仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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第三十三話 虚神坦懐

Side =グロリア=

 

「そう言う訳で《狂戦士》ね、この人」

 

「「「……は?」」」

「すごいねー」

返って早々都合のいい事に全員がリビングに揃っていたので元の姿に戻った彼を引き連れていた私は、視線が集まった瞬間にそう発した。

シグマ以外の三人は全員が同じ反応を示したが、オーカスだけはその真意が違った。

シグマは単純にこういう反応で驚きを表しているのだろうと予想通りの反応に笑みがこぼれた。

「《狂戦士》って、どういうこと?」

「思いだした……」

アシュレイの疑問を遮る様にオーカスが声を上げる。

焦る様に右手を動かしメモを確認するも、私や彼の記憶の様に《狂戦士》の情報は消失してしまっているだろう。

「我は状況が理解できぬのだが、説明しろグロリア」

警戒を解かないロムに、私は口を開いた。

初めてその存在を認識した話から先程まで死闘を繰り広げていたことまで、思いだした全てを語った。

「記録も記憶もないのに、自分の胸の内を語られるような感覚だな……」

頭を押さえ、ソファーに座りこむオーカスがそう言った。

「じゃあさー。その《英雄》ってのを発動してみてよ」

女性の象徴ともいえる双丘をソファーの背もたれの部分に乗せて話すシグマの姿に自身の胸を強く押さえたくなったが、何とかそれを堪えて少し強めに隣の男をどつく。

 

――全くこの姉妹は揃いもそろって……。

 

これについては、到底数千文字では語り切れないほどの感情が込められているので、今はこちらの方に意識を集中させよう。

彼はすぐさま「【英雄】」と確かに口にした。

小さくか細い声だったのにも拘らず、近くにいた私にはそれがはっきりと聞き取れていた。

刹那、一瞬だけ煙を纏ったかと思うと姿を現したのは二メートル声の人間の姿。

もはや、辺りは静寂に包まれざるを得なかった。

怖いもの知らずのシグマでさえも、その口を塞いでしまう程にその姿には得も言われぬ威圧感があった。

私も、この姿を意識して見るのは初めてで、改めて思った。

 

「よく私こんなのを追い込めたな……」

 

「私もです。あの時は頭が冷静に働いてみましたが、今となっては冷や汗モノだったと……」

「全くだねー。あたしも正直言って勝てないかなー」

沈黙が解け、真っ先にシグマが声を上げた。

彼女のこういうムードメーカーみたいな部分はどこに行っても必要とされる存在だ。

私の視線の先で顔の下半分だけが見える男の口元が緩んでいた。

瞬間、男は元の姿に戻った。

「こんなスキル見たことがないけど、この世界には個人固有のスキルが存在しているの?」

アシュレイが私達二人に向かって問いかける。

確かに、私も《解除》と言うオーカスですら調べきれていない特殊なスキルがある。

「オーカスは何か知らないの?」

アシュレイはオーカスの方を向いたが、彼は肩をすくめて首を振った。

「貴様らはそれをいつ手にしたのかは把握しているのか」

「全然見当もつかない。気付いたのは第二十六層の時だったけど」

「私も手に入れたのがいつかは知らないのですが、気付いたのは第二十五層が突破されてすぐだったと思います」

「近い時期に手にしたと言っても過言ではないな」

珍しく頭を働かせる脳筋ロムに称賛の一言でもかけてやりたがったが、はっきり言ってこれに関しては私達は完全に手詰まりだ。

情報源であるオーカスでも知らなければ他五人にこの世界を理解できるモノなど居ない。

 

「ジャック様なら、何か知ってるかも知れない……」

 

思わず零れたその一言に全員が反応を示した。

「うんうん。それにー、あのお方なら二人と同じように特殊なスキルを持ってるかも知れないね」

「寧ろ、私は彼だからこそこの力を理解できると思ってここまで来ました」

そう言った男の前にオーカスが一歩踏み出た。

 

「なら、一緒に行こう」

 

