仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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第十六話 黄金は邂逅する

Side =シンディア=

 

「『第二十五層攻略、犠牲者多数。最後を決めたのはまさかの《殺人鬼》!!』。やっと突破されたね」

「……じゃあ、シンちゃんは……」

暗い表情で見つめるアルゴに、わたしは毅然とした態度で頷いた。

今回の戦いで再起不能にまで追いつめられた軍は攻略組から撤退。

その穴は非常に大きく、最上層の第二十六層では今、大規模な攻略組の募集が行われている。

軍が撤退したのもそうだけど、何より自分達に対する『死』の危険が身に染みてしまったプレイヤーたちも攻略組から離れて行った。

けど、彼らは気付かなかったのだろうか。

攻略組から離れると言うことは玲の殺人の対象になると言うことだ。

目先のことだけを考えるだけのヤツが多かったのなら、玲も相当つまらなかっただろうね。

 

――ついに、わたしが攻略組にアプローチを掛ける時が来た。

 

アルゴはその事を案じているのだろう。

《LGL》の時もそうだった。

彼女は、玲の時のように中の良い人物が自分から離れて行って欲しくないのだ。

「でも、別に会えないってわけじゃないからね。攻略組に入るからって忙しくなる訳じゃないし」

一度抱えた不安を簡単に拭えるはずがない。

自分勝手かも知ればいが、それが孤独を恐れる事の真骨頂であり、克服するまでは拭い去れない痛みになる。

それでも、恩はきっちりと恩で返す。

「ホント……だナ……」

「うん」

そう言ってわたしは立ち上がった。

「色々ありがとうねアルゴ。そして、これからもよろしくね」

わたしがカフェから出る瞬間、アルゴが机に突っ伏すのが見えた。

(解っていても……か……)

カフェを出ると一直線に転移門まで向かった。

マントの下から出る足は露出するたびに太陽の光を反射して眩く光る。

《LGL》の二つ目の装備は下半身を丸ごと覆うブーツや腰の装備だった。

けれど、これを付けた途端に腕も前よりも光を増していた。

加えて、ウィンドウには《魅力》という効果が付与されていた。

アルゴに聞くと、黄金色の装備が故にモンスターを引き付けやすくなる能力だと言うことなのだが。

髪の毛がちょっと伸びてしかも艶が増したのは気のせいなのだろうか?

気のせいじゃないと思うのに、アルゴが教えてくれないと言うことは絶対にわたしのこの状況を楽しんでいるのだ。

「全く、本当にはっきりしないな、アルゴは」

半ば呆れつつ、半ば満足していた。

もしかしたらアルゴはこの世界で唯一の癒しではないだろうか。

やはり、それを感じられるのは女子の特権だろう。

考えているうちに第二十六層主街区《ピキャトム》に到着した。

街は、現在行われている攻略組の募集に人々がその様子を見たり参加者を囃し立てていた。

その試験内容は至ってシンプルなモノで、簡単な面接と《ドラゴンナイツ》改め《聖竜連合》のプレイヤーとのデュエルだ。

場所は転移門のある広場からは少し離れた会議場だと言うのに、随分と人口密度が高かったのもその話題性が故だ。

人混みを潜り抜け、会議場前に到着する。

少し前までは行列が出来ていたと言うこの場所も、今は誰も並んではいなかった。

アルゴにタイミングを聞いて正解だったと思う。

入口前には一丁前に聖竜連合のプレイヤーが二人、門番の様に立っているが、彼らに聞けば試験を受けさせてもらえるのだろうか。

そう思い、話しかけようと思ったのだが、わたしの姿を見た二人は何やらひそひそと話している。

(あー、これは……)

予想通り一人がこちらに向かってきた。

「試験を受けに来た者か」

随分と高圧的な声だが気にせず行こう。

「はい、どこで受付って出来るんですか?」

「我々は、ここから先に怪しいものを通すなと命令を受けている。まずはそのフードを取ってもらおうか」

しかも無視とはね、人の話はちゃんと聞くべきだよ?

まあいちいち反応するのも面倒だし、ウィンドウを操作すると、フーデッドケープを締まってわたしの全身が表に曝される。

そう言えば、外に出るときはいつでもフーデッドケープをしてたから、すごい久しぶりに日を浴びる事になるんだよね。

鎖骨辺りまで伸びていた髪を後ろに回すと、男がこちらを見ながら思考停止していることに気が付いた。

同時に、民衆たちの足が止まってわたしの方を見ている。

「あれって《LGL》じゃないか?」

「嘘だろ!?あれって《絶対単独攻略型クエスト》だろ!?」

「本当に、一人で突破したのか……」

「第二十層じゃ死人も出ったって話なのにな」

各々好きな事を言ってくれているが、いい加減民衆に悪目立ちするのもどうかと思う。

「あの、そろそろいいですか」

「あっ……ああ、すま……いえ、すいません。どうぞこちらへ」

やけに丁寧な口調になった男達に案内され、会議室には現攻略組リーダーの《リンド》がいた。

「お前達、何故ここまで来た」

「はい、試験を受けにきた者を此処までお連れしました」

「そんな事を指示してはいないのだが」

(うわぁ、相変わらず単純だこと)

