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ーー英雄。
あらゆる時代、あらゆる国、数多の人物が人々からそう呼ばれた名称だ。
例えばの話をするとしよう。
一人の男がいた。そしてその者は「
だが、ここで一つ、問題が生じる。その「敵」についてだ。君たちは考えたことはあるだろうか、主人公の敵側サイドの者たちにも戦う理由があるのではないかということを。例外はあるがこの男の敵であった者たちにもその理由は存在した。
ーーある者は、「
ーーある者は、とある国に復讐する為に。
ーーある者は、聖女の復活を望み、その者の願いを叶えるが為に。
ーーある者は、
ーーある者は、自身が王となり、国民すべてが満ち足りた平和な理想郷をつくる願いを叶える為に。
ーーある者は、彼の願いを歪んだ形でかなえようとしたが為に。
ーーある者は、全ての悪の根絶を願ったが、それに抗うことを拒否し、あるがままを受け入れた為に。
ーーある者は、唯一手に入らなかった者を自分に並び立つ邪悪な王にしたいが為に。
ーーある者は、自身を呼んだ女を「良い女」と評価して義理立てし、彼女の為に王であろうとした為に。
ーーある者は、人理が焼却されたとしてもその後に人類の存在を残そうとした為に。
ーーある■は、「子を生み、愛する」という当たり前のことを取り戻したいが為に。
そして、
ーーある■は、世界をやり直したかったが為に。
これでもまだ一部に過ぎず、全ては、思いと思いのぶつかり合いなのである。それをどう制するかはそれぞれ異なりはするが。
ーーだが、それでもどちらを「
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<Side:ベル>
あの後、僕たちは会話を終え、それぞれが寝床につくことになったが、僕にはあの言葉が頭から離れないでいた。
『--俺が、"英雄"と呼ばれるには相応しくないと思っているからだよ。」
それを聞いた時、僕にはただ「なぜ?」という疑問しか浮かばなかった。"英雄"なのだからそれを誇ってもいいはずだ。あの"英雄譚"に登場する人達は少なくとも"英雄"であることを嫌がりはしなかった。だからこそ腑に落ちない。
「…僕が目指す"英雄"…か」
今はまだ答えが出せそうにない。それに、いつか「リツカの"英雄譚"」を僕は知りたい。
それは僕にとってかけがえのないものになると、僕はそう感じたからだ。
僕が感じたあの悲しさ…どれほどの思いがあのような表情を出してしまうのか僕にはわからない。でも、それを知れば、僕は僕自身として前進出来る。僕が"英雄"になるためにはこれは必要不可欠なんだ。
…それにあの傷。
リツカの身体には無数の傷がついていた。1つや2つではなく、
(--一体、何をすれば、あそこまでボロボロになるんだ…)
なぜか、この時僕は、感傷に浸りながら眠ろうとしていた。
冒険者、それになることの覚悟はできていたつもりであったがまだまだ自分は甘いという自己嫌悪に似たものに少し苛まれながら眠りについた。
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<Side:立香>
(あの子には申し訳ないことしちゃったな…)
この男:藤丸立香はどこまでもお人よしだ。自分のことはそっちのけでベルの事を案じていた。"英雄"。その言葉を聞いてしまったからだろう。
この男は別にそんなものになるはずはこれっぽっちもなかったし、自分には相応しくないだろうと思っているはずだ。
だというのに世界は俺を座に召し上げた。それも「セイヴァー」という生前には縁のなかったクラスで。
(それにしても"英雄"か…)
未だに実感が持てない。俺が英雄だなんて。まぁそんなことを王様に言ったりしたら
「戯け、貴様が為したことは人類史上類を見ないほどの大偉業よ。確かに貴様自身は脆弱であろう。この世界に存在した一個人に過ぎぬ。だが、その信念、覚悟、決意。それにどんな英雄であろうと決して蔑んだりせず話し、信頼を得た。故にこそ貴様は生存という名の勝利を勝ち取ったのであろう。謙遜することは美徳ではあるが、度が過ぎていては本末転倒というものよ。あまり愚行を犯すなよ、雑種。いや…リツカよ。」
なんて言葉が飛んできそうだなぁ。ベルから何て言われるか分からないけどとりあえず明日もあるんだし早めに寝よう…
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そして翌朝、二人とも目を覚まし(片方は寝ていても周りへの警戒は怠っていなかったが)それぞれが身支度をしていたころ。
「あの…リツカ。こっちから急で申し訳ないんだけど…僕と一緒に"迷宮都市オラリオ"に来てくれないかな?」
なんと、ベルから立香に一緒に行かないかと誘ってきたのだ。
それに僕は内心驚きながらも作業を中断し、ベルの目をまっすぐ見据えながら理由を聞いた。
「え?そうだなぁ…なんでベルはそう思ったの?」
「僕のおじいちゃんが読んでくれた"英雄譚"。それがあったから僕は英雄になりたいって思ったんだ。だから僕はリツカについて知りたいし、一緒に行きたいんだ。もちろんリツカが嫌なら強制はしないけど…ダメかな?」
そして、立香はこう返答した。
「俺もね、ベルについてもっと知りたいし一緒にいたい。そして"英雄"についても俺もまだまだ知らないことだらけだ。それに他に行く当てもないからね。できたらご一緒したいと思ってたんだ。だから…これからよろしく、ベル。」
そう言うとベルは少し気を引き締めながら
「--うん!改めてこれからよろしく、リツカ!」
そう言いながら二人は笑って握手をした。これが本史ではありえなかったはずの、二人の出会いである。
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そして一緒に旅をして数日が経ったころーー
「見えた。あれが"迷宮都市オラリオ"だ。」
外壁に囲まれた都市。世界の中心と呼ばれるあの場所で数多の猛者たちが夢を見て、挑んだ場所である。
「あれか…よし行こうか、ベル。」
その都市で、二人がどのような物語を紡ぐのかは、
「うん!リツカ!」
今はまだ、誰も分からない。