仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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第三十七話 自らに虚を飾る

Side =グロリア=

 

広がっていたのは、写真やテレビなんかで見たことのある国の首都に位置する闘技場の様な場所。

周りは石造りの観客席が円形に広がり、私がいるこの地面も砂でできているため、一歩踏み出すだけで砂と砂の擦れ合う音が響いた。

軽く砂埃も宙を舞い、室内でもあるにもかかわらず僅かな風の流れを感じた。

これが、私達《Jesus to Rippers》の本部となっているこの建物最大の特徴だ。

このように、建物内に戦闘を行えるスペースが備えられている事を知ったオーカスが、即座に差し押さえに踏み切ったとのこと。

初めてこれを見たときはその景観に私も驚かされた。

天井は天気を設定することが可能で、視界の端に映る時間の表示は深夜帯なのだが、見上げると広がっているのは青空だ。

しかし、何故この時間にまるで今から戦闘を行うかのような事をしているのかと言うと、私の前にいるプレイヤーを見てもらえれば少しは解るかもしれない。

「グロリアー、準備出来たー?」

少し離れた位置にいる彼女がこちらに向かって手を振る。

外観も合わさって穏やかな光景に見えるかもしれないが、彼女の手に握られているのは大振りの巨大な剣だ。

その重量も感じないと言った様子で手を振っているので僅かに風を切る音も聞こえていた。

「あたしもー、《レ―テ》も準備オッケーだよー」

別に大声を出さなくても此処には私を含めても六人しかいないんだから態々大声を出さなくてもよかろうに、とは思いつつも私も笑みを浮かべながら手を振り返した。

ぶら下がっている右手には《装着型》の左手のモノとは配色も違った旋棍が。

その左手に握られているのもロム作の旋棍。

上手を《シィ・サリカ》。

下手を《ロカ・ルーハ》と言う。

ロカ・ルーハの方は親となった《逆手十六夜》の《装着型》の特性が引き継がれ、シィ・サリカの方は私の要望で直に手で握る形となった。

それで、何故私がシグマと戦うことになったのか。

要するに《Jesus to Rippers》、アシュレイ曰く《JtR》のサブリーダーを決めるための戦いだ。

ロクオウがリーダーに決まったのはいいのだが、彼にとっても相談相手が欲しいとのことでリーダーの決め方宜しく強さで決着を付けることとなり、私達の名が挙がったと言うことだ。

ロムとオーカスに関しては以前から私と何度か対人戦闘を想定した戦闘を何度かしているので実力差はもう解っている。

アシュレイとシグマもやはり戦闘歴の長いシグマの方が戦闘に長けているとのことで早速私達で戦うことになったのだ。

そうしてこの闘技場に立ち、シグマと向かい合っているのだが、緊迫したこの空気は苦手だ。

それに、対モンスター用の戦闘技術で戦ってくるロムや保守的に攻撃を加えてくるオーカスと違って彼女は根っからの純粋戦闘型。

攻略組偵察隊だからこそ鍛えられた能力や元の力から考えてもシグマの戦闘スタイルは非常にシンプルだ。

 

「力で捩じ伏せるから、気を付けてねー」

 

徐々にカウントが減って往く。

私の様にトリッキーな戦法も打ち砕こうとしている。

《解除》での仮想敵の中で最も厄介なのがこういうタイプだ。

 

――正直者は最後まで嘘を嘘と認識することが出来ない。

 

しかし、私にできるのはこれだけだ。

寧ろ、身内にこう言った戦い方をする奴がいるのを幸福だと思った方がいい。

 

――虚構が口から零れ落ち、足元に落ちたソレらは呪詛の様に私の身体を上って往く。

 

《英雄》の様な堂々たる鎧ではない。

私にしか見えない、私だけの歪曲した鎧が身を包んだところで、カウントが消滅した。

それから、二人を包んだのは沈黙だった。

本来ならば、私から動き出すのが武器や戦闘スタイルからしても当然だと思われるが、あいては偵察隊と考えるとその足は止まった。

隙を窺っているのだが、はっきり言おう。

 

――隙だらけだ。

 

しかもそれが意図的に作り出していることだと言うのも醸し出しているので余計に性質が悪い。

これでは無暗に私の情報を敵に渡してしまうことになるからだ。

だが、守りに入るのも旋棍という特殊な武器を使っている私にとっては分が悪い。

そうなると、やはり私から仕掛けるしかなかった。

けれど、一発目から《紫電閃》を打つつもりは毛頭ない。

オーカスからも聞かされてるだろうし、私もシグマとはそう言った情報交換はしていたこともある。

だとすれば、あの隙だらけの構えは《紫電閃》を誘き出すためのモノ。

非常にシグマらしい戦い方に笑みが零れそうになる。

ならば、私もそれに答えるとしよう。

 

――私が使ってる最大の『武器』も添えてね。

 

