装画に関するご報告と経緯のご説明

※本記事は、2025年4月刊行の神田裕子氏著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(三笠書房)の装画にご指摘を受けて、イラストレーターとしての立場から記録したものです。また、本記事は著者や出版社の意図を代弁(実際の指示の記述は出てきます)・解釈するものではなく、私個人の責任と視点に基づいたものです。また、出版社から装画制作の経緯についての発信の許可を得ております。

このたび、私が装画を担当した書籍について、批判やご指摘の声が上がっている件について、私個人の立場から経緯と考えを整理し、お伝えいたします。
まず、当該装画について差別的な印象を受けたというご意見があることを、真摯に受け止めております。ご不快な思いをされた方がいらっしゃること、それ自体が大きな問題であり、表現に関わった一人として深くお詫び申し上げます。
私自身、そのような意図を持って描いたものではありませんが、意図の有無にかかわらず、結果として傷ついた方がいらっしゃることの重みを受け止め、責任を感じております。制作にあたっては依頼元からの明確なディレクションに沿って進めており、当初は社会的な背景を持つ登場人物をいきいきと、肯定的に描くという指示と方向性でラフを提出しておりました。

当時のメールでの指示内容は
”主人公(女性)の口から発した「言葉の道」がリボンのように縦横無尽に伸びている、女性は読者代表的な立ち位置で。

  1. 言葉の道の上に、職場で働くさまざまな人たち、シーン、アイテムが並ぶ。
    (PC 作業をする人/打合せをする人/工場勤務っぽい人/プレゼンをしてる人/並んで歩く上司と部下/取引先で商談中の営業マン/悩んでいる人/グラフや表組み/書類の束/ビルや建物/吹き出し(会話をしている)/コーヒー/筆記具/スマホ/観葉植物・・・などなど)
    ↑トラブル感は特に演出せず、言葉の力のおかげで、皆が個性を発揮しイキイキと働いている感じにしたい。

  2. 上部にはタイトルを入れられるように、幅広のリボンでスペースを空けて

  3. いただけたら(↑と同じような感じです)”

というものでした。

これが実際に提出したラフイラストになります。提出の段階ではリボンを吹き出しにアレンジしています。


画像
当初案


しかし、こちらのラフイラストへのフィードバックのタイミングで、構図やキャラクター表現についての大きな修正が入りました。人物を愛らしく描きたいとの意図のもとで、キャラクターを動物に置き換えるというディレクションがあり、それに従って描き直したものが最終的な装画となっています。

当時のメールでの指示内容は
”いろんな人がいて、みんな個性も才能もバラバラだけど必死に頑張ってる、愛おしい感じに仕上げられたら…です。”
というものでした。

「人間を動物に置き換えて描くこと自体に差別意識を感じなかったか」という疑問が当然あると思います。前提として、読者の背景理解の後には皆がいきいき働ける未来があるというポジティブなテーマが前提の装画制作であり、編集者との具体的なやりとりに差別的な意識は感じていなかったため、「あり得ない」とは感じずに受け入れました。しかし、ポジティブな印象とは別に、表象レベルで批判され得る可能性を孕んでいるという自覚も一方にありました。しかし、テーマや変更意図がポジティブなのだからと指示に従いました。
ここは多忙のためという言い訳になりますが、編集部とコミュニケーションを取る労を惜しんでしまったという実感もあります。出版社や著者の表現や発信意図については、そもそも書籍にまつわる課題について深い理解のない私が言及することは出来ません(そこは無知や勉強不足を認めます)が、表象が示す危うさを感じつつも制作を進めたことは認めます。また以前に一緒に仕事をしたことがある方で信頼感もあったとは言え、この図案変節の時点で、全体の構造や影響を見通す力、制作チームでのコミュニケーションを厭わない態度が不足していた点を深く、そして最も反省しております。

このような形で発信することが正解かどうか、私にも分かりませんし、事実とニュアンスの両面に於いて正確にお伝えし切れていないこともあるかもしれません。しかし、今回の表現によって心を痛められた方がいるという事実を受け止め、描いたものに責任を持つイラストレーターとして、経緯の説明や反省点、考えを示すことが必要だと感じ、この記録を残すことにいたしました。

いただいたご意見は今後も真摯に受け止め、よりよい表現のあり方を模索し続けたいと考えています。

                        
                        イラストレーター・芦野公平

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コメント

3
・桔梗
・桔梗

私、診断済のアスペです。普段全く話題にならない発達障害がトレンド入りしてて何だ何だ?と確認したら…。
人を人以外のモノに置き換えたのは悪手だったなあと思います。イラストそのものは可愛いんですけど。
アスペはロボットや宇宙人に置き換えられたり当人がソレを自称しちゃったりがママあるんですが
個人的にはソレは前提自体をずらし、本質を掴む事から離れてしまう行為と考えています。
ただ同時に、コンビニなどで気軽に手にして読むタイプの本?だからそんな真面目に捉えるのは多分定型さん的には違うんだろうなあと思ったりもしてます。
今この瞬間は凄くXで騒がれていますし、騒動の根幹がよく分かってない人をチラホラ見掛けました。
騒ぎの元はイラスト?みたいな。
主さん、ご自愛下さい。

だれだ
だれだ

当初案がとても素敵でびっくりしました。躍動感があって誰もが楽しそうに仕事に取り組んでいて、非常にポジティブな印象を受けました。どうしてこんなに魅力的な絵に修正を入れてまであの表現に変えたのか、不思議でなりません。

そして修正で、みんな背景がバラバラで個性があることを示したいだけなら何故「人」と「人外」に分けてしまったのかも疑問です。
「一方は人間だが、もう一方はあるカテゴリーに属するだけで人ですらない」という強いメッセージとして受け取られても仕方ないと感じます。
もし全員を動物にしたとしても、それぞれどんな動物に例えるかで恐ろしく悩むような内容です。それほどデリケートなものなのに…。
ある特定の属性を括って人外にした絵に、さらにそこに「はびこる」「困った人」等の一方的で偏見に満ちた侮辱の言葉が差し込まれた合わせ技でエグい差別表現になっていて、イラスト担当の方が意図したことではないにしても本当に残念です。

今回のことは言葉で上手く表現できないほど悲しいですが、これからは芦野さんの当初案のような素敵な作品を見られることを楽しみにしています。

らいんむぎむぎ
らいんむぎむぎ

このタイミングでしっかり発信してくださったことに覚悟を感じます。
諸案の形で、挿絵も含めて全て人物であればイラストに関しては問題視されなかったであろうと思います。

1点言うとすれば、折角最後が「心を痛められた=傷つけた」という表現を使われているので、冒頭の「ご不快な思い」も同様の表現にされた方が良いのではと思いました。
(ご不快という言葉が出た時点で閲覧者が見るのをやめてしまう可能性がある為)

今回はディレクションされた装丁(文字含む)・挿絵も勿論大きな問題ですが、本書に関しては目次から読み取れる内容である、"診断できる立場ですらないのに"【診断名と行動を紐付けて偏見とスティグマを増長させる】書き方をされている事が問題の本質と思っています。そしてそれを良しとしている方がディレクションしたことにより、本件も悪質な表現にならざるを得なかったと感じます。

著者の内容が真っ当で、そしてディレクションも真っ当であれば、本来の生き生きとしたポジティブなイラストが見れたであろうことに悲しみを感じます。

素晴らしいクリエイティブが、もっと真っ当な形で我々の目に届く事を願っています。

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イラストレーター、TIS会員。出版、広告、プロダクト等にイラストレーションを提供してます。
装画に関するご報告と経緯のご説明|芦野公平
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