Side =ジャック=
「テメェは今、生きてんのか?キリト」
第二十四層ボス攻略戦。
気の抜けていたキリトは確実にボスから意識が抜けていた。
その隙をボスに突かれ、間に入ってその武器を受け流す。
キリトのことを助けられたように見えるのは良くないので、受け流した力を利用し武器を大きく打ち上げた。
情報を仕入れないオレにとっては攻略会議で伝えられた技以外は全てが初見の攻撃なのだが、戦う内に筋肉を使う時の癖を発見すればお手の物。
それによって、受け流すことはおろか、更に巨大な隙を作るまでに発展した。
それは、何時しか《システム外スキル》、《
一連の動きにようやく意識が戻って来たのか、キリトは瞬きを数回すると「わ、悪い」と口にした。
「ったく……テメェが死んでどうする」
まだ、その胸の中に根を生やす種は芽が出ただけなんだからよ。
白もまだ来ない、攻略組は影ではオレの支配下。
黒幕まで切り札を持って姿を現してくれやがった。
攻略も滞ることなく、オレ自身のレベルアップも何も問題は無い。
――こんな《異常》なオレでも、退屈することはあるのだ。
だからと言ってそこいらを歩き回る訳にはいかない。
ならば、オレに残された唯一の娯楽はキリトの心に植え込んだ《殺意》の種だけだ。
結局は現実だろうと、仮想世界だろうと、オレにとってはどちらも止まった世界と同義。
あの世界にもいくつかの『希望』はある。
だが、オレの中にあるこの世界の『希望』は今のところキリトと白だけ。
もう数人くらいはオレを生かしてくれる奴はいないのだろうか。
目の前で青白く体を発光させる巨大な敵を見ながら、オレはまた一つ溜息を吐いた。
歓喜の声を上げる奴らには目もくれず、淡々と次の階層への扉に手を掛ける。
そして、第二十五層。
鋼鉄の城の下から四分の一を開放した。
《殺人鬼》は歩き出すしかない。
築き上げたオレの進むべき道の両岸の防壁は高く高く聳え立つ。
そこは、『異常』者の領域。
『普通』の奴らは壁に阻まれオレを見ることさえ出来ない。
《
『
《
その、障害のないオレの道の前に立ち塞がるのは一体誰に為る?
それは……そう……。
――《英雄》だけだろう。
Side =グーラ=
「ほら、ブラックジャック」
「あ゛ーーーー!!!!コイツホントにイカサマしてないんすかね、ヘッド」
「お前が見てないんならイカサマなんて無かったんだろうな、ジョニー」
「だから、グーラと、戦わなければ、良かったのに」
あの頃から考えれば、ここも随分と賑やかになったモノだ。
そんな事を考えながら先程まで勝負をしていたこの男、《ジョニー・ブラック》がぶちまけたトランプを回収してポーチへとしまう。
娯楽のない日は、大抵自分が何か道具を持ち運んで考えたゲームをしているのだが、今日は久しぶりにジョニーが自分に向かってブラックジャックで勝負を仕掛けて来た。
そのディーラーを務めたのが、これまた新メンバーの《ザザ》だった。
まあ、彼らとこう言った賭けごとを何度もしていたので、自分の実力は十分に解っていると思ったのだが、暇を持て余したジョニーを止める事は自分にもザザにも出来なかった。
頭は自分らのことを見物してるだけだし、ここで勝負を受けないのも《悪食》の名が廃るのでポーカーフェイス全開で快く引き受けた。
そして、数回の勝ち負けが続き、最終戦。
やはり男なら大きく賭けに出るモノで、自分もそれに乗ってチップを二倍以上上乗せした。
――だって、全部食べるんだから何も問題は無いでしょう?
そうして、先程の光景に戻るのだが。
金蔓だったら別に無視して逃げればいいのだけれど、同じ空間にいる以上ぶつぶつと聞こえるジョニーのいじけた声を止めなければならない。
ザザは知らん顔で《
(やっぱり、こういうときは)
立ち上がった男に視線を向ける。
「良し、それじゃあ今日も行くか、ジョニー」
その身体を覆い隠すマントを身に纏った瞬間、先程の態度が一変。
飛び上がって空中で同じようにマントに身を包んで華麗に着地を決める。
「おっしゃあ!!行きましょうぜヘッドオオオ!!!!」
と、半ば奇声を発しながら指でダガーを回転させていた。
その向きだとすっぽ抜けて自分の方に飛んできそうなんだが、わざとやってるな?
