ダンジョンに英雄志望と王様志望がやってきた!


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作:エヴォルヴ
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ハレルヤをご所望か?


 お説教を右から左に聞き流してから帰還して泥のように眠った本日の予定は、いつもと変わらずトレーニングを終えて、自由行動。今日はベルとリリルカがいないフリーの時間である。一流の冒険者は休むことも徹底するらしいが、休日というのは、どのように過ごすべきなのだろうか。

 

「あれ? ヴィジルじゃない!」

 

 休日をどのように過ごすかを考えてメインストリートを歩いていると、元気の塊みたいな声が俺の耳に届いた。この声を忘れるほど、俺の頭脳は衰えていない。この声は間違いなく────

 

「アリーゼさん、お久しぶりです」

 

「硬いわ! もっと砕けていいわよ! 具体的にはお姉ちゃんって呼んでくれても────」

 

「あ、お師匠様お久しぶりです」

 

 姉を名乗る不審者よりもお師匠様であるライラさんに挨拶する方が大事だ。

 

「おー、相変わらず能天気そうな顔してんな」

 

「酷くないすか」

 

 桃色の髪をショートカットにした小人族(パルゥム)のライラさん。いつも俺達に色んなことを教えてくれたが、その度に言っていた『知識を知恵に変えろ』という言葉は、虚飾の王を開発する際にも、今の今までダンジョンで生存できていることにも繋がっている言葉だ。

 ちなみに姉を名乗る不審者の彼女はアリーゼ・ローヴェル。二つ名は【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】で、Lv.4の冒険者。あれ? 最近Lv.5になったんだっけか? まぁ、とにかく強い冒険者で、【アストレア・ファミリア】の団長を務めている。正義のファミリアらしい人ではあると思う。

 

「他の二人は?」

 

「自由行動です。今日は休めと言われてるんで」

 

「ほーん、お前らを休ませられるとなると……ヘスティア様かアドバイザーか」

 

「正解っす」

 

 いやはや、凄く怒られたが……あれくらいは冒険にもならないんだよなぁ……その油断が命取りだが、あの程度で死んだらアルフィアさんとザルドさんの訓練で死んでいる。何で生きてるんだろう、俺達。

 

「……あら? ヴィジル、あなたクロスボウ使いよね? クロスボウはどこにいったの?」

 

「えーと……これになりました」

 

「あら、何だかコンパクトになったわね!」

 

「ヘスティア様とかに大手を振って使うなって言われてるんですけどね、これ」

 

「まぁ、見たことない武器ってのは神も冒険者も興味持つだろうし、妥当だな」

 

 爆弾や火種として火炎石を持っている冒険者はいるし、この銃が放つ音もそれだと勘違いされるかもだが、この実物を見て俺に寄こせと言われたら堪ったものじゃない。炸薬式クロスボウγだって、お蔵入りにするか分解して新しいアイテムとして生まれ変わらせようと考えていたのに、ヘファイストス様め……ゴブニュ様もそうだったが、鍛冶の神様というのは皆あんな感じなのか? 

 

「それで、その武器はどんな武器なの?」

 

「連射できるクロスボウみたいな感じですね」

 

「強いな。威力は?」

 

「キラーアントならヘッドショットでワンパンですね」

 

「あら、まぁまぁな威力ね! うちのメンバーに見せたら欲しがりそう!」

 

「ただ、ミノタウロスは怯ませる程度でしたね」

 

「「なぜミノタウロス?」」

 

 これは話してもいいんだろうか? ……まぁ、緘口令は敷かれていないし、話してもいいか。この二人は信用できるし。

 メインストリートを外れて、こじんまりとした喫茶店に入った後、事の顛末を話すと、二人は中々難しい顔を浮かべた。

 

「アルフィアとザルドの教育を褒めるべきなのかしら……?」

 

「蛮勇、とは言えないんだよなぁ、こいつらの場合は」

 

 だが仕留めきれなかったのは褒められることじゃない。自惚れてはいないが、あの時のミノタウロスはあの三人であれば勝てたはずだ。逃げることを選ばず、戦うことをすぐに選んでいれば間違いなく勝てた。もちろん負けていたかもしれないが、七割は勝てたと思う。

 

「とりあえずサブ武器の練度上げと、虚飾の王の強化と……遠距離攻撃特化の銃の開発が目下の目標ですかね」

 

「一応考えてはいるんだな」

 

「考え続けないとすぐに死ぬもんで」

 

 ……また視線……何なんだ、この視線はよ……舐め回すような気持ち悪い視線を向けてくる何者かは誰だよ。

 

「どうかした?」

 

