仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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はい、どーも竜尾です。
捜索編でもそうでしたが、この辺になると急に書きづらくなるのは何故だろう。
オリジナルだと同じ事を何度も言ったりしている描写がちらほらと見受けられますし。
プロットがあっても書く内容をしっかり決めておかないと駄目ですね。
まだまだ頑張っていきますよ!


第四話 殺人鬼は揺らぐ

Side =玲=

 

身体に力が入ってゆく。

これが、この世界における目覚めというモノらしい。

夢を見ることは無かった。

それも、急に体の力が抜け強制的に意識を刈り取られたのだから、仕方のないことではあるのだと思うが。

体感時間にしておよそ二時間と数分。

まだ窓から見えるのは朝日の見えない夜闇だった。

あまりにも突然で、不可解な現象にオレの思考は完全に追いついていなかった。

オレのような『異常』者の欠点はここにある。

理解できない事象の発生による動揺が人より大きく、誰にも気付かれない孤独なパニックを起こしてしまう。

さらに、自身で気付いているという自己矛盾が身体の動きを抑制した。

その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。

恐らく、その主はキリトとみて間違いないだろう。

動揺を悟られぬように首と胸を強く抑えて危機的状況から足の震える自分をなんとか立ち直らせた。

「……どうした」

「ジャック、お前も気づいたか」

その声にはオレとは違う、隠し切れていない動揺の色が見て取れた。

更に、強く首を絞めながら声を出す。

幸か不幸か、この世界では痛みも感じなければ首を絞めても口が動く限りは正常に言葉を発することが出来る。

「急に身体の力が抜けたことか」

「やっぱり、ジャックにあったんだな。俺もさっき目が覚めたばっかりだ」

それは好都合だ。

下手をすればオレもパニックを起こしかねないところだった。

「理由は解るのか」

「多分だけど、現実の俺達が病院へ搬送される時に電源コードを抜いたからだと思う」

パニック寸前のオレでも十分納得いく答えに、少しずつ体の感覚が正常に戻って行くのを感じた。

「もし戦いの中で倒れられても困るからな、様子だけ見に来たんだ」

「ああ、大丈夫だ」

(本当に、これでオレは何もかも心配いらないのだが)

心の中には彼女のことがあったが。

周囲の『異常』な空間にオレにとっての『普通』は全く見受けられない。

そこで、神経を研ぎ澄ませた。

 

――ボクが白を見付けられないなんてことがある訳がない。

 

絶対的な自信がオレにはあった。

目を閉じ、周りの雰囲気の中にある『普通』の存在を探した。

僅かな反応を感じ、目がはっと覚める。

白は間違いなく生きている。

なのに、その反応は非常に弱々しく、オレから言わせて見ればそれは死人そのものだった。

けど、生きていさえすればいい。

彼女が何を見て、何を思ってそうなったかは白しか解らないからだ。

ならば、オレは一刻も早く動くとしよう。

ボクらに、互いのピンチには駆け付ける様な《英雄》のような意識は無い。

生きているか死んでいるか。

 

――無情でも、非情でもいい。ボクは彼女を絶対に現実に還すのだから。

 

Side =白=

 

目が覚めたというのに、身体が動くことは無かった。

(解っているのに、滑稽だね本当に)

一つの思考の下、脳は正常なのに幾つもの思考が巡り巡る。

わたしは諦めたように床に倒れ込んでいた。

一日で溜め込んだ後悔と欲望が自己矛盾を起こして本能がこれ以上動くなとロックを掛けている。

玲についていくことが出来なかったことが後悔ではない。

彼を追ってこの世界に降り立ったことだ。

強い好奇心に逆らうことなくわたしはナーヴギアを被った。

そして、現実世界でも見たログアウト不可のデスゲームとなったSAO。

玲のいなくなった後で見た仲間同士で集まる光景。

わたしは、彼らの姿を自分に当て嵌め、渇望してしまった。

『異常』なわたしが『異常』なこの世界に来ただけでわたしの本質は何も変わっていなかったのに。

仮想世界を甘く見ていたのだ。

だから、襲いかかる孤独感に耐えきれず、続いて起こった理解不能な倦怠感による意識の切断にパニックを起こした。

(どうして、こんなに酷い状況なのに……痛みも感じず涙も流すことは無いのだろう)

幼少期には考えたこともなかった。

 

――あの頃からわたしの『異常』は始まっていて、今もそう。

 

眠れぬまま夜を過ごした。

何も考えず、ただ床にうつ伏せになっていた。

陽の光が差し込んで、ようやく指の末端に血が巡るような感覚がした。

抜け殻のようになった身体は、再起動を掛けたロボットのようにゆっくりと動き出す準備を始めていた。

上体を起こすほどに回復したのは、それから半日の時がたった頃。

その時には、わたしは完全に扉の向こうに恐怖を抱いていた。

(扉の向こうにはわたしにとって『異常』なモノしか感じない、そんなところに出て行くなんて……できるわけがない……)

