いよいよ第二層ジャック視点ですね。
ここもすっごく書きたかったワンシーンなんです。
Side =玲=
ボス攻略後、元ベータテスターだとバレたキリトの存在により、糾弾されると思われた他の元ベータテスターを救ったのは他でもないキリトだった。
ちらりとこちらを見たのだが、オレを心配してのことだろう。
問題無い、寧ろオレはそれを利用させてもらった。
やはり、『異常』な世界でオレにとっての『異常』な奴らの中にいるよりも、自由になれる術を知っているオレは奴らの前で『異常』の片鱗を見せた。
それだけで、奴らの中でオレの存在は固定されて往く。
一つ、個性は人の価値を決める。
オレはキリトの後を追い、第二層へと足を踏み入れた。
驚きと罪悪感の混じった顔に、オレはオレなりのジョークを口にした。
「な、オレ超優しいだろ」
ここに来るまでも、何度か冗談も口にしているが、それでキョトンとされたのは最初の時以来だ。
そのまま伝言だけ伝えに来たアスナと会話して、オレ達は第二層主街区へと駆け出した。
その道中、追われていたアルゴを助け、《エクストラスキル》という特別なスキルの情報を教えてもらい、オレとキリトの共同戦線は、延長戦へと突入した。
《体術》と呼ばれるスキルの入手クエストは非常に単純明快。
山奥の道場主により、クエストを発生させるのだが、クエスト開始と同時にオレとキリト、二人分の岩が出現した。
つまり、己の身一つでこの物体を破壊しろということだ。
通常、家や看板などの物体なら大小関係無く【Immortal Object】、破壊不可能な物体として設定されているが、これはどうなのか。
先にキリトが殴る蹴るなど、岩に衝撃を与えていたが、聞く限りその設定の一歩前程度の強度に岩の設定がされているらしい。
やがてキリトが諦めたのか、オレの横で腰を下ろした。
オレはゆっくりと岩に近づき、軽く岩の表面を「コン」と鳴らした。
まさか、こんなことでこの岩が破壊されるわけが無い。
今の一撃でこの岩を破壊する算段は立ったが。
半歩下がってキリトとNPCの見守る中、オレは左手で岩に掌打を素早く数発叩き込む。
素早く左手を引くと、右手で打撃を加えた場所の中心部分、岩の頂点に真っ直ぐと拳を打ち下ろした。
凄まじい轟音と共に、岩はオレの手に沿って流れるように亀裂を走らせ、ガラガラと崩れ落ちる。
キリトの顔が驚愕に染まるのが、振り向かずとも解った。
NPCの道場主は、驚くこと無く上から目線でクエストクリアを告げると、ウィンドウに経験値と、《体術》スキルの習得を示した。
道場主は、次にキリトの方へ近づくと、素早い手つきで筆のようなモノを取り出すと筆先に着いた墨が飛び散る程の速さで、逃げようとしたキリトの顔に左右三本ずつの立派な髭をペイントした。
わなわなと身体を震わせながらオレを見るその顔に、くっきりと描かれた三本髭。
「……ブハッ」
少しだけ耐えてやったが、笑わずには居られなかった。
「ま、それもここまでだ」
羞恥と怒りで顔を真っ赤にするキリトに、オレは別れの言葉を告げた。
本当なら、今頃は一人でいるはずだったのだが、《体術》スキルも入手できたし、結果的に悪くは無い。
(ケジメはつけとかねぇとな……)
《勇者》の道を歩むキリトの前に、不確定要素な異端者は必要無い。
オレはただ、傍観者を貫くだけだ。
だからこそ、オレはキリトに言った。
「最後になるが、フレンド登録しとかねぇか?」
キリトは、一瞬だけ驚き、躊躇うような顔をした。
「良いのか、俺は《ビーター》なんだぞ」
「今更関係あるか、大体今までテメェとパーティーを組んでたことが割れたらフレンド登録してようが変わりはねぇよ」
それに、オレの選んだ道だ。
申し訳なさそうな顔をするキリトだったが、オレが急かすとやり方の解らないオレに、キリトはフレンド申請のメッセージを飛ばした。
出て来た二つのボタンの両方のうち、肯定を表す赤色のボタンを押して、フレンドリストの一番上に《kirito》と名前が追加されるのを確認すると、オレは踵を返して走り出した。
「じゃあな」
人の別れに必要以上の時間はいらない。
それに、奴はまだ生き残る筈だ。
