仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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第三十五話 殺人鬼と愛刀

Side =ジャック=

 

またも先手を取ったのはオレ。

両足がホッピングと似た構造をしていることは解った。

まだ両足の機能がどれほどのモノか解らない間は奴に先手を取られるのは悪手。

ならば、こちらから仕掛ける攻防の中で見付けるだけだ。

「一本の刃が、十四回来るってのはどんな気分なのか、教えてくれよなぁ!!」

短剣が白く光った。

最初はやはり心臓を抉る様に、予想通り弾かれるが構わない。

オレの短剣の動きに合わせて奴の短剣も位置を変えて往くのだ。

HPゲージは二割程削れているので、耐久力は無いらしいがそれを防御力がしっかりと補っていた。

両手に短剣を握って防御に徹底する奴に対してオレも両手に短剣を握ってはいるが発動させられるのは一本だけ。

次ぐ二撃目、三撃目四撃目も両手で防がれる。

一区切りとなる五撃目。

右手の短剣は腹部を狙っていたのだが、そこにはすでに奴の短剣が構えられていた。

左足はもう踏み込んである。

弾かれ、気を取り直して第二波へ……

 

「なんて、思ってる訳じゃねぇよなぁ?」

 

この五連撃《クイン・トプリカタム》を打った目的は何も足の状態を見るだけではない。

何よりも、念頭に置くべきは敵を『殺す』こと。

先に打ち込んだのは左手で作られた拳だった。

連撃技の中で放つことのできる《体術》スキル《間触(かんしょく)》だ。

威力は確定一ドットと言うなんともしょっぱいモノなのだが、タイミング良く打つことによって敵の動揺を誘い体勢を崩すことがこのスキル最大の特徴だ。

いくら力を振り絞ろうと威力は変わらないが、拳はリッパー・ホッパーの右上腕部に直撃し、奴の身体を大きく揺らした。

そこに、元から発動させていた五撃目の刃が襲った。

しかし、奴は足を瞬時に収縮、伸長させるとギリギリで攻撃を回避した。

「あげゃ。まだ、終わりじゃねぇぞ?」

咄嗟の事で今の奴との距離はほんの数歩。

しかもまだその身体は空中にある。

着地地点を予測、再びオレの左手の拳に紅い光が灯った。

後隙の少ない《短剣》スキルだからこそ使うことのできる《体術》スキル。

名を《(れん)》。

接近してきたオレ姿にリッパー・ホッパーは空中でゆっくりと片足を上げる。

その足は既に縮められ、《蓮》で駆け出したと同時にオレの方に向かって打ち出された。

「見え見えな攻撃に当たる馬鹿がいるかよ」

あっさりと躱して懐に潜り込み、反射的にこちらへと顔を向けた瞬間に真ん中を思いのまま打ち抜いた。

後ろに後退する奴に白い光を纏った短剣を突き出した。

今度の初撃は身体と言うよりは全体的に武器を狙う。

オレの手に動きをあわせてくれるのなら、そちらを狙った方が得策だ。

流石にシステムが相手では動揺と言ったモノは感じられず、一つ二つとかわされてしまうが、三回目、実質八回目の刃が奴の短剣を捕らえた。

こっちの方は、《死刀》で複製されたモノ。

瞬間的に力を加えて左手から短剣を掻っ攫った。

地面に落ちた短剣は青く光り、四散する。

これで同じ一対一。

残る斬撃は六回。

なのに、依然としてオレ達から笑みが消えることは無かった。

 

――四撃目、首、失敗。

 

――五撃目、右手、失敗。

 

――六撃目、両足、失敗。

 

――七撃目、右脇腹、掠める。

 

残りのHPは六割と言ったところだ。

 

――八撃目。

 

ここは最後になる十四撃目に向けて最高のお膳立てをしなくてはならない。

攻撃が当たったことによってリッパー・ホッパーはオレから距離を取ろうと両足を既に縮めている。

追撃でも何でも喰らわせてやろう。

そう思ったのだが、十二撃目と十三撃目の間に生まれたわずかな一間が、奴の思考をがらりと変えた。

剣技の体勢に入るオレに対して、奴は真正面から向かってきたのだ。

刀身にオレの短剣に宿らせたモノと全く同じ光が目に映る。

 

《短剣》スキル高位剣技、九連斬撃技《アスタンティス》。

 