それにまたあの倦怠感が起こるとも知れない。

ズレてしまった世界に感じたのは、もはや好奇心ではなく、恐怖だけ。

わたしは蹲った。

いつか同じような事があったのを思い出す。

その時は、これほど酷くはなかったが。

彼の存在はわたしにとっては《英雄》で、掛け替えのない《親友》だった。

 

――その彼が、扉を開けてくれることはもう無い。

 

身体を丸め、わたしはぽつりと彼の偽りの名を呼んだ。

きっと、助けに来てくれなくても彼なら気付いてくれる。

 

「ガンドーラ……」

 

Side =玲=

 

あれから一カ月の時が経った。

まだ白の反応は消えておらず、オレ達は戦い続け、十分にレベルを上げていた。

そんなオレ達がいる場所で、第一層ボス攻略会議なるモノが行われるらしい。

そこで出会ったのは《アルゴ》という名の腕利きの情報屋だ。

何でもキリトの知り合いらしく、オレや白の情報が無いものかと思ったが、生存が解ってる以上余計に口出しすることは無い。

以前、初めて対面した彼女に《ジー君》などと渾名も付けられてしまった。

キリトは前々から《キー坊》と呼ばれていたらしくオレも諦めざるを得なかったのだが。

パートナーの苦笑いを見て、きっとアルゴのことを並外れた人間だとでも思っているのだろう。

 

――本当に『異常』のカテゴリに属する人間が、どれほど他人に察知されずにズレ続けているのかも知ることは無いのに。

 

『異常』なオレや白からしてみれば『普通』も、『異常』もどちらだって滑稽だ。

キリトはアルゴと話があるようで、オレは適当にその辺をうろつくことにした。

近くの売店でクレープにも似たお菓子を購入し、ベンチに足を組みんで、思考に耽った。

ボス戦ともなれば大量の人間と共にいることになる。

『異常』は人に伝染するモノではない、違和感を引き起こすモノだ。

それも、命がけで戦うというその時に異質なモノが混ざり込んでいるとなれば、戦局は混乱するはずだ。

(さて、それにいち早く気付くのは誰だろうか)

顔を真上に向け、誰にも気づかれず、一人嗤った。

 

――この世界は娯楽(ゲーム)なんだろ?茅場晶彦。

 

ものの数分でキリトと合流し、時刻もちょうどいい頃になったのでオレ達は広場へと向かった。

そこにはすでに四十弱のプレイヤーたちが石段に腰を掛けており、中央には二、三人のプレイヤーが会議の進行について話し合っていた。

最上段に腰を下ろし、水色髪の男が全員の気を引いたのを皮切りに、会議が始まった。

とはいっても、ボス部屋が見つかっただけで会議という程ではない。

実際は顔合わせが目的だろう。

忌むべき元ベーターテスターをプレイヤーたちを探すための。

そんなモノに興味は無いし、オレは顔つきもそうだが『異常』な雰囲気は完全に隠し切れるモノではない。

手に持った食べ物を貪ると、瞼を閉じて影を出来る限り薄くした。

 

==========

 

翌日、ボス攻略参加者の中でのパーティー決めが執り行われ、昨日の内に誰にも声を掛けていないオレ達は当然溢れたわけで、もう一人溢れたであろう人物を探していた。

目についたのは同じ段で座っていたフードのプレイヤー。

体つきを見るに女性だ。

(それに、白より年下か?)

そんな彼女の雰囲気は、他のモノを寄せ付けない一匹狼というモノ。

(とはいっても、強さを誇張しているだけの非常に揺らぎやすい強さだな)

『普通』の人間に、今まで何度も見て来た強さだった。

そう言ってしまえば、キリトのように孤独を振り払う強さとよく似ていた。

【Asuna】と視界に映った名前に、ついに第一層ボス攻略が始まるのかと胸を躍らせた。

ボスの情報も手に入り、会議は終了。

そういえば、キリトと約束していたことを思い出した。

内心上機嫌だったオレは、キリトに確認を取るために話しかけた。

それに、一つ聞きたい事もある。

「オレは……強くなったか?」

オレの疑問に、キリトは驚愕の声を上げた。

この質問は、本当にオレの強さをキリトに測らせたかったからではない。

その答えも解っているのに、何故、その言葉を口にしたのか。

 

――強さの再認識。

 

キリトは『普通』の人間にしてはこの仮想世界において強いと言える分類の人間だ。

だが、やはり『普通』の人間では揺らぐ。

これはその時のための布石だ。

オレの存在を強いと思いこませるだけで人の価値観は変わる。

これが、オレのズレが生み出すモノから知った『恐怖』の植え付けだ。

もし、キリトがオレと対峙した時、この種が開花する。

その効果は二つに限定される。

 