左手を出しながら右手でウィンドウを操作し、私達の前に一斉にウィンドウ表示が浮かんだ。

 

 

【《Inanis=Gloria》

 《Aucus》

 《RoM》

 《Ashlay》

 《Sigma》

 《Rokuou》

 上記六人でギルドを結成しますか?】

 

 

次に浮かんだのは【YES】、【NO】と書かれた二つのボタン。

これに全員が了承することによりギルドが結成される。

そして、隣の男にとっては《英雄》の記憶削除対象から私達を外し、オーカス達を本当の意味で信頼すると言うこと。

久しぶりに、本当の私が表の世界に浮上した。

 

「私は《イナニス=グロリア》。ジャック様のお役に立つ為、皆と、共に往く!!」

 

先陣を切った私は破壊を免れた右手の旋棍を掲げた。

 

「俺は《オーカス》。あの方が紡ぐ物語の始終をこの目に焼き付けるために……行こう」

 

私の方を見て軽い笑みを浮かべながらオーカスが片腕に付けられた剣身の付いた籠手を振り上げる。

 

「我が名は《ロム》。(あるじ)の武具を作る為に、誓おう」

 

目を閉じ、片手で器用に二つのハンマーをロムは突き出した。

 

「あたしは《アシュレイ》」

「あたしは《シグマ》」

 

全く同じタイミングで二人が口を開く。

 

「「あたしはあのお方の描く最高の芸術と出会うため、皆と一緒に行くよ」」

 

一本の両手剣の柄を二人で握りながら剣を突き立てる。

 

最後の一人に、全員の視線が集まった。

 

 

「私の名は《ロクオウ》。《英雄》として、《殺人鬼》の記憶に残るために、戦おう」

 

 

ここに、私達のギルドが結成された。

 

==========

 

「それでギルド名だけど、アシュレイ。発表してくれ」

「了解。ギルドの名前だけど、やっぱりあのお方のことを意識するのならそれを醸し出すモノにしたかったし、あたし達が作った《Jesus to Robber》。つまりは《神を略奪する者》からも意味を取り出して……」

 

「《Jesus() to() Rippers(殺す者達)》。あたし達にとって大衆が信じる『神』は必要ない。あるのはあのお方だけだ」

 

ウィンドウ上でギルドの名が刻まれ、徐々に一つの集団が形作られて往く。

それが、ジャック様の矛なり盾になる。

「じゃあ、次。シグマ」

「はいはーい。皆ちゅうもーく」

呼ばれたシグマは握っていた柄から手を離し、一歩前に踏み出すとウィンドウを操作して一枚の布を取り出した。

「これが今日からあたし達のギルドの旗印であり、覚悟の証。まあ、楽しんで行こうよ」

珍しく真剣な声のトーンで話すシグマに、攻略組偵察隊で誰とも組まずに戦い続けた彼女の迫力が滲み出ていた。

普段があんなにぽわぽわしているからこそ激しいギャップに襲われるのだが、これが彼女の本音なのだと思うと私も気を引き締める他無かった。

「じゃあ、開くよー」

漆黒の布に封じ込められた悪魔が私達の前に姿を現した。

 

真っ赤な色で刻まれた両腕がそこにはあった。

 

左腕と右腕を横と縦。直行する二本の腕をシグマ自身が私達の前で作り出した。

 

そこから左手親指を下に向け、天を突くように右手中指が立てられた。

 

「神様なんて糞喰らえ。あたしが込めた思いがこの旗印には詰まってるんだよー」

 

かなりエグイことを言っているのにも拘らず笑うシグマは相変わらずだった。

「うむ、いい出来だ」

「ここに来た時から解ってたけど、シグマさんもアシュレイさんも素晴らしい腕を持っているんだね」

「まあ、素直に褒められて悪い気はしないわね」

「そうそう、あたしたちは褒められて伸びるタイプだからねー」

妙に上から目線のロムはともかく、アシュレイとシグマとロクオウの三人を見ていると不思議と親子感が出てくるのは何故だろう。

二人とも私よりも十歳くらいは年上じゃなかったっけ、前にお酒を飲んでるのも見たし……。

(一々気にすることじゃないか)

