仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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はい、どーも竜尾です。
ついにサブタイから殺人鬼が消えました。
やっぱりシンディアさんメイン回だと黄金から始めないとですね。



第九話 黄金の始まり

Side =シンディア=

 

聞くところによると、そのクエストは九日前に発見され、二日前に情報が出たのだと言う。

なのに、これほど知られていないのは件の《ジャック=ガンドーラ》。

つまり、玲の方が話題性が高く、その情報の価値が掻き消されてしまったのだ。

それもそうだろう、レアな防具で身を固めようと、殺されてしまえばその全てが水の泡になる。

その殺害経歴も解るところまで明かされ、何の罪のない人間を殺しても尚、彼はのうのうと攻略組として暮らしているのだ。

反感の声も上がったが、《アインクラッド開放軍》、《ドラゴンナイツ》両リーダーがその苦情に対応しているらしい。

と、言うことは玲は見事攻略組で地位を確立し、且つ殺されない重要な立ち位置にいると言うことだ。

随分動くのが遅いと思ったけど、こういうことだったのか。

玲の反応も前より大きくなっていたし……。

恐らく、わたしと同じで彼の身に何か起こっていたはずだ。

その上で《殺人鬼》と言う道を選んだのなら……。

「ねえ、アルゴ。一応《ジャック=ガンドーラ》の経歴を聞いといてもいい?」

「……。シンちゃんだから安くしとくけど、それでも結構高値だヨ」

一瞬の躊躇いの表情が眉間に表れる。

(玲のことだからこういう情報屋との接触は避けるはず。と、いうことは第一層の時点での知り合いかな?)

わたしは、恐れなど一切見せずに好奇心だけで動いている振りを装う。

やっぱり、嘘を吐くにはその半分は真実で固めるのが信じられるための鉄則だ。

アルゴから出されたマネートレードの表示に承諾すると、一息ついて彼女は口を開いた。

殺人の回数、普段の様子、その戦闘スタイル。

アルゴが玲のことを《ジー君》と呼んでいることから、わたしの予想が当たっているのだと確信する。

すると、もう二人程ジャックと接したプレイヤーがいるのだと聞く。

その一人は、あの時玲が追いかけて行った方の一人だろう。

もう一人の方は……考えなくてもいいか。

情報を話し終え、いつもの調子に戻ったアルゴは、先程まで話していたクエストの続きについて話し始めた。

「それで、報酬の《ルクスリア・ゴールド・ルナシリーズ》通称《LGL》だけどナ。こいつが中々のレアモノって情報が入ってるヨ」

「と、いうと?」

再びアルゴからのマネートレードに間髪入れず承諾ボタンを押すと、「まいどあり」と不敵な笑みと共にアルゴはウィンドウからメモ欄を開き、わたしの方に向けて可視化ボタンを押した。

出て来た大量の文字列は一瞬のうちに暗記したが、流石《鼠》の異名をもつ情報屋。

非常にこと細かに描かれた文は、さながらレポートのようだった。

「このクエストだけどナ、九日前に見付けて二日前に情報が出たのには理由があるんダ」

「もしかして、クエストクリアまでに一週間かかったから、とか?」

「うんうん。その通りだヨ」

「じゃあ、肝心のクエストの内容は?」

すると、アルゴは横からわたしの方に向けているウィンドウを覗きこみ、画面をスライドさせるとフードの中の金髪を揺らしてもとの位置に戻った。

「内容は採取クエストダ。この階層の外れにある一軒家。そこに住んでいる《Sara》と言う女性に話しかけることでクエストが発生するゾ」

「それで、何を採ってくればいいの?」

「まあまあ、そう焦らなイ。提示されるアイテムは二つダ」

別に焦っている訳ではないのだが、まさか初対面でフードを剥いだことをまだ根に持っているのだろうか。

「一つはこの階層に出現する《アンサ》と言うガチョウの姿をしたモンスターからドロップをする肉を三十二個。それと――」

 

「一日に一回しか咲かないこの階層の一番北にある森の中心部で咲く花を七つ持ってくること。この二つだヨ」

 

「なるほど、それで一週間もかかったんだ」

「いや、まだこの話には裏があるらしいんダ」

そう言って笑いを絶やさないアルゴは本当にわたしの好奇心をそそってくれる。

「シンちゃんだから特別に教えてあげるケド、実は最初に見つけた奴が六日目にその場所に向かった時だけ、花が二つ咲いていたんだ」

「それじゃあ、今言った事は嘘になるんじゃない?」

「オイラとしては、それをシンちゃんに調べて欲しいからこの情報を提供したんじゃないカ。その後、そいつは《アンサ》を倒すスケジュールは狂ったが無事にクエストをクリアってわけサ」

