時速36kmの「ハロー」が存在するから、日本の音楽は終わってなんかない
俺が生まれて間もない頃、ゆらゆら帝国は解散したしアベフトシも志村正彦も亡くなった。明らかに俺が生まれた頃にはひとつの時代が終わってて、中学生の頃、それがあまりにも退屈だと思った。現在の日本の音楽はクソだとも思っていた。今も否定はできない。今の日本人は、音楽をダンスのBGMかミームとしか考えていない。
ともかく、NUMBER GIRLやSUPERCARなどをメインで聴いてた当時の自分は、スピッツとずっと真夜中でいいのに以外で、現在の日本に素晴らしい音楽なんてないと思ってた。いやナンバガは再結成してたけどさ。
でも、とある名曲に出会い、その曲が2020年リリースだと知り、自分の認識が180℃変わった。その曲が、時速36kmの「ハロー」だ。
サウンドは極めてシンプルなギターロックという感じだが、後述の歌詞とリンクさせたらもう何にも代え難い素晴らしい音像になる。結局のところ、人間がいちばん熱狂できるサウンドはこういうギターロックであり、生きることへの希望と絶望は、ギターロックでこそ表現する意味があると思う。
そして歌詞が秀逸。この記事は大半が歌詞の話だと思う。令和のティーンエイジャー像が詰まってる超センチなフレーズの数々で我々を唸らせる。
光っているとっておきの情熱をチルドしてく
イラッとして思いつきの憂鬱で悦に浸る
死ぬまでの幾億秒の中で
暇つぶしとして始まっただけ
少し、少し、もう少しずつ
見て見ぬ振りしてた終わりだとか
狭いこの街と散文と
週末の空の夕焼けを
見上げて少し笑う君の横顔
愛していた
なろうと誓った幸せに
薪をくべて燃やし続けてる
それでも何にもなれてない自分が
大嫌いだったんだ
僕にとってはたいせつなものも
お母さんあなたはわからないでしょう
他の誰かに理解されないことが嬉しかった
それみて笑われたりして時には笑う側に回ったりすることもあって
そんなのダサかったから君と2人で抜けだした
週明けの朝の白々と
お昼に予約しちゃった歯医者
何よりそれらを愛してたあなたを愛していた
もしも俺だって才能が
何かしらあって君のこと
変えることが出来りゃ消え去ることも無かったんじゃないかなぁ
きっと叶わぬ約束に
しおりを挟んで閉じた絵の
続きまたいつかこの街で始めよう
何度でも
ハロー
まずは全文掲載。各々好きなフレーズを切り取ってTwitterのプロフィールに使おう。
死ぬまでの幾億秒の中で
暇つぶしとして始まっただけ
少し、少し、もう少しずつ
見て見ぬ振りしてた終わりだとか
政治、経済、音楽。どれを取っても今の世界に希望なんてもんは残ってない。生きることも所詮は暇つぶしとしてしか機能していないのだ。
狭いこの街と散文と
週末の空の夕焼けを
見上げて少し笑う君の横顔
愛していた
なろうと誓った幸せに
薪をくべて燃やし続けてる
それでも何にもなれてない自分が
大嫌いだったんだ
それでも愛せるものがあって、でもそれが手に入ることはなく、唯一の希望も結局は生きる上での棘となってしまった。
僕にとってはたいせつなものも
お母さんあなたはわからないでしょう
「お母さん」が出てくる歌詞は、もれなく最高だし心に刺さる。相手が二次元だろうが三次元だろうが、自分が愛してるものを「マトモに生きて欲しい」としか思ってない親に認めてもらうのは不可能に近い。
週明けの朝の白々と
お昼に予約しちゃった歯医者
何よりそれらを愛してたあなたを愛していた
センチメンタルを表現するために、「歯医者」というワードを使うという開いた口が塞がらない発想。歯医者は何故か何らかの予定と被りがちで、言い訳にも使いやすい用事だ。
もしも俺だって才能が
何かしらあって君のこと
変えることが出来りゃ消え去ることも無かったんじゃないかなぁ
才能があれば君を引き留められるかもしれない。才能があれば、才能以外で君を引き留められる方法が思いつくのかもしれない。そう思いながら、自分は死ぬまで暇つぶしを続けていくのだ。
きっと叶わぬ約束に
しおりを挟んで閉じた絵の
続きまたいつかこの街で始めよう
それでも刺さった棘を抜くために、お母さんにわかってもらうために、才能を手に入れるために、この街で叫ぶのだ。
何度でも
ハロー
何度でも
ハロー
と。
シューゲイザーに出会ってから、益々現在の日本の音楽を知り、この国の音楽は終わってなんかないなと感じることも多くなった。
でも、この曲が存在するから日本の音楽はまだ終わってないと思えるし、この曲が存在しなければ日本の音楽に用など無い。
今の日本の音楽で唯一のオアシスとして、これからも何百回何千回と聴きたい曲だ。



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