仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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今回は猟奇的な描写が多いです。
苦手な方ご注意ください。


第十八話 悪食の食卓

Side =グーラ=

 

この日の自分は、珍しいと自覚できる程に憤っていた。

いつものホームでどこかで見たような骨付き肉を貪っても、味は全く頭に入って来ず、イライラは募るばかりであった。

「ヘッド、グーラの野郎どうしたんすかね?」

「今日の朝から、ずっと、あの様子だ」

「ま、確かに今までにない事だな」

頭たちの話している通り、自分にとってもこんなことは初めてだった。

別に賭けに大敗を喫した訳でも料理の味にケチをつけている訳ではない。

寧ろその辺は相変わらずで《悪食》 共々、頭たちの情報は徹底的に緘口令を敷いている。

そもそも自分は料理は一切しないので、食べるモノに関しても文句一つ言った事は無い。

それなのに、だ。

(何故自分はこんなにも昂ぶっている?)

肉を食いつくす前に骨を齧る。

その骨は、無駄に強靭になった顎の力によって意図も容易く砕かれ、奥歯でさらに粉々にしてから飲み込む。

イラついた顔も相まって、骨を噛み砕く姿は悪魔染みた光景だろう。

 

「それはな、こいつが変化を求めてる証拠ってことだ」

 

言われてみて、初めてその正体に気付く。

「今まで、俺達は非常に順調に楽しく遊んできた。俺達と同じ奴らも何人か引きこんでな」

頭がそう言うと、部屋の奥でソファーに座っていた男達がこちらを向く。

「そうっすかね?」

その中で、立ち上がったのは五番目に仲間になった《インテンディア》という男。

腰から下げているのは《刀》スキルから派生して使用可能になる《薙刀》だ。

自分でもあまり名前を聞かないほど珍しい武器を持ちながら、この世界を自分たちと同じように謳歌する彼は、無事に頭のお眼鏡に適ったと言うことだ。

深緑の髪を弄るのが癖らしく、髪に手を当てながらこちらに向かって歩いてきた。

「リーダー、そう言うことならグーラさんをより愉快なショウにご招待した方がいいんじゃないっすか?」

余談ではあるが、頭のことは皆リーダーと呼んでいる。

自分やジョニーが特殊なだけかもしれないが。

それで自分は呼び捨てもあるのだが、『さん』付けで呼ばれることもある。

どうやら、《悪食》何て言う二つ名と……。

 

――これの所為らしい。

 

自分は、背中に付いている武器を正面まで持ってきた。

これもインテンディアの持つ薙刀と同じ《刀》からの派性となる特殊な武器。

典型的な形をしているが、それが人間を刈り取るモノだと考えただけでもぞっとしてしまう様な形状。

これで、自分の持つ武器が何か想像がついただろう。

黒光りする部分から流れるように先端の銀へと弧を描く刃。

 

――《鎌》だ。

 

銘を《ファルセム》。

考えても見てくれ、薄暗い賭博場で金髪を揺らしながら椅子で踏ん反り返る少年の椅子に掛けられているのは巨大な鎌。

それだけでも、相手は精神的に参ってしまう奴もいる。

当然、レべリングもしているわけであって飾りではない。

閑話休題。

インテンディアの出した提案に、自分は頭にその意思を委ねた。

自分もショウへの参加経験もあり、事実この軍勢のナンバー2な訳だからジョニーやザザほど残酷とはいかないが自分でショウを組み立てたこともあった。

故に、行くも行くまいも頭次第でいいのだ。

「そうだな、それじゃあ……」

頭は座って足を組むと、数秒もしないうちにその顔に笑みが生まれた。

 

「そろそろ、こいつとの約束を果たすとするか」

 

「……約束?」

「そいつはどういうことですかねヘッド」

インテンディアとジョニーが挙って聞き返すが、頭はただ俺の方を指差した。

それもそうだろう。

視線の先には、恍惚とした表情を浮かべながら目を血走らせる俺の姿があったからだ。

「ああ、そう言えばそうだね。日常に囚われ過ぎてすっかり忘れてた」

「それで、その約束ってのは……」

あの陽気なジョニーでさえも、俺の豹変ぶりには舌を巻いた。

思えば、それがここにいる全てだったんだ。

もしかしたら、頭は態と俺にその機会を与えなかったのかもしれない。

そうすれば、俺を此処に縛り付けられ、環境に順応させる。

(うーん、そう考えるとまんまとやられたかな。これで二回目だ)

「内容に関しては、俺達は何も言わずに高めの見物でもしてる事だな。楽しいショウが特等席で見られるぞ」

頭の言葉に、他の連中は黙って頷いた。

皆も、こんなに楽しそうにする頭の姿は見たことが無かったのだろう。

けれど、俺には一つ気がかりな事があった。

「頭」

「どうした、場所の手配と食材の情報に問題でもあったか?」

「いや、その辺は問題ない。俺が聞きたいのは一つ」

 

「良いんだよな」

 