身体全体を捩じりながら体勢を低く、足に全体重と重心を寄せ、足の力を全稼働させて低い姿勢のまま駆け出した。

シグマにとっては絶好球だと思える私の攻撃。

因みに、《紫電閃》と言う技が敵との距離が離れていようとも射程距離に入ってさえいればたったの五秒で敵を斬り伏せる技と言うことは理解に難くない。

だとすれば、《紫電閃》のライトエフェクトと言うのはどのタイミングで発生するのか。

五秒ほどで懐に入り込んだ私は迷い無く剣を振り上げようとする。

しかし、その前には既にシグマのレ―テが構えられていた。

このままではシィ・サリカはレ―テに弾かれ、情報を与えるどころか決定的な隙を生み出してしまう。

 

――なので、私は剣が当たる前に中途半端に踏みとどまった所為で身体に残った力を使うことにした。

 

《紫電閃》のライトエフェクト発生タイミングは対象の身体を切り裂いた瞬間だ。

敵を切った後に山吹色のライトエフェクトがその剣筋を辿る様子が、この紫電閃の魅力の一つである。

だからこそ、これは敵を切り裂くまでは決して見ることのできない技なのだ。

それを利用して、システムに頼らない私だけの力を利用して《紫電閃》の真似事をした。

幾度となく練習を重ね、《紫電閃》だけは本物に近い形に仕上げていたのだ。

放った刀を止め、シグマの後ろへと回り込む。

勢い余って完全に止まり損ねたが、完全に背後を取ったため攻撃は可能だ。

腕をクロスし、シグマがこちらを向こうとしたところで駆けだした。

《掛月》を打ちこんだが、すんでのところでシグマに防がれた。

その弾いた方向と巨大な剣と両腕の旋棍がぶつかった衝撃で身体が僅かに宙に浮いた。

「うーん、半分予想通りかなー」

レ―テに深緑の光が宿る。

 

「でも、予想は常に中間に置くのがあたしだからね」

 

その場から跳び、レ―テを地面に突き刺してから撓った足から鞭の様に鋭い蹴りが繰り出された。

見破られていた事に舌打ちを打ちながら足に向かって旋棍を振るうも、流石に向こうは剣技を使っているだけあって互いの攻撃が弾かれる。

だが、それではシグマは止まらない。

先に地に足をついた彼女は斜め下から私に向かって思い切りレ―テを振り上げた。

剣技《Ш(シャー)》だ。

一応、この《フェイント紫電閃》のスピードを殺すことが出来なかった時点でこういった状態に為る事は私も半ば予測できていた。

そもそもそう言った一瞬を見極めるのがシグマ達のいる偵察隊の十八番。

《Ш》の直線状に僅かに地面から離れていた私は着地の瞬間を狙っていたレ―テを見て足で着地することを止めた。

代わりにレ―テに向けたのは弾かれたシィ・サリカの方ではないロカ・ルーハ。

上手い具合にレ―テにロカ・ルーハの刃と腕との接合部分を引っ掛けて、振り上げられる力を利用して身体を回転。

タイミング良く地面に着地を決めると《Ш》を終え、再びレ―テを構えたシグマへと走り出す。

さっきので解った。

 

――私に速攻以外は似合わない!

 

自分に嘘は吐けないとでもいいたいのか、こういった部分は妙に真っ直ぐだった。

しかし、タダでは倒れない。

私は私のやり方でシグマの癖を見極める。

手数も速さも私の方が圧倒的なのは変わりないことなのだ。

距離を詰め、ロカ・ルーハを握った左腕でシグマを狙う。

私が何も小細工を加えていないことに疑いを抱いていたが、攻撃であることには変わりは無いので防御をするためにレ―テを左側に向ける。

そのまま、加えられた力に従ってロカ・ルーハがレ―テに当たる。

この時、何かに気付いたシグマは急いで体勢を元に戻し、強固な防御の体勢を取った。

彼女の行動は正しかった。

「私が、戦闘まで正直に攻撃する訳無いでしょ?」

軽い音を響かせたロカ・ルーハとは違う轟音が轟いた。

左手での軽いジャブの後の本気のストレート。

ボクシングなど嗜んだことは無かったが、何となくやってみたら思いのほか凄まじい結果を得られた。

僅かに後退を余儀なくされたシグマが思わず苦笑いを浮かべていた。

勿論、体勢を立て直す時間は与えない。

再び接近し、今度は一、二と言った感じで攻撃を加えた後に今度はロカ・ルーハによる轟音が鳴り響いた。

 

――要するに、攻撃のリズムが私が行っている攻撃の核なのだ。

 