「今回も楽しいショウになりそうだが、お前らは来るか?」
「そうだな、俺も、行こう」
ゆっくりとした口調ではあるが、やや嬉しそうな声色でザザも立ち上がった。
「グーラ、お前はどうする」
「自分はちょっと臨時収入が入ったんで飯食ってくるよ」
そう言って金の履いた袋を揺らせば、ジョニーが歯ぎしりをしながら捨て台詞のようなモノを吐いて三人は出て行った。
きっと、今日もプレイヤーたちが慌てふためくのを見て彼らは嘲笑うのだろう。
自分が住む場所を決めた路地裏の一軒家を出る。
この場所を提供、というか選んだのは自分だった。
賭博なんてものにこの歳から首を突っ込んでいる以上賭け金となるのは様々なモノがある。
賭博システムによって譲渡が強制されるのは金と武器とアイテムだけだが、少ない賭け金で行われる情報の奪い合いなんてものもある。
その勝負だけは、負けたことが無かった。
そうして情報を集めているうちに、この場所が頭にとって安全だと決めたのだ。
――《悪運強き捕食者》。
通称《悪食》。
幼いながらも極悪染み強運が故に恐れられ、自分に付けられた渾名だった。
その情報は、もちろん賭けに勝った報酬として全員に緘口令を敷いているので姿を知るのも実際に自分と会った者だけになる。
今、恐れるべきは《殺人鬼》だけ。
未だ頭のような発想を持った奴は《殺人鬼》しかいない。
自分達は直接的な殺しこそしていないが、既に頭の誘導でこの世を去ったプレイヤーの数は一桁を超えている。
そのことが耳に入れば、ほぼ間違いなく《殺人鬼》は動き出すに違いない。
だからこそ、自分は戦った相手に自分の情報を伏せさせた。
自分も、殺しにあたってレベルアップが必要なので戦闘もしているが、やはり攻略組連中とは差が出るだろう。
何せ本職はギャンブラーなのだから。
路地裏から外に出ると、光度変化に思わず目を瞑った。
こんなところから、歳不相応の餓鬼が出てきても周りには誰も居ないので心置きなく歩きだすことが出来る。
因みに、自分は頭たちと違ってあんな大きいフードは被らない。
自分で言うのも不本意なんだが、自分のような低身長な男が身体も見えないほどのフードを被ると女子と見られて逆に目立つそうだ。
初対面だったジョニーとザザにも勘違いされていたそうで、自分がしているのは最初にもしていた安物のマスクとギリギリ目線が隠れるほどの普段着に備え付けられたフードだけ。
(まあ、自分は彼らといる理由が違うので一体感とかはないのでいいですけど)
見慣れてしまった景色には何の興味もない。
早歩きで転移門へと向かい、今日の食事場所へと向かった。
当然、どこの店が美味いのかもリサーチ済みである。
時刻は午後二時を指しており、食事目当てに街へ戻ろうとする気の抜けたプレイヤーたちを狩ると言うのは頭たちには至福の一時であろう。
だからこそ自分もそれに浸るとする。
そうして店に入って次々と料理をオーダーするのだが。
――食べ物は、全部卓上に揃うまで手を付けない。
この世界の便利な点の一つにこういうところがある。
いくら待っても食べ物は冷めない。
その全てが食べるのに関してちょうどいい温度を常に保っているのだ。
ただ、外に置いておくと食べ物自体の耐久値が減少してしまうのだが、口に入れればそんなモノ関係なしに変わらない味が楽しめる。
流石に、こんなちびっこい餓鬼が一丁前に八人用テーブルを占拠して隙間なく詰められる料理を待つ姿は目立ってしまう。
けれど、止められないのは飽くなき食への欲望だ、頭たちもそれを解っているからこそ更に止められなくなった。
最後の食事が運ばれ、店の中にいる殆どの者が視線を向ける中、自分はマスクを取ってポーチにしまう。
両手を合わせて前準備完了。
「いただきます」
瞬間、観衆たちは驚くに違いない。
少年の目の前にあった皿の中にあった食べ物が突如消失したのだ。
実際は、耐久値が切れる前に全部流しこもうと食材を即座に十数回噛み砕いて次の食べ物を口の中に放り込んで同じことをしながら飲み込んでいただけなのだが。
一向に減ることのない料理の山を見ると、やはり心が熱くなるモノだ。
凄まじい速度で食べ進めるその光景にも飽きたのか、店にいたプレイヤーたちは次々と自分の食事に戻って行った。
(そうそう、食事は一人で黙々とするのが食材に対する最大の流儀なんだから)
なんて適当な事を思いつつ、目の前の料理が全部なくなるとターンテーブルを回して次の食物に齧りついた。
半分を食い尽くし、誰の目も自分に向かなくなったところで、一人の男が店に入ってきた。
その音に反射的に反応してその姿を見るのだが、別段『異常』な点は無いので客はすぐに会話をしたり、食事へと戻って往く。
ちょうど席は空いておらず、自分も次の料理に手を伸ばした時だった。
その男は自分の方に向かって歩いて来て、言った。
「すいません、相席。いいですか?」
