補助金コンサルの覇者がまさかの倒産!ー北浜グローバル経営の栄光と破滅ー【第5話:「頼朝像」の行方―企業の社会的責任とは―】
【今回のテーマ】
経営者が本業をおろそかにして個人的な関心事に注力し、企業の経営を傾けてしまうケースは珍しくありません。北浜グローバル経営(以下、北浜G)もまた、その罠に足を踏み入れていました。
今回の主な舞台は北浜Gのグループ企業であった"銘木総研"。しかし、その実態はCSRっぽい活動をやるだけの代表の趣味としか思えない会社でした。
1.まさかの新規事業
事の起こりは2020年末。
コロナ禍で既存事業の売上が激減し、北浜Gが補助金コンサルへと深く傾倒し始めていた時期でした。下手すると倒産という状況で懸命に働く従業員を集めた代表は、突如として謎の宣言を放ったのです。
「コンサルをやるなら“実事業”の運営経験がないとダメだ!
だからグループ企業を作って新規事業をやろうと思う!」
普段から無茶ぶりには慣れている従業員もこの言葉にはさすがに絶句。
そもそも、補助金コンサルも特許事務所も、立派な「実事業」なのでは…? あまりにも唐突に自分たちのアイデンティティを否定された形です。
おそらく、ここでの「実事業」とは、"BtoCビジネス"のような収益モデルが明確な事業を意味していたのでしょう。しかし、コンサルをやるのに実事業の運営経験が必要なら、コンサルファームにいる社員の大多数は資格がないことになります…。やっぱりどこかズレている感じは拭えません。
・それってあなたの"趣味"ですよね?
そして、しばらく後に創立された新会社の名前は「銘木総研」。
事業内容は“名木のプロデュース事業、名木の商品企画開発、名木調査研究、名木の魅力発信”等々(詳細はこちら)。正直、市場があるのかすらサッパリ分かりません。「実事業」とはいったいなんだったのでしょうか?
「名木の調査研究って…完全に代表の趣味では?」
従業員たちも内心ざわつきましたが、北浜Gは厳しいトップダウン体質で、反対などできるはずもなし。その後、正社員数名が雇用され、ビジネスなのかCSR活動なのか単なる道楽なのか分からない活動が始動していきました。
でも、不思議なのは、利益が出そうにない"銘木総研"ではしっかり正社員を採用して、メインの補助金事業は派遣で回すという人材戦略。従業員からすると、やはり納得できないものがあったのではないでしょうか。
・穴埋めはやっぱり補助金
2021年春頃。
動き始めた"銘木総研"は、コロナ禍にも関わらず日本各地を飛び回って名木の写真や伝承を収集し、X(旧Twitter)、You Tube、Instagram、Facebook、FMラジオを駆使して情報を発信します。「それで、なんで給料が出るの?」と多くの社員ですら疑問に思っていたようですが。
わずかに収益性があったのは、「こだまっこ」という小冊子の販売くらい。しかし、その程度では利益を生むには至らなかったでしょう。結果的にまたしても、補助金事業の利益から穴埋めするパターン…。もう北浜Gではお馴染みですね。
ビジネス的な収益を期待する声はそもそも少なかったのかもしれませんが、広告効果もそこまで高くなかったようです。
SNS発信が仕事のメインといってもいいはずなのに、2025年3月時点でもXのフォロワーは1938人というリアルな微妙さ。テーマがちょっと地味だったのではと思わざるを得ません。
2.頼みの綱は"頼朝公"
そして2022年、迷走はさらにエスカレート。
"銘木総研"の一世一代の事業である「頼朝杉プロジェクト」が始動します。源頼朝が自ら手植えしたと伝えられる樹齢800年の“頼朝杉”の倒木を材料に、頼朝公の木像を制作して、ゆかりのある鶴岡八幡宮へ奉納するという壮大な計画です。
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年放送)に合わせて奉納すれば、日本中から注目される一大コンテンツになる――どうやら代表はそう確信していたようです。
著名な仏師に製作を依頼し、服装の考証にも専属スタッフも配置。そして、あちこちのメディアに広告記事を打ち出し、大々的なPR攻勢をかけます。
・伸び悩む知名度
ところが、"頼朝杉プロジェクト"は思ったほどの宣伝効果を打ち出せませんでした。頼朝像制作のタイムラプス動画をYouTubeにアップロードしてみても再生数は3桁前半。しかも、少なくない割合を北浜G関係者の“自社再生”に頼っているような状況。
投じた金額の大きさと比べると微妙と言わざるを得ない世間からの注目度。「こんなはずではなかった…」と嘆く声があちこちで漏れ聞こえることになりました。
それでも制作が進むにつれて代表はヒートアップ。何度も現地や関係各所を訪れたりメディアの広告記事に出演したりとプロジェクトにのめり込んでいきます。
・深まる社内の亀裂
この熱狂を横目に見ていたのが、北浜Gの補助金スタッフたち。
もともと、補助金事業で得た利益で"銘木総研"の赤字を埋めるという構造でしたが、この「頼朝杉プロジェクト」でも資金が潤沢に流れ込み、その負担は補助金部門のノルマ増加に繋がります。
"銘木総研"の活動は全国を飛び回って自然や文化遺産と触れ合い、メディアにも露出するという華やかなものでした。
