仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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第二十五話 黄金と笑う刀

Side =シンディア=

 

終わらない夜、肉を引き裂くような音と共に金切り音が響いた。

「はい、お終い」

《グラヴィス》でブチ抜いた羊男の身体から《オブシディアン》を引き抜いて振り返ると背後で破砕音が響いた。

あの後、オーヴェムの元と為る羊の一匹を追いかけながら誘導し、進化される前に八匹の羊を槍で貫いた。

全部を狩ることもできるんだけど、まだそんな力を発揮する必要はない。

寧ろ、消化不良だ。

しかも、本気で戦うなら進化した十匹を同時に相手しているはずだ。

そんな訳で、十匹全部の羊を倒したのだが……。

経験値等の獲得表示を切ると、次に現れたウィンドウには討伐対象であるオーヴェム十匹の討伐達成報告がなされていた。

「これで、残るは後一種類」

時刻は午前四時を四半刻ほど過ぎた所で、街に戻れば朝日が昇るのだが、私も一応『普通』としての生活を主としているので睡眠はとらなければならない。

わたしや玲だろうと人間を超越した訳ではないから睡眠もとらなければ体調を崩してしまうことだってある。

槍をしまって歩き出す。

「これで六日目突入。うん、一週間はまだかからないね」

おそらく、オーヴェムを狩ったことによりもう一種類も出現したはずだ。

このクエストの主旨を思い出してみればそうだ。

 

『当然縄張り争いが起きました。』

 

つまり、争うべき相手を倒したのはわたしと言うことで、オーヴェムの本来の相手の矛先はわたしに向く。

「好戦的な奴だといいなあ」

期待を込める様に、森に響くようにわたしの声は反響した。

モンスターが人の言葉通りの行動をするとは思えないが、口にしないよりは幾分かましだ。

そのまま、戦闘をするでもなくわたしは宿に戻って寝間着に着換えベッドに飛び込むと同時に意識を吹き飛ばした。

 

===========

 

四時間半の睡眠を取って、目が覚めた時には時刻は正午を過ぎようとしていた。

さっと支度を済ませると、正午の鐘が鳴り響く《ゴールド》の街を飛び出した。

周りにはわたしのファンの人たちもいないので、いちいち路地裏に入ることもない。

森は、昨日の喧噪を無視するような静寂に包まれていた。

その中を昼時の木漏れ日の仲を心地よく髪を揺らしながら槍も構えずに歩いていた。

それにしても、森はやけに静かだった。

まだ一度もモンスターに出くわしていない。

「ボスによる統制が行われたってことだね」

わたしがいなくなった四時間で、良くやったモノだ。

背後に複数の気配を感じた。

すかさず槍を引き抜いて準備をする。

突進攻撃を仕掛けてくるのが二体。

その後を追いかけるように接近するのが二体。

後ろから更に追いかけてくるそこそこパワーを持った奴が三体。

最後に構えるように接近してくる体格の大きなモンスター一体の布陣。

しっかりと役割の与えられた波状攻撃だ。

(けれど……)

最初に突っ込んできた二体にフェイントをかけ攻撃を避けると、次いで飛び出してきた二匹が他二匹と横一線に並んだところで纏めて《トランクリア》で押し返した。

レベルを見てもここの平均レベルよりも高いモンスターばかりでより精鋭が集められたことになる。

四匹が退いたことにより、第三波となる三匹が草むらに隠れながらわたしを取り囲んだ。

ぐるぐると回転しながらわたしを撹乱しようとする。

しかし、構えもしないわたしに痺れを切らした一匹が飛び出した。

短剣を咥えた黒い毛の犬は剣技《セレリテイト》でその速さを活かして突っ込むが、背中から来ることは解っていたのでこちらは基本突き技《コリュージ・オン》で短剣を咥えた口ごと胴体を貫く一突き。

それに隙を見出したのか一匹の鳥が低空飛行でわたしに向かって高速先行。

爪の部分には黄緑色の液体が爪の隙間から溢れていて、狙いはわたしの足と言ったところだろうか。

さらにタイミングを合わせて上から日本刀を持った猿が降ってきた。

「桃太郎かー」

ばっさりと感想を一つ。

わたしは鳥……雉をジャンプで躱すと速度を落とそうとするであろうわたしに躱された直後の地点を読み《グラヴィス》で打ち抜いた。

その力を利用し、両手で槍を握って地面を一蹴り。

地面に刺した槍を軸に、《体術》スキル《撃挙(うちあげ)》という蹴り技で先程吹き飛ばした四匹の方に向けて猿を蹴った。

「スペアかな」

着地して槍を引き抜き、未だ起き上がる様子のない五匹に槍を大きく振りかぶってトランクリアを発動させた。

威力ブーストからのクリーンヒット。

その内の一匹はこの後やってくる奴の下へと吹き飛ばした。

(まあ、当たる前に消滅しちゃうけどね)

