ダンジョンに英雄志望と王様志望がやってきた!


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作:エヴォルヴ
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王冠!装束!自壊!貴様本当に魔法か?


自壊、ヴィジル死す。デュエルスタンバイ!(殺されても死なないので問題なし)


 オラリオが目覚めてまだ間もない時間帯。

 俺達【ヘスティア・ファミリア】の眷族及び眷族予定の五人はダンジョンの中にいた。階層は────十一階層。小竜(インファント・ドラゴン)の素材が未だ手に入らない現状、ここでキャンプをしたい気分だ。しかし、今日はそれが目的ではない。

 

「ベルの魔法は分かりやすそうだよなぁ」

 

「うん。ヴィジルのは……その、何?」

 

「俺だって分からん。使ってみない限りは何とも」

 

 グー、パー、グー、パーと、握っては開き、握っては開きを繰り返し、俺達は生まれてきたモンスターに体を向ける。

 

「ベル、先に使ってみろよ」

 

「え、いいの?」

 

「おう。ベルの魔法がどんなものか、俺も見たいしな」

 

 ほら、とベルへ先に撃てと促すと、ベルは生まれてきたモンスターの一体、オークを見据えて右手を構えた。滲んでいるのは期待と不安。それを一気に取り払うかのように息を吐いたベルは、眉尾を吊り上げて咆哮した。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 次の瞬間、俺達の視界が赤く染まった。

 

「おお!」

 

 ベルの右手から放たれたのは、緋色の雷────ではなく、稲妻のような炎。

 鋭角的で、不規則な線条を描く炎がオークへと突き進んでいき────着弾。オークの背中にオレンジ色の花が咲き誇った。

 

「貫いた……?」

 

「ねぇディナお姉様、詠唱してなかったわよね、さっき」

 

「そうねヴェナ。詠唱してなかったわ」

 

 威力はそこそこ、速度、連射力は申し分なし。おや? 俺の銃と役目が被っていないか? 凄いなベル。これってあれだろ? ベルも後方支援に徹することができるようになったってことだろ? 圧倒的ではないか、俺達のパーティーは。

 

「は、ははっ……~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!」

 

「嬉しそうだなぁ、ベル」

 

「だって……だって! お義母さんも使ってたのに、僕は使えなかった魔法だよ!? 嬉しくないわけないじゃん!」

 

「そりゃそうだ! 良かったなぁ、ベル!」

 

 そうだよなぁ。俺も昔、両親が使っていたという魔法の話を聞いて目を輝かせたことがあった。アルフィアさんがよく使っている魔法、【サタナス・ヴェーリオン】を間近で見てきたベルは、どうして自分は魔法が使えないんだろうと悩んでいた時期もあった。そんなベルが魔法を使えるようになったら、そりゃあ嬉しいに決まっている。

 

「【ファイアボルト】、いい魔法だな。連射できて、火力もある。オークは一撃か。当たり所が悪くても、牽制になる。いい魔法じゃん」

 

「うん! でも、連射できるからって調子に乗ると怖いかも……リリはどう思う?」

 

「そうですね……連射できることは間違いなく長所です。ただ、それにかまけてしまうと痛い目を見るかもですね」

 

「そうならないように、行動の隙を埋める使い方をするといいかもしれないわね」

 

「私達の戦闘スタイルを一人で熟す、ってイメージがいいかしら?」

 

 なるほど、と俺達は頷く。ディース姉妹の戦闘スタイルは、姉のディナが前に出て、妹のヴェナが後ろから魔法を撃つというものだ。お互いの隙を潰すそのスタイルに翻弄されて倒れたやつは数知れず……らしい。彼女らのスタイルをベル一人で行うとなると……攻撃の合間合間に魔法を差し込んで隙を潰すような感じか。厄介だな。

 

「そこに王様とリリルカの攻撃や援護が挟まるのだから、並大抵の人は太刀打ちできないわ」

 

「具体的に言えば、ステイタスに寄り掛かるだけの上級冒険者なら、簡単に殺せるわね」

 

 今は足を洗っているが、かつて冒険者相手に殺戮の限りを尽くしていた彼女らの言葉だ。信用していいだろう。

 

「まぁ、正直なところ、リヴェリア様の魔法よりもベルの魔法の方が怖いわ」

 

「そうね。火炎石を投げてからその魔法を撃たれたら大変だし」

 

 そういえばベルの魔法は炎だから、火種にもなるか。

 あーだこーだと話して、ベルの魔法についての考察を行い、どんな魔法なのかやどのような運用がいいのかと話し合った結果は以下の通りだ。

 

