今回の騒動で動揺してしまった人のために
あえて騒動を起こした理由
ザイコフスキー氏関連であれこれ議論があった。
年明けあたりから2月に開催されるザイコフスキー氏の来日セミナーが行われるとの告知を、一部の公認システマインストラクターたちが拡散し始めた。それに対して私が異を唱えたのが発端だ。
ザイコフスキー氏についてはトロント本部がオンラインクラスでこのような見解を出している。2024年9月のことだ。
端的にいえば「トロント・モスクワ両本部ではザイコフスキー氏に学ぶことを推奨しない」とのコメントである。
それより前に23年末にも同様の告知はメールによって周知されている。これは本部からのメールで「転載してよい」との許可を得ていることもあり、無芸大食さんが自身のnoteで公開している。
いずれも「not recommend training with Zaikovsky.」という表現が使われている。これが英語だとかなり「禁止」に近いニュアンスになる。例えば「この医薬品は妊婦の服用を推奨しない」と書いてあった場合、ほぼ禁止と考えていい。ただもしかすると万が一の例外があるかも知れないから、「推奨しない」という表現が採用される。ただ日本では「推奨しない」という邦訳が「禁止されているわけではない」というゆるいニュアンスで解釈され、それが広がってしまった。(英語に堪能なはずのイントラまでそれに同調してたのは不思議だけれども)
それで「禁止されていないのならいいだろう」と2度の声明をスルーして、ザイコフスキー氏が三年連続で来日することになった。
本部も私も、個人の自由は尊重している。
だから個人的にザイコフスキー氏についていきたいなら、そうしたらいい。それは全く自由だし、否定する筋合いはない。しかし「公認インストラクター」という立場で活動している人物が、その肩書きを用いて、本部の推薦していない(実質否定している)人物の教えを推奨することを問題視しているのである。なぜならその方向に導かれる人が出てくるからだ。
それが続くほど、常態化してしまう。それは公認インストクター自身だけでなく、本部の信頼性を失墜させることになる。だって本部と末端で真逆のことをやってるのだから。
だからこそザイコフスキー氏のセミナーを主催する人たちに個人的に何度か忠告したのだが、聞き入れられることはなかった。いずれも個人の自由と公認インストラクターとしての立場をごっちゃにして考えており、「システマは自由なんだから、インストラクターが何をしても自由」という風に誤解をしていた。
ミカエルやヴラディミアが北を示しているとしたら、少なくとも公認インストラクターは同じ北に向けて人々を導かないといけない。ただマスターほど高い精度で北を指すことはできないだろう。だから中には北東とか、東北東とか、ほぼ東とか西だけどちょっと北寄り程度の方向を指す人もいる。でもだいたい北ならいいじゃないか。ミカエルもヴラディミアもおおむねそういう態度である。だから東から西にかけての北側の半分であれば、許容範囲である。その許容範囲をさらに押し広げて、公認インストラクターが自ら、南に人を誘導するならどうだろう。確かに南半球は魅力的で、南極大陸には未知の資源が埋まっているかもしれない。個人的にはどんどん行って構わない。でもミカエルやヴラディミアの指す方向性とは反対側に行くことになる。確かに人には南に行く自由もある。それは否定しない。しかし公認インストラクターとしての責務を果たすなら、マスターが指し示す北寄りの方向に人を導くべきだ。
繰り返すが本部も私も個人の自由を尊重している。各自が己の道を進むのは自由だ。だが公認インストラクターでありながら、本部が指すのとは反対の方向に他人を導くのは違う。システマをやりたくて来た人に、「システマではないもの」を提供することになるからだ。俗っぽい例えをしたら、牛丼屋で牛丼を頼んだら豚丼が出てくるようなものである。牛丼屋の店主が豚丼を好きなのは自由だが、牛丼を求める客に豚丼を出すのはいけない。なぜなら、豚丼を牛丼と勘違いする人が出て来てしまうことである。
公認システマインストラクターが、そのライセンスによって得た信頼性を担保に人を集め、「システマでないもの」を教えていたらどうだろうか。「システマではないもの」をシステマだと信じ、もともとのシステマを「システマではない」と断じる人が出てきてしまうだろう。豚丼を牛丼だと思い込んでしまうと、本物の牛丼を食べても「これは牛丼などではない」と判断してしまうのである。