ぴたりと、自分の手が止まる。
少し、意外だったのだ。
この世界でもそう言った行為は出来ないことは無い。
無理矢理座られることが無ければ食事をとることだって当然可能だ。
確かに、半分の料理は食べ終わったので八人用テーブルは十分に空きスペースがある。
(この人も、食に興味があるのだろうか)
「いいですよ。もし、良ければ必要な時にターンテーブルを回してもらえると助かります」
「わかりました」
即答して男性は席に着いた。
果たして何を頼むのかと食事の傍らに一瞥すると、NPCのウェイターが注文を取っている時だった。
「じゃあ、これを一つで」
おや?と疑問を浮かべた。
自分の予想を大きく裏切る男性に、自分は今度こそとの姿をしっかりと目に収めた。
けれど、その姿はどう見たって『普通』のモノだ。
顔には髭を生やして、髪色は黒。
容姿を見ても現実で街を歩けば一人入るようなサラリーマンの様だ。
歳も、三十代と言ったところだろうか。
――自分は、その男に、この世界においてプレイヤーたちはかなり社交性が高くない限りは他人との接触は避けるモノだと思っていたのを覆されたのだ。
SAOはプレイヤー全員にとってはもう一つの世界だ。
例え現実では当たり前の行為だったとしても、ここでそれは通用しない。
その、一番の理由は登場した《殺人鬼》の存在だ。
彼の経緯もいくつかは公開された。
誰が、何時自分に対して牙を剥くのか判らない。
裏カジノでも、それから数日は不要な探り合いが行われたと言うのにもだ。
男性は、他人と関わることを気にもかけていなかった。
《殺人鬼》など恐れない程に肝が据わっているのか、あるいは……。
――自分と似た才能の持ち主か。
兎に角、色々と話してみよう。
そう思い、手に持っていたナイフとフォークを置いて口を拭くと、食事をしている男性に話しかけた。
「あの」
「……はい」
「食事に興味が?」
一応ここから切り出して行こう。
もし自分と同じグルメなら仲良くなって置こうと思っていた。
「いえ、違います」
だが、それもまた違った。
「僕は、ただここまで歩いて来たのに席が空いてないなどと言うことで折角食事を取りに来たと言うのに、別の場所へと足を運ぶと言うことが面倒だっただけです」
(なるほど、確かにそう言う理由もあるのか)
一言で十分に納得出来、自分とは違うと判ったので再び食事に戻ろうとした。
「本当に、何故この世界でも食事をしなければいけないんですかね」
しかし、男性は尚も続けた。
「貴方は良くお食べに為るので、僕の言っていることは冒涜になるかもしれないですけどね」
少し謝罪交じりという言葉を聞いて、不思議と興味が湧いた。
「いや、自分は気にしないんで、参考までにお話を聞かせてください」
「……貴方も解っているでしょう?僕達の本当の身体は今、現実世界にあってこの世界ではないと言うことを」
「つまり、ここでいくら食べようが意味が無い、と?」
「貴方はその逆の発想をお持ちと言うことですか」
「そうですね、元々自分はいくら食べても太らないと言う理由でこの世界に来たようなモノですから」
「それは……災難でしたね」
愛想笑いを浮かべれば、男性も同じように返してくる。
対極の位置にいる人間と話すと言うのも、案外楽しいモノだと高揚感が湧いた。
「僕は、ただ面倒なだけなんですよ。何もかもが」
ぽつりと放った一言に、何か強烈な既視感を感じた。
それを探るうちに、食事をする手は止まってしまった。
逆に男性は食事をし終えたようで席を立った。
「相席、ありがとうございました」
小さく頷き、自分の視線はその背中を追いかけた。
店を出る寸前に、店の方を向いて軽く頭を下げる。
刹那。
「食事も、会話も、時間ってのは自分だけの為に使うモノでしょう?」
ぼそっと言った一言のはずだったのに、彼の一言は突き刺さる様に頭の中で響いていた。
そして、既視感の正体に辿り着いたのだ。
あれは自分だ。
何もかもを食いつくす《悪食》。
見つけていたはずなのに、その可能性に気付くことが出来なかった。
――彼は、自分と似て非なる存在だったのだ。
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はい、どーも竜尾です。
やっとグーラ君のメイン会ですね、誠に嬉しいです。
今回また新キャラ的なのが出ましたが、果たして?と言ったところです。
ジョニーとザザも出ましたけど馴れ初めがうまく書けなかったのでこのような形での初登場となりました。
ジョニーに関してはホントに喋り方も探り探りですけどね。
【次回予告】
「なら、それを乗り越えられない人が攻略組で生き残る訳ないでしょ」
――全てが光輝く時が来るまで。
――女の勘は良く当たるってね。
「あ……あのっ……えっと……すいません。お名前を、お聞かせ願えないでしょうか」
次回をお楽しみに!それでは。