興味がある方は、是非。
Side =シンディア=
場所を変え、わたし達が来たのはこの層のダンジョンにある安全エリアの一つ。
アルゴのレベルは安全マージンを取っている訳ではなかったが、アスナも居るので苦労することなくその場所に辿り着いた。
ここなら人も来ないだろうし、思い切りバトルが出来る。
「ここでいいよね」
一応周りを見渡しながら足音で反響定位、五感をフルに活用する。
アルゴに周りを見てもらうように頼み、わたしはアスナと向き合った。
「それじゃあ、《初撃決着モード》で」
「ええ、わかったわ」
アスナがそう言ってウィンドウを動かすが、その手の動きにほんの小さな迷いの色が見えた。
彼女の脳裏にはあの時の光景が染み付いているのだ。
第十九層の惨劇。
攻略に焦る彼女だからこそ、攻略をしながら殺人まで犯すジャックに対して疑念しか思い浮かばなかったはずだ。
結果、彼女は何よりもジャックを恐れていた。
わたしとしては、今回のデュエルでその思考を別の方面に向けて欲しい。
――恐怖すべきなのは、ジャックではなく『死』と言うこと。
何よりジャックと居られないのなら、話し相手は多い方がわたしはやりやすいのだ。
これは、全てにおいてわたしの為のデュエルだった。
デュエル表示に承諾し、二人の間に一分間のカウントダウンが始まった。
アルゴがカメラ機能のある結晶を取り出して真剣な顔でこちらを見つめている。
(こりゃ後で情報代を他の奴らからせしめるんだろうな)
その方に苦笑いで視線を向けつつ、わたしが取り出したのはいつもより一回り短い槍だった。
「短槍?色々なモノがあるわね」
「《ジャクルム》ってね、長物じゃアスナに攻撃するのはちょっと難しいかな」
難しいだけで、出来ないとは言ってないけど。
短槍であっても武器のカテゴリは《槍》とされ、当たり前だが《槍》スキルを発動することが出来る。
短槍の長所はやはり手数の多さだ、長い槍とは力の込め方が違うので槍を突き刺してすぐに引き抜き、次へと移ることが出来る。
あとは投擲に有効なところくらいだろう。
それでもやはり長槍と比べると短所の方が多い。
威力が低かったり、リーチも短く距離感が掴み辛かったりする。
盾の位置を調整して構えもせずにアスナの方を見ている。
カウントが三十秒を切った。
「そう言えば、どうしてこんな急な誘いに受けてくれたの?別に三つ目の《LGL》を取ってからでも遅くなかったのに」
「あれは長い時間を要するからね、いちいち約束として先延ばしにするのは嫌だから」
残り十五秒。
「そうだ、わたしが勝ったらちゃんと名前で呼んでよね」
七秒。
「……そんなことしなくても呼んであげるわよ」
二秒。
「そりゃ良かった」
――零。
先手を打ったのはアスナだ。
わたしは大した構えを取らなかったし、彼女の方がわたしよりも速いので予想は出来ていた。
アスナはそんなわたしの姿に油断一つしないだろう。
初撃から《パラレル・スティング》で、わたしに向かってその細剣からの剣先が急速にわたし目掛けて伸びて来た。
対してわたしが構えを取らないのは簡単に言えば……そう。
剣先を盾で弾いてアスナはその動きに従って動きを流され、ブーツで地面を強く踏んで速度を落とそうとする。
その隙をついてわたしも現在持てる《槍》スキルの中で最速の《スビータ》を放つ。
だが、槍の短さが早速仇となった。
わたしの槍も、アスナの細剣によって弾かれてしまった。
もちろん、それも狙いではあるが。
わたしが次に繰り出したのは弾かれた勢いによって右側に傾いた体勢を利用して左腕で《体術》スキルを発動させた。
これも繰り出せる中で最速のモノだが、初動で読まれたのかアスナは首を動かして攻撃を回避、わたしと距離を取った。
でも、そのHPは僅かに削れていた。
拳はハズしても、腕の部分についている盾がアスナの身体を掠めたのだ。
「やっぱり剣技は全部読まれてるのね」
「まあ、そうだね」
対ボス戦の参考に、とアルゴからスキルの情報を色々と仕入れているので、わたしの頭の中にはアスナの繰り出せるスキルの全てが理解できるのだ。
それをアスナも理解しているからこそ、構えのないわたしに対していきなり本気の攻撃を仕掛けてくるのだ。
わたしは、ボス戦であろうと構えを取ろうとはしない。
それは、あらゆる面からの攻撃を構えと言うモノで対応する攻撃を限定したくないという点にある。
わたしにとって、ボスの攻撃がどれほど強かろうと、アスナの攻撃がどれほど速かろうが関係ないのだ。
その防御を可能にするのは《異常》とも言える動体視力と守る際の腕の速さ。
これだけで攻撃を無力化し得る力を持つからこそ、人々の視線はより集まって往く。
果ては、その身体を彩る色彩の様に映る黄金の装備達に。
――故に、存在までもがその色彩で彩られる。
――故に、《黄金》。
