感想や評価等で究明編のご指摘を受け、こう、執筆自体に問題はさしてないんですが、やっぱり迷いは生まれちゃいますね。
自信が周りの目を気にしたり、こう言われたからこうしていこうという流されやすい気持ちを持っているのはありますが、大丈夫です。何とかやっていきます。
逆に、面白いって思わせたいという気持ちも生まれたくらいですからね。
Side =ジャック=
オレの思考速度は並みの人間における『天才』の数十倍の先を行く。
故に、思考が絡まった時は見ても居られないほど鈍感になるのだが、今のオレの脳味噌はよりクリアに動いていた。
首を動かして、オレを襲う奴らを垣間見る間にも、オレというオレは再構成され、この状況、この世界を打破するための方程式の解を割り出していた。
そして、徐々に人のカタチが変わって往く。
白がこの姿を見ても、いつものオレだと思うはずだ。
それは、あくまでもオレ達だけの話。
誰もが持つ単純な願望を刺激する。
『こんなところで死にたくねぇだろ?』
声に出さないその思いは、《殺意》となって奴らへと振りかかる。
これでも、相手の動きを止めるのには十分。
そこに、オレの持つ《異常》の本質。
――恐怖のみを生み出す、一点の曇りの無い殺意を浴びせた。
「う……うわあああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあ!!!」
次の瞬間、目の前の男が叫び出した。
同時に足を全力で交差して駆け出す。
(伊達に人を殺そうとしやがった連中じゃねぇな。並みのヤツなら動けねぇだろうに)
視覚でその姿を捉え、聴覚で呼吸のリズムを探り、触覚で風の動きを感じて距離を計り、嗅覚で周囲の人間ではないモノを確認し、自分の身体からまだ出てくる赤いポリゴン片を救って舌でなめとった。
無味であったが、味覚は生と死を理解させるのに十分な情報を与えてくれた。
もうじき奴らが安堵する頃だろう。
軽い回復量を持つポーションを飲み込み、傷口が治るのを見て、《殺気》を心の奥に収めた。
上体を少しだけ落として腕と足を同時に動かし、どこを踏めば察知されずに接近できるかを見極めた。
身体能力をフルに活用し、オレは再び奴らの姿を目に焼き付けた。
遠くからでは二人のHPは解らないが、さっき接近された時には片方のHPは既に危険域だったのを覚えていた。
無表情に、《殺気》は隠したまま《投剣》スキルの説明文を読む。
(短剣は投剣として使用可能で、後で拾えば問題は無い。その最大射程距離は……)
短剣をくるりと一回転。
こうすることで五感から得た情報を下に、この距離からの狙撃ともいえる投合の準備を開始する。
風向き、短剣の重さ、投射する角度、速度、目標の移動予測。
一秒にも満たない計算を終え、短剣に光が出現した瞬間にオレは凄まじい速度で短剣を投げた。
《投剣》スキル基本技《ミッテ》。
ただ、投げた短剣に威力を上乗せする単純な技だ。
けれど、そこに次々と乗せられるオレの殺意で、『普通』のヤツが見れば、短剣はより邪悪なモノへと変貌しているだろう。
短剣を投げたその勢いを利用して、オレも走って二人の下へと向かう。
生き残った方からして見れば一瞬の出来事のはずだ。
無機質な音の後に、目の前で人が四散し、同時に全身に浴びせられる気味の悪い《殺意》。
『普通』の奴からしてみれば『異常』者の純粋な本質の塊は見るに堪えないモノ。
だから、もう奴は逃げることが出来なくなった。
オレの『異常』という『異常』が奴を取り囲んでいるのだから。
故に次にとる行動もたった一つ。
――
予想通りの動きに、オレは刃が顔に当たる直前でその攻撃を回避した。
『殺す』と言っても定義は様々。
オレはこう思う。
――『希望』を『殺す』こと。
短剣が武器を持つ手頸を的確に切り裂く。
――それで死ななきゃ『命』を断つしかねぇ。
無抵抗になった男を、真正面から切りつけ続けた。
ものの十数秒でHPは底を付き、その姿は青白く発光した後、無数の硝子片になった爆散した。
短剣を回転させながら流れるように腰の鞘にしまって、オレは踵を返して森の奥を見た。
オレはこの世界の住民になったと思っていた。
けれど、それは違う。
オレはどの世界でも存在する《殺人鬼》だ。
この光景を見て「殺す気は無かった」など誰が言えるだろう。
寧ろ、「殺す気しかなかった」と言った方が清々しい程の殺人っぷりだったに違いない。
(さーて、どうやってオレは目的を果たせばいいか。……こういうゲームも悪くねぇな)
不敵な笑みを浮かべるその姿はまさに《殺人鬼》。
オレは歩きだした。
自身の軌跡から、その存在すらも覆い尽くす濃霧が、吹き荒れているとも知らずに……。
==========
数時間に及ぶ狩りの後、宿に戻ってベッドに仰向けになると、今後オレがどう動くべきか考え始めた。
今日、自らの手で人間を二人殺した。
