「コンパウンド戦略」からの転換、「AIエージェント革命」の始まり
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近年、SaaSスタートアップが続々と誕生し、企業のDXを加速させてきたが、国内IT市場の全体像を見ると、その影響力はまだ限定的だ。
2022年の国内におけるソフトウェア市場規模は11.5兆円にも達するが、その中で国内上場SaaS企業28社の売上合計額はわずか2,485億円にすぎない。圧倒的な市場シェアを持つのは依然としてSIerやITコンサル、外資系の「ITジャイアント」であり、基幹システムの構築や更新において大きな部分を占めている。
その牙城を崩せるSaaSスタートアップが多くなかったのは、エンタープライズ攻略のための人材不足、個別開発の対応、納期の長さなど、つまるところ「難易度の高さ」にあった。
そして、SIer偏重の国内企業のIT状況を見れば、経済産業省「DXレポート」でも指摘された課題や、大企業でのシステム障害や基幹システムの刷新失敗といった問題が起きている。
しかし今、SIerが独占してきた巨大市場に切り込む千載一遇のチャンスが到来した。それのみならず、「SaaS」というビジネスモデル自体が根底から覆るのかもしれない。その起爆剤は、もはや言わずもがな、AIの爆発的な進化である。
IT投資額がSIerに偏重しているのは日本特有の性質でもあり、このような技術革新が起きつつあるタイミングは、スタートアップにとってはまたとないチャンスのはずだ。
我々「Next SaaS Media Primary」としても、その可能性を明らかにしていきたいという想いがある。
この視点に対し、大きくベットしている起業家の一人が、PeopleXの橘大地CEOだ。以前に「Primary」がインタビューした2024年6月時点では、エンプロイーサクセスプラットフォーム「PeopleWork」を提供するSaaS企業として戦略を聞いた。
当時は「HRコンパウンドスタートアップ」を自認し、実際に「AI面接官」サービスの「People XRecruit」が多くの大手企業に導入されるなど、HR領域で急成長を遂げていたが……わずか1年弱ぶりに橘氏に取材を試みると、その姿はもはや過去となったようだ。
橘氏が「100%訪れる未来」と語り、自らも注力しているのが「AIエージェント」の領域である。5月上旬には「HR Operator」という新サービスの正式ローンチを控えている。
前職で携わったクラウド契約サービス「クラウドサイン」の立ち上げから爆発的成長をけん引し、ARR60億円規模まで拡大させた橘大地CEOは、AIがもたらす巨大なビジネスチャンスをどう捉え、どのような戦略で臨もうとしているのか。
今回のインタビューでは、AIエージェントが「SaaS is Dead」を体現しながら、ITビジネスのあり方そのものを劇的に変革していく可能性について語ってもらった。
橘 大地 | 株式会社PeopleX 代表取締役CEO
2010年東京大学法科大学院卒業。弁護士資格取得後、サイバーエージェント、GVA法律事務所にて、弁護士として企業法務活動に従事。2015年に弁護士ドットコムに入社し、クラウド契約サービス「クラウドサイン」の事業責任者に就任。2018年4月より同社執行役員、2019年6月より取締役に就任。クラウドサインをARR60億円規模まで成長させた後、2023年に株式会社PeopleXを創業。
コンパウンド戦略からAIエージェント偏重への方針転換
――― まずはPeopleXの現在の事業状況について教えてください。
橘氏:今は「AI面接官(People XRecruit)」がめちゃくちゃ好調です。有名企業も含めて爆発的に導入が進んでいます。
元々提供している「PeopleWork」も普通のSaaSスタートアップの基準だと十分に売れている数字ですが、AI面接官はその比ではありません。採用媒体のトレンドで見ると、これはクラウドサイン以上の市場規模になる可能性があり、ARR100億円を超えてくるようなカテゴリーになるでしょう。PeopleXはこのカテゴリーキングを確実に獲りに行きます。
――― どういった特徴がありますか?
橘氏:まるで本物の面接官と話しているように自然な会話ができ、英語での面接対応も含めて基本的に全ての言語に対応済みです。キャラクターも海外展開を見据えたデザインにしています。
「AI面接だと面接官の人間味がなくなって内定承諾率が下がるのでは?」と心配されるんですが、実はまったく逆なんです。現実の採用フローを想像してみてください。候補者は応募して、書類選考に1週間待たされ、通過したら日程調整のメールが来て、「2週間後の水曜日19時でどうですか?」みたいなやり取りがあり……とにかく応募から最初の面接まで3週間ぐらいかかるんですよ。しかも書類選考だけで形式的に7割落とされる。
AI面接なら24時間いつでも対応できて、その場でアピールができる。書類じゃ伝わらない人間性や意欲を直接表現できるチャンスが増える。我々のデータでは、内定受諾率はAI面接の方が圧倒的に高いです。
むしろ「人間らしい対応」ができるのはAI面接導入企業の方なんです。他社が日程調整にもたつく間に、AI面接通過者には最終面接やオフィスツアー、会食まで済ませられる。もちろん内定を出すこともできる。
将来的にはAI営業、AI法律相談、AI医師面談など、あらゆる業界に横展開していく予定です。全てシステムができていて、あとはUIやUXを仕上げるだけの段階まで来ています。
このように生成AIを活かしたキラーアプリケーションという視点で見ると、国内ではまだ生成AIアプリケーションでARR1億円を超えているところは、おそらく1つもないんじゃないでしょうか。ただ、AI面接官で我々は間違いなくその水準にすぐ到達します。
さらに、5月上旬には、AIエンジニアが開発した「HR Operator」という新製品をローンチします。これは人事業務のためのAIエージェントで、R&D段階でも大手からの受注が出ているため、急遽製品化を決断しました。はっきり言って、これは「未来のアクセンチュア」を狙いに行くサービスです。
――― 「未来のアクセンチュア」とは強烈な響きです。
橘氏:当初、我々は「コンパウンドスタートアップ」として、労務手続き、勤怠管理、人材開発といった機能を一つずつ積み上げていく戦略でした。でも、それはもう終わりました。
LayerXの福島良典CEOもXに投稿していて共感しましたが、「コンパウンドスタートアップ」という概念はもう無くなるでしょう。
なぜなら我々はもう例えばSmartHRの労務手続きのような機能をわざわざ自分たちで開発する必要が薄れた。AIエージェントが既存SaaSを操作すればいいんです。
我々のビジネスモデルは「AIエージェントを加味したSaaS作り」という戦略にピボットしています。
「SaaS is Dead」を体現化するAIエージェント
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