森の中を走り抜ける最中、オレは岩を叩き割った拳に視線を向けた。
岩破壊のロジックはこうだ。
――初撃で岩の持つ振動数を触覚と聴覚で正確に割り出す。
――左手の掌で共振現象が起こる様に数発の打撃を打ちこむ。
――構造の緩くなった岩を頂点から弱い部分に力を加えることで、岩は意図も容易く破壊されたのだ。
いつか、取り立てて強くない風で橋が一つ落っこちたと聞く。
オレの技術と知恵はこの世界で十分に通用する。
順調だ、『異常』なオレは今までこれほど『普通』の中で積極的に動き続けたことは無かった。
だからこそこの状況に歓喜し、漲り冴えわたる頭でキリトを《勇者》に成しえる算段を組み立てていた。
それは『普通』の子供に戻ったような純粋な感覚。
思い描く《英雄》に、憧れを抱く曇りの無い遊び心。
――けれど、それこそオレにとって『異常』者の禁忌であることに気が付いていなかった。
オレ達は生まれたその瞬間から、世界が確立した瞬間から何らかの役目を担っている。
もちろん、オレとシンディアは他者と心身共に逸脱した『異常』だ。
決して、それ以外の役目に目を向ける事が許されるはずがない。
ましてや《英雄》などという輝かしい存在にオレが憧れる事すら間違いだった。
道の外れた人間には天罰が下る。
『異常』なオレはそのレーンしか歩くことしかできなかったはずなのに。
――『異常』が『異常』に目が眩んでどうする?
この世界に入る前のボクだったら、今みたいな表情をせず、無感情にそう吐き捨てただろう。
ボクが世界を動かしているなどとまだまだ子供の浅知恵。
『異常』であることが『普通』だったから、これくらいは許されるとでも思っていたのだ。
けれど、『異常』が『異常』な行動をとるということは、すなわち『普通』へと戻ること。
『普通』となってしまったオレが、それに気付く術は無かった。
だから、何にも気付かないまま一人、第二層のダンジョンの森へと足を運んだ。
Side =シンディア=
(なんか、ついノリでフード仲間を見付けていろいろ話をしていたら仲良くなってホントに情報提供してくれる人とお友達になってしまったんですけど)
再び立ち上がり、一カ月の遅れを取り戻すため戦いに勤しんだ結果、時刻も夜になったのでまたあの部屋に戻ってきたところで今日の出来事を整理していた。
それにしたって楽しい。
(復活や覚醒した後の主人公って強いけど、やっぱりこんな感じなのかな)
仰向けになったまま天井に手を伸ばす。
すると、さっきまでの思考が一瞬で消えた。
「そっか、わたしは『異常』なんだし……ね」
孤独感に押し負け、『普通』以下になってしまったわたしも取り込んで、今のわたしだ。
その本質は揺らぐこと無き『異常』。
(まさか、まだ知ることがあったなんて、世界も、わたしも見捨てたモノじゃないかな)
もしかすると、玲もわたしと同じように苦しんだのだろうか。
過去にも、わたしは玲に救って貰った。
だが、彼はその『異常』性の高さ故に全てを悟り、全ての障害に干渉しなかった。
わたしを救ってくれたのも、玲と同類だったに過ぎない。
それ程に、玲は強かったのだから。
もちろん、わたしはその理由を知っている。
けれど、この歳になって、塞ぎ込んで気付いた。
――玲が本当にパニックに陥った時、彼は一体どうなってしまうのだろう。
手を自分の横に落として、視界に映る光へと目を向けた。
(嗚呼、この世界はなんて面白いのだろう)
わたしも本物の『異常』者らしくなってきた。
でも、まだ力は不十分だ。
部屋に立てかけられた槍を見て、わたしは小さく微笑むと、部屋の電気を消した。
「おやすみ」
誰に言う言葉ではない。
わたし自身に、まだ会うことの出来ない玲に、その言葉を捧げた。
Side =玲=
(なんだ、何が起きている!?)
目の前の状況が全く頭に入ってこない。
違う、理解はしている、動揺しているだけだ。
違う、解っていない、動揺しているのだ。
モンスターを倒して、獲得経験値とアイテムを確認している時だった。
突然の殺気に、触覚と第六感が働いて何とか攻撃の回避に成功した。
二人組の男たちだ、いや、それ以上の共犯者は?