この『異常』な状況で、仮にオレや白以外のヤツがオレの様になったとして、取る行動は三つ。
――罪悪感と共に悔い改めて生き続けるか。
――止めどない快感と殺人衝動に身を任せるか。
――自らの命をも殺してしまうかだ。
ならこれらの選択肢はオレには当てはまらない。
まず、殺人はこれからも続ける。
奴らのように食いつめるプレイヤーはこれからも大量に現れる。
そして、後に殺人を生業とする連中が必ず発足されるはずだ。
SAOにおいてオレの目的は白の保護とオレか白の生還。
本来なら、オレがそいつらを束ねて上手い具合に操ってやればいい。
だが、それではオレが攻略組に狙われるリスクがある。
せめて黒鉄宮に送られればいいのだが、敵のリーダーを態々見過ごすはずがない。
捕まえた後、見せしめとして処刑される可能性も、殺人を忌避する奴が多い『普通』の連中だろうが有り得ない訳ではない。
つまり、オレがいるべき位置は攻略組だ。
今はまだ姿の見えていない白も、じきに攻略組に上がってくるだろう。
次に、オレの存在を明かすタイミングだ。
一応、今回の殺人はまだ誰にもばれていないようだった。
と、いうことはこれからも殺人を続けていかなくてはならない。
それも、罪のない出来るだけ人脈の無い奴を狙わなければ駄目だ。
生憎と悪人を裁くのは悪人ではないのが『普通』の人間では鉄則だ。
もしオレが、殺したのが悪であればそれを知った奴らの中にいらない同情を生むことになる。
それを一気に叩き落とす手段はあるのだが、最初に感じ取った先入観を書き換えるのは不可能だ。
あくまでも、オレの存在は極悪非道の《殺人鬼》でなければならない。
これからも定期的にとはいかないが、殺してもかまわない人間がいれば構うこと無く『殺す』。
そして、オレの存在を露呈させるのは第十層到達時点にする。
加えてオレの力は、攻略組の中で中の下程度という立場をとる。
第十層というのは元ベータテスターが二ヶ月の間で到達することが出来た最上層。
ここからは元ベータテスターもビギナーも関係ない。
(《ビーター》何ぞと呼ばれているキリトは違うと思われてるかもしれねぇが)
兎に角、初見となる戦闘に、攻略組は新戦力の投入は躊躇うはずだ。
そこでオレは攻略組の連中と適当な絆でも築いてりゃいい。
死にたく無い心と、オレに対する妥協の心が度重なるオレの本当の実力を見る驚愕に刺激され、オレは逆に攻略組から離れられなくなる。
束縛されるようで、奴らは手にした強大な力にとり憑かれる。
――そして、晴れてオレは《殺人鬼》と為る。
ここからはかなり自由度が増すはずだ。
殺すのもほどほどに、異議を唱えるヤツは力で捩じ伏せる。
(口では簡単に言うことの出来る『殺す』という行為の歪んだ部分でも見せてやれば、もはやオレの姿すれ見れない奴も出るかもな)
約一万の人間が生きるこの世界では『殺す』という行為が出来るのは極端に減少する。
これで白が死ぬ確率も比例して減少する。
攻略組にはオレがいるから、《殺人鬼》であろうと『普通』のヤツに気付かれないようにサポートをすることも可能だ。
オレ自身、攻略を念頭に置く訳だから違和感はない。
(それも、奴らにはオレに対する第一印象として植え込んでおかねぇとな)
ここで、オレは攻略組に対して邪魔さえしなければ狙うことは無いと宣言する。
攻略組にとっては願ったり叶ったりだろう。
強大な力を手に入れ、厄介事は全てオレに押しつければいい。
それでいて自分達は高く安全な位置で見ていればいいのだから。
最初の内はそれを疑う者も出てくることは予想済み。
信じることが出来ないのなら本当に真実にしてやればいい。
時間は人から警戒心を奪ってゆくモノだ。
それが、解っていようとそうなってしまうのは『普通』も『異常』と同じだ。
それで出て来た杭は次々と打ち、殺人集団が現れたところでオレが直々に支配する。
そいつらには攻略組だけを狙わせないようにオレが直接交渉する。
そうすれば、最低限そいつらが渇きを満たそうと攻略組を襲うことは無くなり、白が死ぬ確率は格段に減る。
――まぁ、結局のところオレの邪魔になった奴らを、滅ぼすことには変わりないのだから。
取りあえず、今回のところはオレの存在がどれほど知られているのか探ってみることにしよう。
不本意ではあるが第二層のボス攻略には参加しない。
オレの目的を果たすには出来る限り人格を一つに固定させることだ。
人の印象はその人間の近くにいれば間違いなく変わる。
そうなれば、オレの行為をいつまでも擁護するなんてことにも起こりかねない。
だから、これからオレは情報屋との接触は極端に避けることにする。
オレ自身の接触が無ければ奴らがオレという存在を知るのはその全てが人伝ということになる。
そんなモノ耳にタコが出来る程に同じ回答が返ってくるだろう。
「さーて、これで準備完了だぜぇ?」