まあ牛丼と豚丼の例えは俗すぎるかも知れないが、そのような状況を危惧して、本部は過去二度に渡る声明を発表したのである。
しかしそれは「推奨しない」を「禁止しているわけではない」と意訳する人たちにスルーされ、個人の自由とインストラクターの責務を混在させた「公認インストラクターが本部の意向に反するのも自由」という、およそおかしな解釈が広まってしまった。
理解されなかったダニールの真意
ダニール・リャブコもまた昨年の来日セミナー(2024年11月)で、このようなスピーチを行っている。これはシステマアカデミーの蔵岡さんが文字起こししてくれている。
インストラクター資格を更新せずに切れてしまったインストラクターというのは、祝福を受けられていないインストラクターということになります。
ですからインストラクターとして祝福が受けられてないインストラクターから学びたいかどうかということですよね。
私は祝福がないものをやりたくはない、やりたいとは思わない。これからもやらない。
ロシア人の話法ではしばしばダブルミーニングが用いられる。それが分からないと、このスピーチの真意は読み解けない。
このスピーチにおいてダニールは、ライセンスを授与される意義について語っているのと同時に、「ライセンスを所持していない者から学ぶこと」を否定している。つまり「ザイコフスキー氏のセミナーを推奨しない」と、暗に言及しているのである。なぜそう断言できるか。私はダニール来日の際、ずっとアテンドとして随行していた。そこでやはりミカエルが推奨していないはずの、ザイコフスキー氏の活動を公認インストラクターが推奨していることを案じていた。それで公認インストラクターの意義とはなにかを「祝福」になぞらえて各所で話していたのである。
だが多くの人はこのスピーチが暗示していることを読み解けなかった。「インストラクターライセンス授与、おめでとう」くらいの意味合いでしか受け取らなかったのである。ザイコフスキー氏のセミナーを主催したという理由で自主的に、インストラクターライセンスをダニールに返上したのち、再び授与された人についてもそうである。その際、「もうザイコフスキーには関わるなよ」と、暗にダニールから伝えられていたが、その真意を理解できなかった。
「システマではない何か」とは何か?
また本部はシステマの公認インストラクターが、他の武道や格闘技を教えたり、セミナーを運営したりすることを特に禁じていない。海外には合気道の団体とシステマの団体の両方を運営していたりなど、複数の活動を並行させているインストラクターは、いくらでもいる。その全てを除名することはありえない。だからここで言う「システマではないなにか」とは、ザイコフスキー氏のやっている「システマの指導者だった経歴しか明らかでない人の『システマではない』なにか」である。
そもそもザイコフスキー氏はミカエルのもとでシステマを学んでいたということ以外、いっさい情報がない。その人物から、何を学ぼうというのだろうか。明らかに、システマに関する何かであろう。それを別流派を立ち上げるわけでもなく、ただ「システマではないからOK」とするのは明らかに詭弁である。そもそも「システマではないなにか」と、「リャブコ・システマ」を意味する「システマ」のワードを使わなければ説明できない時点で既に、従来のシステマに依存しているのだ。
「なぜ日本のイントラだけが処罰の対象になるのか?」との声も散見するが、理由は明らかである。本部の声明をスルーして、大っぴらに何度も招聘しているのは日本くらいだからだ。本部は寛大なことに過去のセミナーに関してまで遡って処罰の対象にしていない。
曖昧な伝え方では、何も伝わらない。
直接指摘しても、何も変わらない。
だからこそ公衆の場であるSNSで問題提起することにした。そのため、ザイコフスキー氏のセミナーを推奨する公認イントラをかなり厳しく問い詰めるようなことをしたのだが、これもまた徒労に終わってしまった。水面下での私の活動を知らない人からしたら、「北川がいきなりおかしくなった」ように映ったことだろう。それは承知の上だ。
結果的に、25年2月のザイコフスキー来日セミナーの運営に関わった公認インストラクター3名が除名されてしまうという事態になった。現時点で熊本の元島さんは公表しており、システマ高松も除名されたことを暗に示している。残りの1名もいずれ公表することだろう。
