仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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第二十七話 虚言者共

Side =グロリア=

 

「あっ、どーもー。《アシュレイ》ですー」

「あっ、どーもー。《シグマ》でーす」

「……へ?」

早朝、私は新聞を読み耽っていた。

するとドアが開き、オーカスの声が聞こえたことから仕事から帰って来たのだろうと存在を無視していたのだが……。

オーカスに新聞を取り上げられたと思えば、目の前には全く同じ風貌をした二人がこちらを見ていた。

そりゃ素っ頓狂な声の一つくらい上げるだろう。

この二人は間違いなく双子だ。

それに、揺らしているクリーム色の髪の間に見える顔は、同じ女性の私から見てもとてもよく整っていてどちらも遜色ない。

女性と言うだけでも珍しいのに双子とまで来た。

「ちょっとシグマ、最後のところあたしにあわせてよね!」

「ごめんねアシュレイ、あたしこういうの得意じゃないからー」

そう言う二人なのだが、如何せん同じ髪型なので見分けがつきにくい。

(普通、双子だったら髪型くらい別物にしといてくれれば便利なのに)

愚痴をこぼしそうになるのを抑え、私はとりあえずオーカスの方を見た。

彼は奥からロムを引っ張り出し、これで五人が揃った。

「それじゃあ紹介しようか。先ずはそこで新聞を読んでる娘は《イナニス=グロリア》。俺とは違うバリバリの戦闘型だね」

当たり障りのない紹介に、二人に向かってロムの新型旋棍《逆手(さかて)十六夜(いざよい)》を二人に見せた。

全体が青白く、常に光を反射してキラキラと光るこの旋棍は今までの旋棍とは違う《装着型》だ。

垂直棒の様に握る部分が無く、前腕に二つの輪っか状のモノが取り付けられている。

これで両手が自由になり、武器を持つことは出来ないがアイテムだったら使用可能になった。

デメリットとしては前より若干威力が落ちたこと位だ。

物珍しそうに旋棍を覗く二人を見て、オーカスは次にロムの方を指差した。

「次はこいつ、《ロム》っていう鍛冶屋だ。到底見えないと思うけど二十代らしい」

「まあ、そう言う訳だ。宜しく頼む」

双子はぽかんとロムの方を見ていた。

数秒の沈黙、ロムの視線が四方八方に動く。

この沈黙を作り出したのをどうにかしようとしているのだが、彼にそんな芸当が出来るわけがない。

なぜなら……。

「「見えない!」」

息ピッタリでそう答えられ、グサッと言う擬音的なのが聞こえるくらいロムがショックを受けているのが解った。

「畜生……何であの時……やっとかなかったんだよお……」

恐らく現実世界での失態を嘆いているのだと思うが、この場でそれは関係ない。

(それに、切ろうと思えば切れるはずなんだけど……)

それをしない理由も彼の嘆く内容にはあるのか。

兎に角、このままでは面倒なので何か声をかけてやろうと思ったが。

「大丈夫ですよロムさん」

「そうそう、あたし達も気にしてはいませんから」

「あっ、そう?」

(((ちょろい)))

三人の思考が一致した瞬間だった。

いくらロムが落ち込もうが、彼はちょろいので問題ごとを解決する必要は無い。

 

――自分だけ傷ついて、勝手に復活する野郎なのだから。

 

「それじゃ、新メンバーの二人ね。俺達から見て向かって右から――」

「はーい、《アシュレイ》だよ。宜しく!」

私に向かって手を振りはにかむ姿に活発さを思わせるが、どうもこの双子には引っ掛かる物があった。

それは、私が嘘吐き故か。

「アシュレイさんって、確か……」

ロムが声を上げると、私も嘗ての新聞記事に書かれていたことを思い出した。

「あっ、あの《裁縫》スキルの高い人か」

「うん、そうそう。その通りだよグロリア」

(今回は本当に有名人を連れて来たなオーカス)

ちらっと視線を向けたが、ニヤリと笑って返された。ウザい。

「で、最後が」

「はーい、《シグマ》でーす」

この娘はこう……ぽわぽわした感じの娘だ。

けど、やはり違和感を感じる。

不完全な役で留まっているような感じだ。

まあ、詮索する必要もないし彼女らがそうあろうとしているなら言うこともないだろう。

 

