Side =グーラ=
「グーラさんお食事をお持ちいたしました!」
「おっ、サンキュー」
自分よりも体格の大きな男がレストランでもないのに料理を運んでくると言うのは、なんとも珍妙な光景だろう。
あの事件で発現した《牙》と言うスキル。
頭たちは自分が食っていた様子しか見ていないので、遠くからは《牙》と言うスキルを使っていたとは判らなかったようだ。
自分の情報網にも無かったので、ギャンブルに勝とうが《牙》について口にしたことは無い。
もしかすると、とんでもないスキルを手にしてしまったのかもしれないからだ。
実はこの《牙》と言うスキルには熟練度が存在しており、百を超えた所で生活の中で力を発揮するようになった。
《タスク》と名付けられた《牙》のスキルにより、《アンチクリミナルコード有効圏内》であろうと部位欠損及び武器の欠損を行えるようになった。
つまりどういうことかと言うのは、実際に見せて見れば解る。
食事を終え、一週間毎決められた時間に決められた場所に自分はいつも足を運ぶ。
そうすれば、自分と戦いたい者、見返してやろうとする者が集まってくる。
あの事件で、自分に仕返しをした者が殺されるのではないかと言う噂も少々あったが、それは自分で捩じ伏せた。
それを、《牙》が可能にしてくれるのだ。
「はい、上がり」
今回の勝負は大富豪。
こういった運の勝負は自分はめっぽう強い。
戦略型のゲームも自分は何度か経験があるのだが、こちらも接戦の末、勝利を収めている。
今のところ不敗神話を作り続ける自分にこんな勝負を仕掛けるのは、自分に初めて挑む者だからか。
(まあ、そんなことはどうだっていい)
自分は、自分の定位置の椅子から立ち上がって敗者の方に向かった。
周りから憐みの視線が向く中、情報の書かれた紙を必死の形相で自分に渡そうとするのだが、今回の相手の掛け金は『金』でも『情報』でもない。
「さっき取り決めたよね、自分の情報を引き換えに、自分が提示したのは……」
「あんたの腕一本だ」
こんな場所に来るやつらに、自分の様に戦いに身を投じてレベルを上げている奴は誰も居ない。
加えて鎌を扱う自分はステータスを筋力値の方に多く振っている。
例え自分の体が小さかろうが、ゲームのこの世界では自分の方が力が強かった。
右腕を掴み取り、思い切り引き寄せてその手首に《牙》スキルを発動せずに噛み付いた。
《牙》を他の奴らにバレない様にするためには、物体を噛み切る瞬間だけでいい。
そうすれば《牙》の影響で口が裂けることなく対象物だけを食らうことが出来る。
次の瞬間、接合部分の断たれた右手が地面を転がった。
誰もが息を呑む中、自分はそれを拾い上げると再び自分の席に戻って上を向き、右手を切断部分から喉に流し込んだ。
もはや《悪食》との勝負には付きモノとなったこの時間。
その名の如き食事の時間が、今日も犠牲者を一人出して終わったのだ。
もちろん、食われたからと言ってその部分が治らない訳でもHPが削れたわけではない。
ただ、損傷部分の違和感と気味の悪さは絶大だ。
当事者もそうだが、初めてこれをこの場で披露した時に、同じくらいの衝撃と恐怖を受けていたのは観衆も同じだった。
更に、自分との賭けによって誰かに話すこと等の緘口令は徹底してある。
もし口を滑らせればどこから情報が洩れるか判らない。
そうすれば、次はどこを噛みつかれるのか、彼らはそれを考えるだけでもぞっとしまうのだ。
現に、その報復を彼らは目の当たりにしていた。
過去に、ぽろっと自分について口を滑らせたプレイヤーがいた。
その内容をどこからか聞き付けた自分は裏カジノにそのプレイヤーが姿を見せた瞬間、鎌で逃げ場を塞ぎ首筋に噛み付いた。
そのまま肉を噛み砕き、その者の首には半月型の噛み跡をしっかりと刻み込んだ。
報告したのは、自分に腕を噛み砕かれた恐怖から何とか助かろうと密告を決意した者だった。
結局、そんな奴にもう用も価値もないので手の指全部持って行ってやった。
―――因みに、食いちぎられた部分は時間経過によってでしか治癒しない。
それもそうだ、ここではHPも削れなければ、《タスク》以外の攻撃は全てが通らないのだから。
そうして、裏の世界は自分が牛耳ったはずだった。
あの《殺人鬼》の情報も常に仕入れているし、こちら側に接触しているとは聞いたこともない。
一応、今のところ頭も自分も思い通りに事を進めていた。
けれど、新たに懸念する要素が二つ出来てしまった。
一つは、前々からも活動はしていたが《黄金》の二つ名を持つシンディアが攻略組に加入してから専属の情報屋の様に彼女の周りにいる――通称《鼠》のアルゴ。
最近はその活動の範囲を広げ、裏カジノの二、三個は彼女によって位置を掴まれている。
それが《黄金》の周りにいるのだから鬱陶しくてならない。
《黄金》は《LGL》と言うレア防具を持ちながらどのギルドにも属さない所為で、今も街を歩けばギルドの勧誘やファンからの声がかかる程の有名人だ。
