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補助金コンサルの覇者がまさかの倒産!ー北浜グローバル経営の栄光と破滅ー【第4話:総合コンサルへの野望―勝算なき戦いの代償―】

【今回のテーマ】
世間から“補助金コンサル”として知られていた北浜グローバル経営(以下、北浜G)。しかしその実態は、Webコンサルや人材育成、M&Aなど、あらゆるコンサル領域への進出を目論む“総合コンサル”志向の企業でした。

北浜Gのパンフレットに掲載の各種コンサルサービス。

ところが、補助金頼みの収益構造から抜け出すことはできず、むしろ増員に伴う人件費がかさむばかり。最終的には経営を悪化させ、あまりにも悲劇的な幕切れを迎えることになってしまうのです──。

1.目指せ総合コンサル

北浜Gの倒産について、メディアや専門家からは「いつか終わる補助金バブルに依存したから」と批判されることが多いです。しかし、実際には北浜Gの経営陣も補助金バブルの終わりは十分に予測していました。

その危機感から、補助金スタッフは人員整理が容易な派遣社員を中心として編成。そして、補助金バブル後の収益源として、“総合コンサル”の確立に乗り出していたのです。

北浜Gは、"事業再構築補助金"で急成長を遂げた2022年からコンサル採用を徐々に進め、総合コンサルとして本格的に始動しました。

北浜Gのピーク時の社員は約350名です。そのうち100名が補助金スタッフ、補助金営業や管理部門(経理・人事・総務)が100名。残りの150名が、Web・人材育成・雇用・事業承継・M&Aなどあらゆるコンサル領域に挑戦したのです。その人数から分かるように、総合コンサル化には並々ならぬ力が注がれています。

・経営陣の戦略

経営陣には勝算がありました。
北浜Gは補助金申請で数千社の顧客企業を支援しており、大手コンサルにも劣らない“顧客接点”を築いていました。経営陣は、補助金申請を入口とし、Webや人材育成などのコンサルを追加提案する戦略を描いていたのです。

“事業再構築補助金”ではコンサル費用も補助対象になり得るため、企業側の負担感を抑えて自社コンサルを提案できます。さらに、補助金の申請書でも「外部コンサルを活用して事業強化」とPRすることで採択率アップも期待できました。

つまり、補助金で顧客を呼び込み、その勢いでコンサルサービスを提供し、両者が相乗効果を生む――なるほど、"完璧な作戦"でした。不可能だという点に目をつぶればですが…。

2.問題は山積み

一見すると“総合コンサル化”は悪くないアイデアに見えますが、実は多くの問題を孕んでいました。ここでは、その懸念点を順に見ていきましょう。

①利益相反

補助金コンサルのゴールは、あくまで補助金を活用し、顧客企業を成功に導くこと。「どうせ補助金で安くなるから」「採択率アップにつながるから」と、必要か分からないコンサルサービスを売り込むべきではありません。

さらに、コンサル費用の相場は曖昧で、その大半が補助金で支払われるため、北浜G側には適正価格を維持するインセンティブがあまりありません。

結果として、補助金前提の高額なサービスを「採択率を高めるため」と強引に勧め、申請書でその必要性を大げさにPR――。こうした行為が実際に行われていたかは不明ですが、利益相反を疑われても仕方のない構図でした。

②企業側のニーズの低さ

もともと、日本の中小企業はコンサルサービスを積極的に活用する文化が根付いていません。高額なうえ、どこか胡散臭い印象が拭えず、コンサル導入の提案は決して簡単なものではありませんでした。

とくに“事業再構築補助金”は、コロナ禍で売上が減少した企業が主な対象。たとえ補助金を活用できたとしても、追加のコンサル費用を負担する余裕がある企業は限られていました。

「ご注文は補助金ですね。セットでWebや人材コンサルもいかがですか?」と、まるでファストフード店の"セット商法"のように勧められると、抵抗を感じる企業も少なくなかったのではないでしょうか。