剣が交錯する。

次が最後の九撃目だった事もあり、オレの方が早いため短剣は奴の身体に突き刺さった。

HPがガクンと削れるも、まだ三割近くのHPが残っている。

しかも、そこでオレの動きが止まった。

その右手に短剣の刃が落とされる。

直撃。

敵の白い刃は右腕を貫通し、ポリゴン片が短剣の刀身から零れ落ちる。

しかも、突き刺されたことにより必然的に三撃目を喰らう破目になる。

そこからは迷いは無かった。

奴の身体に突き刺さったままの短剣から手を離し、奴が腕を斬る前に思い切り腕を後ろに引っ張った。

肉がプチプチと裂ける。

だが、HPはさして減っていない。

今オレが食らっているのは剣技ではないからだ。

赤いポリゴン片が腕から吹き出すが、それすらも気にかけることなく後ろへと跳んだ。

おかげで直撃確定コースだった三撃目を躱した。

残ったのは《鎖》と左手に握った一本の短剣だけ。

敵さんの方は足に二本と左手に一本の短剣。

ついでに言うとオレの方は右腕が二の腕からざっくりと裂け、《鎖》の付いている部分まで空洞が出来ている。

それでも感覚があってどの指も動かせるのは何とも奇妙な事だ。

傷口に空気が入ってなんともむず痒いが、気にするまでもない。

残るは六連撃。

足の伸縮を利用してリッパー・ホッパーはすぐにこちらに向かって跳んできた。

ならばと早速右腕を振り被って《鎖》を振るった。

ジャラジャラと豪快な音を立てながら《鎖》はその射程距離を伸ばし、真横からリッパー・ホッパーを襲った。

奴は鎖の方向に足を向けると、すぐさま足を収縮、発射した。

足の裏に付けられた短剣が《鎖》を弾く。

しかし勢いはとどまることなく、着地した瞬間に振るわれた凶刃を弾いて再び後退。

間が縮まったからか、奴は跳ぶこと無くこちらへと走ってくる。

今度は、と左足を下から斜め上に蹴りあげた。

さらにその力を利用してバック宙を決め、右足の鎖も音を立ててリッパー・ホッパーの方へと飛んで往く。

最初の鎖を上体を大きく逸らして躱すと足元を狙った鎖を足を僅かに地面に打って少しだけ地面から浮くと綺麗に回避して見せた。

思わず舌を巻いた。

これだと、鎖を戻している暇は無い。

こっからは本格的に避けて行くしかないってことだ。

四回目、五回目完全に守備に回ってしまったが、下手に反撃を企てるよりは守りに徹した方がずいぶんと楽なのだが、やはり一味違うのがこいつだ。

五撃目の後、シュコッという音と共に眼前に短剣の刃が迫った。

何とか顔を後ろに引いて回避。

何事も無かったかのように六回目の刃が振り下ろされるのを回避して舌打ちを打つ、

足を自由に出し引き出来ることに加えて短剣も付いていると言うのはここまで相性がいいモノなのか。

この回避によって僅かに隙が出来たので指の付け根の部分を押して鎖の回収に奔る。

それを見た奴はさっさと決着をつけようとしたのか、ラップサムの様に七、八回目の攻撃をしたが、そんな単調な動きが通用する訳がない。

 

――これで最後の一撃と為る。

 

もう、あの時の様な笑みをリッパー・ホッパーが浮かべることは無かった。

その凶刃はオレにとっては絶好球。

その下に短剣を滑り込ませて受け流そうとする。

だが、その瞬間に奴はまた笑みを吹き返した。

両足の跳ねる力を利用して空高く双方の短剣を打ち上げたのだ。

《アスタンティス》が終了し、リッパー・ホッパーは空中で足の裏の短剣をこちらに向けた体勢で硬直をする。

つまりは、硬直が解けた瞬間に足を発射し、現在丸腰のオレを追い詰めようと言う算段だろう。

確かに打ち上げられた短剣も落下点は奴の後ろだ。

今取りに行ったんじゃ間違いなく間に合わない。

《死刀》で作られた『両方』の短剣は消滅してしまうだろう。

だからこそ、そこで奴は勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

――『殺し』に希望を持ってしまった。

 

次の瞬間。

パシッと快音が響いた。

 

――オレの左手には短剣が握られていた。

 