まだわたしの姿はリンドには見えていないのだが、どんな反応をしてくれるのか楽しみだ。

「まあいい、下がれ」

「はっ」とやけにいい返事と共に男達が退く。

「それじゃあ、どうぞ座ってください」

目を閉じ、頭を掻いてわたしにそう言う。

まだわたしの姿に気付いてないようだ。

返事をせずに椅子に座ると、リンドは面倒臭そうに面接用の書類だけを見ながら口を開いた。

(あっ、これ本当にわたしのことに気付いてないな)

面白そうだったのでちょっと喉を押さえて声帯模写の準備をする。

大体中性的なくらいの声で良いだろう。

 

――え?玲に出来てわたしに出来ないことってそうそうないよ?

 

そんなわけで名前とか過去に所属したギルドとか聞かれたのだが、レベルについてはちょっとだけ捏造しておいた。

一介のソロプレイヤーが攻略組トップレベルのプレイヤー程にレベルが高かったら洒落にならない話だ。

それも面白そうだが、玲との関係性を考えると面倒の方が勝った。

十分にも満たない面接が終わり、結局リンドはわたしのほうを一度も見る事は無かった。

(これじゃあわざと声を変えた意味がないじゃんか)

半ば呆れつつも、わたしを案内に来たプレイヤーが度胆を抜かれる中、わたしは声帯模写を止めた。

「はい、ありがとうございました」

「……は?」

手を止め、ものすごい勢いでこちらを見たリンドに軽く会釈をしてわたしは歩き出した。

(うん、予想通りで宜しい!)

次に連れられたのはそこそこの大部屋だった。

元々は会議場だったのを机を退かしてリングが作られている。

わたしの姿を見た試験官も女性プレイヤーと言うことと《LGL》の存在に目を見張っていた。

「それじゃあ、お願いしまーす」

槍を引き抜いて構えもせずに立つ。

一応実力をある程度は示しておかないとね。

相手は片手剣。

槍のリーチを考えてか、先に飛び込んできたのは相手だった。

振り下ろされる剣を槍で弾く。

そこは攻略組、弾かれても次の攻撃をすぐさま開始した。

片手剣が光を帯びる。

確か、《ホリゾンタル》とか言う技だっただろうか。

システムアシストによって速度の上がった剣はもうすぐそこに迫っていた。

相手は勝利を確信しただろう。

まさか女性プレイヤーにして《LGL》持ちにこうもあっさりと勝利を収めてしまうのだから。

 

――ま、やっぱりそう言うのは打ち砕くに限りますよね。

 

水平斬を上体を直角に曲げて躱す。

ヴィーペラのときと同じやり方だ。

わたしの身体を掠めもしなかった剣を握る腕を槍で貫く。

(こういうのって、もっと胸が大きかったら即死だったとか言っていいモノかな?)

そのまま槍と腕で十字になった部分に足を掛けて回転させながら槍を引き抜く。

これでバランスは崩れ、仰向けに倒れたプレイヤーの首元に、槍を付き付けた。

一瞬の逆転劇に、男も《LGL》を二個も取得したプレイヤーをこんなに簡単に倒せるわけがないと納得したように降参した。

「参った、意外性だけなら、あの《殺人鬼》にも劣らないな」

「そりゃどーも」

槍を背中に戻して立ち上がった彼の差し出した手を握って握手をした。

「君のことだから、間違いなく合格だろうな」

そのまま、男に連れられて向かったのはリンドのいる会議室だった。

どうやら、素質のある者たちはもう一度彼と話す必要があるらしい。

「それじゃあ、また会えたら会議でな」

随分と親しい話し方をするモノだ。

それも、仕方がないと言えばそうだろう。

扉を軽くノックして返事を待つ。

数秒待った後、向こうから扉を開けてくれた。

会釈をして中にあるソファーへと腰掛ける。

対面するようにリンドも着席し、煩悩を振り払うかのような真剣な顔つきで言った。

「正直に言おう、君は何も言うまでもなく合格だ。戦闘も、非の打ちどころがないと聞いている」

「ありがとうございます」

「だが、それほど実力の持つプレイヤーが今になって姿を現したことにはどうにも疑問が残るのは、君も解っているだろう?」

「はい」

まあ、今回は本当のことを話しておくことにしておこう。

そうすればアルゴにも問題なく今までと同じように接することが出来るしね。

「それに、その装備のことについても教えて欲しい」

「……そうですね、《LGL》に関しては貴方も理解しているのではないですか?因みに本物ですよ、これ」

「そうだな、二つ……ということは《魅力》……か……」

「おかげで大変ですよね、貴方も」

わたしがそう言うと、リンドは眼を逸らしながら困ったように頭を掻いた。

「済まない、攻略組も男だらけだから困ることも多いと思うが」

「そこは考慮してきてますから」

「そこで、ものは相談何だが、どうかうちのギルドに」

 

