仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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通算UA数十万を突破致しました。
この作品がこんなにも読まれているなんて、本当に嬉しいです!
これからも、物語は続けていくので応援よろしくお願いします!!


第二十話 黄金の茶会

Side =ジャック=

 

第三十層ボス攻略戦、珍しい事にキリトはその姿を見せなかった。

確かボス攻略は皆勤賞だったはずだが、今になってそれを止めたと言うことはつまり?

『変化の時だね』

シンディアから小さく信号が送られてくる。

あう言う奴に限って日常と言うモノを崩すことは無い。

それに、攻略の意思だってここまでくれば身に染みている。

攻略組全体にも僅かな動揺が見られるが、元々ソロパーティーはオレ以外にはソロは二人。

シンディアはタンク隊に入るから、残りの三人は《聖竜連合》や《血盟騎士団》の溢れ者と言うことになる。

だが、いくらオレに信頼を置いていようが、自ら進んでソロパーティーに人が来ることは無い。

そう言う訳で溢れる三人を誰にしようと会議では大いに話し合われた。

キリトがいたことによりソロパーティーには聖竜連合、血盟騎士団から順繰りに一人ずつ駆り出されるのだが、今回はそのどちらかが二人。

攻略会議はすでに終了しているのだが、それを決めるのにもう二十分は経過している。

本来なら、早いところキリトの様子を見に行きたいところだが、もう少し泳がせてみようと放置を決めたので待機。

キリトも居ないことだし暇になるのはオレとしてもシンディアとしても癪なので、一芝居打つことにした。

シンディアと視線を交わしてタイミングを合わせる。

瞬間、部屋の中にオレの怒気が立ち込めた。

前もってオレの口から会議には関与しないと言っているので言葉は出さない。

だから、こうして威圧する。

奴らも、時間をかけ過ぎたと理解しているが故に焦る。

《殺人鬼》の逆鱗に触れてはならないと、誰かを供物にするために視線をぐるぐると回す。

次はシンディアの出番だ。

オレの怒気を中和するかのような穏やかな雰囲気をその表情と仕草で出せば徐々に視線は集まって行く。

ついつい思い切り見てしまったと、すぐさま視線を逸らす者もいるが、それだけでいい。

 

――『『一度欲に染まったのに、その思考を簡単に破棄できる訳あるか』』

 

バタバタとしていた奴らがものの数秒で止まった。

やがて、今回の攻略組を両リーダーから指揮を任された者が、集団からシンディアの前に出た。

「あの、すいませんシンディアさん……大変頼みにくい事なんですが……」

「あっ、構いませんよ」

さっと言い切ってオレの方まで歩いてくる。

当然、第二十六層でのシンディアの宣戦布告は攻略組の奴らも知っている。

同時に、シンディアの闘気も。

タンク役とアタッカーを両立させる者がただのプレイヤーではない程に。

煌びやかな装備とそぐわぬ容姿、それらを重ね合わせるように発揮される実力。

その名は瞬く間に広がり、彼女の名は今やこう呼ばれている。

 

「テメェか、《黄金》」

 

「まあ、《黒ずくめ》が返ってくるまでの辛抱ね、ガンドーラ」

 

互いに適当なレベルの殺気を放つ。

そうやって睨みあっている間にも、視線と言う情報交換を行う。

瞬きだったり、僅かな眉の動きだったり、取り決めなんて無くてもオレ達にはそれが解っていた。

数秒睨みを利かせれば、伝達完了。

シンディアから先にそっぽを向いて、オレはそれを見ながら笑みを浮かべる。

だが、その内心は決して穏やかなモノではなかった。

 

(マジか、オレの容姿がこの姿になったのはあの初期設定の所為か!?)

 

シンディアに言われるまでは気付きもしなかったし、あの時は理解できずにパニックに陥っていたから完全に忘れていたのだ。

じゃあつまり、第十九層で放ったオレの言葉は早速嘘だってことになる。

知らなかったこととは言え、軽率すぎた。

《異常》故の失敗への経験不足に、どうしようもなく心は落ち込んで往く。

今まではボクが知っていて白が知らないことは無く、逆もまた然り。

白の出来る事はボクも出来ていた。

(違う……かな)

明確な差はいつもあったじゃないか。

彼女はいつだって表から人を魅了する。

だから彼女は数を手堅く味方にする。

対してボクは常に裏側にいる。

だから人は誰もボクに関わろうとしないし、その思考すら起こさせない。

取り巻く環境の違いを感じないことは無かった。

まあそれも、ボクと白の成り立ちを考えれば仕方のないこと。

それでも羨ましく思ってしまうのは、人間と言うカテゴリに所属しているからこそなのだろうか。

 

――笑みの裏の心は、いつだってこれだった。

 

==========

 