「……!?」

奴の顔が驚愕に染まる。

こいつは、オレがリッパー・ホッパーから三回目の攻撃を受けるのを回避する際に手放した一本だ。

オリジナルの一本だったからこそ、消えずに残っていたのだ。

そこにオレは戦闘の中で密かに左手首の鎖をくっつけておいた。

元よりこの《鎖》のカテゴリは《補助武器》。

さらにこれを使っていた《The Thanatos》は先に短剣の様な武器を付けていた。

つまりは、この《鎖》にも同じことが出来たって何ら不思議ではない。

だからこそ、オレは《濃霧》を足元だけに振り撒き続けた。

この瞬間を……

 

「この状況を待ってんたんだぜぇ!!」

 

左手に光が宿る。

《投短剣》スキル重攻撃《剛》。

その射程距離は僅か三メートル。

だが、《投短剣》スキルの中で最も凶悪な威力を誇る技によって投げられた短剣は、一直線にリッパー・ホッパーの額に直撃した。

HPが二割近く削れる。

取り付けて置いた鎖を引き寄せ、奴の身体ごと短剣がこちらに戻ってくる。

右手で手刀の形を作り、光を生む。

零距離で発動する《体術》スキル《エンブレイザー》が、奴の顔面を貫いた。

オレの手には、奴の額に刺さっていた短剣が握られている。

それをくるりと回すと、右腕の上で奴の身体が無数の硝子片に姿を変え、虚空へと消えて行った。

鳴り響くファンファーレとクエスト仮達成の文字。

 

「ま、楽しめたぜ?」

 

回復ポーションを一つ口に含んで、その場を後にした。

 

==========

 

あの路地裏に戻ると、骸が青く点滅していた。

近寄るとまた壁に文字が出現する。

【有難う。報酬は、私の身体に刺さっているので、お取りになってください。】

そう言われたのだが、見えている肉体のある右半身に短剣は見られない。

悪趣味だなと思いつつも布を取り払い、綺麗に白骨化した身体の心臓部分にアイツが持っていたモノと同じ短剣が引っ掛かっていた。

手に取ると、短剣の詳細が表示された。

 

「《Ripper Hopper》。まんまだな」

 

短剣を腰に刺すと再び文字が浮かび上がった。

【こんな姿になってしまったのですが、骸だからこそ生への渇望と言うのは、忘れられぬものとなってしまいました。】

一体何を言うつもりなのか、立ち止まると次々と文字が浮かび上がった。

【もうじき、零点の始まりの日がやってくる。その日、ニコラスと言う男が何処から知れぬ場所から姿を見せるだろう。】

「始まりの日……?」

 

【ニコラスの大袋の中には、命尽きた者の魂を呼び戻す神器さえもが隠されている】

 

その文字が消え、クエストクリアの表示が映し出された。

しかし、そんなモノ今のオレにはどうでもよかった。

こいつの言った事が本当だとすればキリトの奴は間違いなく食い付く。

それが、奴が花開く最高の舞台になる確信があった。

「うっ……くくっ……」

駄目だ、堪え切れない。

 

「あげゃげゃげゃげゃげゃげぇげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!!!!!!!!」

 

こんなお誂え向きの餌は他に無い

さて、後はこれをどうやって撒かせるか。

そのとき、背後でした小さな足音に振り返ると、これまたなんとも素晴らしい餌撒き係が姿を見せた。

「……ジー君?」

「よぉ、アルゴか」

笑みを浮かべながら路地裏を出てアルゴの元まで行く。

「何を、してたんダ?」

恐怖を感じながらもそれを精一杯表に出さない様にしているのが声色からすぐに見て取れた。

これだけ恐怖していようと逃げないところだけは情報屋の意地が勝ったってことだな。

「ちょっとしたクエストをな」

「この先にカ?」

「あぁ、情報をくれてやらんこともないぜ?」

徐々にこの空気に慣れたのかアルゴが目を輝かせた。

「いいのカ?今までオレっちに情報をくれたことなんて無かったのニ……」

「今回は事情が違ってな。多分最初で最後じゃねぇか?」

「ほうほう、じゃあ聞かせて貰おうじゃないカ」

下から覗き込むようにオレの顔を見て笑みを浮かべるアルゴにオレも同じく笑みを浮かべて口を開いた。

「ただ、条件がある」

「予想は出来てたからナ。何が望みカ?言っとくがシンちゃんの情報はあげないゾ」

間違いなくオレの方がシンディアの事を知っているんだが……。

「要はオレが最後に言った情報をバラ撒けってことだ」

「うん、まあ構わないガ……それ程の情報なのカ?」

「あぁ、間違いなく……な」

思わせぶりにそう言ってアルゴの顔を見ると、爛々と目を輝かせるオレの様子に気付いたのかアルゴの顔に真剣味が帯びて来た。

「先ずクエストの情報だが、内容は人型モンスター一体の討伐。こいつが《LGL》級の高難度クエストでな。どれくらいかで言えば……オレのHPがソイツ一体に四割持ってかれた」

