【第31回】<補適法第20条解説>:「交付停止・相殺・強制徴収」は行政処分そのものだ
本記事では、補助金適正化法第20条──**返還命令後に補助金を返さなかった場合にとられる「交付停止」「相殺」「強制徴収」**という行政手続について解説します。
今回も、『補助金適正化法解説 全訂新版(増補第2版)』の内容を参照しながら、私たちのケースに照らして考察します。
これらは、単なる私法上の返還請求とはまったく異なり、行政による強制的な制裁措置であることが明記されています。
それにもかかわらず、被告(中小機構)は「返還命令は行政処分ではない」と主張しています。
しかし本条の構造とその運用を見る限り、**補助金返還にまつわる一連の手続きは、明らかに“処分性を有する行政行為”**であると断言せざるを得ません。
第20条の概要:「交付停止」「相殺」「強制徴収」の3段階
補助金適正化法第20条では、返還命令を受けた補助事業者が納付しない場合に、次の手段をとることができます:
① 交付停止
未納付の補助事業者に対し、「同種の事務・事業」に関する今後の補助金交付を一時停止。
② 相殺
未納の補助金がある場合、別の交付予定補助金から差し引いて補填。
③ 強制徴収
それでも返還されなければ、国税滞納処分に準じた強制徴収が可能とされています。
ポイント:これは民法上の不当利得返還請求ではない
この制度の構造を見ると、「補助金返してね」と任意でお願いする私法的な請求ではないことは明らかです。
特に注目すべきは次の点です:
交付停止・相殺・強制徴収は、行政機関が一方的に発動できる制裁的措置。
それぞれに明確な行政裁量と手続が伴う。
最終的には強制徴収=処分性のある行政執行です。
これは「私法上の不当利得返還請求」として訴訟で争うべき性質のものではありません。
あくまでも、「行政処分」としての違法性を問うべき対象なのです。
私たちの訴訟と第20条:処分の連鎖構造
私たちが受けたのは、「交付決定取消通知」「返還命令」「加算金」「延滞金」、そしていずれ交付停止や相殺が発動される可能性のある構造でした。
この一連の行為は、
通知形式で発せられる(裁量あり)
相手方に法的義務を課す
履行されない場合、行政が一方的に強制徴収
という流れで繋がっています。
つまり一つひとつが処分であり、連続した“行政手続の流れ”として成立しているのです。
被告の主張「これは処分ではない」に反論する
被告(中小機構)は、返還命令を含む一連の行為が「行政処分ではない」と主張し、行政訴訟ではなく民事訴訟によって争うべきとしています。
ですが──
返還命令には**加算金・延滞金(行政罰的性質)**が付属
納付がないと交付停止・相殺・強制徴収が発動
その全てが行政裁量に基づき一方的に行われる
もはやこれは、**「国による徴税に準じた行政執行」**です。
単なる契約の解除や、私法上の利得返還ではありません。
処分性がないなどという主張は到底認められるものではないのです。
終わりに:「税金の執行に準ずる」ということの重さ
補助金返還において、加算金・延滞金が課され、交付停止・相殺・強制徴収に至るという構造は、「法に基づく行政の制裁」です。
その中核である「返還命令」が行政処分でないという主張は、もはや法理に対する挑戦に等しいと思います。
次回以降も、法に基づいた行政のあるべき姿と、補助金行政の実務がどれほど乖離しているかを引き続き明らかにしていきます。
📌次回(第31回)は、まだ当社側からの答弁書を裁判所に出したてということで、裁判に動きはないことから、引き続き補助金適正化法における「告示・告発・不正事案情報共有制度」など第21条以降の規定に触れながら、制度全体の構造と補助金取消実務の問題点を俯瞰します。
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