「うわぁ……すっごい上がり幅だねぇ…」
「そうなんですか、ハルティア様?」
冒険都市オラリオ────その隅にある寂れた屋敷。
その屋敷こそが新興ファミリア、
オラリオに来た当初、ほぼヴァリスを持っていなかった二人組はまともな住居を借りる事ができず、この寂れた屋敷を借りる事になったのだ。
「はい、これがシア君のステイタスだよ」
シアのステいタス更新を終えたハルティアは、サラサラと羊皮紙に書き写し、シアに手渡す。
シア
Lv.1
力:G203→F345
耐久:H128→E401
器用:H102→G211
敏捷:F314→E401
魔力:I0→l0
【魔法】
【スキル】
【
・対象負傷後、苦痛と引き換えに再生
・対象の負の感情の丈により効果向上
【
・
・対象の身体器官の複製。
・力、耐久のアビリティ中補正
・対象のレベルの丈により効果向上
(トータル600オーバー………!)
下界に降りて一ヵ月の未熟な女神でも分かる。
────明らかに異常だ。
通常の冒険者なら一度のステイタス更新で此処までは伸びない。
何週間も更新をしていなかったのならまだ分かる上昇幅ではあるが、ダンジョンから帰ってくるたびに私達は更新をしている。
こんなに上がる事は今まで無かった。
つまり────シア君は何かしらの
「────シア君」
唐突に、ギュッとシア君を抱きしめる。
「どうしました?ハルティア様」
「無茶だけは、しないでよ────死なないといっても痛いし、苦しいんだろう?君が無茶をして傷付くのを、私は望まない」
「……分かってる、無茶なんてしませんよ」
その言葉を聞いて安心した。
「……なら、良いんだ」
私の初めての眷属は、辛い過去を持った子供だった。
ようやく幸せになれそうなのだ、此処からなのだ。
「英雄を目指すのも良いけど、先ずは自分の事を最優先にね!」
「……はい!ありがとう、ございます」
「うんうん♪それじゃ、明日も早いしもう寝よっか!」
この様子なら、上手くやっていけるだろう。
危険渦巻くダンジョン────そこに潜る冒険者の一人である自身の眷属。
そんな眷属の幸福と無事を祈りながら、その一日を終えた。
ステイタス更新をしてもらった翌日、僕はバベルの武器屋に訪れていた。
内装は綺麗で、暖色の照明がショーケースの武器達を照らしている。
(うわー、どれも高いなぁ、流石はヘファイストス様の武器だ────)
鍛冶の女神、ヘファイストス。
探索系のファミリアの多いオラリオにおいて数少ない製作系ファミリアの一つ。
ヘファイストス・ファミリアの主神。
眷属達の腕もさる事ながら、
製作された武器の性能も、その値段も。
今日此処に来た理由は武器を買う為だ。
あの日、ウォーシャドウとの戦いで使用していた剣がかなり傷んでしまった。
森林の頃からの剣で、使い慣れた物ではあったがこればかりは仕方がない。
買い替えの時が来たのだ。
(理想は……以前よりも軽く、剣身の短い物…)
ウォーシャドウとの戦いで、僕は全く攻撃を当てる事が出来なかった、それこそ【
攻撃を当てられなかった理由として、剣の剣身が長く振るのに時間がかかりすぎる事。
その欠点を補う目的で、剣身の短い剣を探しているのだ。
(理想は普通の剣の半分の長さのショートソード……お、)
目に入ったのは、銀色のショートソード。
程よく短く、振りやすそうで、何より手に馴染む。
試しに振ってみれば、速く、鋭い剣筋を描けた。
(決めた、これにしよう)
値段は25万ヴァリスと少々高めだが、今の持ち金なら買えないこともない。
「これ下さい」
「はーい」
ところで……あそこの二人、何でさっきから
「やったッ!!やったやった!!売れましたよ、私の可愛い
「ああ!ようやくお主の武器が売れたか、長年あの棚に眠っていた武器が売れたと思うと、感慨深い物があるな!!」
シアに視線を向けていた二人組、それはヘファイストス・ファミリアの団員達であった。
二人のうちの一人は、オラリオでも指折りの実力者である一級冒険者────【
すぐ隣ではしゃいでいる弟子────シャウリンの勇姿を見届けようと、このバベルの武器屋に顔を出したのだ。
「しかしシャウリンよ、中々良い冒険者に買ってもらったな!」
「は、はい?」
「武器を買ったあの童、歩く際の足運びに、試し振りをした際の力強さ……手前が断言しよう、奴は大成するぞ」
「そうなんですか!?唯の少年にしか見えなかった…」
「ハッハッハ!!シャウリンもいずれ分かるようになる物だ」
「分かるように……なれるかなぁ……?」
うんうんと唸っているシャウリンを横目に、久々に見る将来有望な冒険者に椿は心を躍らせた────
「しゃあああ!!」
「ガァァァ!?」
ダンジョン7階層。
シアは早速自身の購入したショートソードを試していた。
試す相手はウォーシャドウ。
スキルを使えなければ、確実に負けていた相手だが、今のシアにとっては過去の話だ。
「
たった今、13体目のウォーシャドウの首を刎ねた。
あれだけ苦戦したウォーシャドウですら、今のシアにとっては脅威でない。
(すごい……ウォーシャドウ相手でも苦戦していない!)
最早この階層に敵は居ない、武器は新調した。
ステイタスは足りている、となれば……
「………先に進むか……」
以前進もうとして辞めた、10階層へ。
────その脚を進めた。