解らない、理解できない、解りたくもない。
無茶な回避にボクの体制は崩れ、地面に両膝を付く。
奴の手に握られていたのは剣だ。
大剣か片手剣のどちらかであるが、何にしろ冷静な判断が出来ていない。
それが解っているのに身体が追い付かない。
――ボクの患った身体機能の『異常』と、精神面の『異常』は異なるモノだ。
奴らも、少なくとも初めて人に斬り掛かったのだから、気が気でないはずだ。
そんな状況は、『普通』の人間に相対している『異常』なボクにとっては非常に厄介だった。
『普通』の人間は、ボクの姿、声、表情、全てに関してズレていると本能で感じ取り、恐怖心を生み出す。
いつものボクなら、上手く対処してそれが気にならない程度に収めていた。
それも、こんな状態では出来るわけがない。
加えて、ボクの精神状態は非常に不安定だ。
――中途半端な恐怖は、去勢で簡単に払い退けることが出来るのだ。
もう一人の男が、覚束ない動きでボクの身体を薙いだ。
ガクン、と自身のHPゲージが減少し、その色を黄色へと変える。
依然として、ボクの身体は動かない。
奴らは恐怖を数と現実逃避で打ち消し、木偶の坊となったボクの身体に二発の追加攻撃を加えた。
身体から噴き出る紅いポリゴン片は血を表しているのだが、ボクにとっては嫌な程現実味のない物体だ。
『そうだ。《異常》だ』
全てを思い返すように、走馬灯の様な回想が、ボクの頭の中で行われた。
誕生する前から意識の成長は始まっていた。
常人離れは有り得ない速度でボクの身体を蝕み、やがて完全な『異常』者の仲間入りを果たした。
ボクにとって初めての感覚となった同類の発見には、久しく喜びの感情を覚えた。
時が経つにつれて、『異常』なボクと共に過ごす父さんと離れていくようだった。
そして、ボクは望んでこの場所に立っていたはずだ。
『腹立たしいと思わねぇか?』
聞いたことのない声だ、ボクの物でも無い。
『《異常》っつってもその定義は単に一つと決まってる訳じゃねぇ』
『オレらは、どうしようもなくオレらでしかねぇだろ?』
だが、何故か知っている声。
『《殺人鬼》。読んで字の如く、人を殺す鬼。『異常』にはピッタリの呼び名だと思わねぇか?』
自然と、思考は落ち着きを取り戻していた。
『おい、いい加減答えろよ』
――……すいません。
『面白味ねぇな。『異常』なんだったら少しは捻った回答をしやがれ』
――随分と自分勝手な言い分ですね。
『自分勝手じゃねぇ、オレはテメェらよりも『異常』ってだけだ。言わば格上。お解りぃ?』
――はい。それで、貴方はその喋り方なんですね。
『あぁ、その方がテメェにも解り易いんじゃねぇかって思ってな。』
『さて、本題に移ろうじゃねぇか。テメェは自身が何故『異常』を生まれ持ったのか解ってんのか?』
――いえ。
『テメェは運命や神様を信じるクチか?』
――それも違いますね。
『おやおやぁ?テメェは『異常』が与えられた役割だとか言ってなかったか?』
……。
『だから、ここにオレがいるんじゃねぇかよ。その答えは簡単だ』
瞬間、真っ白な空間にネズミ算式に文字が広がった。
『《異常》の系譜だ。世界に、歴史に存在した『異常』者は大抵がそれ。特にテメェはそいつを完璧に引き継いだ』
――それじゃあ、一番最初は……。
『そりゃ今関係ぇねぇ話だな。それより、オレの正体にも気付いただろ?』
――ああ、痛い程にね。
『じゃあ、これからどうするんだ?』
――あんたが出て来たってことは、その時が来たってことじゃないのか。
『悪くねぇ回答だ』
――《殺人鬼》ね。なるよ、ボクは。
『良いねぇ!!百点満点だ霧崎 玲!おいテメェら聞いたか!!』
周囲が暗闇に包まれ、聞こえるのは彼の声だけ。
『《殺人鬼》の復活だ!!嗤え!嗤いやがれぇ!!!あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
視界が開ける中、笑い声は収まり、先程とは段違いの丁寧な口調で彼は告げた。
『また会いましょう。《殺人鬼》、《Jack=Gundora》』
――この間、僅か0,0002秒。
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やっぱり精神世界とかでの語りは書いていて気持ちのいいモノです。
結構シンディアとジャックのサイドを対比させることを意識しているのですが、どうなっているんだろう…。
二人の間で『異常』に対する考えが矛盾するのはまだいいですが、書き間違えとかして要らぬ自己矛盾を起こしていたらどうしようと思う日々です。
自分の作品を客観的にみるのは難しいっすね…。
次回をお楽しみに!それでは。