仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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第四十話 虚黄実帰

Side =グロリア=

 

「2……1……明けましておめでとう!」

 

「「「「イエーーーーーーーイ!!!!」」」」

ロクオウの掛け声とともに私達は各々グラスを合わせた。

何か私だけジュースなのも癪だが、未成年だし仕方がない。

寧ろオーカスが酒を呑んでいると言うことで二十歳以上なのかと驚いてしまった。

確かに大学生くらいだとは思っていたけど、もう成人していたんだなんて感慨深く思っていた。

しかし、当の本人は皆で一緒にお祝いの声も上げず、何かを見て手にグラスを持ったまま固まっていた。

何か情報が入ったのかと視線を向けた途端、オーカスはグラスを思い切りテーブルに叩き付けた。

 

「明けましておめでとう……なんて言ってる場合じゃない!!」

 

ただならぬ様子に全員がその方を向き、早速酔おうとしていたロムは自分のハンマーで頭を叩き意識を覚醒させ、口を開いた。

「どうした、オーカス」

「今、緊急で入った情報だ」

「まさか、あのお方が動いたの?」

嬉しそうに聞くアシュレイだったが、オーカスは被りを振るとこの前繕われたばかりの隠蔽極特化型の真っ黒なコートを羽織った。

 

「第四十四層主街区付近の草原エリアで大規模な殺人が行われた」

 

その場にいる誰もが眼を見開いた。

「それなら、あのお方がやったことじゃないのー?」

「目撃情報によれば犯人は複数。つまりあの方である可能性はない」

為る程、と納得したところで次の指示を仰いだ。

「今聖竜連合が付近の調査を行い、血盟騎士団が応援に向かっている。取り合えず俺とグロリア、ロクオウはその場所に向かう。他は留守を頼む」

全員が音もなく頷いたところでギルドホームのドアを開け、一直線に転移門へと駆け出した。

「それとグロリア、一応その仮面は怪しまれるから外しておけ」

「了解」

鼻を覆っている部分に手を掛け、一気に上に持ち上げると仮面はあっと言う間に装備ストレージへと収納された。

「オーカス君」

今度はロクオウがオーカスに声をかけ、オーカスは相槌を打つ。

「もし、その犯人と遭遇した場合は……」

「情報を話すとは思えない。殺しても構わないな、グロリアは特に細心の注意を払ってくれよ」

その言葉にロカ・ルーハをはめ込みながら答える。

転移門を素早く操作して、第四十四層へと飛んだ。

 

==========

 

