NHK大河ドラマ『べらぼう』第3話考察レビュー。横浜流星”蔦重”の才能開眼…その成功に不穏な表情を見せたのは?
駿河屋(高橋克実)の本心は
常にツンツンとした態度の亀菊は(大塚萌香)はワサビ、性格にちょいと難ありの志津山(東野絢香)は葛花(クズ)、客を腹上死させるほど床上手な常盤木(椛島光)は有毒植物のトリカブトで、無知な勝山(平館真生)はくちなし、日向ぼっこが好きな嬉野(染谷知里)は太陽に向かって咲く向日葵。 ミュージカル女優・木下晴香が演じる玉川がタンポポに見立てられていたのは、その美しい歌声が聴く人をふわふわと夢心地にさせるからだろうか。まあ、よく考えたものだ。それだけポンポンと「この女郎はこの花!」とアイデアが思いつくのは、蔦重の観察力が優れているからこそ。 蔦重は女郎たちを商品として見ていない。ちゃんと人として接し、相手がどんな性格で、何を思い、どういう状況にあるのかを把握しようとしている。上部だけじゃない、真のコミュニケーション能力を持っているのだ。だから、客商売も上手だし、将来的に喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎など、次々と新たな才能を見出していくのだろう。 駿河屋が手放したくないのも分かる気がする。実の息子である次郎兵衛(中村蒼)は、人は良さそうだが、やる気がなく、あまり商売向きではない。だから、いずれは蔦重に自分の跡を継がせるつもりだったのだろう。蔦重は「拾われっ子の自分が好き勝手するのが気に入らないのだろう」と思っていたが、そうじゃない。駿河屋は本当の息子みたいに可愛く思っていた蔦重が自分の手を離れていくのが怖かったのではないか。 「可愛さ余って憎さ百倍なんて、お前さん。まるで人みてえなこと言ってるよ。忘八のくせに」という扇屋(山路和弘)の台詞に痺れた。彼にもまた、人を見る目が備わっている。他人に情は持たず損得感情で動く忘八には変わりないが、憎めない。ずるい。
蔦重の成功を快く思わない人間も
そんな扇屋の言葉に挑発させられたのもあるが、駿河屋の心を大きく動かしたのは完成した入銀本「一目千本」(ひとめせんぼん)だ。読み進めるうちに、自然と声に出して笑っていた駿河屋。「誰よりもこの町を見てんだね、あの子は」という妻・ふじ(飯島直子)の言葉に、誇らしくも寂しい、というような表情を浮かべる。それは立派な、人の親の顔だった。 前回の反省を生かし、吉原の馴染みの客にならないと手に入らないという条件で『一目千本』を売り出した蔦重。結果、吉原は噂を聞きつけ、本に興味を持った新規の客でごった返す。俗にいう、バズった状態。 ここまでの道のりは決して楽ではなかった。けれど、本作りの楽しさを知った蔦重は「大変なのに楽しいだけって、んな楽しいこと世の中にあって、俺の人生にあったんだって…。何かもう、夢ん中にいるみてぇだ!」と飛びっきりの笑顔を見せる。今回、蔦重は資金集めから、企画、編集、製本、販売まで全てをこなし、一から本を作った。ついに版元としてデビューしたわけである。 それが気にくわないのが、鱗形屋。「次はどうする?」と焚きつけたのは鱗形屋だが、まさか蔦屋が全部一人でやるとは思わなかったのだろう。もちろん、鱗形屋のところにお金は一切入らない。しかも、今回の成功を経て蔦重が出版業に乗り出す可能性だってある。そうなったら商売敵だ。険しい顔つきになるのも無理はない。 さらにラストでは、徳川御三卿の田安家当主・治察(入江甚儀)が何者かに暗殺されたと見られるシーンが。ライバルに当たる一橋家の当主・一橋治済(生田斗真)が不穏な表情を見せる。 治済といえば、本作と同じく森下佳子が手がけたNHKドラマ『大奥』(2023)で、次々と邪魔者を毒殺する“サイコパス”として描かれた人物。仲間由紀恵の怪演ぶりも大きな話題となった。生田も負けじと不気味なオーラを纏っている。ここから大きく時代が変わる…そんな予感が漂うラストだった。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子