それに対して、補助金スタッフは一日中PCに向き合ってコツコツと書類を作るだけ…。加えて、申請数や採択率といった数字のプレッシャーにも常に晒され続けます。
"頼朝杉プロジェクト"の進行に伴って残業を強いられる補助金スタッフは、内心で「やってられないよ」と冷めきってしまい、社内の亀裂は深まるばかりでした。
3.まさかの"受け入れ拒否"
それでも2022年秋、ついに頼朝像は完成し、各地でお披露目の展示が行われました。樹齢800年の由来ある杉材と著名な仏師の技が組み合わさっただけあって、その威厳や存在感は見事なものです。
もっとも、その製作費のほとんどは補助金事業からの“あぶく銭”で賄われたという裏話を知ると、複雑な気持ちになってしまいます。
・神社側がNG
当初の計画では、源頼朝ゆかりの神社、鶴岡八幡宮に奉納する予定でした。ところが、2022年末の奉納の予定日が近づくと、「安置場所がない」というにわかに信じがたい理由で受け入れ自体を拒否されてしまいます。
結果的に、行き場を失った頼朝像はどこか別の場所へひっそりと奉納されることに…。この記事のために頑張って調べましたが、奉納場所を突き止めることはできませんでした。
ちょうどこの時期、北浜Gは大きな転換点を迎えます。2022年までは表面上は"補助金コンサルの覇者"として成功を収めていたものの、翌年から次第に歯車がかみ合わなくなって転落していきます。
もちろん、頼朝像の"受け入れ拒否"が影響したというわけではありません。しかし、誰もが成功を確信していた“頼朝杉プロジェクト”が、奉納先に難色を示されて中途半端に終わるという結末は、その後の北浜Gの破滅を暗示するかのようでした。
・結局、銘木総研も道連れに
その後も、銘木総研は第2・第3のプロジェクトを計画していたようですが、北浜Gの経営悪化によって活動も停滞。最後までSNS発信などは続けていたものの、北浜Gの倒産に追随するようにひっそりと倒産しました。
一応、銘木総研には正社員も数名在籍し、小冊子や頼朝杉の切れ端を使ったグッズなどを売ってはいたものの、その売上はごくわずか。最終的にはおそらく数千万円規模の赤字を垂れ流して終わったと思われます。
せっかく作成した「立派な頼朝像」だけでも後世に残って欲しいところですが、保管場所すら不明であり、その後どうなったかは分かりません。
4."銘木総研"はCSR活動なのか?
北浜G(というより代表と数名)が手がけた「銘木総研」や「頼朝杉プロジェクト」は、ビジネスなのか単なる道楽なのか判然としません。
北浜Gの売上規模からすると、"銘木総研"が多少赤字を垂れ流しても経営が傾くということはないでしょう。とはいえ、代表の趣味的活動に資産を投じるやり方が会社全体に悪影響を与えたのは確かです。
あるいは、北浜GなりのCSR活動だったのかもしれません。しかし、本業とのシナジーもなく、社会課題の解決を目指したわけでもなく、CSR活動と呼ぶにはあまりにも独りよがりな感じを否めません。
あえて皮肉を込めて言うならば、
C:ちょっとした
S:社長の
R:レクレーション
――これが実態だったのかもしれません。
5.謎のグループ企業
北浜Gには、今回の"銘木総研"だけにとどまらず、「北浜グローバル商事」や「北浜国際法務事務所」といった、それらしく見えるグループ企業が複数存在していました。
ところが社内ですら、「どんな事業をしているのか」「誰がそこに所属しているのか」「そもそも収益を得ているのか」――まるで要領を得ない状態。お飾りの看板だけが先行しているように見えます。
それらしい名称のグループ企業が名を連ねることで、「幅広い事業展開をしているように見せられる」という演出効果があったのでしょうか。
"銘木総研"、"総合コンサル化"、"謎のグループ企業"、"高額なオフィス"…。これらには共通点があります。それは、「実体のない見栄えの良さ」だけにこだわり、本業の地道な運営やそれに従事する社員を軽視したことです。
6.最後に
ここまで全5話にわたり、北浜Gの倒産に至るまでの真相を追ってきました。本稿をもって、一連の物語はひとまず幕を下ろします。
今回の破綻が浮き彫りにしたのは、「経営ごっこ」に没頭するあまり、本来の使命を見失った経営陣に率いられた企業の末路です。
派遣社員頼みの脆弱な収益源、コンプライアンスに背を向けた補助金事業、無謀としかいえない総合コンサル化、そして代表の趣味としか思えない活動――どれをとっても、企業経営の本質から遠く外れたものでした。
この倒産劇は、単なる一企業の破綻ではありません。
これほど迷走した経営陣であっても、一時は売上35億円の会社を築くことに成功したのです。これは、経営陣の手腕が優れていたというよりも、コロナによる「補助金バブル」がどれだけ歪んだ狂熱を社会にもたらしていたのかを物語っています。
一方、忘れてはならないのは、このような異常な環境の中でも、日々努力を続け責務を果たそうとした現場の従業員が大勢いたという事実です。彼らの労苦を無駄にしないためにも、北浜Gの失敗を一つの教訓として心に留めていただければ幸いです。
ここまでご愛読いただき、誠にありがとうございました。
――またいつか、今度は明るく希望に満ちた物語で、皆さまにお目にかかれますように。


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