすディスプレイの青白い光だけが頬を撫で、ブラウザに浮かぶ条件を追うたびに笑いより先に乾いたため息が漏れる。

ポテンシャル」という単語は、いまの私を狙う銃口のように黒く冷たく、モニターの奥で光っている

行き遅れ感と、中途半端経験のはざまで

行き遅れ感――それは、電車のドアが閉まる瞬間にもう片方の足がホームに残ったような感覚だ。

走ればまだ追いつける気もするが、ホームで転倒するリスクも同時に想像してしまう。

積み上げてきた業務知識は、専門家を名乗るには薄く、汎用スキルと呼ぶにはバラつきが大きい。

要するに「何者か」になりきれていない。

電車内の独白

31というこの曖昧な年齢だからこそ、他人が用意した線路に乗り遅れた自覚がはっきりする。

バラバラに散らばった定数と変数が、解を求め損ねた方程式のように黒板上で滲む。そこへ“行動”という未知数を放り込めば、未来グラフは不気味に枝分かれしながらもわずかに先へ延びていく。

31歳という“素数”を抱えて

整数としても割り切れない素数――それが 31

どの数ともきれいに噛み合わず単独で立つその性質は、年齢の私にも重なる。

背伸びをすれば若作り、身を縮めれば老け込み――その狭間で足場を探す日々。

けれど割り切れないからこそ、分岐点自分意思で決められる。

他人の解に従うのではなく、自分方程式を立て直す。

明日転職エージェント担当者から電話が来る。その着信音を想像しただけで鼓動が速まり、期待と不安が胸の中でせめぎ合う。

紹介された求人票を眺めるたびに「高望みかもしれない」という声が頭をかすめる――それでも、31歳というページに書き加える新しい行に、私はほのかな光を感じている。

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