それはつまり、殺しの許可だ。

今まで、俺達は直接的な殺害はしてはいなかった。

それは当然、俺達のことを勘ぐられないことや、《殺人鬼》の為の対策である。

ならば、殺さなければいいなんてことは言えるわけがない。

それこそ情報の漏洩に為りかねないし、食材を残すなと《悪食》でなくても絶対にしない。

故に、問う。

この行為によって一番快楽を得るのは俺だ。

それで、自分達の危険が高まると言うのに、それを許すのか。

 

「ああ、愉快なショウの始まりだ」

 

まるで、言うと決まっていたような口ぶりに感嘆する。

そうだ、頭はそういう人物じゃないか。

鎌を背中に回して口元を隠すマスクと真っ黒な帽子、大きな茶色のゴーグルを装備した。

どれもこれも《装飾品》である為、ステータスには何の変化もないが、耐久値もあるしこうして組み合わせれば顔も隠せる。

他の奴らも各々姿を隠す格好をして、準備完了。

頭が隣に立って俺の肩を叩く。

今回は、俺の好きにさせてもらうぜ?

 

「イッツ・ショウ・タイム!!」

 

==========

 

標的にするのは、普段自分に金を毟られる奴らだ。

勝ち負けはきっちりするくせに、大勝負では圧倒的な運で勝利を収める自分に、二度と戦うもんかと奴らは言わない。

必ず、自分を破産させている時が来ると信じている。

そう言う訳で、金を稼ぎにダンジョンへと繰り出すのだ。

情報も掛け金として奪っているので、現在のレベルからどの層が効率よく稼げるのかを計算すれば奴らはその場所に現れる。

その場所の近くの高台と言うか、崖で頭たちはその様子を見ているだろう。

相手は三人、腹を満たすにはちょうどいい人数かもしれない。

体型は様々だが、太っている方と痩せている方、どっちがおいしいのだろうか。

 

――それも含めて、食べ比べしようじゃないか。

 

《隠蔽》スキルを発動。

格下の《索敵》ごときに後れは取らない。

正直、こういう暗殺的な奇襲は自分は苦手だ。

ステータスも俊敏値と言うよりは鎌を使っても体勢を崩さないように筋力値や何やらに振っている。

だから、逃げられずに確実に刈り取らなければならない。

徐々に距離を縮めて往く。

三人の三角形に並びながらゆっくりと歩を進める陣形の中心に入りながら歩幅を合わせる。

周りにモンスターの影は無い。

鎌を取り出す前に両手を合わせる。

手に何かを持ちながら両手を合わせるなんてマナー違反は行わない。

 

――命を『頂く』んだからね。

 

瞬間、鎌を取り出して体勢を低く、筋力値をふんだんに使用して手を目一杯に伸ばして斬撃を繰り出した。

《鎌》スキル広範囲基本技《メテンド》。

鎌と言うのは掻き寄せる事によって対象を刈り取ることに特化した形状だ。

当然、本来農作物を対象とするのを主軸として作られたが故に戦闘には向かない。

けど、それはあくまでも現実世界での理論だ。

ここは、その理想を叶える世界。

いちいち力の加え方など考える必要もない。

「当たれば、刈る!!」

一瞬。

足の運びも加えて身体も回せば三百六十度を一回転するのは容易い。

片足でも刈り取れば十分だ。

鎌は、そう言うために作られたモノなのだから。

だが、思い通りに足を切断出来たのは二人だけ。

もう一人は《索敵》スキルが高かったのか、はたまた勘か、無事に立ってこちらを見ていた。

ガチガチと歯を震わせながらソイツは曲刀を振り被る。

「うっ、ぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」

恐慌した者の斬撃など単純明快で躱すことなど造作もない。

けれど、その時の俺は違ったんだ。

声が聞こえた、とでも言えば説明が付くのだろうか。

ただ一言、ソイツは言ったんだ。

 

――『喰らえ』、と。

 

確かに、その剣の軌道を予測するに俺の顔面へ直撃コース。

何を馬鹿な事を、普段通りの俺ならそう思ったはずだ。

俺は迷い無くその剣の角度に合わせて口を開いた。

 

Side out

 

いきなり襲われたからと言って、すぐさま剣を振り下ろしたのはいくらなんでも軽率だと男は叫びながら後悔していた。

もしかしたら話し合いで解決できたかもしれない。

いくら顔が見えないからと言っても、自分よりも背丈の低いこの少年が《殺人鬼》の真似事をしたことに酷く驚いてしまったのだ。

既に脳から出された指令に従って剣が振り下ろされる。

少年が、剣の軌道から逸れる事は無かった。

(まずい、やってしまった)と、この少年の防具の耐久値が大きいことを只管望んだ。

思わず目を瞑りたくなった未来の光景だったが、次の瞬間。

その双眸は、大きく開かれることになる。

 

――少年の顔が大きく裂けた。

 

それは、自分の行った斬撃によってではない。

少年が、自発的にそれを行ったのだ。

その亀裂が、ちょうど目の下あたりまで続き、その口を開いた。

何をするつもりなのか、全く理解できなかった。

結局、そのまま腕は振り下ろされた。

何の手応えもなく、本当に顔を切り裂いてしまったのだと自責の念に駆られた。

だが、そんな事を考えている暇など無かったのだ。

早々に撤退すべきだった、自分だけでも。

 

「案外、鉄屑もイケるな。初舌だわ初舌」

 

手応えが無かったのは切り裂いたからではない。

中程から無くなって、残った柄の部分と地面に刺さった剣先。

まるで煎餅を食うかのように鉄を噛み砕く少年。

(これを見ても、まだ逃げ出せと言えるのかよ……神様!)