それによって威力と破壊力の増加を見込められた。

名付けて、システム外スキル《(いん)》。

実際に威力もスキルを使っていない以上大したことは無いが、旋棍はどちらかと言うと特性は破壊力に傾いている。

それをシステム外スキルで上乗せすると、否が応でも防御に回ってしまうのだ。

ついでに言うと、これは最近発見したばかりなのでシグマも知らないことだった。

レ―テから覗かせた脹れっ面に悪戯っぽい笑みを浮かべて走り出す。

だが、遂にシグマも動き出した。

レ―テに光を宿らせながら両手剣を片手で持ち、それを背中にピッタリと付ける様に後ろに回した。

あれは確か、《С(エス)》と言う名前の居合い切りの様な技だ。

ああやって背中に担いでいるが剣を振り下ろす速度はシステムよってとんでもない速さを得る。

その状態になると背中から剣が離せなくなり、移動もかなり困難になるのだが、それを諸共せずにシグマはこちらに向かって接近してきた。

《初撃決着モード》の勝利条件を満たすには十分な大技を此処で繰り出すと言うことは、私の力量をある程度測ったと言うこと。

ならば、と私も構えをとる。

勿論圧倒的なリーチの差があっては私があれに勝つことは困難だ。

 

(やっぱ、シグマみたいに純粋な強さを持っている奴と戦うのは苦手だ)

 

――私の嘘が通用しないからね、しょうがない。

 

思考の海に沈んだ私の動きは止まる。

シグマは、そんな私の動向を探りながら、慎重に距離を詰めて行った。

彼女なりに見つけ出した私の力を最大限に生かせるライン。

その線を通過した瞬間、彼女は致命的なチャンスを逃した私を確実に殺しに来るだろう。

 

――じゃあ、天邪鬼な私はそれを見定めることなんてしないよ。

 

今まで慎重に歩いていたシグマが走り出す。

私にもレ―テの射程距離は目算でも十分に把握することが出来る。

そして、無謀にも何の用意もしていない私に向かって《С》が降り降ろされた。

身体に冷たいモノが抉って行く様な不気味な感触。

その刃は、私の身体を掠めることなく地面に落ちた。

ただ、その時のシグマの気配とレ―テの禍々しい雰囲気に威圧されてしまった。

そのため、本来なら《С》の後隙を狙うはずが出遅れてしまった。

よって、再びその刃が私に襲いかかる。

Я(ヤー)》と呼ばれる連撃スキルだ。

それを、爆発的な移動で躱して往く。

「それって、さっきの紫電閃もどきの足の使い方を応用してるのー?」

《С》を躱したカラクリにも気づいてしまったようだ。

地面を思い切り蹴り飛ばして自分の身体を斬撃からこうして逸らしているのだが、《フェイント紫電閃》を行うためだけに練習をしていただけで、この様な使い方をしたことは無いからどうなるのか自分でも把握は出来ない。

一か八かの大一番。

身体も反らしながらギリギリでレ―テを回避し続ける。

だが、恐れていた事態が私を襲う。

ずるっと、身体が傾いて往く。

力の加減を間違え、レ―テが私に向かって刃を向ける。

咄嗟に腕を動かし身体への接触は免れたが、レ―テには《貫通》が常備されており、吹き飛ばされた私のHPは大きく減少していた。

ただ、この窮地にも関わらず負けていなかったことは大きい。

ならばどうするのか。

まだ一回だけ残っている《解除》の発動。

シグマもそこを最初からずっと懸念していたからこそ、いつ《解除》を使われてもいい攻撃を繰り返していたのだ。

シィ・サリカを強く握り締めた。

身体全体を捩じりながら体勢を低く、足に全体重と重心を寄せ、足の力を全稼働させて低い姿勢のまま駆け出す。

今度はフェイントではなく、本物だ。

シグマも自分の眼で見て理解しただろう。

最初の一回は騙し切れるのだが、やはり本物の紫電閃の方が早いことが解る。

四秒で懐に入り込む。

この一秒が全てを分けるのだ。

私の攻撃を本物だと確信したシグマはレ―テで自分の身体を覆う。

だから……そうだ。

 

「《解除》」

 

この瞬間だ。

懐に入ってピタリと止まったのは私の体だった。

目の前には大きな壁とその横から驚愕の表情を浮かべて私を見るシグマ。

当然、速いのは私だ。

ノーモーションから両腕がレ―テの両側からシグマの身体に向かって伸び、シィ・サリカとロカ・ルーハがその身体に突き刺さる。

そのまま両足で地面を蹴り、胸から肩にかけて切り裂いた後には山吹色の光が流れた。

瞬間、私の勝利を示すウィンドウが表示された。

 

==========




はい、どーも竜尾です。
戦闘回です。

シグマにも見せ場が欲しいなって感じで作りました。
彼女のスキルですが全部キリル文字の名前から取ってます。
ロシア語とかで使われるやつですかね、格好いいです。すごく。
よって様々な武器や技が出てきまして、こりゃまたまとめが大変そうです。

種明かしは、また次回。

【次回予告】

「私の《英雄》と君の《解除》。どうして発現したのか、考えてみたことはある?」

「そうして、用意された舞台の上のコマとして私達を動かしているのかもしれない」

「聖夜へようこそ」

――駄目だ、まだ嗤うな。

次回をお楽しみに!それでは。


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