『ホラー映画で何が一番怖かった?』
かつて誰だったか...そんなことを聞かれた気がする
『う~ん...』
俺は少し考え答える
『
予想してなかった答えなのか問いかけてきた誰かは驚いている
『へぇ~...なんで恐竜なんだ?』
『まあ
『確かにお前とか一番最初にやられるタイプだもんな』
『うるせぇわ』
♦♦♦
そんなやり取りをかつて誰かとしたことをふと頭に浮かんだがすぐにそんなことは頭から抜け落ちる。
『グオォォォォォォォ!!!!』
こちらの姿を確認した
「怯むな!相手は一匹囲んで叩くぞ!」
誰もが恐怖に動けなくなっていたがゲルマンが喝を入れると衛兵隊の面々は震えながらも武器を握りしめる。
しかしカイルスだけは足の震えも恐怖心も無くならなかった。
ゲルマンはそんなカイルスを一瞥したがすぐに向かってくるブラッドサウルスに向き直る。
そのまま突っ込んできたブラッドサウルスの嚙みつきを紙一重で交わしたゲルマンはそのまま剣をブラッドサウルスの横顔に切りつける。
ガキンッ!!と生物に切りつけたとは思えぬ音を立ててゲルマンの剣が弾かれる。
ゲルマンに気を取られている間に他の衛兵隊達はブラッドサウルスを囲い込みそれぞれが各々の武器で攻撃を仕掛けるが、そのどれもがブラッドサウルスの硬い鱗に弾かれ中にはそれだけで刃こぼれしてしまった武器もある。
「あっ...」
誰がかそう漏らした声はそれ以上紡がれることはなかった。
纏わりつく羽虫を払うように振るわれた尾は、射線上に居たゲルマンを含めた3人の衛兵を捉えていた。
ぐしゃり
鎧がひしゃげた音か骨が砕けた音あるいはその両方とも取れる音と共に2人の衛兵は呆けたまま上半身を纏めて吹き飛ばされる。
「まっ...!」
咄嗟に武器を挟み多少は衝撃を緩和できたゲルマンだったがそのまま近くの家屋まで吹き飛ばされていった。
「う、うわぁぁぁぁぁ!?!!!」
先ほどまでの統率を失い烏合の衆となった衛兵達は武器を放り出し逃走を図る。
しかしそれを許すほどブラッドサウルスは慈悲深くなかった。
「グオォォォォォォ!!!」
ブラッドサウルスの咆哮を皮切りに始まる虐殺劇は悲鳴というコーラスと共に奏でられていく。
ある者はその巨足で全身あるいは体の上か下かを10分の1以下に潰されて絶命。
ある者は最初の衛兵と同じように凶器的な尾の一振りに肉体を悉く粉砕される。
そしてある者は必死の抵抗ごと巨大な顎に、さながらつぶれた果実のように鮮血を吹き出しながらその命をかみ砕かれる。
見知った顔の人間が死んでいく。
カイルスは吐き気を感じなかった。
ただ目の前の惨劇が映画の中のワンシーンのようにしか思えなかった。
『これは現実じゃない』そう考える事でしか目の前の情報を認識できなかった。
そして逃げ惑う最後の衛兵がブラッドサウルスの口内に消えていき辺りは異様な静けさが漂っていた。
ブラッドサウルスはカイルス...ではなく吹き飛ばさていた家屋からボロボロの姿で這い出てきたゲルマンに視線を向ける。
その視線を感じたゲルマンは恐怖と絶望に顔を歪めながらもまだ生き残っているカイルスに視線を向ける。
その眼は確かに逃げろと言っていた、表情も顔色も全てが恐怖しきっているのにその眼だけは気高さを失うことなくカイルスに訴えかけてきた。
そんなゲルマンの意志など関係なしと言わんばかりにブラッドサウルスはその血に濡れた顎を開きゲルマンを嚙み砕かんとしていた。
そしてそんなブラッドサウルスの身体にカキンと主を失った剣が投げつけられた。痛みなど無かったがその感覚に意識を向けたブラッドサウルスが此方にその赤と黒の顔面を向けてくる。
カイルスは何も考えていなかったただ
ブラッドサウルスは顔だけでなく体全身をこちらに向け感じたことないほどの殺意を向けられる。
そしてカイルスは.......
逃げ出した
踵を返しブラッドサウルスに背を向け己の全てをその足につぎ込み逃げ出した。
後方からブラッドサウルスの咆哮とこちらに迫りくる重く響くような足音が近づいてくる。
そうして命がけの鬼ごっこが始まった。