「一応言っておくと、シグマは攻略組だ」

 

そう言ったオーカスの言葉に、私とロムは僅かに身構えた。

そいつを引き込んだと言うことは、もしかしたらジャック様に気付かれているかもしれない。

次いでオーカスを見たのだが彼は小さく息を吐いた。

「と言っても、あの方には関わったことのない人だけどね」

「それって、どういう……」

思考の遅れてしまった私はもう一度ゆっくりシグマの姿を見た。

アシュレイとは違う頬笑みを浮かべ彼女は武器を取り出した。

 

「あたしは、攻略組偵察隊だよー」

 

取り出された武器は、私よりも十センチくらい高い彼女らの身長程ではないがかなりの長さを誇る両手剣だった。

「あたしは唯一偵察隊だけを専門にしてるプレイヤーでね。ホント、表舞台には縁がないんだよねー」

両手剣を膝の上において二人は私の向かい側にあるソファーに座った。

「これで、これでここも五人になった訳だ」

オーカスはそう言うが、私には少しだけ疑問が残った。

「ねえオーカス。今度はどんな勧誘をしたの?」

「ん?」

「この二人、シグマは偵察隊だから目立たないとか言ってるけど私みたいに人の繋がりが全くないってわけじゃないでしょ。その二人にどうやって勧誘したか気になったの」

それを聞いたオーカスは笑顔を浮かべながら親指を立てた。

「勿論、直談判したさ。アシュレイの方にな」

あ、やっぱり。

「こういう生産職の方々はホントにいいモノを作り上げるからね、ロムも然り」

彼の称賛に、ロムは「えっへん」と胸を張った。

髭親父が、やめろ。

「ってことはアシュレイさんもジャック様に関係する何かを?」

「ええ、ここに引っ越すと聞いていたので持ってきましたけど、見ますか?」

「なら我もあれを持ってこよう」

ロムは立ち上がり、元いた部屋へと戻る。

その間にアシュレイとシグマの姉妹も立ち上がる。

「聞いて無かったけど、アシュレイとシグマはどっちが姉でどっちが妹なの?」

私はふと、そう言った。

彼女らはそれほどまでに似ている。

それでいて、私に違和感を感じさせるようなことをしていることがどうにも引っ掛かった。

別に、悪いことではない。

嘘を吐く者として嘘の良し悪しくらいなら見分けがつく。

「うん、俺も聞いてなかったね。性格を見るにアシュレイの方がお姉さんって感じがするけど……」

 

「あたし達に姉か妹なんて区別はないね」

「そうだねー、双子だしー、この世界じゃそういうのは要らないんじゃない?」

 

彼女達は、奔放だったのだ。

片や生産職のカリスマ。

片や数少ない攻略組偵察隊の一角。

どちらも表舞台で活躍しているプレイヤーたちだ。

こういうことの一つや二つでもしなければお互いを保っていられなかったのだろう。

元より私達が何かを言う道理はない。

「じゃあ、これからは普通に名前で呼ぶよ」

「そうしてくれるとありがたいよー」

そんな話をしていると、例の物を抱えたロムが姿を現した。

「こいつが、我の最高傑作《ジャック・ナイフ》だ」

「「おおー」」

同じタイミングで声を上げるのには、流石姉妹などと思ってしまうのだが……。

「やっぱ何回見ても飽きないよね、これ」

オーカスが感嘆の声を上げる。

全くもってその通りだ。

刀身の曲線もそうだが、旋棍が全体的に輝いているのだ。

それが、嘗て私がジャック様に感じたあの引力みたいなものに酷似していた。

「こりゃあたし達も負けちゃいられないね、シグマ」

「うん、負けないぞー」

アシュレイが何かを立て懸ける棒の様なモノを取り出し、シグマがそこに大きな一枚の布を引っ掛けた。

それを見て、私達三人は言葉を失った。

 

「これが、あたし達の最高傑作」

「題名は《Jesus to Robber》だよー」

 