「ってことは、さっきの情報をタダで話したのは……」

「シンちゃんを強制的にクエストを受けさせるためだナ」

そこまで聞いて、わたしは息を吐きながら背もたれに凭れかかった。

「そもそも、どうしてその花が一日に一回しか咲かないって解ったの?」

「どうやらそこでサラとやらに紙を渡されて、そこにこのことが描かれていたらしいナ。まあ、行ってみれば解るはずダ」

こういった事は、彼女と出会ってから何回かしていた。

彼女が情報を提供して、それをわたしが探究する。

正直それが面白くてわたしは未だに攻略組に参加していないということもあった。

「了解。今回も情報を取ってきますよ」

「任せたゾ、シンちゃん」

席を立ち、テーブル横に置かれた槍を背中に通して、わたしはひらひらと手を振りながらその場を後にした。

 

(あー、今日も楽しいなー!)

 

そう、煌めく太陽に向かってフードが捲れない程度に勢いよく走り出した。

 

==========

 

森の中を情報通りに抜けると、木漏れ日の中に、一つの家を見付けた。

扉を軽くノックすると、やけに透き通った声の後に扉が開き、出て来たのは今までのNPCの中でも群を抜いた美貌を持つ女性だった。

「あら、お客さん?」

足まで伸びた紅く長い髪が木漏れ日を反射する。

まさに絶世の美女、とでも言った方がよいのか。

ま、わたしにその気は無いからさっさとクエストを受けるんだけどね。

「はい、何かお困りごとはありませんか?」

初めて彼女に会った男性プレイヤーも、緊張の余りそう言ったらしい。

「ちょうど良かったです。実は物置を整理していたらこんな紙が出て来たのですが。多分、私のご先祖様が残した物なのかも知れないのですが……」

扉を開けたまま、すぐ近くのテーブルの上に載せられた紙を持ってきた。

「この紙にはある二つの供物が必要だって書いてありますが、困ったことに私は今、この森から出ることが出来ないのです」

「それで、わたしがそれを取ってくればいいんですね」

「ええ、もし取って来てくれるなら……この、私の家宝である金色の指輪を差し上げます」

そう言うと、わたしの前にクエスト発生のウィンドウが表示される。

「任せてください、必ず取ってきます」

そのままYESボタンを押して踵を返して歩き始めた。

「ありがとうございます!ご先祖様が残した碑文。きっと私に供物を捧げろというお告げなんです。お気を付けて」

後ろから聞こえて来た声に、身体を半分程振り返らせ、手を振ると、わたしが見えなくなるまで笑顔で手を振り返してくれた。

やがて木々に小屋が囲まれ、彼女の姿が隠れたところで安全エリアへと向かい、切り株の上に座って先程暗記した文を頭の中で読み返していた。

 

【之を読んだ我が子孫が、何れ我らが天の使いの為、二つの供物を捧げる事を此処に願う。】

 

【一つは、純白の雁の肉を三十二。】

 

【二つは、純白の花を七つ。】

 

【花は、日が昇る程に其の花を咲かせる。】

 

【花は、其の身体手折るまで子孫に力を与える。】

 

【怠慢な日々を望まなければ、怠惰を受け入れることも心理である。】

 

そう、紙には書かれていた。

「あー、そういうことね」

一応、アルゴには今現在私以外にこのクエストを知る人物はいないと聞いていた。

「その花のアイテムの使用は出来なかったけど説明文には【力を与えるために薬として使用されていた】ってあったみたいだけど、本当の意味って……」

草を掻き分け、アルゴの設定したルートを通って往く。

わたしの調査はマッピングも兼ねているので地味にこういった場所を通るのは抵抗があるのだけど……。

ポイントは最後の一文。

恐らく、六日目に二本の花は出現したのにはそれが理由だ。

じきに、その場所に到着する。

不意に、甘い香りを嗅覚が感じ取った。

微かに香るということはまだその場所は遠い。

さて、ここで最後から二文の意味を解説しておこう。

確かに花は力を与えると説明文には書かれていた。

だが、それはプレイヤーではない。

現に、貰った紙に書かれていたのは【子孫】だからだ。

ならば、その子孫とは一体何なのか。

その答えも、すぐそこにある。

木々を走り幅跳びの要領で一気に飛び越え、その白い花が視界に入った。

 

――その数、実に七つ。

 