第三十層攻略後、キリトが雲隠れしてから一週間以上の時が経った。

そろそろ潮時だと唯一人だけ登録されたフレンドリストを開くと、表示されていたのはここより十は下の階層だった。

「こりゃ、オレも情報屋を雇った方が良かったか?」

軽く冗談を呟いて転移門を起動させる。

オレが容易にほかの街に出現すると、基本的に最前線にしかいないオレの登場に街の奴らは驚くが、そんなモノをいちいち気にしていたら埒が明かない。

それに殺人だって止めた訳ではない。

ふらっと下層に下りては標的を見定めて、あえて情報屋に知れ渡る様に殺す。

今回はそれではないのだが、まあいいだろう。

キリトのヤツが悪い。

カーソルの指し示すのはこの先のダンジョンだ。

ポケットに手を突っ込んで歩き出す。

街の奴らは何事かと遠目にオレを見るが問題無い。

短剣を取り出して鉛直上方向に思い切り投げる。

そのまま歩き続け、ナイフがちょうど差し出した手に収まった。

それだけでも悲鳴が起きるのだから、《殺人鬼》というのは大したものだと改めて感心する。

やがて静かになった街を抜け、広大な草原に足を踏み入れた。

(さーて、何をしている事やら。もしかすると、もしかするかもな)

久しく感じた胸の湧き様に、シンディアも攻略組に来たことも相まって、オレは歓喜していた。

芽の反応を追い、先に見えた安全エリアにキリトがいると確信した。

周りにも数人のプレイヤーがいることが解るが、関係ない。

兎に角、面白いことが起こっているのには変わりは無かった。

長く伸びていた草を掻き分け、徐々に地面が岩に変わり始めたのを見て、安全エリアの到着を知る。

 

「あー……。久々に安全エリアなんかに来たなぁ……」

 

全員の視線がオレに集まり、キリトの位置がオレの立っていた壁側に近いことが解るとその場から跳躍し、あえて他の奴らにその表情が見られないようにした。

キリトの表情が驚愕で染まる。

「ジャ、ジャック=ガンドーラ……。何でこんな下層に……」

声を出したのはキリトの隣から一歩前に出た男だった。

他の奴らからの視線を見るに、このパーティーのリーダーと言った所か。

誰かに被害が及ぶなら自分がと、なんとも素晴らしい自己犠牲の精神じゃねぇか。

「あ?ただの探しモノだ」

態と棘のある言い方をしたのは、キリトにオレの来た訳を再認識させるためだ。

テメェの居る場所はそこじゃねぇが、オレの見るお前の芽に成長が見られた。

(本来なら、ここでテメェの正体を明かしてもいいのだが、それじゃあ味気ねぇ。開花のチャンスだってのに)

笑いながら、オレは六人を見回した。

必然的に目は会う。

奴らの、今の感情バランスを正確に読み取った。

それを組み合わせて脚本を練った。

キリトとも目が合ったが、予想通り、酷く動揺した様子だ。

オレはそれを無視して振り返ると、もう一つ石段を跳び下りた。

もちろん、このまま何事もなく終わると思うか?

目を合わせた瞬間にリーダー格のヤツだけ《殺人鬼》に対する好奇心を刺激した。

 

「待ってくれ、ジャック=ガンドーラ!」

 

(――来た)

足を止め、奴がオレの飛び去った石段に立ってオレのことを見下ろした。

「な、何であなたは殺人なんてしているんですか」

「は?」

なるほど、そう来るか、と次に発する言葉を割り出す。

振り返って奴の質問に答えて往く.

こうして《殺人鬼》が一介のプレイヤーの質問に答えていること、リーダーがオレを見下ろす体制でいることに、他の奴らは心の中にオレに対する僅かな優越感と疑問を抱く。

『もしかしたら《殺人鬼》なんて噂だけの人物なのではないか?』

それをさらに後押しするように言った。

「ならその綺麗事が攻略組で通用すんのか見せてみろよ。オレに対して「待て」なんて言えるヤツが、どーんなことしてのし上がって来んのかをなぁ……」

賞賛と期待を声色に込めた。

 

――止めだな。

 

再び背を向けて歩き出す。

ちょうどオレの姿が奴らから見えなくなった時、無様な歓声を上げて仲間は奴を称えた。

キリトもオレに真意に何か気付かない。

「平和ボケでもしてんのか、そんな余裕がよくあったもんだ」

それに、奴らの中に一人、キリトへ靡いていた心を持つ女がいた。

あいつには特注のヤツを送ってやった。

じきに。キリトには止めようのない慢心が故の悲劇が起こる。

その責任がもし、オレにあるとすれば?

 

――自然と足元には霧が立ち込めていた。

 

Side =シンディア=

 

第三十層主街区《ゴールド》。

いつものようにカフェで集合したわたしたちは、金色で彩られた椅子に座って同じく金色のカップにコーヒーを入れてティータイムを過ごしていた。

「それにしても、まさかここに拠点を構えちまうとは……シンちゃんも成長したナ」

ほろり、と自分の口で言いながら嘘泣きの演出をするアルゴに、軽く微笑みながらわたしもティーカップに口を付ける。

第十層からあるこの店は第二十層にも同じ店を開いており、ここは三店舗目と言うことだ。

変わらない味で、すっかりと常連客になっております。

「けど、こんな無駄に金を使ったような窮屈な街でよく生活できるナ。この店までこんなに金ピカじゃ家の中までそうなんじゃないのカ?」

「そのおかげでファンの人とかが寄り付かなくなるからね」

アルゴは納得したように二度頷くと、もう一度熱々のコーヒーに口を付けてちびちびと啜っていた。

 