「ああいや、何でもないです。そういえば、【アストレア・ファミリア】は変わらずですか?」

 

「ええ、皆元気にしてるわよ!」

 

 それはそれは。元気なのはいいことだろう。元気が良すぎるのも考え物だろうが。

 

「ところでヴィジルは来週の怪物祭(モンスターフィリア)の予定ってあるの?」

 

「モン……何て?」

 

 怪物祭(モンスターフィリア)? そんな祭りがオラリオでは開かれるのか。モンスター、モンスターの祭りねぇ……

 

「モンスターってなると、【ガネーシャ・ファミリア】ですか?」

 

「正解! 毎年賑わうわよ!」

 

「ああ、そうか。お前らって、リリルカ以外はオラリオに来たばっかりか。あの時にいたから忘れがちだけど」

 

 ライラさんの言う通り、俺とベルは暗黒時代なんて呼ばれていたオラリオにアルフィアさんとザルドさんを追ってやって来ていた。リリルカと一緒に黒い神様を見つけたり、アルフィアさんとザルドさんの後頭部目掛けて突撃したり、黒い神様で最強の大会を開いたり、ストーカーエルフとお茶したり、【ガネーシャ・ファミリア】のアーディさんとデート(仮)をしてみたりと色々やったが、その後すぐに村へ帰ったのだ。最後二つは心臓が止まるかと思った。

 

怪物祭(モンスターフィリア)は、ダンジョンからモンスターを連れてきて、モンスターを調教する姿を見てもらおうって催し物なの。これを見るためにオラリオの外から来る人もいるくらい」

 

「へぇ……うーん……」

 

「どうかした?」

 

「いや、どうして【ガネーシャ・ファミリア】はそんな祭りをするようになったのかなぁ、と」

 

「まぁ、ガネーシャ様だからな」

 

 うーむ、それでいいのか? 他に何か意図があるような気がするんだよなぁ……モンスターとの融和、とまでは行かないが、共生、共存という可能性を生み出すとか? いや、でもそれは難しい気がするんだよなぁ。モンスターと人間の戦いの歴史っていうのは凄く長いのだ。しかも、ダンジョンから地上にモンスターを連れてくる行為自体忌避されることが多い。怪物趣味、なんて性的嗜好も忌避される。根強い戦いの歴史が、俺達とモンスターの共存を拒んでいると言っても過言ではない。しかし……

 

「喋るモンスターがいたら、話ぐらいはしてみたいけどな」

 

「喋るモンスターがいたら間違いなく大混乱だろ」

 

「それはそうでしょうけど、意思疎通ができるなら話をしてみる。これでも人を見る目は悪くないんですよ、俺」

 

 まぁ、たまーにミスることはあるけど。ストーカーエルフなんかは最たる例である。でも未来の国民認定してしまったので、その責任はちゃんと取らないといけない。しかし発作が出る。怖いんだよなぁ、あいつら……確かLv.   5とかそこら辺じゃなかったか? 

 

「……っし、そろそろ行きますわ。【色欲の暗殺者】も作り上げたいですしね」

 

「名前は付けてるんだな。てか何で色欲?」

 

「ポンと浮かんだのがそれなので。こう……色欲に溺れたやつを刈り取る暗殺者って、音もなく敵を消しそうじゃないです?」

 

 女王とかでも良さそうだけど、ポンと浮かんだものがこれだったので、このまま名付けよう。ホームに帰って早速作業に取り掛かろう、そう思った矢先、俺の視界に嫌なものが見えてしまい、席に代金を叩きつけて飛び出した。

 

「ヴィジル!?」

 

「アリーゼ、捕縛の準備だけしとけ」

 

「へ? ────ああ、そういうことね」

 

 カフェを出る直前に二人の声が聞えたが、何か答えるわけでもなく、その現場に飛び込む。

 

「へいへい、おっさん。寄って集って女性怖がらせるってのはどういう了見よ?」

 

「ああん? んだてめぇ」

 

 俺の視界に飛び込んできたのは、妙齢の女性を冒険者らしき連中が囲んでカツアゲしている光景だった。アリーゼさんとライラさんに一言言ってから出ることも考えたが、状況説明をしている間に女性が路地裏に連れていかれたら、何が起こるか分かったものではなかったからな。

 

「その人、怖がってんだろ。見て分からねぇか?」

 

「おいおい、ガキが一丁前に大人のあれこれに首突っ込むなよ」

 

「それとも混ぜてほしいか? ん?」

 

 酒臭いな、こいつら。こういうやつらの民度の低さが冒険者の品位を叩き落としている原因ではなかろうか。

 