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③結局は補助金頼み

また、この手法でコンサルサービスを販売しても、結局は"補助金ありきの売上"。補助金バブルが終われば収益が途絶えるという経営の脆弱性は何も解消されていません。

もちろん、長年かけて実績とノウハウを積み重ねれば、Webコンサルや人材育成コンサルでも独立した事業基盤を築けるかもしれません。しかし、補助金バブルがそこまで続くというのは、あまりにも希望的な観測だったのではないでしょうか。

④経験者不足

そして、北浜Gの最大の問題は、圧倒的な経験者不足でした。給与水準が低いため経験豊富なコンサル人材の採用は難しく、常に「コンサル職:未経験者歓迎」の形で求人を出していました。

その結果、北浜Gのコンサル職は実質的には営業しかできず、しかも顧客に突っ込まれるとまともに答えられない…。当然ながら契約も簡単に取れず、仮に取れても実際のコンサル業務は外部の専門家に丸投げ。利益率は低く、社内のノウハウも蓄積されないという悪循環に陥っていました。

若手スタッフの多くは「コンサルとして成長できる!」と期待して入社したものの、現実はただの“御用聞き”。仕事へのモチベーションを次第に失っていく者も少なくありませんでした。

⑤Web戦略のズレ

さらに、Webコンサルを提供しながら、北浜GのWeb戦略は壊滅的でした。もし公式サイト(すでに閉鎖)を見たことがある人なら分かると思いますが、「重い・分かりづらい・大した情報がない」の三重苦。

トップページにはドローンで撮影したオフィスの空撮動画がバックに流れ、バーチャルオフィスツアーなる謎コンテンツが用意され、これじゃまるで「オフィス自慢サイト」。経営陣は大満足でしたが、コーポレートサイトとしては完全な失敗作でした。

当然、こんな状態で「御社のWeb戦略を支援します」と売り込んでも説得力はゼロ。少しでもWebに詳しい経営者なら、「いや、まずはおたくのサイトを何とかしたほうがいいのでは?」と疑問を抱くのは当然でした。

・他社をコンサルしてる場合?

Web戦略はズレ、人材育成もできず、経験の浅いスタッフが表面的な知識でコンサルを提案――。これでは「コンサル」を名乗る以前の問題でしょう。

3.気持ちだけは大手コンサル

総合コンサル化を進める中で、社内では「KPI」「MBO」「PDCA」「MECE(ミーシー)」などのコンサル用語がやたらと飛び交うようになりました。

しかし、経営陣でさえその正確な意味を理解していたかは疑わしく、それまでの“ノルマ”を“MBO”と呼び変え、その細分項目を“KPI”と呼ぶ――といった誤用が横行。もはや「言ったもの勝ち」の状態となりました。

部門内で生産性向上を会議をしても、経営陣が出せるのは「PDCAさえ回せば改善する」「ミーシーで考えたら解決する」といった空虚なアドバイスばかり。具体的な解決策は何ひとつ提示されないまま、現場の対応に一任されることもしばしばでした。

それだけならまだしも、PDCA報告書、目標管理シート、KPI分析シートなどやたらと書類が増え、現場は「作業をさせてくれ!」と悲鳴を上げる者も。従業員の多くが経営陣の素養に疑問を感じることになります。

・"意識が高いだけ"の経営陣

それもそのはず。"経営陣"といってもその大半は、コロナ前まで営業や書類作成といった現場業務をコツコツとしていた平社員。それが、会社の急成長に伴って“常務”や“本部長”に超スピードで出世し、数十名の部下と部門運営という重責を与えられたのです。

マネージャー経験やコンサルのノウハウもないため、研修や書籍で仕入れた浅い知識だけでマネジメントするのが日常となり、実務の中身は理解していないけど言葉だけは立派という“コンサルごっこ”が横行していきました。

それでも経営陣は気持ちだけ大手コンサル気取り。なぜか「マッキンゼーやデロイト・トーマツがライバルだ」と宣言し、「追いつけ追い越せ」と発破をかけ続けます。しかし、社員の本音は「デロイトやマッキンゼーが補助金申請なんかやるわけがない」と、さすがに呆れ半分だったとか。