第四十四層はエリア全域が霧で覆われており、普段は閑散としているのだが、ちらほらと人が見え始めていた。

一応、オーカスの方が情報伝達が速いことがなんとなく分かった。

「ポイントは南西方向に行った場所だ」

「それにしても、大晦日にこんな場所に来ようだなんてその被害者達もモノ好きだね」

確かに私達でもあるまいしジャック様を彷彿とさせる霧のエリアに態々何の用で……。

「実は草原エリアには特定の時間になると霧が晴れる仕組みになっているんだ。そこから見える星空が綺麗って評判でね。穴場として結構高い情報代も付いてるんだ」

「どうりで」

そうこうしているうちに、目的の場所へと辿り着いた。

遠目で犯行場所を見るが、既に小さな人の輪が出来上がっており、話し合った結果私とオーカスが見に行くことにした。

ロクオウが人に視認され、その後に記憶が消えることになると混乱を起こしかねないとのことだ。

それ程人も集まっていなかったおかげで最前列に出ることが出来、その様子をしかと目に焼き付けた。

現実の様に死体が残っている訳はないが、そこにはいくつかの武器が無造作に打ち捨てられていた。

数を数えていると、横から小さな声でオーカスが言う。

「被害者はギルド全員だ。およそ十人前後って言ったところだろうな」

「全滅?」

「ああ」

血盟騎士団も到着し、遺品の武器が回収されて往く。

事の顛末を見守るプレイヤーたちは一様に「《殺人鬼》の仕業だ」と騒いでいたが、その言葉には両ギルド共に首を縦に振ることはなかった。

彼らも本能的に解っているのだ。

これは、ジャック様のする殺人ではないと。

ジャック様が今まで狙い続けた獲物の人数は基本的に一人。

それも、その殆どがギルドに所属していたり、攻略組に関係のないプレイヤーばかり。

こうした大規模な殺人を行うとは考えられなかったのだ。

それに、騒いでいる彼らはまだ犯人が複数人いたことも知らないはず……。

馬鹿騒ぎを一瞥して周りのプレイヤーを見ていたのだが、あるところで視線が止まった。

三人組のプレイヤー。

各々憐れむような視線を向けてはいるが、そのどれもが嘘。

 

――私だからこそ、気付いた。

 

気付いたことに気付かれぬようにオーカスに耳打ちをする。

何やらギルド所属なのか、肩やフードに棺桶の様なギルドマークが刺繍されている。

オーカスがロクオウに連絡を取り、三人がこの場から離れるのを待った。

しかし、ようやく大量のプレイヤーたちが現場へと押し寄せた事により、私とオーカスは離れ離れになってしまった。

ギルドメンバーであるから互いの位置は解る。

だが、私の方にあの三人の姿がうっすらと見えた。

と、言うことは彼らと反対側にいるオーカスを待っていると見逃してしまう危険性があるのだ。

素早くメッセージを打ち、私だけで三人を追う。

草原エリアを抜け、彼らに気付かれない様に後を追う。

私には気付いていない様子で、三人は呑気に笑いながら歩いている。

ついでに情報でも聞き出そうと思っていたのだが、笑っているだけで全く口を開こうとしない。

余程訓練されているのだろうと内心舌打ちし、仮面と《JtR》のギルドマークの刻まれた装備を装着した。

シィ・サリカとロカ・ルーハも構えて準備は出来た。

そう言えば、人を殺めるのは今回が初めてということになるな。

構えを取り、駆け出した。

瞬間、《隠蔽》スキルが解除され、三人の内二人がこちらを振り向いた。

取り敢えず、全員殺すだけだ。

思考を切り替え、ロカ・ルーハに光が奔る。

《旋棍》スキル広範囲斬撃技《紫電閃・正月(せいげつ)》。

自分の左足辺りから思い切り右上にかけて旋棍を振るう。

射程距離が伸び、気付かなかった一人のプレイヤーの胸を切り裂き、もう一人のプレイヤーの頭上を掠めた。

それを確認した瞬間に足を捻って身体を回転。

シィ・サリカによる裏拳、《半月》が逃げ遅れた男に突き刺さる。

止めにロカ・ルーハで腹部を切り裂けば、男はすぐに四散した。

「嘘だろ、この餓鬼……」

暗闇で正確に私の姿が把握できていないのか、震えた声で男が言う。

そう、先程死んだ男はランタンを所持していた。

周りには灯りが無くなり、男達はさらにパニックに陥ったのだ。

これを貰ってから言われたことだが、この仮面には暗視性能もついているようで、私には彼らの様子がはっきりと見えている。

その一人に視線を定め、《紫電閃》を発動。

懐に入り込んだところで男も気づいただろう。

声を出させない様に、下顎と上顎がくっつく様にシィ・サリカで貫いた。

漏れたのは僅かな呻き声だけ……上出来。

後は、ロカ・ルーハで《弓月》を放てばお終い。

残りは一人、ようやく落ち着いたのか松明を片手にこちらを睨みつけている。

しかし、何か変だ。

感情がないと言うか、向けられてくる怒りも嘘にしか見えない。

 

――まるで、『死』ですらも恐れていない様な……。

 

