ラグナロクが終結し、創造の力を得たレナス・ヴァルキュリアにより、世界は再生された。
神界アスガルドはレナスと生き残っていた一部の神々により再建され、またルシオ等、神界に送られて神格を得ていた一部のエインフェリア達は転生することなく、レナス達と共にアスガルドで生きていくことを選んだ。
彼らは神々と共に人間界ミドガルドに危機が及ばないよう監視し、以前の戦乙女ではないが、死者の魂が迷うことのないよう導く等、平和を保つために世界を見守っている。
そんな中、エインフェリアの中でも屈指の戦闘力を持った元傭兵 アリューゼは転生して新たな生を受けることもなく神界に残るが、相変わらず鍛練を行い腕を磨いているだけであった。
現在でも下界では時折、不死者等の冥界の勢力によるミドガルドへの侵略が発生しており、そんな時は元エインフェリア達が人々を守る為に闘っていた。
もちろんアリューゼもこれらの戦闘に参戦し、多大な戦果をあげる等活躍してはいるが、神界におけるこれといった職務ももたずに過ごしていた。
今日も今日とて鍛練の為セラフィックゲートにおもむき、異次元の怪物達と死闘を繰り広げて帰還すると、レナスから呼び出しを受けた。
レナス「急に呼び出してすまないな。アリューゼ」
アリューゼ「かまわねえよ。で、どうしたってんだ…?」
レナス「…これまでも何度か話をしたが、お前の今後の生き方についてだ」
アリューゼ「……あぁ」
レナス「どうするのか、考えはまとまったか?お前には変わらず助けられてはいるが、このまま神界で生きていくつもりもないのだろう?」
アリューゼ「…確かに、生きていたころも、死んじまって神界にいる今も、俺のやってることは変わらねえ。戦って戦って、敵を斬りすてるだけだ…。それ以外のことはせずに。だが、現在はまだまだこの力も必要なはずだ。違うか?」
レナス「……その通りだ。確かに戦力としてのお前の力は強大で、頼りにさせてもらっている。だが、…」
アリューゼ「…まあ、ヴァルキリーが言いたいこともわかっちゃいるんだ。お前が目指すのは俺みたいな存在が不要な世界だろうからな」
レナス「嫌な言い方をするな。この先どのような世界になろうとも、私達にとってお前が不要になることなどない。それに…おそらく神も人も、当分は争いと無縁になることは難しいだろう。またいつロキやオーディンのような神が現れるかもわからない。そしていつの間にか行方をくらましたレザード・ヴァレスも恐らく生きているだろう。ヤツはまだ野望を諦めてはいまい。そういった者達に対する力は、お前の言う通りまだまだ必要だ」
アリューゼ「だったら、今の俺みたいなのが一人くらいいてもかまわねえだろうよ。なんだったら新しく軍隊でもつくるか?できる限りのことはさせてもらうぜ」
レナス「武力ならば、十分に間に合っている。それに、数にモノをいわせた戦いなど、犠牲者を増やすだけだろう。神々でそのようなことやりあうのは…もうたくさんだ。
違うのだ。アリューゼ。そういうことではなく、私はお前にも、己で確と定めた道を歩んでいって欲しいのだ。現在は状況に流されるまま剣をふるっているだけではないのか?それに、…どこか自棄になっているようにも見える」
アリューゼ「………」
レナス「あの後もこうして神界でお前達エインフェリアと共に生きていけるのは嬉しい。転生した者達にも幸せに生きて欲しいと願っている。
戦いこそが己の生き方だというのならばそれもかまわない。だが、過去の戦いに、戦乙女に縛られるような生き方はして欲しくない…」
アリューゼ「…ああ」
レナス「私だけではない。ジェラードやロウファやカシェル達も、皆お前を案じている。
…………何か思うところがあるのならば、話してはくれないか」
アリューゼ「……正直、俺もよくわからねぇ。気持ちは死んじまったあの時から変わってねぇはずなんだ、ヴァルキリーについていくことを決めたときから....。エインフェリアになって神々の戦争とやらに兵隊として参戦するよりもお前に付き合っていた方が面白そうだった。だから神界に行くこともあの時は拒んだ」
アリューゼ「戦いが終わって、転生して生まれかわることを話されたときは、神界に残ることを選んだ。だが俺は
アリューゼ「
だから、あの時は本当に現世に未練なんざなかった。
まあ、罠にはめられてジェラードを救えなかった時点で、俺もロイの人生も何かの形で終わってたんだろうからな。そう、《ここにいる》俺の人生はな」