「勘違いしてるところ悪いんだけどさ、こんな大通りで女性を囲むとか正気か? アストレアとかガネーシャが目を光らせてるのに?」

 

「知ったこっちゃねぇんだよ! 説教がしてぇなら他を当たりな!」

 

「一から十まで言わないと分かんねぇか?」

 

 ザルドさんに教えてもらったガンの付け方で酒臭い冒険者(暫定)を睨み付ける。

 

「その人離して自首しろって言ってんだよ。ああ、その人から奪った金は置いていけよ? 檻の中じゃ使えないだろ?」

 

「気取ってんじゃねぇよガキが!!」

 

 激昂した酒臭い冒険者が拳を振るう。遅い、遅すぎる。キラーアントやウォーシャドウの方が速いくらいだ。昼間から酒に酔ってるならこの程度だろうが、なんて思いながら受け止めてみれば、威力も軽すぎる。ベル換算で十五発、リリルカ換算で四発と言ったところか。他の連中の攻撃を喰らう必要もないし……まぁ、あれだな。

 

「痛みは我慢してくれ」

 

「「「ぎゃあっ!!?」」」

 

 ズガガガンッ! と俺のバトルスーツ────神様曰くビジネススーツ? ────の腰にセットされていた虚飾の王を引き抜き、酒臭い冒険者の膝を撃ち抜く。襲われて殴られたわけだし、正当防衛だろ。

 

「弾は貫通してんだ。ポーションで治るだろ」

 

「て、てめぇ……! 俺達は【ソーマ・ファミリア】だぞ……!?」

 

「だからどうした」

 

 痛みで酔いが醒めてきたのか、蹲りながらも確かな殺気を滲ませて俺を睨んでくるおっさん達を見下ろしながら、震えている女性をメインストリートの方に寄せていく。男に触られるのは怖いだろうが、少しの間我慢してくれ。

 

「お姉さん、これ持って早く行ってください。できればこのことは忘れる方向で」

 

「え、あ、えと……」

 

「ほら、行った行った! あとは冒険者間の問題なんで!」

 

 さっさと行け、と手を動かすと、女性は小さく会釈してこの場を去った。女性が去った頃には、俺達を中心とした人だかりができていた。野次馬根性ここにあり、という感じだな。オラリオの住民は良くも悪くもこういう野次馬根性が逞しい。だからこそここまで繁栄できたとも言えるが、日和見したり野次馬したりと忙しいな。

 

「で、【ソーマ・ファミリア】だっけか、お前ら」

 

「ああ、そうだ! てめぇみたいなガキなんざすぐに叩き潰せ────」

 

「ありがたいよ、お前らみたいなやつらのお蔭で口実ができた」

 

「「「……は?」」」

 

 リリルカをどうやって引き抜くかは、ベルと相談していたところだ。今の状況じゃ、金を払い続けて返済が完了したところで改宗(コンバージョン)がいいかと思っていたが、お前らがこうして攻撃を仕掛けてきて、俺が反撃したことで口実ができた。眷族と眷族の喧嘩だ。同じ派閥じゃなくて、別の派閥同士の喧嘩だ。和解はあり得ないよなぁ? 

 

「近いうちにお前らのとこに喧嘩売りに行くから首洗って待ってろ。まぁ、お前らは檻の中だが」

 

「お、おい、てめぇ、何言ってんのか分かってんのか!?」

 

「分かってるが?」

 

 分かっていないで言う馬鹿がどこにいるというのか。まぁ、団長のベルと主神のヘスティア様にはこっ酷く叱られるだろうが、それはそれ。アルフィアさんとザルドさんがこれを見たら妥当な判断として頷いてくれそうだし、問題ない。それに────リリルカは俺が国民認定した一人だ。地獄みたいな場所から引き上げるなら、早い方がいい。ここまで時間をかけた時点で遅いと言えるが。

 

「じゃ、あとは頼みます、アリーゼさん、ライラさん」

 

「任せて! じゃ、話は檻の中で聞くわね」

 

「この能天気に感謝しとけよ、お前ら。こいつがガチギレしてたら去勢されてたぞ」

 

 やだなぁ、ライラさん。そんなことするわけないじゃないですか。まぁ、ハレルヤをご所望ならやることもやぶさかではないけど。

 

「ほれ、散った散った! 見世物じゃねぇぞ!」

 

「まぁ、口実作りのためにも色々根も葉もないこと言ってくれて構わないですけどね」

 

「「「え、マジ!?」」」

 

「代償として去勢するけど」

 

「「「止めときまーす」」」

 

 神様除けに去勢をちらつかせるの、ありかもしれない。

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