3月18日追記
ここで「除名」と書いたが、どうも本部から一方的に除名処分が下されたという印象を与えてしまった。だがこれは誤りだ。
本部は3人に対して、事前に「引き続きザイコフスキー氏のセミナーを主催するなら、インストラクターの資格を失うがどうする?」という意図の打診をしている。それに対して3名は資格の放棄を選択したのだ。だから一方的な除名処分というより、本人の意思による資格の放棄というのが、実像に近い。
知られざる前例
こうなることは予想できていた。だから全力で避けたかったのだが、力は及ばなかった。なぜ予想できたか。それは前例がいくつもあるからだ。今回のザイコフスキー氏のように、トロント・モスクワ両本部から除名される例は、実は珍しくない。私がシステマを始めた2005年以降、本部から公式にアナウンスがあったものだけで3例ある。
⚪︎ケヴィン・セクゥアー氏 2010年ごろ
⚪︎ヴァレンティン・タラノフ氏 2014年ごろ
⚪︎マックス・フランツ氏 2015年ごろ
ケヴィン氏とマックス氏はトロント本部からライセンスが交付されている。
ヴァレンティンはモスクワの人だが、何度かトロントのイベントに招聘されて講師を勤めている。だからトロント本部の公式サイトとニュースレターでアナウンスがあった。ザイコフスキー氏も同様の扱いでありながら、特に公式サイトなどでアナウンスされないのは、ザイコフスキー氏はトロント本部とほとんど接点がなく、日本など一部の地域を除いてほぼ無名だからだろう。だからその地域だけの問題にとどめておきたいという思惑もあると思う。
ケヴィン氏、ヴァレンティン氏、マックス氏の3人が除名された時はちょっとした騒動が起きたが、日本ではそれほど話題にならなかった。特に前述の二人、ケヴィン氏とヴァレンティン氏に会ったことのある日本人がいなかったからだ。マックス氏に関しては来日セミナーも行われたことから話題になったが、本部と明らかな形で決別し、その後は活動休止状態なので、特に反論は起こらなかった。
私はケヴィンと練習したこともあるし、ヴァレンティン氏にはずいぶん可愛がってもらった。マックス氏にはトロントで何度もプライベートレッスンを依頼し、丁寧に教えてもらった。だからいずれもショックだったのは確かだ。除名となった熊本の元島さんにしてもシステマを始める前からの武術仲間だし、残る二人も長くトレーニングを共にし、何度かモスクワに一緒にいった仲間だ。だから同じく心を痛めている。
今回の件がここまでこじれてしまった一因に、日本の人たちが過去の離脱騒ぎについて全く無知であったことが挙げられると思う。だからザイコフスキー氏を支持することも、なんだかんだ本部が許してくれるだろうという、甘い期待があったのではないか。
だが、本部は最低限のクオリティコントロールを行う。それを乱そうとする人物が現れた場合、即座に対処する。だからこそ、ここまで「システマ」が世に広がったのである。
前置きが長くなったが、本記事では過去3例とその類似ケースをザイコフスキー氏にまつわる騒動の背景として、紹介していこうと思う。
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2月14日追記 本部の情報入手ルートについて
「北川が本部に知らせたからこんな騒ぎになった」なんて声も聞こえるけど、私が今回のザイコフスキー来日について知ったのは、本部から「2月にザイコフスキーセミナーがあるみたいだけど、日本どうなってるの?」と本部から問い合わせがあったからだ。それまで私は知らなかった。まさか2度の勧告(ダニール来日時のスピーチ、つまりモスクワ本部の公式見解も含めれば3回)をスルーして、あえて招聘する者などいるわけないと思ってたので、情報収集するつもりもなかった。おそらくセミナーの告知を受け取った人からの問い合わせが複数、本部に寄せられたのだろう。それで事実確認を私やほかの信頼できるイントラにしたものと思われる。
とはいえ仮に私が報告したのだとしても、報告されたら困るようなことをするほうに問題があると思うのだけれども。
それはさておき、
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