レナス「!…アリューゼ、お前、…」
アリューゼ「いつだったか、亡失都市ディパンで大昔に飛ばされた時、バルバロッサ王の公開処刑をする戦乙女とそのエインフェリア達をヴァルキリーを通して見たことがあった…。
あの中にいた、俺にそっくりな男……恐らく俺の前世なんだろう…。あれを見たときに痛感したぜ。やっぱりいつの世も俺には
レナス「……」
アリューゼ「別に悲観しているわけじゃない。今だって俺の力が必要とされることに喜びを感じる部分もあるし、戦場で倒れるなら本望だとも思う。…だが、戦いが終わって、転生してまた別の人生を送ることができると聞かされた時に、少しだけ虚しく思うというか、不安に感じる自分もいたんだ。
……どうせまた同じことの繰り返しになるんじゃねぇかってな。なら俺みたいなのは、神界で生きていく方が…人間達の世界には不要な存在なんじゃあねぇかって、少し思っちまったのさ」
レナス「…お前の不安もわからないではない。確かに争いの歴史は繰り返され、だからこそ私達戦乙女も封印と覚醒を繰り返しながら人間達と関わってきたのだから。
しかしその中で平和な時代が全くなかったわけではない。それに、ミドガルドが乱れ始めたのはドラゴンオーブが失われたこと等も関わっていたのだ。
そして今や人間にも、神々にさえ、様々な可能性がうまれたのだ。今すぐとは言わないが、諦めずに自分の生き方を模索していって欲しい。そして神界にもお前の居場所があることを覚えておいてくれ」
アリューゼ「ああ、ありがとうよ。心配かけてすまなかったな。改めてもう少し考えてみるさ…」
アリューゼは少し気まずそうにその場を後にした。
レナス「…アリューゼ…」
〜〜〜
アリューゼ「さて、どうするか…」
その後、アリューゼは宮殿の外で一人たたずんでいた。自身の現状について、これまではあえて深く考えないでいた。というより、目を逸らしていた部分もあっただろう。「己がどう生きるべきか」正直、また違う人生を歩むのも面白いだろう。しかし先ほどレナスにこぼした不安が拭えず迷っている。人間界での生を全うしたこの身で、まさかこんな課題にぶち当たることになるとは。元々思慮深い訳でない自身が、である。もはや滑稽にすら思えたアリューゼは自嘲ぎみに笑った。
メルティーナ「アリューゼ。ここにいたのね。レナスとは何の話だったの?」
そこに、戦友である魔術師のメルティーナが現れる。彼女は現在、レナスの元で生前と同じように魔導の研究に没頭していた。
アリューゼ「…なんだよ急に。別に大した話じゃない。まあ簡単に言やぁ、いい加減シャンとしろ、みたいなことさ」
メルティーナ「ああ、転生して生きるかどうこうみたいなヤツ?確かにアンタだけハッキリしたこと言ってなかったものね。にしても、まるでレナスったらアリューゼの母親ね」
茶化すように、というか明確にバカにしたような口調で話す。神格を得てもこの女のこういうところは相変わらずだ。
アリューゼ「…ウルセーな。そういやお前はどうなんだよ。ラウリィやジェイルみてーに転生して生きなおそうとか考えなかったのか?」
メルティーナ「全然!元々ヴァルハラに来たいなんて考えてたしね。それにここでも存分に魔法の研究はできるし、充実してるわ。
何より、いけすかないメガネ男も口うるさい教師ももうここにはいないものね!それに、神界から見る人間界の営みも案外楽しいものよ。いっそこのまま神様になれちゃったりしないかしら?」
アリューゼ「お前さんが神様ねえ…。まあ確かに気楽ではあるよな、
メルティーナ「何よ、文句あんの?私は自分の欲求には素直だけれど、レザードみたいにその為ならなんでもなんて考えないわよ。今となっちゃあね。
……アンタさ、正直どう考えてんの?気楽で良いところってのは同意するけど、なんかアンタ見てると物足りてないみたいに感じるのよね」
アリューゼ「物足りない、か。考えたこともなかったが、もしかしたらそうなのかもな…。本当は新しい人生ってのにも興味はある。変な言い方だけどな。
だが、今の生活に不満もない。わざわざ人生やり直すってのもなんか違う気がしてな。踏ん切りがつかねぇんだよ」
アリューゼ「(そうか、俺は…結局まだこの力が必要とされている現状に、甘んじてるだけかもな)」
メルティーナ「…やっぱりアンタちょっとおかしいわよね。力押しばっかりかと思ったらけっこうゴチャゴチャ考えてるし。そんなに自分の考えてることひけらかすヤツだったかしら?
