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低待遇で雇用は不安定<官製ワーキングプアを問う(上)非正規公務員>

 子育て支援や福祉など、暮らしを支える公共サービスを担う非正規公務員が、低待遇や突然の雇い止めのリスクにさらされている。不安定な雇用状況は、指定管理者制度や業務委託などで「公務」を担う民間団体の職員らも同様で、サービスの質を保てなくなるとの懸念の声も上がる。当事者の声から「官製ワーキングプア」の現状と課題を追った。(せんだい情報部・菊池春子)

学校給食の調理を担う非正規公務員だった女性。継続して働きたかったが、公募試験で不採用となった

理不尽な業務上の格差

 「先生、これ見て」「なあに」。駆け寄ってくる園児一人一人を受け止める。やりがいはあるけれど、給与明細を見るとやるせない気持ちになる。

 「正直、安くいいように使われていると感じることがある」。宮城県内の公立保育所で10年ほど、非正規職員として働く中堅の保育士女性が明かす。

 ほぼフルタイムで働き、早番や遅番などのシフトも支える。毎月の手取りは16万円ほど。勤務年数が近い正職員の半分以下だ。「同じように働いても認められていないと感じる。子どもたちから見れば、同じ『先生』なのに」

 財政難を背景に、1990年代以降、全国の自治体で非正規職員が増加した。総務省によると2024年4月時点でパート職員なども含め約120万人。地方公務員全体の2割超を占める。共働き世帯を支えるのに重要な役割を果たす保育士も、非正規職員の採用で補ってきた自治体は多い。

 「業務上の格差にも理不尽さを感じる」と女性は言う。勤務する保育所では、園児の家庭状況や発達特性、病気などの「個人情報」は原則として正職員のみで共有される。

 非正規職員も守秘義務など服務規程が課されているのに、十分な情報は与えられない。「適切な保育ができているか不安になる。保育の質にも影響しかねない」。国や自治体の「子育て支援」のアピールがむなしく響く。

納得できない不採用通知

 「雇い止め」にもおびえる。処遇改善を目的とした地方公務員法などの改正を受け、20年度に導入されたのが「会計年度任用職員制度」。非正規職員に期末手当などが支給されるようになった一方、試験なしで再任用できる回数などといった国の手引の例示を基に、多くの自治体が3~5年での公募試験を導入する。雇用が打ち切られやすくなったとの声もある。

 東北地方の公立学校で、会計年度任用職員として給食調理員を務めていた40代女性は「雇い止め」に遭った一人だ。

 23年2月に面接などの公募試験を受けると、翌3月上旬、郵送で4月以降の不採用が通知された。「頭の中が真っ白になった」。役所に理由を尋ねても、納得できる説明はなかった。

 次の仕事を探す十分な時間もなく、車を売却して生活費を工面した。「都合よく雇い止めするために公募が行われたのではないか」との不信感はぬぐえない。

 住民の暮らしを守るべき行政の末端で、立場の弱い非正規職員の雇用は簡単に打ち切られる。女性は民間の保育所の調理の仕事を見つけたが、収入は減った。「今も生活は苦しい。行政が働く人を簡単に切り捨てていいのか」

 国は昨年6月、公募を経ずに継続雇用できる期間の上限を撤廃するよう手引を改訂した。人材確保などが目的だが、自治体の対応はばらつく。

 東北では秋田県が、主に福祉分野で一部の会計年度任用職員の上限を撤廃すると発表した。専門的な人材が業務を継続できるよう改善を目指す。宮城県は一部の職種での撤廃を25年度中に検討する方針を示した。仙台市は「検討中」としたままだ。

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