「で、なんで私はここにいるのかしら」

 

その光景の中に、いつも見ない顔が一人。

「いいじゃないカ、《あーちゃん》」

「そうだよ、わたしに誘われてここまで来てくれたのに。《あーちゃん》」

「アルゴはいいとして、貴女までそう呼ばないでくれるかしら《黄金》」

つれないなあ、とアルゴの隣でわたしと対面しているのは、攻略組に所属するもう一人の女性プレイヤーで《血盟騎士団》副団長の肩書を持っていて、おまけに《閃光》と二つ名持ちと言うなんとも優等生的な雰囲気を醸し出すこの女の子。

 

「冗談冗談、折角誘った相手をすぐに返す真似なんてしないよ《アスナ》」

 

いやあ、本当につんけんした娘だった。

案外簡単に誘いに乗ってくれるかと思えば早々に断られたし、孤独を怖がっているのを自身の剣で弾き返している癖に良くやるなと適当に感心していた。

結局その隙間に付け込んで、こうしてお茶会兼女子会を開いてるんだけどね。

さっきも言った通り、ここは明る過ぎて本当に人が寄り付かないからアスナも安心してここに来れるのにね。

「貴女はどうして私を此処に呼んだの、私にはまだ攻略が残ってるのに」

彼女は確実に焦っていた、アルゴがフードの奥で暗い顔をするのが視界の端っこで映る。

アスナも、アルゴにとっては大切な人と言うことだ。

わたしとしても仲良くはしておきたいが、今はあえて怒らせてその本音を聞き出すか。

「特に深い意味は無いよ」

「……そう」

少しはイラっと来たらしいが、伊達に攻略組を引っ張る者の一人ではない。

すぐには激怒はしないみたいだ、とりあえず話を進めて何れチャンスを窺おう。

「でも、貴女の本命はアルゴから情報を聞き出すためじゃないの?」

「別にシンディアって呼んでくれてもいいんだけどな」と小さく愚痴りつつアルゴに視線を向ける。

すると、周りにわたしたち以外はNPCしかいないことが解ったアルゴが珍しくフードを取った。

右手で頭を掻きながら左手で少し覚めたコーヒーを一口含んで口を開いた。

「その事なんだガ……実は情報が全くないんダ」

「えっ、この層が解放されてもう十日が経つのよ、流石に誰か一人が興味本位に挑戦するんじゃない?」

アスナの疑問は最もだが……。

「あー、やっぱりかー」

「シンちゃんの影響力が大き過ぎるのも原因だナ」

「どういうことかしら?」

苦笑いするわたしとニヤリとするアルゴに、アスナははてなマークを浮かべていた。

「そもそも《LGL》っていうのは第十層から続く特殊なクエストでね、第二十層の方もクリアしてないとこの層のヤツは受けられないってこと」

「加えて、《黄金》の代名詞である《LGL》はシンちゃんだけモノとして手を出さない連中や獲得しようものならファンが阻止しようと動き出しているとカ」

「貴女も大変ね」

『も』と言うことは、そう言った事を経験済みなのだろう。

お互いに溜息を吐くとタイミングぴったしでアルゴが笑っていた。

「それじゃあ、一人で行くしかないか」

「気を付けろヨ、油断だけはしない様にナ、シンちゃん」

アルゴの声に頷いてコーヒーを飲み干す。

「本当に、強いのね貴女は」

カチャリとカップをソーサーに乗せ、視線を下げたアスナが言った。

(ここかな……)

「そうでもないさ、わたしはただやりたいことがあるだけ」

「ジャック君のこと……?」

 

「……うん」

 

その時にわたしがした表情に、二人の心が強く動かされたのを明確に感じ取った。

当初は怒らせようと思ったけど、今後のこととアルゴのことを考えると却下。

アスナから仕掛けさせる。

「それじゃあ、わたしは行くね」

立ち上がり、「アスナの分もわたしが出しておくね」と代金をテーブルに置いて歩き出す。

「待って!!」

予定通りアスナがそれを引き止めた。

 

「もし、よかったらだけど……私とデュエルをしてくれないかしら、《シンディア》」

 

「喜んで」

 

――ジャックの言う通りなのか、見せてもらうよ、お姫様。

 

==========




はい、どーも竜尾です。
この辺からオリジナル色がより一層濃くなって来ました。
僕としても書くのが非常に楽しいです。
そして、シンディアさんとアスナさんがやっと出会いました。
捜索編では二人は結婚後でしか会ってなかったですから。

最後の方に《》をつけさせずにお姫様と呼ばせましたが、あれはまだアスナの事を《勇者》と《お姫様》の方として呼んでいた訳ではなく、からかいの意味です。

【次回予告】

「そりゃ良かった」

――故に、存在までもがその色彩で彩られる。

「でも、わたし人間だからなあ……」

「いや、どっちもおかしいから」

次回をお楽しみに!それでは。
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