しるしをつけてやる
ふったらどしゃぶり、一顕と整
(ポップアップストアご来場御礼こばなし)
「半井さん、袖んとこ何かついてますよ」
バーのカウンターで隣に座った時、その「何か」に気づいて声をかけると、整はすっと手首を差し出してきた。
「取って」
自分の目で確かめようともせず、一顕の顔を見て言う。偉そうなわけでも甘えているわけでもなく、ごく普通の温度感で。すごいなこの人、と思うのはこんな時だった。何がって、うまく説明できないけれど、一顕には絶対に醸せない空気というか。いや醸せなくていいんだけど。
「はい」
シャツの袖口に引っついていたのは付箋だった。「再」という漢字に◯がついている。整の筆跡なのに、本人は不快そうに眉を顰めた。
「どうかしました?」
「たぶんそれ、記入漏れで何かの申請書突っ返した時のやつ。何で枠ん中埋めて捺印するだけの作業ができないんだか……」
「あー……でも俺も、毎年のことなのに年末調整つまずきますよ。一年で記憶がリセットされちゃって」
ていうか。整がカウンターに置いた付箋を一顕は指先でくるくる丸める。
「すんごい蛍光ピンク」
「これでもかってくらい目立たせないと、故意を疑うレベルで見落とすやつがいるから」
「ピンクのひらひらしたやつくっつけてんの、かわいいな。言わずにもうちょっと観察しとけばよかった」
「もう酔ってんの?」
「ううん」
「どういうツボだよ」
「半井さんと蛍光ピンクっていうありえない組み合わせが、何かいいなって」
「じゃあそれ貸して。萩原にもくっつける。俺も萌えてやる」
「もう丸めちゃったし」
目に痛い色彩の付箋は指の腹で細い筒状になってしまった。整の指先がそこに触れる。瞬間、ピンクどころじゃない赤い火がちりっと走る。同じ熱が相手にも灯っていることは、言葉にする必要もない。
「……酔ってる?」
今度は一顕が尋ねた。
「酔うわけないだろ」
整が笑う。
「……もったいない」
「萩原くん待って、肩んとこ何かついてる」
「え?」
振り返ると、同僚の指には蛍光ピンクの紙きれが。
「付箋だね、どっかでくっつけちゃった?」
「……そうかも。ありがとう」
くっつけちゃったというか、くっつけられちゃったに違いない。受け取った付箋には、見覚えのある字で「私物」と書いてあった。ご丁寧にも赤ペンで、周りの◯も何重にもぐるぐると。
「それ大丈夫? 何か大事なものについてたやつじゃないの?」
「あー……大丈夫。わかってるから」
大事なものって、いや、まあ、うん。