更に、最近は《閃光》にもコンタクトを取っていると聞けば、アルゴのことを襲撃するタイミングが無かった。
奴も奴でその辺りの用心はしているようだし、自分も破壊不能なモノは喰えないから脅しに《牙》は使えない。
寧ろ弱みを握られるようなモノで、自分としてはどうしようもなかった。
ついでに言うと、女性の肉はまだ食べたことがない。
裏カジノにも女性のギャンブラーはごくごく僅かに存在しているが、自分に対して勝負を仕掛けてくる者はいなかった。
やはり、そう言う点では女性と言うのは聡明なのだろう。
(兎に角、こちらの方は要注意しておく必要がある。頭にも相談しておこうか……)
もう一つは、最近から裏の方を飛び回っている情報屋だ。
名前はまだ掴めてはいないが、背格好などの情報を照らし合わせるに男性であることが発覚した。
詳しいことは何一つ解ってはいないが、多種多様な情報を集めるだけの変人、と言う点くらいで本来なら眼中にも入らないはずのプレイヤーだ。
情報を売ることもしていないし、生計はモンスターを狩って立てていると聞くが、ならば何故そこまで情報を集めているのか。
取り敢えず、この件は自分が対処することにした。
こういったヤツは何を仕出かすか判らない。
慎重に、確実に、自分は日々を過ごしていた。
このカジノは非常に落ち着く場だった。
ここにはあらゆる情報が銀食器の高価な皿によって運ばれてくる。
自分は、それを食らい尽くすだけ。
足りなければ皿にも齧り付く。
今では聞かなくなったが、少数ギルドや狩場一帯を仕切るパーティーを巧みな話術で騙し、狩場を独占する短剣の女性プレイヤーがいた。
その心を惹く嘘と、正体の知れないこと、短剣使いであることも重なり第二の殺人鬼《ジル》としてこのカジノでも度々情報が寄せられた。
今ではその情報も無くなってしまい、一部では死亡説が濃厚とされている。
犯人は、当然《殺人鬼》。
自分の名を語ったから、などとチープな考察がされているが、自分はそうは思えなかった。
「なんにしろ、危険人物は喰っておかないと」
一人、誰もいなくなったカジノで呟いた。
そんな時だった。
今日の情報を纏めていた時に、やけに小さなメモが眼に入った。
こんなものを誰が置いて行ったのかと掴んで目を通す。
「なになに、《狂戦士》?」
どこかで聞いたことのある名前だった。
確か、《ジル》の様に狩場を横取りする奴だったと聞いているが……。
そして、じっくりとメモを見つめていたのだが、徐々に視線がぼやけて来た。
「あ……あれ?」
やがて、力を失くしたようにメモを地面に落とす。
そのハズなのに、次に気がついた時には時刻はガラッと変わり、頭たちと暮らしている家のソファの上で目を覚ました。
その時に、自分の記憶が欠如しているとは夢にも思わなかった。
寧ろ、それこそが夢だったのだと認識してしまった。
――次にカジノに足を運んだ時にもあのメモは綺麗さっぱり消滅していた。
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「なあリーダー、いい加減飽きて来たんだけど」
いつもの場所で、愚痴を零したのはインテンディアだった。
「順調に仲間も増えてきて、それもグーラさんのおかげで俺らに完全に服従してんだからそろそろ直接的な殺戮のショウをなあ……」
彼がそう不満を訴えるのを、自分とザザは一瞥し、ジョニーは頭の方を向き、頭は嬉しそうに嗤った。
インテンディアががなるのも自分は無理もないと思っていた。
先日、自分達四人は頭の考えた新しいショウに参加した。
それは、少人数で行動するパーティーを五人で囲み、圧倒的な力を見せつけ諦めさせた後に、そいつらで仲間同士を殺させると言ったモノだ。
相手は素性も知れない自分たちよりも強い奴らで、自分に至っては鎌が武器なのもあり、格好や強さに委縮してしまった奴らから転移結晶やポーション類を奪って戦いは始まった。
誰も彼もが本心は生き残りたいと叫び、ひょんなことから戦いに火が灯る。
一度揺れた心は、二度と安息を得ることは無い。
気が付けば、彼らは自分達のことなど忘れて必死に殺し合っていた。
どさくさに紛れて逃げようものなら、自分が足を食いちぎって他の奴らの前に放り投げた。
そうして、残るのはただ一人の人物。
それも、所謂勧誘と言う奴なので大抵は放心状態のヤツを連れてアジトに戻る。
その時点で壊れた精神を、砕くのはもちろん自分の仕事だ。
カジノの奴らと同様に、右手の親指だけを喰らう。
次の日には右手の人差指。
逃げられないように十日間掛けて精神の破壊と新たな精神の構築を行ったのだ。
自分以外は誰も指を噛み千切ることをしようともしないので《牙》のことがばれることは無かった。
やはり、その一線を超えるのにはかなりの時間を要すると言うことなのだろう。
