ダンジョンに英雄志望と王様志望がやってきた!


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作:エヴォルヴ
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オラリオ緊縛劇


 ティオナさんとの訓練を終えた夜、俺はベル達が帰ってくるのを待つために【ヘスティア・ファミリア】のホームへと向かっていた。今日は月も星も輝いている。歩くのには困らない程度の明かりがある道を歩いていると、ふと、ホームの近くに人影があることに気付く。今日の夜に客が来る予定はなかったはずだが。

 

「ここか?」

 

「ああ、間違いねぇ。アーデがここに入っていくのを見たんだ」

 

 ……ははぁ、何だかきな臭い感じになってきたぞ? 

 

「例のやつらが帰ってくる前に事を済ます────」

 

「こんばんわぁ、不審者さん」

 

 というわけでヌルっとエントリーだ。へいへい犯罪者予備軍さんよぉ、こんな夜にうちに何の用ですかねぇ? 

 

「あ? お前は────」

 

「カヌゥ! こ、こいつだ! こいつが例の────」

 

「カヌゥ?」

 

 そこの変なやつが? 下卑た視線を向けてきている、どんな冒険者達よりも弱そうというか、リリルカ曰く滅茶苦茶弱いという、【ソーマ・ファミリア】の? リリルカを傷付けた一人の? 

 

「ああ……てめぇがカヌゥかァ……」

 

「確かに俺はカヌゥだが、それがお前に────────ッゲェエエエエエエエエッ!!?」

 

 黒いガントレットを纏った右拳が、カヌゥの顔面をぶち抜く。その結果、カヌゥは教会近くの壁にまで吹っ飛ばされ、俺の右腕はぐちゃぐちゃに粉砕骨折した。

 だがなぁ……!! こんな痛みなんざ、リリルカが受けた苦しみに比べたら屁でもねぇぜ!! まだ怒り足りねぇよ……!! ああ、怒り足りねぇ……!!! 

 

「イラつくぜ……! イラつくよなぁ……ッ!!」

 

「て、てめぇ、俺達が誰か分かって────ぶげぇッ!?」

 

「てめぇみてぇなやつが得をして!」

 

「ゲッ!? や、やめ゛っ!? ギャッ!?」

 

「てめぇみてぇなのが笑って! リリルカが泣いてるなんてのはよォ……!! 腹が立って仕方がねぇ!!!」

 

 カヌゥの顔面を思いっきり踏み抜く。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も、何度でも。胸の奥から湧き上がる怒りの炎を爆発させて、このクズの顔面を踏み抜き続ける。

 

 そんな行為をしていれば、普通なら助けが入るはずだが、こいつの人徳の無さが影響しているのか、他の連中が助けに入る様子はない。良かったなァ、カヌゥさんよォ……お前が虐げ続けたサポーターの気持ちを味わえるいい機会だぜ? リリルカの話じゃ、あいつを甚振って、楽しそうにしてたらしいじゃねェか……!! 

 

「リリルカの分まで楽しんでくれよ!」

 

「でめ゛ぇ゛……! イ゛カ゛レ゛て゛ん゛の゛か゛!?」

 

「生憎と俺は【ヘスティア・ファミリア】の暴力担当なんでなァ! 止めるならうちの団長か参謀か主神がいないとダメだぜ!! 皆が帰ってくるまで頑張ろうなァ!!!」

 

 もう一度力一杯カヌゥの顔面を踏み潰したら、ピクピクと痙攣するだけになってしまった。チッ、命拾いしたな。まぁ、殺しはしないけどな。こいつらは手土産として【ソーマ・ファミリア】のホーム────いや、酒蔵だったか?ホームか?まぁ、とにかくソーマがいるとこに連れて行かないといけない。てめぇらをぶっ潰しに来ましたっていう手土産だ。最強の大会を開かないだけありがたいと思え。ポーションぶっかけてやるよ。良かったなァ、顔面が死ななくて。ん? 元々顔面がアレだったし、整形できたことを祝うべきか? 