短剣を回してオレは嗤った。
流れていないはずの血液が騒がしく、胸に手を当てれば早まる動悸の感触がする。
あの時出会ったあいつが、かつて感じていた高揚感というモノなのだろうか。
そうして、オレは眠りに就く。
まだ、隠された力に気付くことは無い。
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時は流れ、オレが最初に動き出すと決めた第十層を目下攻略中だ。
今、偵察隊がボス攻略を開始している頃だろう。
まだ白の姿は見ていないが、彼女の反応が強く、ボクと同じようにより『普通』へと近付いたことが分かった。
それに、生きているならそれは何よりだ。
今までも、何度か殺人行為はしていたのだが、そろそろ情報屋共が疑心暗鬼になってくる頃だ。
ここは第七層なのだが、長時間後ろから付いてくる影に気が付いた。
残念ながらオレの死角位置へと的確に動いているので触覚と聴覚だけを頼りに、そいつが攻略組であることを確信した。
足の運びが『普通』の奴とは少し違う。
確か、《忍び足》スキルだったか。
聴覚には多少は効くかもしれないが、触覚で気流を感じ取るオレの前では効果は無いな。
じゃあ、事前に調査しておいた奴がもうじきこの地点に二人で現れるはずだ。
一度立ち止まって、オレは追っ手の方を振り向いた。
慌てて隠れる影が見えたのだが、何も気付かなかったように首を傾げ、迷宮区を歩き続ける。
その二人組は、ちょうどモンスターとの戦闘に勝利したようで、互いにハイタッチしているところだった。
オレはその場に、何食わぬ顔で接近し、無表情に彼らの横を通り過ぎようとした。
彼らも勝利の余韻をオレに邪魔されたことに少し不快感を覚えていたのだが、確かにいつまでも喜んでいる場合ではないと先へと進もうとしていた。
そして、後ろで尾行者が次の隠れ場所へと移動しようと動き出し、標的の二人の頭の中からオレの存在が消えた瞬間のこと。
「《シーティ・ビーティア》」
その言葉と共に放たれた斬撃は彼らの足首を文字通り切断した。
モンスターではこうは簡単に切り取ることは難しい。
奴らはその頭の中にこの技の特性が入っているからだ。
それ故に対モンスター戦闘では非常に使用頻度の低い技だった。
(それがまさか、人に使うことによって熟練度を高めることになるとはな)
無抵抗では、ほぼ百パーセントで部位欠損が起こる。
戦場において、立つことが出来なくなるのは即ち、腕が使えなくなることに等しい。
――どうやって崩れ落ちた身体を支える?
――その上で、どうやって武器を持って俺に立ち向かう?
この瞬間にもう勝敗は決まっていた。
オレが攻撃に成功したとき、尾行していた奴は真っ先にオレの視界から外れることを優先した。
驚愕が、ソイツの思考を阻害した。
そのまま、この殺戮が終わるまでヤツは動くことすらできないだろう。
「あ……な……なん、ぜ……」
口を無様にパクパクさせながら拙い声を紡ぐ。
「生憎と、そいつを聞いてる暇はねぇんでな」
下手をすれば、今隠れてる奴に応援を呼ばれるかもしれない。
まずは一人だ。
倒れ込んだ二人の武器を誰も居ないところに蹴り飛ばすと、オレは再度《シーティ・ビーティア》を放った。
首を切り離せばそれだけでプレイヤーのHPは零になる。
一撃目で両腕と胴体を半ばから切断し、最後に首目掛けて短剣を薙いだ。
そして、呆気なく人は散る。
娯楽であるが故に人の『死』ですら軽いモノだと錯覚させるような悪趣味な改変だ。
もう一人の方は、あっさり殺しては尾行しているヤツに恐怖は与えられない。
最初にした行為は、嘲笑だ。
顔を大きく歪ませて、遠くにいるヤツにも見えるように嗤った。
声の無い笑顔に、残された一人が絶叫した。
一歩ずつ近づき、そいつの前に座り込むと、恐怖に歪むその顔ににっこりと恐怖にしか見えてないであろう、まともな笑顔を向け――
「あげゃ」
もう一度嗤って目を開け、モーションに入った。
まだ余り試したことのない五連撃技。
「《クイン・トプリカタム》」
無慈悲な五連撃は、地面に這いつくばる男の身体を赤く染めた。
爆音と共にその姿が消えると、何事も無かったように尾行者のいない方向へと歩き出す。
これで奴ももう追ってこない。
完璧なまでの達成感に、高揚感を通り越して一種の呆れが生まれていた。
(これで、後は明日を待つばかりだな)
――そういえば、ついあいつの真似をしてしまったが、直さねぇとな。
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見直しの時点である程度の普通や、異常という表現を消しました。
この物語の主題はそこには無いのです。
そして、ジャックの計画の殆ども明かされました。
今までの流れに矛盾があると書き直しが怖いっす。
次回をお楽しみに!それでは。