確か、それの名はタペストリーと言ったモノだっただろうか。

滑らかな生地が広がった衝撃で波を打つ。

やがて姿を現した絵画の全体像。

描かれていたのは、夜の街だった。

仄かな燈色が全体に、石造りの町並みが広がっていた。

ガス灯の光が通りを歩く人々を照らし、彼らの生き生きとした表情や服の質感が非常によく出ている。

だが、私達の視線が惹かれたのはそこではない。

縦長のタペストリーの中心部。

まるで大通りを分断するかのように闇が続いていた。

その中に、一筋の白い光が小さな点で描かれている。

私達のような奴ら以外が見れば、それをアシュレイの小さなミスだと思って疑問に思ったり見過ごすのかもしれない。

「ジャック……様……?」

私が呟いた瞬間に、姉妹が嗤った。

 

――目に映っていたのは、ナイフを持ったジャック様のお姿だった。

 

真っ白な得物で、それを真っ赤に染めるための獲物を闇の中から見定めている様子をその白い点一つで表現されているのだ。

ジャック様の色彩となる黄金色を一切使わずに解る物だけを魅了する技術。

「素晴らしい」なんて言う安い感想が喉から出る訳もなく、私達は数十秒間黙り込んでいた。

「って、俺が見るのは二回目なんだがな」

沈黙を破ってくれたのは内心感謝したが、衝撃の告白に私はばっとオーカスの方を向いた。

「いや、だって俺が勧誘したのはこれが理由だし」

(……と、言うことは?)

 

「この絵を貴様らは店頭に飾っておったのか!!」

 

ロムが私の代わりに大声を上げた。

「だってー、態々作ったモノを人から貰ったモノならまだしも自分で作ったモノだからねー」

「見せびらかさない方がもったいない。で、ちょっとシグマ!なにが「自分で作った」よ。「あたし達で」でしょ?」

「あ、ごめーん」

「えっ……?」

今度こそ、あまりのカミングアウトに声が漏れた。

「いくら偵察隊だからってスキルを全部戦闘系に持たせてる訳ないよグロリアー」

微笑みながらシグマが言う。

「ま、シグマの《裁縫》スキルはあたしのちょっと下くらいかな」

「こりゃ俺も想定外だな……」

これには、オーカスも感嘆の声を漏らすしかなかった。

「姉妹揃って、我に負けず劣らずの職人芸を持っていたのだな。ふっ、歓迎するぞ」

ロムが偉そうにそう言うと二人はタペストリーを移動させ玄関前に飾った。

「そう言う訳で、宜しくお願いしまーす」

シグマがぺこりと頭を下げると、私達は顔を見合わせ新たな仲間の加入に笑みを浮かべた。

改めて、全員がソファーに座った。

「それで、あの方を支援するための役割は大体決まったな」

「オーカスが諜報で、私が戦闘全般」

逆手十六夜を取り出し、目の前にあるテーブルの上に置く。

私の行動を見てオーカスも自身の武器を置いた。

「そして、我が刃と鎧を作り上げよう」

ロムは鍛冶と武器の二本のハンマーを。

「「じゃあ、あたし達は皆の服を繕うのと、戦闘を」」

 

「……ん?」

 

幻聴ではないだろうか。

「えっと、確かにシグマは裁縫も戦闘も出来ると思うけど……アシュレイの戦闘の方は……」

私がそう言うが、視界の端でオーカスが「まさか」と言う表情をしているのが見え私も同じ気持ちになった。

「何のための双子だと思うの?」

「あたしとアシュレイはねー、入れ替わりながらずっと戦ってたんだよー」

「だから、二人とも髪型を同じにしているってこと?」

「そうそう、その通り!」

「あたしが戦ってるときにはシグマが服を作って、シグマが戦ってるときにはあたしが服を作っていたんだ」

な、なるほど……。

説明をされても私はそんな反応しか出来なかった。

互いが互いを演じ、周りをずっと騙していたのだ。

私も嘗て《ジル》と呼ばれていた時も一ギルド単位で人を騙したことはあったが、彼女らは誰彼構わず関わる人全員を騙し続けていたのだ。

「ここは嘘吐きばっかだね」

「全くだな」

呟いたその声に答えるように、二人の女性は満面の笑みを見せた。

 