視線を再び旗へと戻した。

これもまた二人の合作なのだろう、《Jesus to Robber》と似たそれぞれの描き方の違いがその絵からどことなく垣間見えた。

「皆も納得行ったようだね。んじゃ、最後に……」

 

「ギルドリーダーを決めよう」

 

オーカスの言葉に緊張感が高まった。

このギルドを率いる以上、恐らくその者が一番多くジャック様と接点を持つことになるという憶測が出来上がってしまったからだ。

 

「なら、我が降りるのは摂理であろう」

 

真っ先にそう言ったのは意外や意外、ロムだった。

「我らは他のギルドとは行動目的がまるで違う。誰かを殺すでもなく、攻略をすることでもない」

 

「自分がしたいと思った事をするところだ」

 

「普通のギルドだったらやはり話の起点となるオーカスが務めるのが適任だろうが、一番強い者が仕切るのが割に合っているだろう」

「それは、私を推薦していると言うことですか」

「そうだロクオウ。信頼など要らぬ、力と信念で示せ」

言い切ったロムに、私達は言葉を失った。

「聞いた?」

「うん、ばっちりだよー」

これにはぴったんこ姉妹も苦笑いを浮かべていた。

「ふむ、貴様らもこれでようやく我の素晴らしさに解っただろう」

「うんうん、すっごく見直した」

「考えがまとまっていたこと自体にびっくりだわ」

「まあそう褒めるな、我に取ってしてみれば造作もない事だ」

余りにもテンプレートに自己陶酔をするモノだから、思わず私の口から言葉が漏れだした。

「……ちょろ」

「何か言ったか?」

「いや、何も」

こういうところだけは何故か対応が早い、聞こえてない癖に……。

「うん。反対もないようだしロクオウ、ここに来たばかりだが少なからず俺達は同じ志を持つお前の事を認めてはいる。……頼めるか」

何を、とは言うまでもない。

 

「その覚悟なら、コレ(英雄)を手にしたときから出来ていた」

 

「十分だ」

ギルドメンバーの一番上に、《Rokuou》と言う名前と『L』という表示が付け加えられた。

視界からウィンドウが消え、これで本当に《Jesus to Rippers》が誕生したのだと確信した。

「それじゃあ、これからの事を話そう。リーダーはロクオウだけど、俺がやってもいいか?」

「構いません、オーカスさんの方が適任でしょうから」

こういう面を見ると、やっぱりオーカスはリーダー制があるのだと思うのだが、それ以上にロクオウの力には強大なモノがある。

考え事を止め、全員がオーカスの居るソファーの周りに集合する。

「今後の活動についてだ。まずはアシュレイとシグマの表の立場で活動していた二人は、今まで通りにしていてくれればいい。今のところはあの方との接点も無いままが一番だ」

「はーい」

「オッケー」

「ロムについてもこのまま、ロクオウとの戦いでグロリアの武器が破損したから代えの武器を頼む」

ウィンドウを操作し、オーカスはロムの前に一つのインゴッドを落とした。

「任せておけ。最高の出来にしてやこう」

私は残った逆手十六夜もロムの手に置いた。

「と、言う訳で動くのは俺達三人だ。俺はいつも通り情報収集を、グロリアは武器が完成次第最前線に向かってくれ。ロクオウだが……」

一呼吸置くその仕草に、ロクオウは息を呑んだ。

 

「《悪食》。そう呼ばれているプレイヤーの特定を頼みたい」

 

「《悪食》?」

シグマが首を傾げながらオーカスに尋ねる。

「どうしてそう呼ばれるようになったかは解らないが、かなり早い段階から裏を牛耳っていたプレイヤーらしい。俺でも情報を掴み切れてないところを見ると情報戦の方に長けている奴だ。情報が無い以上あの方の障害になるかもしれないからな」