 

「さぁて……次はどっちが俺の相手をしてくれるんだァ……!!?」

 

 血走った眼で残りの二人を見ると、やつら、失禁して動けなくなってやがる。まぁ、それはそれで好都合。とりあえずタマァ蹴り潰しておくか……

 

「騒音聞きつけて急いで帰ってきたけど何やってるのヴィジル!?」

 

「何やってるんですかヴィジル様!?」

 

「おー! ベル! リリルカ! 帰ってきたか!」

 

 タマを潰す前にベルとリリルカが帰宅した。教会前の惨状に驚愕しつつ、俺が黄金の右足こと血みどろレッグを見せながら笑うと、ドン引きしつつ、状況を見定めるような目を向けてきた。

 

「どっちが先?」

 

「俺」

 

「うーん、この」

 

「まぁ、向こうは俺らの家に何かしようとしてたから正当防衛だろ」

 

「過剰防衛では?」

 

「あと、【ソーマ・ファミリア】。こいつら引きずって喧嘩売りに行こうぜ」

 

「「相変わらず暴の化身過ぎる」」

 

 お前らが穏健派過ぎるのが悪い。その分俺が過激派にならざるを得ないのだ。……いやお前らがいなくても暴の化身になってたかもしれないが。ははは、こらこらリリルカ。その大鉈で断頭するのは止めてやれ。去勢は許そう。ディアーナお祖母ちゃん曰く、右の頬を打たれたら、その者の右の玉を潰せとのことだ。相手が女だった場合? やはり玉を潰せとのことだ。玉どこだよ。眼球でいいか? 

 

 我ら【ヘスティア・ファミリア】。家族に手を出す、もしくは出そうとした輩に対し、剣と銀弾を打ち込む者なり。慈悲を乞うのであれば乞うがいい。慈悲を与えるのはヘスティア様か団長であるが、個神、個人、の慈悲のみだ。国民に手を出した愚か者を叩き潰さねば、こちらが舐められるというもの。酒に溺れた者、下種の思考を持つ者、友を傷つける者に慈悲などいらぬ。

 

「荒縄を用意しろ! オラリオ引き回し及び宣戦布告だ!」

 

「遅かれ早かれそうなるとは思ってたけどさ……荒縄用意してあるけど」

 

「急ですねぇ。荒縄買ってきて正解でした」

 

 準備がいいことこの上ない。いいぞお前ら。もっと染まれ。

 

「ここをこうして縛って……こう……」

 

「相変わらず手慣れてますねぇ……」

 

「何も言わずに出ていったやつらを捕まえるために学んだ技よ……」

 

 俺だけではなくベルも見たまえよ、リリルカ。ベルもまた俺と共に黒い神様のタマを潰した猛者の一人よ……だから、人間の姿をしているのならば、どんなやつでも縛る技ってのを身に付けている。お師匠様からも教えてもらったしな。

 

「できた! 前より綺麗な蟹の縛り!」

 

「甘いぞベル! 俺は海老の縛りだ!」

 

「ヴィジル、ここの縛りちょっと緩くない?」

 

「何ぃ? くっ……俺としたことが……!」

 

(あの日も思いましたが……なぜそんな縛り方を?)

 

 お師匠様曰く、捕縛にも芸術性というものがあるらしい。犯罪者を芸術品にしてやることで、被害に遭った者達の溜飲を下げる……そういった考えがあるからこそだという。

 

「よぉし、全員縛ったな!? 行くぞ!!」

 

 恩恵は貰っているようだし、多少引き摺っても死にはしないだろう。尊厳は知らん。酒に溺れたやつらの尊厳なんてそもそも無いに等しいだろ。引きずり回してすりおろしたリンゴのようになってしまうかもしれないが、ポーションで治せるから誤差の範疇だろう。……いや、ポーションもったいないから滑車を使おう。

 