 

Side =グーラ=

 

金属片を口の中へと流し込む。

どちらかと言えば、剣を食った事よりも味が存在していたと言うことに驚きを覚えた。

もしかすると、これは期待していいのかもしれない。

マスクは攻撃によってなくなってしまい、そこを手でなぞるのだが、明らかに口が大きくなっていた。

しかも、その全てに歯がぎっしりと生えており、想定だが五十本は軽く超えているだろう。

笑いの一つでも浮かべれば、俺に攻撃をした男は腰を抜かしてへたり込んだ。

もはや鎌を使うまでもないだろう。

歩み寄り、男の足の間と肩に手を掛けて、筋力値全快で持ち上げた。

「うわあああああ!!!!止めろ!!下ろせ!!」

声はもう届かない。

腹部に顔を付け、準備完了。

後ろの二人も恐怖の眼差しでこちらを見るだけで動く様子は無し。

 

「光栄に思え、食材第一号君」

 

裂けた口はほぼ直角まで開いた。

筋肉がどのように作用しているかなど関係ない。

そのまま、腹部の肉に喰らい付いた。

「えっ、お前……何を……」

食事において会話は基本的に不要。

この食卓には俺と食材だけ。

無言で、響くのは重力に従って張り付く肉を食らう咀嚼音だけだった。

この世界はこうした攻撃における痛みこそないものの、本能的な痛みや部位欠損による違和感などはある。

そんなモノを味わえるなんて、至高じゃないか。

 

――俺は向こう百年は味わいたくない味だがな。

 

そうして喰らい続け、必死にもがく男に筋力値の限界を感じたので体勢を一気に変えて背中から地面に叩き落とした。

こうするだけでも、再び動きは止まる。

こいつはもうこの辺で良いかな、まだ食材は残ってるんだし。

俺の食らい尽くした跡は紅いポリゴンがあちこちに広がっていた。

流石に、内臓まで再現する訳にはいかなかったらしく、仕方のない事だが、その光景はいまいちリアリティに欠けるモノがあった。

もし、本当に内臓まで再現されていたら喰らったかって?

 

――愚問。もつやわたなんかを食べる感覚と何らかわないだろう、人間だって。

 

だから、最後にその声を出させないようにと首元に齧り付く。

口が大きく裂け、首を丸ごと口で覆った。

そのまま、大きく身体を逸らして顎に力を込める。

ブチっ、と音を立てて首から下が虚空へと飛んで行った。

もうじき、この首も消えてしまうだろう。

そんな俺の前に出されたウィンドウに表示されたのは見覚えのないスキルの獲得表示だった。

 

 

【《牙》スキル取得】

 

 

自分にとっては何とも都合のいいスキルだろうか。

まだ、その晩餐は終わっていないのだから。

振り返り、恐怖に顔を青褪める二人に向かって歯の剥き出す裂けた部分だけを見せて笑った。

 

――さて、今度はどこから食ってやろうかな。

 

==========

 

翌日、頭以外のメンバー全員からやけに統一感の籠った『さん』付けで名前を呼ばれるようになったのはちょっと意外だった。

いや、違う。

それよりも、もっと意外な事は、喰らった人間の味だった。

味が存在していたんだ。

よくよく考えてみれば、それを推測で味としていたのだろうか。

金属ならまだ納得がいった。

あの質感と匂いは間違うことなく金属の味だ。

加えて、三人とも別々の味を持っていた。

そのことを頭たちに話した訳ではないが、食事後は心の中で戦慄していたのだ。

 

「もしかすると、これを作ってる奴らは相当の『異常』者じゃないか?それこそ、自分らのような『普通』の人間とは違う……」

 

そうして、《悪食》の夜は更けて往く。

 

==========




はい、どーも竜尾です。
今回はちょいとやり過ぎた感もありますが、これがグーラ君回です。
あの時の言葉はがっつりとこの為にありました。
食べ方ですがちょっと分かりにくいですかね?
こういう細かいところはその場の思いつきて作っているので、とりあえずグーラ君の猟奇的な部分が分かってもらえれば十分です。

あっ、間違えましたグーラ『さん』ですね。

最後のセリフ、『普通』の中でそれに逸早く勘付くことの出来たのは彼だったのです。

【次回予告】

――互いは違う違うと豪語するのだが、こういったところは二人とも酷似していた。

――そこが、オレとシンディアの決定的な差だ。

「《インフィルミ・ターテ》!!」

「《黄金》様……万歳」

次回をお楽しみに!それでは。

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