「解った、やってみよう」

ロクオウが力強く頷き、オーカスが私の方を向いた。

「最後に、グロリア」

「何?」

「行動するにあたって俺は《隠蔽》スキルとか装備で素顔がばれることは無いし、ロクオウは《英雄》があるが、お前はそうじゃないだろ」

確かに、最前線でフードを被り続けるのも怪しいから最近はずっと素顔で行動していたけど、本格的に動き出すのなら素顔のままでは何かと面倒を引きこんでしまうかもしれないな。

「でだ、アシュレイとシグマに頼んで色々と作って貰ったモノがある」

「はい!これー」

シグマがいきなり後ろから登場したと思えば、顔に何かを付けられた。

「んで、はい」

困惑する私を余所にアシュレイが手鏡を渡して来た。

「え、え?」

鼻と目を覆い隠す何かが付けられているのに、手鏡など渡して何になるのかと思いながらも、取り付けが終わったようでシグマが頭から手を離し、私は瞼を開けた。

先ず驚いたのは手に握った鏡が見えていた事だ。

そこに映る私の顔は上半分が隠されているのがはっきりわかるのに、何故こんなにも視界が阻害されることは無いのか。

「これの素材に使った奴はね、所謂マジックミラーと同じ性質を持ってるのよ」

「アシュレイとあたしが作ったモノだからねー。完成度は保証するよ!」

「うむ、良い《目》をしているな」

ロムの言った言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまった。

「ホント、良い目だよ」

その仮面と呼べばいいのだろうか、鏡に映る本当の眼のある部分には白で大きな一つの目が描かれていた。

「《プリウム・ウヌム》。大切にするよ」

「口元だけ見えてると嬉しそうなのがより伝わってくるね」

ロクオウがそう言うと、何故か気恥しくなってしまった。

やっぱり、私はまだ子供だと言うことだ。

「じゃあ次はその髪の毛だな」

 

「あっ、そこも変えるんだ」

 

正直言って顔だけでお腹一杯になっていたのだけれど……。

「当たり前だ。水色の髪の毛なんて滅多に見れるモノじゃないだろ」

「ショートカットだけど横で一括りにした方がよさそうね」

早速と言わんばかりにメーキャップアイテムの赤茶色の髪染めスプレーを持つシグマが私の頭をガシッと掴んだ。

「別に逃げはしないけど」

「でもグロリア自分の髪の毛の色好きだったでしょー?」

「まあ否定もしないよ」

「少しでも抵抗されちゃうとシグマが五月蝿いからね、じっとしててよ」

そのまま目を瞑ると、元気な掛け声とともにスプレーが掛けられ、数秒の内に作業が終了した。

「まだ目開けちゃ駄目だよー」

言われるがまま両腕を姉妹に担がれ、ずるずると姿見の前に立たされた。

「それじゃ、ご対面」

アシュレイの声に再び瞼を開けると嘗ての私の面影は何も残っていなかった。

それに、いつの間にか肩の装備に《Jesus to Rippers》のギルドマークが描かれていた。

振り返ると、全員の装備のや身体のどこかにそのマークが刻まれている。

いよいよだ。

 

――待っていてください、ジャック様。

 

==========




はい、どーも竜尾です。
まあ、当然ちゃあ当然ですが、グロリアさん生きてました。

フリーダムΣ(シグマ)ちゃん。

此処で全員の名前が明かされましたね、グロリアが異様に目立ちますね。
その中にすっと入れてある《英雄》さんの名前ですよ。

ロクオウさんです。
最初は明かさないで行こうかと考えてもいましたが名前も考えていたので出しました。

《Jesus to Rippers》とかの意味は完全に意訳です。
ぶっちゃけ当て字に近いような感覚ですが…。

ちょっとはロムさんをカッコ良くしてあげたかった結果です。
思いのほか良かったです。

グロリアも姿を変えて準備完了。
このグループも動き出しますよ!

【次回予告】

「R.I.Pって事は、無念でも晴らせってことか」

「オマエ、次の、ヒョウテキダ」

「「《死刀》」」

「舐め腐ってんじゃねぇぞ」

次回をお楽しみに!それでは。


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