予想通り、敵の直前で破砕した硝子は慣性に従って敵に降りかかる。

それに苛立ったのかわたしに対して戦闘態勢に入ったのか、足音が強くなってきた。

まるでブルーベリーの方な群青色。

金棒を手に携えて、鬼が姿を現した。

「桃太郎だったのに、敵も混じっちゃてんじゃん」

ぼやきながら駆け出した。

正直言って前座はわたしにとって必要ない。

ダメージ計算を開始、相手の筋肉の突き方から攻撃速度・角度・範囲・余波・初動・相対するわたしの攻撃方法を極限まで可能性を追求した。

初撃は当然わたし。

《インフィルミ・ターテ》で土手っ腹に一撃。

その時には鬼も金棒をわたしに向かって振り下ろすのだが、わたしの身体に触れる直前で回避。

そのまま《コニュンジェーレ》を【WEAK POINT】に打ち込み、体勢を崩したところで三連突き剣技《トラビス》で攻撃を加える。

呻く鬼はまだ立ち上がらず、金棒で足払いをするも無意味。

態々躱す必要もなくそれを思い切り地面に踏みつけ、トランクリアでHPの少なくなった奴の身体を上下に切り離した。

 

「めでたし、めでたしっと」

 

爆散する音を尻目に、わたしは森の奥へと歩き出した。

 

==========

 

それからこんな感じの部隊と数回の戦いを終え、空は赤から黒に変わろうとしていた。

そんなわたしの目に映っていたのは、第二十層でわたしが切り落とした《アルボルの樹》の切り株だった。

確かにこの層の森林エリアは第二十層や第十層と同じ構造だが、これが引き継がれていることが有り得るのか?

だが、今までの探索でもこんなものは見つけたことが無かった。

その証拠にそこに近寄ると、切り株から小さな緑色の光が飛び出した。

何の躊躇もなく触れると切り株を中心に光が迸り、範囲上の木は全て消滅して一つのリングを作りだした。

「なるほど」

ドスっと、突き刺すような足音を立ててわたしに近づく影。

あの羊男の様に頭頂部から二本の角を生やし、腰に巻かれた長い布が樹のなくなり風の透き通るこの場所ではためく。

「前回がケンタウロスだったから、ってことだね」

 

《ア・ミノトリウス》

 

古典的で普遍的な白黒の斧を担ぎ、鼻を大きく広げながら呼吸をする。

奴は、わたしを見て数秒間立ち止まると跳んだ。

わたしの方に真っ直ぐ直情的ではあるが、さてさて……。

視線の先でミノトリウスは空中で回転し始めた。

舌をだらしなく口の外に出し、涎を垂らしながらも空中で回転数の上がる中、その眼はしっかりとわたしを見据えていた。

あれは鳥等の飛行型モンスターの使っていた《カルチュム》と言う剣技だ。

鳥達が使う時は嘴に光を宿らせていた光景が、まさかこんな形で見られようとは。

落下に伴い、速度はさらに上昇した。

光を纏っている部分が回転の中心と言うことは、攻撃はあの角によって行われる。

光の輪っかの中に本物は二つ。

(槍を突っ込んでもいいけど、ここは……)

槍を短槍《ジャクルム》を取り出し、腰に収めると、わたしも身体を捻った。

地面を蹴り、ミノトリウスと全く同じ向きと回転数を生み出した。

そこに、雄牛は突っ込んでくる。

 

――腕を上げ、わたしはミノトリウスの二つの角を掴んだ。

 

驚愕の声を上げる雄牛を無視して、わたしは回転しながらも地面を蹴り上げた。

瞬間、手を離し思うままに上昇する。

目を開けると、そこには森全体を一望する光景があった。

真後ろには沈んで往く夕日。

斜め下を向くとバタバタと手を動かすミノトリウス。

かくいうわたしも、空中で踏みこむことは出来ないのでどうしようもない。

 

「回転が、止んでなければね」

 

わたしの回転はまだ止まっていなかった。

ミノトリウスの回転は既に止まり、後は地表への自由落下だけ。

的に向かって槍を引き抜く。

本当なら、《オブシディアン》でもいいがアレだとミノトリウスを貫通して止まり、他の木に引っ掛かって落下の衝撃を弱める可能性があった。

だから、貫通して持ち手が中程に収まるくらいの強さで……。

「穿つ!」

槍を抜くと、凄まじい遠心力に腕が強制的に外側へと引っ張られる。

その瞬間に《ヤーク・ラティオン》による短槍がわたしの腕から放たれた。

と、わたしの回転がピタリと止まった。

回転を全てジャクルムに乗せたからだ。

槍は雄牛を貫くと、更に回転に乗る。

その軌道は徐々に上昇の弧を描き、しまいにはこちらに向いた。

「それ即ち、ブーメラン」

手首の動きと圧倒的な握力でこちらに向かって高速回転するジャクルムを掴み取った。

ミノトリウスは大の字を浮かべながら落下していく。

こういった高所落下ダメージの計算は前例がないので出来ないが、なんか生き残りそうな感じがする。

「しょうがないなあ」

そして、オブシディアンを使わなかった理由は……。

人間が高所から落下する場合、特に足を下にしているときには空気抵抗により足の方が上がり、重心のある身体の一番下。

つまり、頭から落っこちない場合は大抵尻から落下する。

わたしの体重と高さから換算しても、今から落下するとすれば地面までは一秒もない。

まずオブシディアンを出して矢先を下に向ける。

それが身体のより下に位置付けて槍を両手で握った。

一秒後。

 

