元フジテレビアナウンサー渡邊渚さんも受けたPTSD治療 薬を使わなくても効果が鮮やかな理由

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 元フジテレビアナウンサーの渡邊渚さん(28)が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患い、専門治療を受けたことを公表した。1月に刊行されたフォトエッセー「透明を満たす」(講談社)には、その道のりが克明につづられている。日本ではPTSD治療に行き着くこと自体難しいものだが、治癒率の高さを訴えるのが小西聖子・武蔵野大学長である。実際の治療や問題点を尋ねた。

空が晴れるように治るケースも

 2023年6月、渡邊さんは<仕事の延長線上で起きた出来事>に<心を殺された>と明かした。命を捨てようと考え、何度か行動に移したこともあったがトドメを刺せなかった――とも。精神科病棟などへの入院を経て、下された診断はPTSD。だが専門治療を受け、現在は精力的に芸能活動などを行っている。PTSDに精通する精神科医で公認心理師・臨床心理士でもある小西さんは、渡邊さんと面識はないと前置きした上で一般論として、こう話す。

 「恐らくは適切な治療につながったいい例だと思います。PTSDは精神科領域では珍しく、きちんと治療をすればかなりの確率で治るものです。空がパッと晴れるように回復するケースもあります」

 PTSDが初めて米国精神医学会の「診断および統計マニュアル」に登場したのは1980年。当初は戦争体験やレイプ、家庭内暴力などによる被害の診断基準として定義され、次第に自然災害や犯罪の被害も含まれるようになった。死にそうになる、重症を負う――といった精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験を実際にしたり、目撃したりすることなどで生じる特徴的なストレス症候群のことだ。

 苦痛な記憶が突然よみがえる「侵入」、出来事に関わる人や場所、物などを避ける「回避」、激しい怒りや過度な警戒心を覚える「過覚醒」といった症状が特徴的で、このような状態が1カ月以上続き、生活に支障をきたしている場合などにPTSDと診断される。日本で広く知られるようになったのは、阪神大震災や地下鉄サリン事件が発生した95年以降のことだ。

 米国の研究者ロナルド・C・ケスラー氏らが17年に発表した「世界保健機関(WHO)世界メンタルヘルス調査におけるトラウマとPTSD」によると、日本を含む24カ国で調査した結果、回答者の70・4%がトラウマ体験をしており、回数は1人あたり平均3・2回だった。

薬より効果が認められているものとは

 では、PTSDと診断された場合、具体的にどのような治療をするのか。

 「人それぞれで、治療法は一つではありません。うつ病を併発している方が多いので、まず服薬で落ち着いていただくケースはあります。中には薬だけで自然に回復する方もいますが、薬物療法より心理療法の方が断然、効果が高いもの。患者さんが薬を望まなければ、一切使わずに治療を行うこともあります」(小西さん、以下同)

 PTSDの薬物療法で使われるのは主にパロキセチンやセルトラリン。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれるタイプの抗うつ剤だ。小西さんによると、心理学では効果の大きさを表す「効果量」という指標があり、PTSDに対するSSRIの効果量は0・5から0・8ぐらい。効き目としては十分な数値とはいえ、心理療法になると、ほぼ1・5程度に上がり、熟練の治療家がそろった場合は2・0になる場合もあるという。

 その心理療法の主軸となるのが認知行動療法だ。物事の見方やとらえ方を変えることで、トラウマ体験で生じた否定的な思考…

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きくち・かおる  1992年入社。新雑誌編集部、サンデー毎日編集部などを経て、2023年8月から現職。公益財団法人「性の健康医学財団」が認定するカウンセラーの資格を持つ。

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