(山でモンスターにやられ、呆気なくお祖父ちゃんは死んだ。深い谷に落ちていったらしい)
『お祖父ちゃん。僕、冒険者になる』
(だけど、こんな弱そうな僕を冒険者として受け入れるファミリアは見つからなかった)
『やあ少年!ファミリアを探しているのかい?』
(神様が、そこにいた。僕は家族が欲しかった。…だからお願いします。僕に…家族を守らせてください!)
標的を失ったシルバーバックは次の標的としてベルを選んだ
「そうだ、こっちにこい!」
ベルは引き付けながらナイフを振るう
ガキンッ
だが歯が立たない。ついにはナイフが壊れてしまった
(うまく、逃げれたくれたかな、神様…。今度はアイズさんも来てくれないよね…さよなら神様)
「ベル君!!」
諦めかけたときヘスティアの声が聞こえた。その声にわずかに闘志が戻ってくる
「なんで来ちゃうんですか…!」
本来の標的を見つけたことでシルバーバックは目標を変える。それを阻止せんとベルはヘスティアを抱え一時離脱した
「神様…!大丈夫ですか!?」
「ああ、何とかね。まったくひどいな、ボクが君を置いて逃げ出せるわけないじゃないか。…お願いだからボクを一人にしないでおくれ」
「…っ!イクスがいるじゃないですか!」
「おいおい、ベル君。君がいなかったらボクはここまでこれなかったし、彼も来てくれなかったと思うぜ?それに諦めるのは早いぜ、ベル君」
起死回生の一手があるようにヘスティアは答える
「君のステイタスを更新する。そのためにもう少し距離をとろう」
「少し強くなったところで僕の攻撃じゃあのモンスターに致命傷を与えられません。それに…ナイフも…」
「大丈夫!もっと早く渡せばよかったね。これが君の、いや僕らの武器。
「はい!」
ステイタスを更新し舞台を整える。スキルの恩恵もあり熟練度はトータル600オーバー。武器も用意し準備は終わった
「さあ、行ってくるんだベル君!」
舞台が上がる
シルバーバックの攻撃をナイフで受ける。ナイフは少しの傷もなく逆にシルバーバックに傷をつけていく
「それが君の今の力だ、ベル君!そのナイフは生きている!使い手が、君が成長すればするほど強くなるんだ!」
「僕の…成長?」
「信じるんだそのナイフを!信じるんだ、僕をっ!そして…君自身をっ!」
ナイフがベルの力を引き上げ、ベルがナイフの力を引き出す。それはまるで共鳴するかのように力を伸ばし、シルバーバックを斬りつけていく
ついにはシルバーバックの胸、魔石に手をかけシルバーバックを倒したのであった
「やったぁぁ!やった、やったよベル君!」
「はい、やりましたっ、神様!」
「それはボクのセリフだよベル君!」
「すごい騒ぎになっやいましたね」
あたりを見回せば先ほどまで室内に隠れていた住人が出てきて賞賛している
「べるくん、本当に…よく、がんばったよ…」
「?神様ぁぁっ!」
ダイダロス通りで起きた事件は幕を閉じ、ヘスティアは疲労により倒れ伏した
その舞台を一人の女神は見守っていた
時間は戻りモンスターが脱走した少し前。イクスはオラリオを歩き回っていた
流石の
「ここらへんか?いや、もう少し先か…、めんどくさい…」
あくびを噛み殺しながら向かう先は一点。ただ、役目を果たせ
レフィーヤとティオナ、ティオネは新種のモンスターと戦っていた
突如現れた蛇のようなモンスターは硬く打撃では有効打を与えられなかった。武器を仕えたのならば簡単に倒せるのだがあいにく今は持っておらず苦戦を強いられるばかりであった
「【解き放つ一条の光、聖木の
有効打になりえないとレフィーヤは即座に呪文の詠唱を開始
「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】】」
だが、それは悪手だった。魔力を感知し即座に標的を変える。モンスターは地面から新たに体を伸ばしエルフの少女へと襲い掛かる
彼らは判断を間違えた。それは蛇ではなく花。戦っていたのはそのうちの一本の触手に過ぎなかった
「「レフィーヤ!!」」
モンスターの攻撃がエルフの少女にあたる直前
「【
透明なナニカが攻撃を防ぐ。一瞬だけ拮抗したかと思えば、パリンと音を立てて簡単に破られる
──だが、その一瞬が必要だった
ギンッ
モンスターの攻撃を剣で弾き飛ばす。その姿にこの場にいたものには見覚えがあった
先日ベートを投げた人物が少女を守らんと剣を構えていた
「な、なんd「詠唱継続!」えっ、はっ、はい!」
少女の言葉を遮り命令を下す。本来なら命令を聞くことは無いが今は緊急時ゆえレフィーヤは詠唱を再開した。
詠唱を再開すればモンスターはレフィーヤを集中して狙うが、その全てを防ぎ、流し、レフィーヤに届けさせなかった
「ちょっ!アンタいきなり来て何のつもり!後、アンタの力じゃ傷つけられて無いんだし剣を渡しなさい!」
「断る!貴様に渡して倒してもらうよりもコイツの魔法の方が早い!」
突如現れた相手に警戒するティオネ。相手が相手なため警戒するのは正しかった
(何者なんだろうこの人?ベートさんを投げたのに、私をこのモンスターから守っているし…、剣が当たる瞬間体が燃えてる?何かのレアスキルかな?)