――両手に力を込めれば、わたしは無傷で生還するってことだね。

 

武器は敵やその他物体に触れると徐々に耐久値を消耗する。

でも、いくら強く握ったところで耐久値は減らない。

だから、わたしはそれこそ本気で槍を握り続けた。

オブシディアンの耐久値はとんでもない速度で削れたが、何とか持ちこたえた。

摩擦とか、慣性とか結局は力の問題なんだから、力で捩じ伏せればいい。

中々やったことのない体験で、非常に清々しい面持ちにさせてくれるのだこの世界は。

「それじゃ、お礼をしなくちゃね」

胸に穴を開けた雄牛がそこには立っていた。

目を真っ赤に光らせてわたしに向かってきた。

「いいね、本当にさ」

雄牛の初撃は爆発的な速度で加速する斧攻撃《ボーべム》。

しかも二連劇で放たれる技なので、初撃を弾き次撃を躱す。

だか、それだけでは留まらない。

《エニウム》と言う強制連撃技が、わたしに向けて放たれた。

おまけに斧だから一撃一撃も重く非常に面倒だ。

でも、先程の戦いでちょこっとリミッターを外していたので今日ののわたしは本気状態だったので盾で防いだまま、ミノトリウスの身体を押し返して腹部に手を置いて素手で持ち上げた。

後は下からザクザクと雄牛に向かって槍を刺して往けばじわじわとHPは削れ、暴れていた雄牛は呆気なく消滅してしまった。

 

(まあ、それにも理由があるんだけどね)

 

リミッターを戻すように深呼吸をし、オブシディアンをしまって新たな長槍を取り出した。

HPもさ程削れたわけではないのでそのままに、わざと戦闘が終わって安堵しているような雰囲気を作り出す。

「じゃあ、クエストも終わったし帰ろっか」

そう言って、わたしは反応のあった場所からズレた位置に身体を向けた。

あまり態とらしいのは相手に感づかれてしまう可能性があるので、こうするのが得策。

それにこの程度でビビっているようじゃ、その正体はさしずめわたしのファンか情報屋程度だろうけどそいつは息を殺し、ゆっくり、ゆっくりと位置を変えていく。

(上手いね、相当殺気も押し殺しているみたいでその瞬間を今か今かと待ってるみたい)

 

――わたし相手に『普通』のヤツが軽々しく殺せるとか思ってんじゃねぇよ。

 

わたしは歩き出す。

新たな槍、《ニージャー》を背中に刺していつも通りの歩調で進んだ。

背後からこれまたゆっくりと立ち上がる人影がある。

(あっ、そっか。《索敵》とか《忍び足》とか使ってるのか)

五感の内四つで周りを感じるわたし達にとって、そう言うたぐいのモノはほとんど通用しない。

足音や呼吸音はバッチリ聞こえてるし人の匂いも、空気を切る感触も、ついでに言うと『異常』な雰囲気もね。

そいつはやけに遠くから攻撃を開始した。

(武器の形状を推測する限り、薙刀かな?)

「あっ……」

わたしは、転んだふりをして身体の向きをずらした。

それにより薙刀は背中に収めて置いた槍に直撃する。

金属音を響かせ、わたしは膝をつき座った体勢になって振り返った。

 

「チッ、《黄金》は運にも好かれてやがんのか」

 

薙刀を持っていたのはわたし達と同い年位の年齢をした少年だった。

簡素なマスクで顔を覆い、露出している目はまさに鬼の形相と言った様子で真っ直ぐわたしを睨んでいる。

わたしは、恐怖に顔を歪めたふりをした。

正直言ってこういうのは嘘と演技の独壇場なのだ。

「い……嫌……な、なんで……」

こういう演技をしたことは無いけど、自分の本当の感情を押し殺すことに比べたら造作もない。

さて、それじゃあこいつをどう調理してやろうか。

そういえば、さっきの戦闘で《槍》スキルの熟練度が上がったんだ。

 

(《ネクエ・アースタ》、どんな技でしょうね)

 

かなり熟練度も溜まっていることから、大技には違いない。

それを、人で試すのだ。

心の中はとても《黄金》とは言えない程に、真っ黒だった。

 

==========




はい、どーも竜尾です。
気がつくと究明編も二十五話ですか…。

今回はテラ戦闘回です。
どんな感じで戦ってるのか分かりましたか?
一言でいえば人間業じゃありません。
空中で高速回転する物体に回転数を合わせて跳躍し、地面をけって相手ごと空へと跳んでいくだとか、落下の衝撃を槍だけに任せ手に伝わる摩擦力を悪力だけでねじふせたりしていたのです。

拙い表現ですいません。

そんでもって、インテンディア君は……ね……。

【次回予告】

――《殺人鬼》が『日常』であってはならないのだ。

「随分と暇そうだね、ジャック君」

「つまりは、死にたくねぇってことの延長上だな」

『シンディアに手ぇ出したら……『殺す』ぞ』

次回をお楽しみに!それでは。


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