まあ、脳筋拗らせるよりはマシかもだけど」
アリューゼ「…そうだな、ガラにもねえ。ペラペラとおしゃべりが過ぎたぜ。俺はもう寝る。そんじゃあな」
メルティーナ「待ちなさいよ。アンタさ、結局新しい人生ってのにビビってんじゃないの?今までの自分を捨て切れないみたいに思ってたりとか?繊細なのは時に美徳だけど、似合わないわよ。
…でも気持ちはわかるわ。せっかくここまで生きてきて、それを捨ててやり直すなんてもったいないものね。違う?」
アリューゼ「…どういうことだ?」
転生というのは生まれ変わり、新たな生を与えられるということ。そして今までの魂は浄化され、姿形が似ていることはあっても基本的には全く違う自分として生きていくことになる。
メルティーナ「私が転生を選ばなかったもう一つの理由はね、せっかく得た知識や経験をあえて捨ててまた人間界で生きていくメリットが全くないから。
むしろもったいないとすら思うわね」
アリューゼ「もったいない、…か」
メルティーナ「そうでしょ?例えば、現在の地上には恐らくアンタ以上の戦士なんてそうそういない。そこまで鍛えぬいた戦技も、転生したらまた失われて一から身につけなければならなくなるわ。必要かどうかは別でしょうけどね」
アリューゼ「確かにそうだろうが…、何が言いたい?」
聞きながらもアリューゼにはなんとなく察しがついていた。この女がこのタイミングで話かけてきたのは何か目的があってのことであり、口振りからしてまるで自分に何かをちらつかせるかのような、勿体つけるような言い方をしている。何か手段があるぞとでも言いたげだ。
そんな元戦友に若干の苛立ちを覚えたが、この苛立ちの正体は自分自身に対しても感じているものかも知れない。確かにアリューゼはロキを撃破し、戦いを終えてからも神界で鍛練に励んでいた。己にはこれしかない、等と言い聞かせてきたつもりだったが、もしかしたらそれは弱くなることへの恐れがあったのをごまかしていたのか?会話しながらもそんな自覚が芽生えたアリューゼは自己嫌悪に陥った。いくら力と技を高めようが結局「弱さを恐れる」という己の「心の弱さ」を、現在に至るまで全く克服できていなかったのだ。
そんなアリューゼに対してメルティーナは返答する。
メルティーナ「転生には興味があるけど、今の自分を捨てたくない。…そんなワガママを叶えられるかも知れない…って言ったらどうする?」
セラフィックゲートは神界にあるダンジョンというようなイメージです。アリューゼが行く時はもちろん単独ですのでボスと闘ったり等の無茶はしていないでしょう。
そしてメルティーナのヴァルキリーに対する呼び方もレナスとなっています。
他にも読んでいただいた方は「?」ってなる部分が多分にあったと思いますが、作者の妄想や独自解釈がこれからもたくさん出てくると思いますので、ご了承ください