「四割!?ジー君がそれだけ削られるのは珍しいナ」

アルゴですら驚きを見せることは、もうオレの力もこの世界に随分と浸透していると言うことだ。

一応、《リッパー・ホッパー》の姿がオレと似ているから見られたくないと言うのもあるのだが。

「それの報酬が今オレの腰にぶら下がってる短剣だ」

「なるほどなるほど」

「で、こっからが条件の部分だ。このクエストクリア時にNPCのヤツが最後に残した文字にこう書いてあった」

 

「【ニコラスの大袋の中には、命尽きた者の魂を呼び戻す神器さえもが隠されている】」

 

一字一句間違えずその言葉を告げると、アルゴの両眼がはち切れそうなほどに開かれた。

「【命尽きた者の魂を呼び戻す】……。それ、本当なのカ、ジー君」

メモとして書きとめている両手が震えている。

「本当だ。現にオレは嘘を吐かねぇ。それはテメェらも十分に解ってる事だろ?」

「で、でも……こんなこと……信じる奴が本当に居るのカ……」

アルゴの不安の確信を突く。

それが、オレの目的でもあるからだ。

 

「あぁ、間違い無く縋りつくぜ。キリトは」

 

「……っ!!」

声にならない言葉を上げてアルゴがこちらを見た。

「生憎、裏を取るにはあのクエストをもう一度クリアしなくちゃならないな。オレが久々に苦戦したあのクエストに」

どちらにせよ、アルゴにとってキリトが価値のある者ならば間違いなくこの情報を伝えるだろう。

今もアイツは変わらず攻略を続けているのだから。

それを見て不安を募らせる奴らには見向きもせずにな。

「じゃあ、確かに伝えたぜ」

そう言ってオレは宿に帰ろうとしたのだが、アルゴがこちらを向いたので立ち止まる。

「ジー君……なら、キー坊だけにそれを伝えてやればいいんじゃないのカ?」

「それじゃあ得をするのがキリトだけになるだろ。ほかの奴らと競い合って手に入れてこそ、その真の価値を知ることが出来る」

「でも!!」

「テメェも情報屋なら約束くらい守れよ、チャンスってのは人に対して平等に働くモノなんだぜ?」

間違っていても納得が行かないと迷走する。

その様子じゃ、結局はバラ撒くんだろうけどな。

「ジー君」

再び名前を呼ばれ、今度はアルゴの方を振り向いた。

 

「ジー君にとって、キー坊は何なの?」

 

それは、《鼠》としての言葉ではなく、一個人として、《アルゴ》としての言葉だった。

夜の冷たい風が頬を掠める。

数秒の沈黙を全て切り裂く様に、オレは言った。

 

「《種》だな」

 

「《種》?」

「まあ心配はいらねぇよ。相当な事でもない限りオレがキリトを殺すことはねぇしアイツにはチュートリアルをしてもらった借りがある」

 

「《殺人鬼》だろうと借りは返すさ。ただ、それが相手にとってどんな形になるかはオレの知ったことはねぇがな」

 

==========




はい、どーも竜尾です。
やっとここまで来ましたね、捜索編で言うところの第十四話の前日譚です。

ジャックの戦闘を書くのは非常に辛いです。
だって短剣と投短剣と鎖と濃霧を混ぜ込んで作らなければなりませんから…。
基本的に濃霧は空気になりそうですけど…。

アルゴさんを久しぶりに登場させました。
やっぱりアニメでもこのニコラスのイベントの会話をしていましたし、情報はアルゴさんから発信したというのが都合がよかったんです。

【次回予告】

「あー、グーラさん。急にどしたの?」

「《閃光》と《鼠》さんじゃないですか」

――すると、爪の先が何の抵抗も無く消滅した。

「そう呼ばれるのは不本意ですが。はい、自分がそうです」

次回をお楽しみに!それでは。


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