――故に、構えが無いのが構えと為る。
先程の攻防に、アスナは足を止めてゆっくりとわたしの隙を窺っていた。
そりゃこれほどまでに防御からの反撃が上手いと、その場の停滞を望んでしまう。
なら、そこを突くのは当然のこと。
だってわたしが担っているのはタンク役とアタッカーなのだから。
(下手に高を括るのは禁物だね)
それもアスナにとっては仕方のないことだ。
『普通』であり、ジャックのことを怯えてちゃね。
わたしもステータスの主軸は俊敏値だ。
筋力値も確かに必要ではあるが、その方は地の力でもカバーできない範囲ではないので、そこまで出さないとすれば素早さの方を重視しておきたいのだ。
真っ直ぐにアスナに向かって走る。
アスナも攻略組なので《槍》スキルについてはある程度の知識がある。
ここまでくると、もう剣技なんてモノは隙を作るデメリットしかなく、ここぞと言う時にしか打つことは出来ない。
アスナは突っ込んできたわたしに今まで見て来たボス戦を思い返し、研究し、対策を立てる。
そう言うところは、流石と言ったところで、『普通』の奴らの中では抜きん出ている才能に近いモノだ。
(わたしから言わせれば、臆病者の代償って所だけど)
急速にわたしは速度を高めた。
距離にしてアスナまで七メートル。
その一瞬に、彼女の警戒心はさらに高まった。
間違いなくわたしの一瞬の隙を探して攻撃を仕掛けてくる。
恐らく、出してくるのは彼女が一番自信を持つ《リニアー》だろう。
剣技が効かないと解っていても、その確率は決してゼロではない。
それこそがアスナの『希望』となっていた。
残り五メートル。
二メートルを一瞬で駆けたところからアスナは一瞬のタイミングを狙っていた。
まるで、針の穴にその細剣を通すかの表情だ。
わたしは、彼女の心拍数を聞いていた。
その周期が、その人にとってもベストなタイミングを引き出すカギになる。
これを掴むのはジャックの得意分野なんだけどね。
無い心臓をあるモノとしてそれを読み取ってしまう。
だからこそ、彼は人の心を掌握するのが上手いのだけれど。
――爪先が、地面を引っかけた。
わたしの走る速度は急速に緩んだ。
ここがチャンス、ここが好機。
アスナにそう思わせるための一間。
その通りアスナはその場から消えたように最速でリニアーを放った。
止まろうとしたわたしの体は前屈みに倒れ、ちょうど剣先が心臓部分への一直線コースだ。
(確かにアスナの速度は、アルゴには消えたように見えたかもね)
わたしからはその踏み込みの瞬間からはっきりと見えていたけど、まずわたしやジャック位じゃなきゃ見えなかったはず。
――対してわたしは、アスナとアルゴの視界から、本当に一瞬だけ姿を消した。
「でも、わたし人間だからなあ……」
アスナの顔が驚愕に染まった。
わたしがいたのはアスナの右斜め後ろ。
したことと言えば、カプトの時にも使ったモノと全く同じ原理だ。
確かに、それを可能にするのには常人ではとても不可能な力を要するが、この技の要は全てが相手の思考にある。
カプト、いやカーディナルの時には天井に足を付けた瞬間、先程は爪先を引っかけた瞬間。
それを見ると必ず相手はわたしの取った行動の理由を無意識的に探ってしまう。
『何故天井に?』『何故速度を緩めた?』
その答えは出ることのなく、思考はただ一つ、目の前の結果だけに帰結する。
『『シンディアの動きが止まった』』
わたしには表情に確信が現れた瞬間を読み取り、さっきはついた方の足と逆の足で凄まじい速度で地面を蹴って移動。
顔を動かし細剣を躱して剣技の体勢に入っていた。
《槍》スキル重突技《グラヴィス》。
轟音が響いた。
「あらら、すっごい執念」
わたしの攻撃は、直撃せずに、アスナの脇腹辺りをちょっと抉った程度だった。
アスナの右腕は左肩辺りで止まり、その手には何も握られていなかった。
数秒の硬直。
それを破ったのは、わたしの背後で地面に突き刺さったアスナの細剣だった。
ザクッと大きな音を立てた瞬間、二人の前にデュエル終了のメッセージウィンドウが出現する。
【WINNER/Sindia 試合時間/二分四十一秒】
表示を見た途端に満足気な顔でアスナは尻餅をついた。
「あーあ、負けちゃったかー」
「グラヴィスはかなり威力の高い剣技だからね、直撃とはいかなくても十分な勝利判定だったってことだね」
わたしは細剣を引き抜いて、アスナに渡した。
グラヴィスを放つ瞬間、アスナは自分の体を回転させて右手の手首を返してレイピアの柄の部分を短槍の先に当てたのだ。
けれどそれだけでは力不足であり、僅かに方向がずれたのとアスナが身体を動かしたことで直撃を免れたと言うことだ。
(それでも、いざとなれば直撃させることもできたけどね)
手を差し出し、アスナを引き上げる。