意識高い系経営陣。

4.迷走する収支、痩せ細る利益

初心者スタッフばかりの現場に、コンサルごっこに興じる経営陣。当然のように北浜Gの総合コンサル化は迷走し、莫大な赤字を生み出します。

四半期ごとの業績報告会では、補助金部門が目標達成する一方で、他のコンサル部門は目標の5割にも届かない惨状。補助金のオマケで受注できるWebや人材育成部門はそれでも多少の数字がありましたが、専門性が高く補助金とも関係しない事業承継・M&A部門は契約ゼロが続きます。

発足当初こそ「今回は契約に至りませんでしたが、次回に向けて○○を改善します!」といった前向きな報告があったものの、1年も経つ頃には完全に万策尽き、「何の成果も!! 得られませんでした!!」という悲愴な報告しか出てこない――とてつもなく重い空気の報告が繰り返されました。

・底なしの赤字

総合コンサルは、売上が少ないうえに外注頼みで利益率も低い不採算部門。そこに全社員のおよそ4割も配属されています。その赤字額は相当なものになったはずです。いくら北浜Gの給料が安いといっても、150人規模で人件費+αを考えれば経費は10億円近くには達するでしょう。

当然、こうした赤字は補助金事業で積み上げた利益で穴埋めされます。おかげで会社全体としては辛うじて黒字を保てていましたが、その実態は「補助金事業の莫大な利益で、総合コンサルの大赤字を支える」という歪な構造。

実際、北浜Gの2023年度売上は35億円、にもかかわらず利益は1億7,000万円だそうです(ソース)。極めて収益性の高い補助金事業をメインにしながら利益は控えめ…。もちろん、高額なオフィスの影響もありますが、それ以上に「総合コンサル」が足を引っ張っていたと考えられます。

最盛期ですら、北浜Gの利益率は低く、少しでも補助金事業が行き詰まれば簡単に赤字や債務超過に転落する綱渡り状態でした。この想定外の事態に、経営陣は派遣社員を増員して補助金事業を拡大。結局それか…。

本来は「補助金バブルの終了に備えて新規サービスを育てる」はずですが、むしろその過程で会社の体力を大きく消耗していく――皮肉な結果と言わざるを得ません。

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5.最終兵器"KINGS"

2023年になると、北浜Gの総合コンサル部門は完全に行き詰まり、頼みの綱の補助金部門も初心者スタッフの増加で内部崩壊の兆しが見え始めました。そんな中、経営陣は大プロジェクトの始動を宣言します。

その名は“KINGS”――

北浜Gのパンフレットより。ロゴもばっちり。

なんでも「独自アルゴリズムを搭載した中小企業向けビジネスマッチングシステム」で、そこに補助金をはじめとする各種コンサルサービスを組み合わせた革新的プラットフォームになる――という触れ込みでした(下記)。

 北浜グローバル経営は5月15、16日、中小企業の伴走支援を行うプラットフォーム「KINGS」の説明会をリアルとオンラインで実施し、2日間(4回)で37金融機関から50人以上が参加。2023年度中に20~30機関のKINGS加入を目指している。

 KINGSは同社の総合コンサルティングサービスを活用するためのシステム。主な機能は、専門家相談、ビジネスマッチング、eラーニング、案件進捗管理、補助金情報発信など。

北浜グローバル経営、支援PFの説明会 金融機関から50人参加(ニッキンオンライン)

“事業再構築補助金”ではシステム利用費も補助対象になり得るため、企業側の負担感を抑えた形で"KINGS"を提案できます。さらに、補助金の申請書でも「ビジネスマッチングを活用して事業を強化」とPRすることで採択率アップも期待できました。・・・あれ、さっき同じようなこと書いた気が…。

自社のサービスに"KINGS"なんてたいそうな命名をするネーミングセンス。革新的というけど具体的に何が凄いのかの説明はなし。そもそもWeb戦略の失敗から分かるように、経営陣のITセンスは皆無。現場も「そんな上手くいくの?」と半信半疑でした。