――その強さを糧にして、『強さ』を知るか。

 

――強さに臆して諦めるか。

 

二つに一つ。

キリトから是の言葉が出たとき、つくづくオレの予想通りだと、溜息を吐きそうになった。

この世界は、茅場晶彦が支配しているように見えて、確実に『異常』に浸食され始めていた。

 

==========

 

第一層ボス攻略戦。

本来の実力は出さずに、オレたちはボスの取り巻きだけを狩る。

最初から『異常』性を発揮する訳にもいかずに影を薄くしてキリトとアスナの実力を見ていた。

ボスと戦う本隊の方は情報もあり、順調にボスの体力を削り、もうじきこの戦闘も終わるだろう。

こうしてみれば、『普通』の集団の中にも突出して見える者がいる。

だが、それはボスも然り。

情報はタルワールが最後の武器だったが、あれは間違いなくタルワールではない。

「…………違ぇな……」

その呟きに気が付いたのはキリトだけ。

ついでアスナも異変に気が付く。

キリトが叫び声を上げるも、人は目の前の希望を疑うことをしない。

だから、奴の脳幹に突き刺さる様に冷徹な声で言った。

 

「もう、遅ぇよ」

 

一人飛び出した『普通』から僅かにズレた男がボスモンスターの手に持つ太刀に切り裂かれる。

男のHPゲージが紅に染まる。

この世界で、人の死を直に見るのはこれが初めてのことだった。

呆気ないほどの散り方に、『死』の重みを錯覚させるようだった。

そして、それに気付いたのが何人いたのか。

 

――間違いなく、それはオレだけだ。

 

混乱を呈した戦況に、キリトがオレとアスナの名を呼ぶ。

(あぁ、準備なんかもうとっくに出来てるぜぇ)

先に走り出した二人に続くように、《セレリテイト》でボスの脇腹から背中にかけて切り裂く。

歪んだボスの顔に近づいて、オレは口元を限界まで釣り上げた顔で、奴に向かって笑った。

それは、後ろから走り込んで来る剣士の影にシナリオが立てられたからだ。

 

――《キリト(勇者)

 

潜在能力に大きな伸び代を垣間見た。

あとは、オレが強さを教えてやればいい。

やはり、『異常』な世界を支配するのは『異常』なオレだ。

ボスの身体が四散し、中央に立つキリトの姿を見て、小さく嗤った。

 

Side =白=

 

結局、わたしは一カ月の時を同じ宿に籠って過ごした。

幸いホテルで簡素な食事は取れたので所持金は尽きておらず、窓も開けずに閉じこもる生活も気付けば一カ月。

わたしは、外の世界のズレに恐怖しか感じていなかった。

まだわたしの知らないことはたくさんある。

その疑心暗鬼が、わたしをここまで踏みとどまらせた。

最後には、ジャックでさえ玲ではないのかと思ってしまう程にだ。

玲の姿が現実と違う理由も解らない。

解らないモノには近付かない。

そうして、無機質な部屋で自分だけは正常だと自己暗示を繰り返す。

だが、その生活を切り裂く一枚の紙をわたしは手にした。

そこに書かれていた記事はこう。

 

【SAOが始まって一カ月。ついに第一層が攻略される!】

 

その見出しの中に第一層を攻略して疲弊している攻略組たちの写真が撮られているのだが、その中に見ただけでも解る『普通』な彼がいた。

主にボスと戦ったパーティーが中央に大きく映し出されていた為その姿は見切れていたのだが、玲の横顔ははっきりと映っていた。

その顔は、何度も見た彼の『普通』の笑い方だ。

 

――間違いない、玲は、ちゃんといる!

 

そう思うだけで十分だった。

 

――六十兆の『異常』は息を吹き返す。

 

非常に軽くなった足と手で、わたしは起き上がる。

迷うことなく宿を飛び出して、日差しを浴びた身体で大きく伸びをした。

少し遅れてしまったけど、ここからわたしの物語が始まるのだ。

『異常』なわたしに相応しいスロースタート。

「じゃあ、最初は情報収集かな?」

意気込んだわたしは素早く路地裏に感じた少し違う『普通』の気配を追った。

その人物もいきなり真っ直ぐ向かわれるとは思っていなかったようで、びっくりしてる間にすぐにその手を右手で掴む。

左手でそのフードの端を掴むと、思い切り左手を振り上げた。

 

「好奇心は猫をも殺すっていうけど。無知は人を殺すんだよね」

 

驚く女性の顔を見ながら、わたしもフードを取り払った。

 

==========




結構白さんの感情が安定しない…。
そろそろ第二層に入りますね。
久々に書きたかったシーンが舞い降りてきて僕の執筆も進みますよー。

あ、感想返し出来なくてすいません。
地味に多忙なもので…。

次回をお楽しみに!それでは。


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