 そう考えると神様というのは凄く頑丈なんだな。あの時何度もオラリオ中を引きずり回してからタマを蹴り上げたが、泡を噴いて気絶する程度で済んでいた。泡を噴いて気絶する度にポーションを使って色んなものを復活させ続けたが、それでも精神が壊れない辺り、本当に頑丈だ。次に現れたらどの面フレンズとしてもう一度最強の大会開催予定である。今度は俺、ベル、リリルカのローテーションで行う。腕のいいポーションメイカーを確保しているから任せてほしい。稼ぎ時ですぜ、【ミアハ・ファミリア】。

 

「樽に詰めて転がすのも考えたんだけどさ、やっぱこれよ」

 

「暴虐の化身ここに極まれりだよ」

 

「こんなに気持ち悪い荷物を運ぶのは初めてですねぇ」

 

 リリルカのスキルによって荷物判定を受けた【ソーマ・ファミリア】の連中が人が少ない道を引き摺られている。振動で起きると思っていたが、中々起きないものだ。……いや、もしかしたら気絶したふりをして一矢報いるタイミングを模索している可能性が……? そうだとしたら中々の策士に違いない。

 

「おー、ヴィジル! 何してんだい!」

 

「最強の大会開催準備っす!」

 

「ガハハハッ! 祭りがまた始まるわけだ!」

 

 血の気の多い元冒険者のダンディなおっさんに声をかけられたのでそう答えると、あの日を知っているおっさんが大笑いした。詮索するつもりは全く無いが、あんたどこの所属だったんだ。

 

 オラリオの人達は結構肝が据わっているようで、俺達がこうして荷物を引き摺っていても少し驚いた後、何事もなかったかのように自分がやっていた作業に戻っていく。流石暗黒時代を生き抜いてきた人達だぜ。黒い神様と合わせて縛り上げた闇派閥の神様とか、恩恵を奪われた闇派閥の眷族達を対象とした最強の大会は老若男女問わず参加した伝説のイベントだったと記憶している。

 

 ちなみに最強の大会というのは、ディアーナお祖母ちゃんとヘラ様の監修の下名付けられた名前だ。言葉を包めと言われたので考えた。シンプルに玉蹴りでも良かったのでは? 

 

「で、【ソーマ・ファミリア】のホームってどこだ?」

 

「どうせホームはもぬけの殻ですよ。酒蔵が本拠点と言っても過言ではない状況ですし」

 

「ヴィジル、前にもリリが話してたよ?」

 

「そうだったか? すまん、忘れてたわ」

 

 リリルカの道案内によって路地裏、メインストリート、様々な道を通って辿り着いたのは立派な倉庫がいくつも建てられている【ソーマ・ファミリア】の酒蔵。なるほど、酒の匂いが強い。

 

「ここがあの男のハウスね」

 

「神様語録飛び出てるよヴィジル」

 

「おっと」

 

 神様達ってたまによく分からない言葉を発するので、それを語録として記録していたら自然と口から飛び出す事例がごく稀に発生するようになってしまった。おのれ精神汚染。

 

 そんなことを考えながら酒蔵に足を踏み入れると、夜になったというのにまるで亡者のように動いている者達がぞろぞろと集まってきた。何だこいつら……目に生気がないし、酒のことしか考えていないような表情をしている。しかも酒臭いし。

 

「ぁ……ぁ……」

 

神酒(ソーマ)を……飲みてぇ……」

 

「っひひ……金があれば、酒が飲める……足りねぇ……足りねぇよ……」

 

 ……酒に呑まれてやがる。リリルカの言っていた通り、酒の亡者ってやつか。

 

「前に見た時よりも酷いですね……まともな方はもう、少ないでしょう」

 

「……ヴィジル、やろう。ここはきっと、リリがいちゃいけない場所だ」

 

「おうよ。奴さんら、俺達を侵入者というよりも、金蔓として見てるようだしなぁ……」

 

 蔓は蔓でも、俺達はお前らを縛り付ける蔓だってことを行動で示してやろうじゃないか。

 引き摺ってきた連中の縄を力の限り握りしめて、俺とベルはリリルカの方を見る。この戦いの始まりを告げるのは俺とベルではない。リリルカが呪縛から解き放たれるための戦いでもあるのだ。

 

「リリ、準備はいい?」

 

「戦闘開始の宣言をしろ! リリルカァ!!」

 

「はい! …………ソーマ様!! お暇を頂きに────参りましたぁあああああああッッ!!! 

