補助金コンサルの覇者がまさかの倒産!ー北浜グローバル経営の栄光と破滅ー【第1話:脅威の補助金量産工場―名もなき派遣戦士たち―】
北浜Gの急成長を支えた要因。それは「補助金申請書の量産体制」でした。通常、中小企業診断士など専門家が何十時間もかけて作成する申請書。量産は難しく、月に4件も作成できれば熟練者という感じです。ところが、北浜Gの最盛期には月約300件という異次元のペースで作成されました。
当時はコロナ禍で補助金バブルの真っ只中。どこの補助金コンサルも専門家の確保に苦心している中、どこからともなく現れて急拡大した北浜Gは謎に包まれた存在でした。その圧倒的な生産力に、業界内では「独自に補助金AIを開発したのでは?」と冗談が囁かれるほど。
しかし、北浜Gの秘密は、業界の想像すら超えるものでした。急拡大の裏に潜んでいた闇をここで明るみに出そうと思います。
1.秘密工場の労働者
北浜Gの圧倒的生産力を支えたのは、なんと約100名の派遣社員。経営のプロとはほど遠い存在の彼らが「補助金コンサル」として顧客と向き合い、次々と申請書を作成していったのです。時給1000円台の彼らが関わった補助金は総額で数百億円に上ります。「補助金申請書はプロが作成するのが当然」――こうした業界の常識を打ち破った北浜Gは急成長しました。
北浜Gの企業HPには多くの社員が顔写真付きで紹介されていましたが、売上の大半を支えていた派遣社員の姿はそこにありませんでした。軽く扱われながらも北浜Gに貢献し続けた彼らは、まさに“名もなき派遣戦士たち”です。
とはいえ、派遣社員だけで申請書が作られていたわけではありません。少数ながら、“現場指揮官”となる正社員が管理を担っていました。しかし、この現場指揮官も意外な存在。その多くがグループ企業「北浜国際特許事務所」(以下、北浜特許)の特許スタッフだったのです。
申請書を派遣社員に作成させることも驚きですが、管理者まで畑違いの特許スタッフという想像を超える構図。特許と補助金を組み合わせたまるで手品のような体制が、どのように生まれ成功を収めたのか。その答えを探るためには、まず北浜Gの成り立ちを振り返らねばなりません。
2.“特許×補助金”の意外な出会い
後に業界最大手となる北浜G。しかし、コロナ前までは従業員10名の小規模コンサルで、補助金業務も代表一人が細々と申請書を作成する程度でした。一方、グループ企業である北浜特許には約50名のスタッフが在籍し、こちらが実質的なグループの柱。特許事務所とコンサル企業の組み合わせが珍しいと言えば珍しいですが、当時は普通の中小企業だったのです。
この状況を一変させたのが2020年、コロナ禍です。経済が停滞する中、特許出願などの先行投資は大幅に削減され、特許事業の売上は激減。1年先すら危うい深刻な経営状態に陥りました。
そこで北浜Gが打ち出したのが、コロナ禍で拡大した“ものづくり補助金”などの補助金申請を、仕事のない北浜特許のスタッフに担当させる試みでした。特許と補助金は一見まったくの畑違いですが、これが意外な親和性を発揮します。ビジネス知識こそ乏しいものの、特許業務で鍛えた「文章作成力」と「行政対応力」が補助金の専門家すら上回るポテンシャルを見せたのです。
倒産寸前の背水の陣で必死に取り組んだこともあり、北浜特許のスタッフは驚異的な採択率を実現。5割以下が普通とされる“ものづくり補助金”で約8割の圧倒的採択率を残し、北浜Gは見る見るうちに売上を回復。コロナ前よりも高い水準へと達しました。
3.黄金狂時代
2021年春、北浜Gを更に飛躍させる政策が始まります。菅元総理がゼロゼロ融資とともに中小企業救済の目玉に据えた“事業再構築補助金”です。これは世間では知名度が低いものの、業界には衝撃をもたらしました。
北浜Gが扱ってきた“ものづくり補助金”でも最大補助額は1000万円で、国の年間予算は約1000億円。しかし“事業再構築補助金”は最大補助額1億円超、国の当初予算も2兆円とまさに桁違い。アベノミクスが“異次元の緩和”なら、新しい補助金は“異次元の補助金”。世はまさに大補助金時代!!!