しかし、そんなことが有り得るのか。

人を死なさずして、人にこれほどまでの恐怖を与える方法……。

揺らめいた炎の中で、男は駆けだした。

私は応戦しようと構えるが、すぐにそれを解いた。

刹那。

男は後ろから頭を掴まれ、地面から足が付かなくなる程高く持ち上げられた。

焦って男が落とした松明をキャッチし、そちら側に向けると相変わらずごつごつとした筋肉質の《英雄》様がいた。

「え、何……何!?」

振り返れずただ足をバタバタする男に関せずロクオウは男の顔面を地面に叩き付けた。

私はそれを見て男の片腕を踏みつけ、ロクオウはサーベルを取り出すと男の首にサーベルを当て、偏に切り裂いた。

男の首から上が地面を数秒転がり、消えた。

周りに誰も居ないのを確認し、松明の炎の部分を旋棍で切り取って灯りを消すとロクオウの方を向いたが、どうやら《英雄》と言うのは暗がりでも十分に機能するようで互いに目配せをして外へと向かった。

道中、仮面と肩の装備を外してロクオウに手を引かれながら森林エリアを抜け出すと、そこにはオーカスが待っていた。

「お疲れ、収穫はあった?」

ロクオウから手を離して首を振ると、オーカスは顎に手を置いた。

「あいつら、余程訓練されてるのか何一つ話さなかったよ」

「俺もその情報は前々から解っていたんだが、下っ端ですらこれ程とは……」

珍しく悔しがるオーカスを見て、周りを見ていたロクオウが肩を叩く。

「兎に角、此処に用は無くなったんだからホームに戻ろう」

「……そうだな」

それからは無言で第二十層へと戻った。

もうすぐで旗揚げだと言うのにこの惨事。

もしかすると、私達と似た考えを持ったプレイヤー集団がいるのかもしれない。

それも、オーカスと同等の情報戦術に長けた者がいると言う厄介な連中だ。

まだ、追いつくことは叶いそうにありません。

でも必ず参ります、ジャック様。

 

Side =シンディア=

 

キリトの様子を見て、ジャックが上手く言ったんだななんて呑気に五回目の《LGL》獲得クエストに向かったが、今回も何やら様子が違っていた。

サラさんのいる小屋の扉が開いているのだ。

警戒しながら誰も居ないかを確認し、中に入るとサラさんの姿もそこには無く、テーブルの上に一枚の紙と空のお香が置かれていた。

紙とお香を手に取ると、その二つが消滅し背後に人の気配を感じた。

「あら、貴女……」

「あっ、すいません。開いていたモノで……」

つまりこれがイベントであると確信したわたしは即座に焦った様な反応をした。

「い、いえ……私も不用心でした」

そう言うと、サラさんは家でやることがあると言って外に出されたのだが、さて……。

いつもの様に切り株に座って紙を読む。

 

【魔性の美に取り憑かれた者が居た。】

 

【彼の者の真を見定めるには対と為る悪の中で光る命を持つ者の命を獲れ。】

 

【其の香りこそ、色欲を求める者の終点であり始点。】

 

【我が家宝も其の為に有ったのだろう。】

 