 1.起死回生の切り札としての運用ではなく、戦闘の穴を埋める運用が良さそう。

 2.成長率が化物級。詠唱が不要なので、簡単に練度を上げていける。

 3.攻撃、回避、回復、様々な場面で差し込んでいけ。

 

 まぁ、他にもあったけど、大体こんな感じ。切り札としては使いにくいが、普段使いで火力を高めていけば、ゆくゆくは切り札としても運用可能ではないか……というのが魔法種族(マジックユーザー)の代表格であるディース姉妹の見解だ。

 

「じゃあ、次は────」

 

「俺だな」

 

 俺の魔法も少々……いや、かなーりよく分からない文言が記載されていたんだよな。何だよ王になる、王を呼ぶ、虚飾の王の装束を呼ぶって。

 

「詠唱破棄可能魔法、でしたか。どのようなものでしょうか?」

 

「ううん……そんな魔法を見たことはないけれど……」

 

「詠唱破棄可能魔法なんて、多分前代未聞よ」

 

 マジで使ってみないことには何が起こるのか分からない変な魔法、ということか、この【ナインクラウン】とやらは。

 

「まぁ、とりあえず……あのシルバーバックに向けて使ってみるか」

 

 こっちに気付いてはいないから、今のうちに不意討ちを狙ってみることにする。

 

「……【ナインクラウン】!」

 

 バキッ、と俺の中で何かが砕ける音がした直後、俺の体から何やら黒い靄……じゃないが、黒と赤の変な粒子のような何かが滲み出て、巻き付いていく。

 

「な、何だァ!?」

 

「「────あら?」」

 

「靄が……」

 

「形作られてる……?」

 

 巻き付いてきた黒い何かが、黒と赤で彩られた形を成していく。それは、黒い王冠だ。光を通さないような黒い茨で作られた王冠。それが俺の頭に乗ったのとほぼ同時くらいに、黒くて質の良いコート? マント? が俺の装備の上から羽織るように装備された。これが、俺の魔法……ってことでいいのか? 

 

「これ……いや……うん?」

 

「装備を呼び出す魔法……? ヴィジル様、その装備に見覚えは?」

 

「全く無いが?」

 

「ですよね」

 

 この魔法は一体何なのだと思いつつ、こちらに気付いたのか、獰猛な叫びを上げながら向かってくるシルバーバックに意識を戻す。これが何なのかよく分からないが、とりあえず一発────そう思って銃を構えた瞬間、違和感を感じる。

 

「……あ?」

 

 体の中から何かが吸い出されていく感覚に困惑しながらもシルバーバックに狙いを定め、引き金を引くと、いつも通り銃弾が吐き出される。しかし、その威力がいつもとは違った。ズドンッ、といつも通り重厚な音が響くのと同時に吐き出された弾丸が、シルバーバックの肩を貫き────千切り飛ばしたのだ。

 

「ははは……嘘だろ?」

 

 虚飾の王は確かにちょっと前よりは威力を増している。しかし、俺の腕とか発想力が追い付いていないからなのか、何でも撃ち抜けるような威力を持っているわけではない。そのはずなのに、今放たれた弾丸は、シルバーバックの腕を吹き飛ばしてしまっている。

 

「ガァアアアアアアアアアアア!!!」

 

「ッラァ!!」

 

 激昂したシルバーバックの全体重をかけた飛び上がりからの叩き付け攻撃に対し、銃ではなく、神様の直剣(ヘスティア・ブレード)で応戦する。こちらも何かが吸い取られるような感覚に苛まれたが、目を見張る威力を見せてくれる。こっちの威力も上がっているのか、まるで紙を斬るかのようにいとも容易くシルバーバックを切り裂いてしまったではないか。

 

「な、何だ、こりゃ……」

 

 いくら何でも強すぎる。虚飾の王の装束とやらがこの成果を引き出しているのだろうが、今の俺では持て余すような力だ。

 

「す、凄いよ、ヴィジル! その魔ほ────!!?」

 

「ヴィ、ヴィジル様!?」

 

 何やら驚いたようにこちらに声をかけてくるベルとリリルカ。振り向いた時、二人────もしかしたらディース姉妹もだったかもしれない────の表情は、青褪めていて。何をそんなに青褪める必要があるのだと首を傾げた直後。

 

「…………ぇ」

 