補助金コンサルの報酬は補助額の1割が相場。補助額が増えればそれに比例して報酬も増えます。しかもコロナ禍で補助金を求める企業は後を絶たず、補助金バブルの波に乗った北浜Gの経営陣は笑いが止まりませんでした。
しかし、その際限のない案件の増加が現場スタッフに過重労働を強います。申請期限に追われ、深夜残業や休日出勤を重ねても終わらない業務。連日の徹夜で申請期限ギリギリに申請書を完成させ、倒れ込むように眠りに落ちるスタッフも現れます。「コロナより過労の方がよっぽど怖いよ」と笑えない冗談が飛び交うほどでした。新規採用をかけても、特許や補助金という特殊分野で即戦力を得るの難しく、スタッフの負担は増すばかり。
これ以上は無理だから受注を絞って欲しいという声が増えても、経営陣からは「出来るか否かではなく、どのようにすればできるか考えてください」とマネジメント責任を放棄した丸投げフレーズしか返ってきませんでした。
4.人材不足を埋める“最終兵器”
2021年後半、"事業再構築補助金"第4回の準備中、北浜Gの経営陣は再び奇策を打ち出します。それが「派遣社員の大量雇用」。毎週5名超の急ピッチで増員し、気づけば補助金要員の過半を占めるようになりました。性急な拡大に北浜特許のスタッフも戸惑いますが、経営時に相談しても「出来るか否かではなく、どのようにすればできるか考えてください」と怒られるばかり。
投入された派遣社員たちの多くは、補助金はおろか経営の知識にも疎い一般事務や受付、販売などの出身者。全くゼロからのスタートにもかかわらず、わずか半月の研修で「補助金コンサル」の肩書を与えられ、あっという間に顧客対応へ駆り出されます。ある社員は「まさか、前職のカフェ店員からこんなに早く経営戦略のプロになるとは…!」と自嘲気味に笑っていたとか。
後に"北浜チャレンジ"と呼ばれるこの取り組み――なんとこれが成功を収めてしうまうのです。
5.北浜メソッドの真髄
ここで、補助金申請書を派遣社員が作成することの無謀さを説明しておきましょう。たとえば“事業再構築補助金”の書類はA4で15ページにおよびます。細かいルールが定められ、びっしりと文字で埋めるページもあれば、グラフや表でデータを示すページも。補助金の専門家でさえ、書類の不備が少なからず報告されている複雑怪奇な書類です(興味がある人は下記URL)。
それにもかかわらず、派遣社員が短期間で申請書を作成できるようになった最大の理由は、徹底した「仕組化」にありました。最難関といえる顧客とのヒアリングをまずマニュアル化。用意された質問リストを上から読むだけで入社1か月の新人でも必要な情報を拾い上げられます。さらに審査員受けしそうな「キラーフレーズ」が散りばめられたテンプレートが用意され、そこにヒアリングの回答を当てはめるだけで最低限の体裁が整う仕組みでした。
また、豊富な採択実例をデータベース化していたため、似た案件はコピペで素早く流用。ややこしい業績予想や資金繰りのシミュレーションもエクセルの自動計算にお任せ。「考える前に、手を動かす」を合言葉に申請書を量産するその光景は、さながら“補助金量産工場”でした。
一方、この仕組みを支える北浜特許のスタッフたちは並々ならぬ努力を強いられました。派遣社員を研修し、OJTでマニュアルの遵守を徹底し、定期的にテンプレやデータベースをアップデート。これに加え、派遣社員では難しい申請書の全体的なストーリーを構築し、出来上がればロジックや文章表現を厳しくチェック。顧客からのクレーム対応や間に合わなそうな案件も担うため、北浜特許のスタッフの負担はむしろ増すばかりでした。
6.一時的な成功、見え隠れする不安
派遣社員を中心とした量産体制は驚異的な成功を収めます。6割前後という高採択率を維持したまま申請数は伸び続け、2023年4月に発表された第8回の“事業再構築補助金”では採択数約600件、全採択数の1割弱を占めるほど。
しかし、ビジネスとして成功しても、本当にこれでよかったのでしょうか?
もちろん、コンサルに資格は不要です。新人の派遣社員が補助金コンサルを名乗っても法的には問題ありません。しかし、補助金はその採否で数千万円が動きます。不採択になれば倒産の瀬戸際に立たされる企業もありますし、書類の不備や不正があれば大事になります。しかも原資は我々の税金です。そんな重責を、専門知識に乏しく責任も取れない派遣社員に負わせる。
私としては、コンプライアンス的に危ういものを感じますし、北浜G倒産の大きな要因になっているように思えます。しかし、不思議なことに、北浜Gの倒産を調べた帝国データバンクも、この実態は報じていません。さすがに経営陣も"北浜G最大の恥"として語るのを避けたのかもしれません。
7.次回予告
今に思えば、派遣社員の大量雇用による成功体験が、経営陣をさらに誤った方向へ駆り立てたのかもしれません。「人が足りなければ派遣社員でいい」「売上が伸びれば手段は問わない」「お金は簡単に稼げる」――このような短絡的な方針のもと、人材軽視やコンプライアンス軽視、経費乱用の兆候が徐々に表面化していったように思えます。
本来、スタッフが足りなければ正規採用し、それでも難しければ依頼を断るのがプロフェッショナルの在り方でしょう。ところが北浜Gは、その原則を無視して安易に派遣社員の力に頼り、大きなツケを払うことになります。
次回は、必然ともいえる北浜Gの破滅について語っていきます。


コメント