だからこそ頭はその心をうまく操り、殺しの出来る人数が増えて往けば、自分達は一つの快楽殺人集団として完成するのだ。
自分は元より食べる一環として殺害をしているし、既に殺しはしたことがあるのでその意向に従っていた。
ザザとジョニーは全面的に頭のことを慕っているし、ザザは良く分かんないけどジョニーはちっちゃなところに楽しみを見付ける奴だから現状に飽きはしない。
つまり、そのどれにも当てはまらなかったのがインテンディアだ。
奴は六番目の加入メンバーで、こいつはジョニーを引き込んだ時の連れだった。
彼には、ジョニーの様に頭に惹かれたとか、そう言う感覚がない。
それに新加入のメンバーはそのほとんどがこのゲームの勝者。
言い換えれば、すでに殺しを経験したモノだ。
それを見たからこそ、彼はそれを自分と置き換え、想像したのだ。
死に際にする獲物の顔、歪む殺人者の顔、簡素な紅の立方体。
もし、頭が制止を口にすれば、彼はどうするつもりだろう。
自分は、密かに足に力を込めていた。
もしかすると自分たちに反旗を翻すかもしれなかった。
ここでの生活に慣れた以上そんな事は無いかもしれないが、奴がいる位置は出口からは自分らよりも近い。
加えてレベルだけならインテンディアは自分より二つ上。
スタートダッシュで決まる勝負に、自分は頭に視線を向けながら、インテンディアに最大限の注意を向けていた。
「好きにしろインテンディア。ショウの報告を待ってるぞ」
自分に気付いたのか、インテンディアの暴走を予測したのか、頭は淡々とそう口にした。
「えー、そりゃないっすよヘッド」
「グーラにも、インテンディアにも、許可を、出すのか」
「安心しろよ、その内に俺達はこの世界に《殺人鬼》の野郎に喧嘩を売る」
あくまでも楽しそうに頭は言う。
そういえば《殺人鬼》が何故殺人をするのかは考えたことは無かった気がする。
(その癖攻略組とか、どう考えたって『異常』だろうに)
「その時は、グーラもインテンディアも置いて、俺達三人だけの楽しいショウにするぞ」
「そりゃいいぜヘッド!」
「楽しみに、しておこう」
「そう言う訳だ、自分で好きにショウを組み立ててこい」
頭の言葉に、インテンディアは満面の笑みを浮かべながら答えた。
「やっと、このときが来たんだよなあ」
薙刀、《紅雷》を強く握りながら、インテンディアは夜を待った。
紅い持ち手を延々握り締めながら、自分は運ばれてきた料理を口に運びながら黙ってその方を見ていた。
彼は、ジョニーに連れて来られた、『普通』のヤツだったと覚えている。
自分も身長が彼らよりも小さいから、彼が年上だと言うことは理解できていた。
でも、あまり自分とは年は違わないようで、ジョニーといる彼はどこにでもいそうな少年の顔をしていたのだ。
自分は考えた。
――彼は、本当は人殺しなど出来ないのではないか、と。
そういや、古参の奴らには直接自分が手を下すことは無かった。
いちいち『さん』付けをするのも、敬いの意ではなく自分のことを持ち上げるか呆れさせて危害が加わらないようにしていただけだったのかもしれない。
まあ、それも今日に全てが解る。
インテンディアの希望で、彼は単身で夜の街に繰り出すのだと言った。
下手を打てば情報の漏洩は免れないが、そんな不安定な心を頭が見逃すはずないと思っていたので自分も不干渉を貫いた。
「じゃ、いってくるなグーラさん」
別に見送るつもりなど無かったが、リビングのソファが食事以外は自分の定位置なので、玄関からは目に入る。
片手だけを見えるように突きあげ、手を振った。
直後、ドアの閉まる音がし、自分は集めた情報に目を通していた。
何か足りない気がするが、年相応の睡眠欲に、身体の機能はゆっくりと眠りについて往く。
どうせ、次に目を覚ました時にも窓の外には月明かりが差し込むのだろう。
日常となってしまった風景に、自分は安堵していただけなのかもしれない。
「次の夜は、どこの賭博場に行こうか……な……」
まだ、自分達が笑い出す夜は来ない。
――棺桶の扉が、死者の手によって開く。
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はい、どーも竜尾です。
《牙》の説明も終わりました。
こりゃなんとも恐ろしいスキルです。
ただ、歯以外は有効範囲外なのが欠点ですかね。
再び笑う棺桶勢が動き出します。
でも、なんか結末が見えてきましたよね、みなさん。
態々名前のあるキャラを作ったんですから…。
そして、表ではジャック達がキリトに、
裏ではグロリアとグーラが《狂戦士》に引っ張られる展開となってきました。
そろそろタグも増やさねばなりませんかね。
【次回予告】
――99.9%以上を如何にして叩き出すか、それだけだ。
【って、言った割にもう五日だゾ?】
「やっと、会えた」
「
次回をお楽しみに!それでは。
※まだまだリクエストは受け付けています。