 俺の両手があらぬ方向にねじ曲がり、砕けていることに気付いた。それだけではなく、全身がくまなく痛みを発しており、さらには倦怠感や酩酊感が俺の体を支配する。痛みでも保てない意識が、本格的に俺の体が不味いことになっていることを知らせていた。

 

「あ、これ、不味────」

 

 足が覚束ず、立っているのかも分からなくなる。

 地面が起き上がるような感覚に襲われ、ベル達の声が遠くに聞えるのを感じながら、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 微睡みが俺の全てを支配する。

 温かくて、どこか懐かしい匂い。昔、ディアーナお祖母ちゃんがしてくれた、膝枕? なるもので昼寝をした時のことを思い出す。あの後、ディアーナお祖母ちゃんの眷族であるお姉様達から感想を聞かれたりしたっけ……

 心落ち着かせてくれる温かさと、木漏れ日差す森のような、穏やかな香りだ。とても、とても懐かしい感じがして、ずっとそうしていたい気持ちにさせられる。

 

「…………?」

 

 不意に、髪を撫でられた。

 ディアーナお祖母ちゃんがしてくれたような、眠くなってくる穏やかな手付きではなく、優しく、弟や妹をあやすような、安心させてくれる手付き。

 

「………………お姉様?」

 

 ディアーナお祖母ちゃんの眷族の人を呼ぶ時はそう呼びなさい、とお祖母ちゃんに言われていたから定着してしまったその呼び方を口にする。あれ? でもお姉様達はオラリオにはいないはず────

 

「王様ったら、寝惚けているの?」

 

「寝起きだからまだ意識が混濁しているのよ、きっと」

 

「それもそうね、ディナお姉様。ところでそろそろ交代の時間よ?」

 

「あら、本当ねヴェナ。でも王様が起きてしまったし、もうおしまいにしましょう?」

 

「ディナお姉様だけずるいわ。私も膝枕したかったのに」

 

 霞む視界を一気に覚醒させる。

 無理矢理覚醒したからなのか、まだブレている視界の中で、拗ねている妹を宥めながらも、俺の頭を撫でる白妖精と、少しだけ不満げに小さく頬を膨らませている黒妖精の姿が飛び込んできた。

 

「……?」

 

「起きた?」

 

 弾かれるように起き上がろうとするが、ぐっ、と軽い力だけで押さえ付けられてしまった。

 

「まだ体を起こそうとしちゃダメよ、王様。体は治っていても、精神がまだ回復しきってないから」

 

「なら私が膝枕したいわ、ディナお姉様」

 

「ええ、いいわよ。揺らさないようにしてね?」

 

 何の違和感もなくディナの太ももからヴェナの太ももにシフトチェンジされた。変わらず柔らかくて温かい、が。いけないことをしているようで精神が削られていくのを感じながら、状況を確認する。

 

「ここは?」

 

「あなたの部屋よ? ポーションで治療した後、すぐに運んだの」

 

「魘されてたから、ディナお姉様と一緒に王様がどうすれば落ち着くのか考えて、こうしてるの」

 

 精神が削られ続けているのはダメだと思うがどうだろうか。

 

「俺は、何で倒れた?」

 

精神疲弊(マインドダウン)と、激痛による気絶よ」

 

 魔法の使い過ぎで起こるという精神疲弊(マインドダウン)と、大怪我による激痛で俺は気絶したらしい。魔法、一回しか使っていないはずなんだが? 

 

「あの魔法はきっと、あの装束を装備している限り魔力を使うものだと思うわ」

 

「そして、肉体や武器の性能を引き出す。ただし、王様の体が耐え切れずに自壊してしまった」

 

 ……何とも使うどころを考えなくてはいけない魔法だ。ベルの使い勝手のいい【ファイアボルト】が羨ましく見えるくらいには、癖が強い魔法を発現させてしまったらしいな、俺は。

 

「ランクアップすることで恐らく強化の幅が広がる。けど……」

 

「今のままじゃ間違いなく自壊する、か」

 

「ええ。だから、今後はあの魔法の出力を制御する練習をした方がいいと思うわ」

 

 そうかぁ……やることたくさんあって暇になる気配が一向にないな。ところで。

 

「膝枕はもういいから降ろしてくれないか?」

 

「あら、嫌よ王様。少なくとも私達が満足するまでは止めないわ」

 

「今日は泊っていくから大丈夫。アストレア様にも伝えてあるわ」

 

 嘘だろ?




【ナインクラウン】
・肉体、装備の限界を引き出す。
・レベルによって限界の上限あり。
・出力を調整できなければそのうち全身の骨という骨が粉々になった後爆散する。
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