レフィーヤは詠唱を続けながら目の前で守っている相手を観察する。本来ならそのような余裕は無いのだが今の彼女は大木の様に落ち着いていた
実際戦えているのはレフィーヤの予想通りスキルのお陰だった
【
魔力や体力、血液など自己を代償にした超々強化を行うスキル(副作用として使用中は体が燃えるような輝く)
その強化倍率は凄まじく代償と発動時間にもよるがランクアップ並みに匹敵する
また、レベル二つ上でも防戦に限り戦うことができるイクスのスペックやレフィーヤのみを狙っていること、超短文詠唱の防御魔法など様々な要因で戦うことができていた
だが、拮抗できていなかった
スキルの発動時間を一瞬に絞ることで効果を引き上げていたり動きを予測し防御できているが、その余波で肉体には小さくないダメージが入り、精神力も集中力も刻一刻と削れていた
「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に
レフィーヤの詠唱が紡がれる。彼女の二つ名の由来となった魔法【エルフ・リング】。その効果は
魔法の召還。放つは都市最強の魔導士の魔法。この魔法が完成が勝利条件と同義であった
「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬──我が名はアールヴ】」
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」
詠唱は完成した
モンスターは魔法により全身を凍らされこれ以上暴れることができなくなった。であるならばあとは消化試合。以上をもって新種のモンスターは討伐されたのであった
(あの人はどうしたんだろう…)
新種のモンスターを倒し状況の確認を終えたレフィーヤは助けてくれた冒険者が見当たらないことに気が付いた。助けた礼やなぜ助けたのか気になっていたからだ。そう思いあたりを見回すと──血を流し倒れている冒険者が
「わー!?死んでるー!?」
「勝手に殺すな…」
そう思われても仕方がない。肌が青を通り越して土色に変色し、血を流し倒れているほぼ死体一歩手前状態なのだから間違えても仕方がなかった。外はヤバいが内側もヤバく全身筋肉痛に骨にはひびが入り、貧血と
「ど、どうしましょう。
「落ち着け。すぐに治す」
「えっ?」
イクスがそういうと傷が徐々に回復し肌の血色が戻ってくる。だがレフィーヤが驚いたのはそこではなかった。精霊の気配に敏感なエルフだからこその驚き。精霊がイクスの体を治していたのだ
「いったいどうやって…」
エルフであったのならば理解はできる。だが見た目からはその要素は一切なく疑問は増えていくばかり
「あ、あの、どうして精霊がここに!?。それに何であなたを治してるんですか!?あとなんで私たちを助けたんですか。あっ助けていただきありがとうございました!」
「いきなり耳元で叫ぶな。頭に響く…」
「す、すいません」
「…精霊は代価を払う代わりに力を借りてる。契約関係みたいなものだ。なぜか今回戦闘に力を貸してくれなかったがな」
そう言いながらイクスは立ち上がりその場を少し離れた後に袋を持ちながら帰ってきた。それは買いあさっていたお菓子が入った袋。それを一つ取り出したかと思えばお菓子が虚空に消える
「なんですかそれ!?」
「あくまで彼ら優位のものだから力を貸してくれるかは彼ら次第だけどな」
そう言いながらどんどんお菓子を開けてはそれが虚空に消えていく様は何かしらの魔法の世にしか見えなかった
「…で、お前らを助けた理由か」
「そうです!その…前のこともありますし、あまりロキファミリアに良い印象を持ってなさそうなのに…」
「あのモンスターは危険だ。心情を理由に対処しないわけにはいかん」
「待ってください!あのモンスターのこと知ってるんですか!?」
「知らん。だが備えとけ」
それだけ言うとふらつきながら人ごみの中に消えていった。
「ヘスティアの体調は?」
「疲れて寝ているだけみたい」
「そうか。お前は大丈夫か?なんでもシルバーバックと戦ったみたいだが…」
「うん、大丈夫だよ。神様から貰ったナイフのおかげだよ」
「店員もすまなかったな」
「いえ…困ったときはお互い様ですから。あとで店の売り上げに貢献してくれたら大丈夫ですから」
「商魂たくましいな…次に来たときは客としてくる」
イクスはベルに「どうせならここで食べてから帰ってくるといい」と二人分の食事代を渡しホームに帰っていった
廃教会の地下そこで咳き込む。抑えた手には血が付着していた。今日モンスターと戦った傷は癒したがそれは見た目のみ。
(指先程度でこのざまとはな…猶予は1年、いやもっと短いか…急がないと間に合いそうにないな)
今日、戦ったモンスターについて考える。オラリオの最前線、ロキファミリアが知らないことから新種のモンスター、なぜあの場所に現れたか不明、ほかにも未知のモンスターがいるのか不明。明確にわかることはあれが悪意の塊であったことだけ
今後のことを考え憂鬱になりながら意識を手放す。さすがに