それでも「"KINGS"はゲームチェンジャー。これが完成すれば北浜Gは勝てる。だからそれまで耐えてくれ!」という経営陣の説明は、暗い話題しかない北浜Gのかすかな希望となりました。

・その実態は…

そして2023年春、ついに"KINGS"がリリースされます。
しかし、期待に反してありふれたビジネスマッチング機能しか持たず、使い勝手もイマイチ。価格面でも優位性はなく、導入する企業はほとんど現れませんでした。気づけば"KINGS"はひっそりとフェードアウト――。

はっきりとした金額は不明ですが、"KINGS"のような大規模システムの開発であれば数千万円はかかってもおかしくありません。その膨大な開発費は、ドブに捨てられることとなりました。

そもそも、ビジネスマッチングのノウハウなんて十分にあったわけでもないのに、なぜ自前でやろうとしたのか…。せめて他社サービスと提携する手もあったのでは、と多くの社員が首をかしげるばかりです。

・そして破滅へ

“KINGS”の大失敗は、北浜Gの総合コンサル路線にとどめを刺しました。さらに、2023年秋には補助金の採択率まで激減し、会社は一気に大赤字へ。

皮肉なことに、これまで北浜Gを支え続けた補助金スタッフは派遣社員中心だったため、真っ先に人員整理の対象となります。一方で、赤字を垂れ流す他コンサル部門の正社員は簡単に整理できず、その人件費が経営をますます悪化させるという最悪の連鎖が起きました(下記)。

 この結果、毎月2億円以上の赤字が継続することになり、資金繰りは瞬く間に悪化。2024年3月には、取引債務や公租公課の支払いが困難となる状況に陥っていた。4月に入り、スポンサー探しを始めたが、時すでに遅し。将来性や資金支援の面での折り合いがつかず、5月24日に事業継続を断念し、大阪地裁へ自己破産を申請した。

『なぜ倒産 運命の分かれ道』より #2

結局、北浜Gの“総合コンサル部門”はろくな成果も上げられないまま負債だけを増やし続け、最後には給料未払いで従業員も全員解雇――。関わったすべての人を不幸にしただけで終わります。

6.総合コンサル化の背景

こうした北浜Gの総合コンサル化は、北浜G単独で行われたわけではありません。その裏側には、とある日系コンサル企業がアドバイザーとして関与していたと噂されています。

「現場を知らないコンサルのせいで社内が混乱」という事例は珍しくありませんが、コンサル企業を名乗る北浜グローバル自身がその舞台となったのであれば、何とも皮肉な話です。

もっとも、私もその日系コンサルがどの程度まで深く関わっていたかは詳しくなく、そもそもどんな優秀なコンサルでも北浜Gの立て直しは難しかったかもしれません。そのため、あまり深く追究しないようにします。

7.まとめ

以上、北浜Gが“総合コンサル化”を目指して繰り広げたドタバタ劇を紹介しました。初心者同然のスタッフを大量に集めただけで経営陣は何をしたかったのか。派遣社員中心で成功した(ように見えた)補助金事業に味をしめ、「他のコンサルも人数さえ揃えれば成功する」と考えたのでしょうか。

補助金の採択率が落ち始めてから1年も経たずスピード倒産した背景には、補助金業務の利益を無謀な総合コンサル化に注ぎ込み、社内にキャッシュをほとんど残さなかったことが大きく影響していました。

世間では「補助金に依存したせいで倒産した」と言われがちですが、むしろ補助金事業だけを堅実に続けていれば、しばらく持ちこたえられたかもしれません。己の強みを見誤ったまま無謀な多角化に走ったことこそが、北浜G崩壊の決定打になったのです。

8.次回予告

最終回である次回は、北浜Gのグループ企業である「銘木総研」が手がけた“CSR事業”についてお話しします。

補助金事業で成功を収めて気が大きくなった経営陣が、いったいどんな無茶な取り組みを始めたのか……どうぞお楽しみに!


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