==========

 

あれから数日。

私はまたも最前線に赴き、単独で狩りをしていた。

アシュレイとシグマは、一応攻略組の重鎮達に顔が割れているので素性も知れない私と一緒にいる訳にはいかない。

そんな訳で、逆手十六夜を両手に今日もダンジョンを突き進んでいた。

時間はあっという間に過ぎて往き、時刻が三時を過ぎた頃。

もう少しで撤収しようかと思っていた私は一度安全エリアで休むことにした。

だが、既にそこには先客がいた。

石段に座ってやってきた私の姿を一瞥してすぐに視線を自分の膝に戻す。

(女性プレイヤーに声をかけないなんて、珍しい男性もいたモノだね)

一種の関心を覚えながら、彼から遠い場所に腰を下ろした。

私も軽く男性の顔を覗いたが歳は三十代と言ったところか。

ロムを見ていると年齢を見定められなくなってしまう。

(また、鍛冶の邪魔をしてやろうか)

沸々と湧き上がる怒りを鎮めながら私は空を見上げた。

なんてことは無い時間を二分ほど費やし、私は立ち上がった。

未だに、男性は動く様子を見せていない。

まあ、気にするほどでもない。

周りには誰もいないし、安全エリアから出た瞬間を狙うならば彼から遠い場所から出ればいい。

そう思いながら、歩を進める。

いつも通りの光景を歩いていたところに、砂利の一粒が転がってきただけだ。

なのに、何故だろう。

 

――私は、その砂利が恐怖に見えて仕方がなかった。

 

急いでその思考を捨て、私は安全エリアを出る直前で立ち止まりもう一度彼の方を見た。

最初に見たときから何も変わっていない。

グリーンカーソルだし、私との距離もある。

嘘で自分を言い聞かせ私は安全エリアから出た。

刹那。

 

――私の目の前に、一つの影が現れた。

 

振り上げられた武器に呆気にとられていた私は反応が遅れた。

武器が振り下ろされる直前、我に返った私は両手を交差させ攻撃を防いだ。

しかし、今まで感じたことのない衝撃に身体が浮遊感に包まれた。

一気に安全エリアまで戻され、背中に受けた衝撃に得も言えぬ不快感を覚えた。

先の一撃だけで、HPゲージが二割も削れている。

この者が何者か何故私を狙ったのか。

それだけで頭がいっぱいになりそうだったのを嘘で抑えつけた。

落ち着いてその姿を見る。

頭には銅の兜。

上半身は肩に円形の銅製の金属が取り付けられているだけ。

下半身は金色の防具が付けられ、同じ色のブーツを履いている。

両手首には茶色の腕輪、右手にはサーベル、左手には円形の盾が握られていた。

更に、肩に取り付けられた金属から深紅のマントがはためく。

極めつけは、先程とは違う体格だ。

あの時は唯のサラリーマンと言う表現がぴったりだった位の体格だったのに、今はどうだろうか。

露出している上半身と足は筋肉ダルマと言う表現の方が正しい程に逞しく、身長も二メートルは優に超えているのではないか。

これで、モンスターじゃなければ一体何だと言うんだ。

恐怖を嘘にしまい込んだ私に、奴は口を開いた。

 

「私と……戦え……」

 

==========




はい、どーも竜尾です。
グロリアサイドはガンガン物語が進んでいきますね。
今作は原作圏内事件で名前だけ登場したアシュレイさんにスポットを向けてみました。
あと偵察隊にもですね。
原作では偵察隊は血盟騎士団、聖竜連合その他ギルドから選出される的な感じでしたが、こんなキャラがいても良いんじゃないかと言うことでシグマさんを作りました。

地味にグロリアがロムを貶すシーンが好きです。

これで五人が集いましたね。
さてさてグロリアさんピンチです。
次回はめちゃくちゃ書きたかったシーンが一杯出るので、かなり執筆を頑張りました。

【次回予告】

――最初の《嘘》は、一瞬で看破された。

「無いなんて、《嘘》でも言える訳無い!」

「こんにちは、私」

「私がどうしようと、結局は忘れられるだけだ」

次回をお楽しみに!それでは。


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