万博イヤーをターゲットに数々の再開発プロジェクトが進行中の大阪。現場をぐるりと覆う仮囲いの向こうでどんな工事が進んでいるのか。あるいは、姿を現した新たなランドマークはどのように街を変えていくのか。ここでは「巨大タワー」を鍵に、新刊『関西大改造2030 万博を機に変わる大阪・京都・兵庫』から紹介します。第2回は「淀屋橋駅前」編です。(記事は同書のベースとなった日経クロステックの記事を転載・一部変更)
再開発プロジェクトが目白押しの大阪市中心部を南北に貫く幹線道路の御堂筋沿いで、2025年5月の竣工を目指す新たなオフィスビルの建設が佳境を迎えている。中央日本土地建物と京阪ホールディングス、みずほ銀行が共同開発するオフィスビル「淀屋橋ステーションワン」だ。淀屋橋駅(京阪本線、大阪メトロ)の真上に立つ、高さ約150mの巨大タワーである。開業は25年夏ごろを予定する。
御堂筋を挟んで向かい側では、大和ハウス工業など別の事業者が開発を進める高さ約135mのオフィスビル「淀屋橋駅西地区市街地再開発(仮称)」も建設中。2棟合わせると、計約11万1500m2の賃貸オフィススペースが生まれる。この2棟で御堂筋の玄関口を象徴する新たなゲートタワーを形成し、伝統的なビジネス街である淀屋橋エリアににぎわいを生み出すのが狙いだ。
淀屋橋ステーションワンの場所は、御堂筋と土佐堀通の交差点に面する南東の角地だ。敷地面積は約3940m2で、事業者が所有していた2棟の旧ビルを建て替える。新しいビルの延べ面積は約7万3000m2。地下3階・地上31階建てで、構造は鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造。設計・施工は竹中工務店が担当している。
計画のポイントは市から都市再生特別地区の指定を受け、容積率が通常の1000%から1600%に緩和されたことだ。増えた容積率は、地域の活性化につながる「都市貢献」の用途に使う。
地下2~3階は駐車場で、地下1階は京阪電気鉄道や大阪メトロの淀屋橋駅と直結する。そこから地上2階まで、エスカレーターで移動できる立体的な多目的広場と商業施設を設ける。
オフィスロビーは地上3階で、4~29階がオフィスフロアになる。10~11階にはコワーキングスペースや入居者向けのラウンジなども設ける予定だ。30階には大阪の街並みを一望できる展望テラスやギャラリー、商業施設の誘致を計画している。
竹中工務店大阪本店設計部設計第5部長の米津正臣氏は、「オフィスだけでは休日に街が閑散としてしまう。低・中・高層部にそれぞれ商業などの機能を挿入することでオフィスワーカーの多様な働き方を支援しつつ、駅直結の利点を生かした街とつながる多目的なビルを目指す」と語る。米津氏は高さ約300mの超高層ビル「あべのハルカス」(大阪市、14年竣工)の設計を手掛けた実績があり、超高層ビルの建築設計には定評がある。
多機能をシンプルに納める
淀屋橋ステーションワンは24年9月に上棟した。現在は内外装工事などを進めている。記者は同年11月中旬に建設現場を訪れる機会を得た。写真や完成イメージと共に、建物の特徴や工事状況を見ていく。
ビルの外観は、水磨き仕上げの花こう岩を外装材に用いた格子状のデザインが特徴だ。素材や色味は、市が掲げる御堂筋デザインガイドラインに基づいて決定した。
基壇状の低層部は高さ約50mで、御堂筋沿いの街並みと連続性を持たせている。かつて御堂筋沿いの建物には軒高31mまでの制限(百尺制限)があり、1995年には50mまで緩和された。現在は建物のセットバックに応じて、さらなる緩和措置を受けられる。
格子のデザインは見付け幅が700mm。シャープに見せるため、外周柱は見付け幅を500mmで統一している。低層部と高層部が接続する9階部分には設備スペースを設け、御堂筋に面した西側の外周柱を立体的な3つ又状にして柱位置を切り替える。構造・設備計画上の要となる部分を集約した。
商業施設が入る地下1階から地上2階部分には大きな吹き抜けを設け、イベントなどにも利用できるようにする。にぎわいをつくり、淀屋橋駅の利用者をビル内に誘導する。耐震性能を効率よく、かつ省スペースで高めるため、制振装置を2層2列で集約配置する「ダブルレイヤー制振」を新たに開発した。
4~29階のオフィスフロアはコアを東側に集約し、フロア面積を低層部で約1930m2、高層部で約1600m2確保している。天井高は2.9mで、システム天井を採用。床はOAフロアだ。執務スペースは外周柱のアウトフレーム構造により、低層部で約19mスパン、高層部で約15mスパンを無柱にし、随所に配置した制振装置で耐震性能を高めている。オフィス入居者は10階のワーカーラウンジを利用でき、リフレッシュや打ち合わせなどに活用できる。
窓ガラスにはLow-Eペアガラスを採用し、熱負荷を低減。オフィス専有部の窓まわりには自然換気装置を設けた。取り込んだ外気は、コアに設けた吹き抜け空間「エコボイド」から重力換気で排気する。これで1時間に約2回、自然換気ができる。窓枠上部の自然換気装置にはペリメーター空調機と組み合わせた「ミキシング自然換気」を導入し、従来より広い温度帯で自然換気が行えるようにした。
昼光センサーによる調光制御や全熱交換器付き外調機の採用、コージェネレーションシステムによる排熱利用など、建物全体で省エネを実現する。建物の環境性能と利用者の快適さを高めたオフィスの証しとして、1次エネルギー消費量基準(BEI)は0.59を達成する。他にも「CASBEE-建築(新築)」Sランクや、オフィス部分は1次エネルギー消費量を40%以上低減する「ZEB Oriented(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル・オリエンテッド)」認証などを取得する。
30階の展望テラスは一般利用が可能になる。市内の街並みを一望できる。中之島や御堂筋の観光・文化情報を発信するギャラリーや商業施設も整備する。
竹中工務店の米津氏は、「淀屋橋エリアのオフィス街をアップデートする中核施設として、いろいろなアイデアを盛り込んだ。完成が楽しみ」と語る。
[日経クロステック 2024年11月22日付の記事を転載・一部変更]
川又英紀ほか(著)、日経クロステック、日経アーキテクチュア(編)、日経BP、3520円(税込み)