そう、子孫と言うのはその花の種達のことだ。

つまり、この花が咲いている間は根っこかどこからか他の種へと養分を分け与えるのだ。

それが【怠慢な日々を望まなければ、怠惰を受け入れることも心理である。】と言うこと。

花の数が増えれば増える程、他の花の成長も早まると言うことだ。

今は最初のプレイヤーがクエストをクリアしてから実に三日。

その間、花が抜かれていなければ通常よりも花の数は増えていてもおかしくは無い。

「一番苦労するのは最初にこのクエストを見付けた人かぁ。なかなかエグイことするね、このクエスト」

思わず苦笑いを浮かべたが、そうしているうちにもう一つ、目的の花が開いた。

取り敢えず、目的の数だけ花を入手してその場を立ち去る。

「それにしてもこの花、《アシュメダイ》って言うんだ。なんか、抜いた時の方が艶があるような……」

意外と難関だと思っていた部分が早く終わってしまったクエストに、わたしは退屈しかけていた。

森を抜けて迷宮区へと足を向ける。

どうせ後はガチョウを倒して行く簡単な作業だ。

わたしもアルゴに振り回されたのもあって多種多様な戦闘は体験しているし、なによりわたしの潜在能力が戦闘力を大幅に底上げしていた。

そんなわたしに、レベル制と言う理不尽なステータスを利用するSAOはその力を更に助長させたのだ。

現在のレベルは二十八。

アルゴには明かしていないが、聞くところによると今の攻略組の最高レベルが二十五。

玲のことだから彼もレベルを隠してるのかもしれないけど、これならいつでも攻略組に乗り込める。

ただ、《アンサの肉》はドロップ率が低いと聞くが、そんなのことは気にする必要はない。

 

――倒した分が経験値になると言うのなら、何体でも倒してやろう。

 

誰も見ていないことをいいことにわたしは嗤う。

玲が《殺人鬼》と言う道を歩んだのは間違いなくわたしと…………の為だ。

自惚れではない。

わたし達は守ると決めた命は何が何でも守るからだ。

だから、どんなパニックに陥っても、身体は自害という選択肢を選らばない。

それを正義とは決して呼ばない。

 

――そもそも、正義の定義とは別にあることをわたし達は知っている。

 

望むのは、ただの自己満足。

(その為に、今はもっと強くならないとね)

 

Side =ジャック=

 

「僕はどうしてもあなたを認める訳にはいきません。誰もあなたに制裁を加えないと言うなら、僕が、あなたに今までの犠牲者の恨みを晴らさせてもらいます」

 

面白い事になった。

そろそろいい頃合いだと思っていた時にこれだ。

現在攻略している階層は第十九層。

ここまで上がってくる間、オレは攻略組として戦い続けた。

そうすることによって、決してオレが『死』を恐れていないことを間近で見る奴らは知る。

 

――自身の恐れるモノを恐れない人間は恐怖の対象になることを。

 

兎に角、オレは他人と関わってはいけない。

最低限キリトにちょっかいを出してその芽を育てる位のモノだ。

それでも、攻略組で孤立はしなかった。

来る者は拒まず、オレに媚を売りたいならそいつには思う存分そうさせてやった。

こうすることが、後に響くのだ。

暴虐な王だと解っていても従う者がいるのはそいつが頭の中で王のことを自分の上に立つ者だと確信してしまったから。

オレはそれを表には出させず、あくまでも裏で全てを牛耳った。

そんな中、ついに反旗を翻す者が現れた。

 

――所謂、民衆にとっての『希望』だ。

 

何事においても、新しい事を始めた者が統率者となる。

それは、長い歴史の中で繰り返されたものであり、オレはそれが攻略組の残った奴らの中で発生しないように努めて来た。

オレの目の前で啖呵を切ったこいつは『正義』を盾に語る。

その覚悟の証として、奴はどちらかが死ぬまで終わらない《ノーマルモード》での勝負を申し込んできた。

加えて、時間と場所をしての観客に見られながら戦うと言う。

(いやぁ、全く。《ユースティティア》とか言ったっけ?)

あいつは、その心の中にどんな『正義(希望)』を持ってんのかねぇ?

彼が去って往くのを見ながら、オレは不敵に笑う。

 

――『正義』が必ず勝つってんのなら。勝つのはオレだ。

 

==========

 




クエスト作るの難しくないですか?
上手く解説できていたのか非常に心配です。
いっそのこと討伐系のクエストにしとけばよかったと後悔しております。

ジャック視点でのユースティティアくんとの戦闘タイム入りますね。
展開は変わらないのですが、楽しんで頂けたら結構です。

【次回予告】

――《正義》とは、熱く心に秘めるもの。決して振りかざすものではない。

――コレだけお膳立てしてやったんだ。飛びこんでくれなきゃ困るぜ?

ここで、高らかにオレは宣言する。

――《正義》は勝つ。
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