「完全にやられちゃった、あの動きには度肝を抜かれたわ」
「こっちも裏を取ったつもりだったけど、直撃とまでは持ってけなかった」
「いや、どっちもおかしいから」
互いを称賛し合う中、ただただ呆然としていたアルゴの言葉がやけに響いていた。
「オイラも、あんなシンちゃんの姿は見たことがなかったナ」
「今までわたしが戦ってたところは見せたこと無かったしね」
「ボス戦との戦闘経験も貴女を強くした原因ね」
わたしが照れくさそうに頭を掻けば、二人とも微笑んで、その場はお開きになった。
「じゃあ、オイラはお先に失礼するゾ。また来てくれよナ、あーちゃん!」
溜息を吐きつつアスナはアルゴが見えなくなるまで手を振っていた。
「それじゃあ、私も本部の方に戻るわ」
「うん、あっ……」
態とらしくそう言ってアスナの方を見る。
自分でも判るほど期待と言う言葉を視線に乗せると、ふっと一息、アスナは踵を返した。
「じゃあ、また会いましょう。今日は楽しかったわ、《シンディア》」
顔だけをこちらに向けて彼女は去って行った。
だが、足取りに乱れが見えた。
瞬間、わたしは口元を小さく釣り上げた。
そもそも、デュエルの目的はアスナの恐怖対象をジャックから『死』へと移し変えることだ。
その為にグラヴィスを放ったあの一撃。
あの時わたしがしていた表情は、ジャックの狂気の表情に似せたモノだ。
アスナの様なタイプは必ずこう言ったデュエルのことを後できちんと振り返って次へと積み立てる。
だから、デュエルの熱で忘れていたあの時のわたしを思い返せば、その姿は彼女の中でジャックと重なるのだ。
あれ程印象的な顔を焼き付けてしまった以上、忘れることは出来ない。
――ならば、わたしのこともジャックと同じようにこれから恐れるのか?
否、一度友達を認められた、名前を呼んでしまった、互いに笑いあってしまった。
そう言った意識が、真面目な彼女の心を蝕むのだ。
そうして次に逃げ場を探す。
ジャックに臆した時点でそれに立ち向かう心を持ち合わせているわけがない。
それで《殺人鬼》から抜けだし、次に恐れるのは必然的に自身の『死』になる。
ほら、わたしの思い通りにことは進んでくれた。
わたしも帰路に就く。
明日は《LGL》獲得クエストに挑まなければならない。
《ゴールド》の街の建物は大抵、金色で装飾されている。
わたしの両腕と腰から下に付けられた装備も、輝きでは圧倒的にこっちの方が勝っているが、同じ黄金色だ。
壁を背景に腕を翳せば、保護色で『普通』の目では見失ってしまうかもしれない。
次で三つ目。
どの部位の防具だろうと、それを手に入れてここに戻ってくる時に、わたしの体はこの街に溶け込み、消える。
不思議な響きだった。
力を手に入れる度に、わたしは消えてしまうのではないか。
想像してみたって、一体どんな禁忌を起こせばその罰が下るのか。
視線を下げて両腕の感触を確かめながら、わたしは自宅の扉を開けた。
==========
はい、どーも竜尾です。
最近は究明編で書きたいところのオンパレードで筆が進みますね。
グーラ君の捕食シーンだとかツーカーなお二人だとか。
出来る限りあっさり、それでいて弱くし過ぎないようにアスナさんを書きたかった…。
初撃決着モードだと《グラヴィス》一発で終わってしまうのだと仕方がなかったんです。
他の《槍》スキル考えればよかったかな?
四週間ぶりにお休みをいただきます。
次回の投稿は1/25(月)ですのでよろしくお願いします。
【次回予告】
「さっすが、としか言いようがないよ……ホントにね!!」
「もう臓器以外は私じゃないでしょ?」
「これで二十代とか、私以上の嘘付きなんじゃないの……」
「ようやくギルドっぽくなってきたということだな」
次回をお楽しみに、それでは!とは行きません。
もちっと続きます。
突然ですが、読者の皆様にご相談があります。
前回でも言いましたが、この度、この小説の通算UA数が十万突破致しました。
それを記念して何かこの小説のオリキャラ達を使って番外編などを考えられたらと思っています。
今回、そのリクエストがあればと思いました。
まだあまりオリキャラ、特にグロリアやグーラについては現実でのことがまだ知られておらず、ジャックとシンディアくらいしか明確に書かれていませんが、自由に案を提供してくれたら嬉しいです。
ネタばれ的なのは書けないのでそこのところは配慮してもらえると助かります。
リクエストは感想や、これの投稿日のうちに活動報告にてそれのお知らせを再度しますので、そこのコメントでも構いません。
急なお知らせになりますが、気軽な気持ちで送ってきてくれて結構です。
むしろ、本編の方でそれを再現することもあるかもしれません。
それでは、リクエストをお待ちしております。
締め切りは、このようにあとがきや活動報告にてお知らせします。