「結構です」

 

予想の出来ていた誘いは、いつもなら見せるはずの躊躇いを一つも見せずにバッサリ切った。

「生憎と、わたしが何故早期に攻略組に来なかった理由は二つ。一つは、タイミング悪くあの《殺人鬼》が騒ぎを起こしたから」

リンドは顔を強張らせ、固唾を呑んでこちらを見ていた。

「二つ、わたしは《鼠》と共に活動していたからです」

これは何とも酷い脅し文句だろう。

SAOでは感情をより高める機能があるらしいが、リンドの顔が目に見える程に青褪めていた。

きっと、聖竜連合全体としても、彼個人でもアルゴに対して相当の弱みを握られているのだろう。

「それじゃあ、また。次の会議で会いましょう」

そそくさと会議室を去る。

これほどまで拒絶されればしばらく彼がわたしに対してちょっかいを出すことは無くなるだろう。

あとは、最近頭角を示しつつある《血盟騎士団》の誘いを蹴るだけ。

出て来た途端見張りをしていた人に会釈をして、案内の必要もないと言う様に早歩きで外へと出た。

その時にはすでにフーデッドケープをしていたので、もう目立つこともない。

これでわたしも攻略組だ。

(追いついたよ、玲)

 

――それじゃあ、《異常》同士の邂逅と行こうじゃないか。

 

==========

 

数日後、第二十六層攻略会議にわたし達新参者達はリンドによって個人個人紹介されていた。

わたしはフーデッドケープをしているからまだ《LGL》の存在を知らせていない訳なんだけど……。

幕の向こうから漏れてくる玲の気配に口元が緩む。

ここに来るまで八カ月かかった。

原因不明の症状に狂い、孤独との自己矛盾で一度は本当に動くことが出来なくなった。

それを、救ってくれたのは他でもない玲だった。

だから、あなたのこともわたしは理解している。

どうしてその道を選んだのか、その為に積み上げて来たモノもその全てを解って上げられるのはこの世界にはわたし位のモノだから。

(その姿を、わたしにも見せてよ)

「それじゃ、最後は《シンディア》さんだね」

リンドに呼ばれてフーデッドケープを外して灯りのある部屋へと足を運ぶ。

開けた視界に、立ち並ぶ男達。

女性は、わたしを覗けば一人だけ。

そんな『異常』だらけの中に完璧に構築された存在を五感全体で感じ取った。

 

「えーと、ご紹介に預かりました《シンディア》と言います。今までソロでやってきたのでレイドを組むのは初めてですが足を引っ張らないように頑張るのでよろしくお願いします!」

 

貴重な女性プレイヤー、しかも《魅力》等で色々と目立つわたしに男達は目を血走らせていた。

その中の一人に、玲が殺気を送っていたのに気付く。

恐らく、彼が玲と行動を共にしたプレイヤーなのだろう。

見た所、わたしよりも身長は低い感じがするけど、別にわたしから見れば『異常』者であることに間違いは無かった。

男達をリンドが宥め、新参者紹介を終え、本当の攻略会議が始まる。

壇上から降りる間も、プレイヤーの殆どの視線はわたしに向けられていたが、その中にもう一人の……女の子の視線もあったのでその方向に顔を向けて軽く微笑んでおいた。

もしかすると、その娘も玲と関わりがあるのかもしれない可能性があったからだ。

折角ここに来たのだから、玲がやってきたことを、見ておかないと。

その上で、わたしは何になって玲の手と為るのか決めなければならないからだ

 

――そうでしょう?《ジャック》。

 

==========




はい、どーも竜尾です。
アルゴさんを只管可愛く書きたくなる。
っというかそうじゃないと書けないという面もありますけど。
男共チョロすぎだろとか自分で書いてて思ってしまった。
あまりその辺のことは考えてないので難しいっす。
ついに二人が出会いました。

あれ、まだ十六話?

【次回予告】

――少し、ちょっとだけふらっと、人の集まるところでそういう話題を言うだけでいいのだ。

「その短剣、まさか、《ジル》か?」

「《狂戦士》?」

――これも、とても大切な、大切な心なんだ。

次回をお楽しみに!それでは。
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