 

 リリルカの叫びと共に、俺達が縄を力一杯ぶん回して酒の亡者こと【ソーマ・ファミリア】の眷族達に叩き付ける。人間ハンマーなんて恩恵を持っていないとできない芸当だな!! 

 

「抗争開始だオラァ!!」

 

 俺が先陣切って突っ込むと、ようやくただの金蔓ではないと認識したらしい酒の亡者共が武器を抜いて襲いかかってきた。だが、遅い。技が無い。今日組手をしてくれたティオナさんとは天と地ほどの差がある。アルフィアさんやザルドさんにも遠く及ばない。どれだけ数がいたとしても、この程度の連中にやられるほど、俺達は軟な人生を送っていないのだ。

 

「死に晒せぇ!!」

 

「しゃらくせぇ!!」

 

「ひでぶっ!?」

 

 大振りな攻撃に対して顎にハイキックを叩き込み、その遠心力を利用してバク転しながら神様の直剣を振り抜けば、後ろから迫っていたやつの肩を切り裂いた。さらにその後ろからやってくる敵に対して虚飾の王で応戦しようとした瞬間、横から炎雷が飛来し、敵を焼いてみせる。ベルの魔法だ。

 

「ナイス援護!」

 

 そう言いながらベルに襲いかかる【ソーマ・ファミリア】の眷族を虚飾の王で撃ち抜き、痛みに怯んだところをベルが回し蹴りで刈り取る。

 

「お互いね!」

 

「お二人共油断はしないでくださいよ!」

 

「「分かってるよ!」」

 

 俺とベル以上に暴れ回っているのは、今までの鬱憤を晴らすかのような勢いで大鉈を振り回すリリルカである。彼女が大鉈を振るえば、少なくない人間が吹き飛んでいく。

 

「見ろよベル、敵が紙屑のごとく飛んでいくぞ」

 

「リリってなんでサポーターで留まってたのか不思議なくらい強いよね」

 

「誰も見る目が無かったんだろうよ」

 

 まさに怪力無双、抜山蓋世。あれこそが人中のリリルカ、リリルカに大鉈。リリルカこそが真の小人(パルゥム)無双だ。

 

 他者に踏みにじられ、裏切られ、虐げられ、全てを奪われることが当たり前だと思っていた、弱くて小さな少女はもういない。ここにいるのは暗闇から抜け出し、大空へと飛び立った少女だ。俺と、俺の親友が認めた、最高の仲間だ。断言してやろう。

 

 リリルカは、俺達に必要不可欠な存在であると。誰もリリルカを必要としなかったとしても、俺達は声高らかに叫ぼう。俺達【ヘスティア・ファミリア】にはリリルカ・アーデという一人の少女が必要なのだと。

 

「オラオラどうしたどうしたぁ!! たった三人程度潰せないとかでくの坊かぁ!!?」

 

「僕達はここにいるぞ! いくらでもかかってこい!!」

 

 己を奮い立たせ、迫りくる敵を打ち倒し続ける。【ソーマ・ファミリア】がそこそこ大きな派閥であっても無限にいるわけではないのだから、倒し続ければ打ち止めになる。ダンジョンでは打ち止めというものがなかったとしても、人間の数には必ず限界がある。打ち止めになるまで倒し続ければ、俺達の勝ちだ。この程度の質しかない連中など、地獄の鬼ごっこに比べたら屁でもないわ。




次回、ハレルヤ
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