「随分と易しいヒントだけど、これじゃあ今度の敵は……ってことだね」

紙をしまうと、このエリアにある湖へと駆け出した。

そこが酷く薄汚れているのは四回も同じ地形を見てきているが故に十分解っている。

わたしが到着すると、一際大きな鱗の煌めく魚の影が見えた。

水面を大きく跳ねたその姿は、紙に書いてあった通りの悪の中で光る命。

《LGL》の槍を背中に、わたしは《ジャクルム》を取り出し、狙いを定めた。

以前として魚は水中を泳いでいる。

《釣り》スキルもあればそちらで狙いたかったが、スキルスロット的にもそうはいかないわたしにはこの方法しかない。

魚が跳ねた次の瞬間、《ヤーク・ラティオン》で魚の着水点を狙った。

《ジャクルム》には他の槍とは違う銛の様に扱うことのできる程対水性能が大きく、こうして魚を狙うことが出来る。

攻撃が当たったことにより、《LGL》も加わって大きくヘイトを取ったわたしの元に魚が飛んできた。

SAO内における魚類のモンスターはそのほとんどが二足歩行型だ。

どういうバランスで立っているかは解らないが、兎に角地面に立つのだ。

しかし無駄に煌びやかな魚だ。

足の付け根には宝石みたいなのが大量に埋め込まれていたり、制作者は本当にいい趣味をしている。

着地の瞬間にジャクルムを奴の体から抜いていたのでそれをしまって《LGLシールドランス》を手に取った。

魚の名と、ある程度削られたHPゲージが出現したところで魚が先制攻撃にと水を吐きだした。

それを避けると、腹部へと潜り込み《トラビス》で下から魚の身体を突き上げる。

それに怯まず魚は半歩引くと私に体当たりを仕掛けた。

身体を曲げ、左腕にある盾で正面から攻撃を受ける。

魚の攻撃を正面から受けたはずなのに、わたしの体は微動だにしなかった。

これが、《LGL》の新たな機能の一つ。

 

――使用者のバランス補正。

 

これにより軽い《LGL》の装備で敵の攻撃を受けても吹き飛ばされずにその場に留まったり体勢を崩されると言うリスクを軽減できるのだ。

よって、距離の開いていないこの場で更に攻撃の後隙の出来た今。

狙いを一点に、《槍》スキル高位技《ネクエ・アースタ》を放った。

強烈な音を響かせ、途轍もない速度で振り上げられた槍が、魚を貫いた。

 

――一撃必殺。

 

過言ではない。

現に、槍の先には息絶えた魚の姿がある。

高位技でこれだ。

最高位の技も既に取得し、練習もしているが未だに使うべき相手が見当たらない。

(まあ、その時が来るのを楽しみにするか)

魚が四散すると、アイテム獲得欄に《ピスシスの内臓》と言うモノがあった。

それをさっとお香の中に入れ、再びサラさんのところへ向かった。

時刻はもう夜になろうとしている。

朝に行っても良かったが、やはりこう言ったクエストの最後を飾るのはこういう時間帯じゃないとね。

サラさんの家の前でお香を腰にぶら下げ、火を中に放り込んだ。

後は時間が経つのを待つだけだが……。

そう思っていると、目の前の扉からサラさんが顔を出した。

「どうも」

「どうもこんばんわ」

わたしから声をかけると、サラさんは笑顔を浮かべながらこちらへと手招きをした。

「いえ、今日はここでいいでs……」

そう言いかけた時、サラさんがとんでもない速度でわたしの手を引いた。

どれくらい早いかと言うと、気が付いたらわたしの居た場所が外からサラさんの家の中に移動していたくらいだ。

体験したことのない感覚にまた好奇心が刺激されたが、この状況に対する分析が先だった。

装備は何も変わっていない。

でも身体は動かない。何かに抑えつけられている。

視界にはサラさんの非情に整った顔と深紅の髪がわたしに向かって垂れていた。

 

――ん?

 

垂れている?

背中の槍の所為で身体は山折りにされていて視界にはサラさんの顔と天井が見える。

ということはつまりこの状況は……。

「シンディアさん……」

妙に甘ったるい声。

あっ、これアレだわ。

それは確信へと変わる。

 

――現実のお父さん、お母さん。

 

――わたし、押し倒されてます。

 

――女性に。

 

==========




はい、どーも竜尾です。
ついにラフコフとJtRがぶつかり始めました。

作中でのグロリアさんの初殺人が今回でましたね。
ロクオウさんは前々から殺人を行っているので抵抗ないです。
故に殺し方がかなりエグイです。

そんな訳で時系列上シンディアさんの五回目のLGL獲得クエストです。
前回はばっさりカットした分今回はがっつりやります。

今回のオチ、第十三話と同じですね。
理由の八割は僕が気に入ってた所為です。
因みにジャックさんが反応しなかったのはサラさんが同性だったからですね。

【次回予告】

「名前だけは本当に安直なんだから」

――次の瞬間、わたしに大火力の炎が浴びせられた。

「確か、コンマ零秒以下の世界に生きてんだっけ、わたしたち」

「アリだ」

「有りだね」

次回をお楽しみに!それでは。


【お知らせ】

リクエストは今日を持って閉め切らせていただきます。

次に、更新状況ですが最近体調不良に陥りがちなので書き溜めが少なくなってしまったのでまたお休みを貰います。

次回の更新は3/22です。

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